魔力は騎士団長を許しません(3)
カッ!
眩しい光が俺を照らす。色とりどりの看板や舞台装置。
いつの間にか座らされていた座席も机も、魔力で形作られたものである。隣に同じように座るシルバー。
『お待たせしました!! 第1回本体選手権!! 始まります!!』
魔力さんが派手派手な衣装に着替えて黒眼鏡をかけ、軽快なタイトルコールをするとオーディエンスがワッ!! と盛り上がった。尚、オーディエンスも魔力で作った者である。何これ。
「いや、1人で何やってんだよ。てかさっきの流れは戦う感じだったよな……?」
魔力で作られた竜に乗って見下ろし睨んだ件りはなんだったん。
やれやれと剣を抜きかけた俺を『準備があるので待て』と制止するので、言うとおりに待っていたら突然のコレである。いくら何でも説明が必要だろ。
『馬鹿なの?? 魔力に武力で勝つ事が何で認められた事になる訳?? そもそも、魔力と剣士の貴方じゃ畑違いもいい所でしょうが』
「言われてみれば……確かにそうなんだが」
「それで、結局コレは何なんだい?」
シルバーが目の前の机や小物をつんつんと突いた。魔力で出来ているからか、シルバーが魔法式の文字を描くとちょっと変形したり変色したりするので楽しそうに遊んでいる。今遊ぶなよ。
『本体とどうしても一緒に居たいって言うならば、魔力が消した記憶の事を何処まで貴方が覚えているか、テストよ!!! 合格したならば認めてやるわ!!』
「え……それって……」
総集編……かな? まぁ……500話近いもんね……普通、そういうのって本編でやるものなのだろうか……?
という、次元の壁を越えるような発言は置いといて、どうやら魔力さんは俺の記憶力を試そうとしているらしい。
「……いや、言うて俺記憶力は相当悪いぞ……?」
『本当に本体が大事で、こんな危険な魔力火山の間欠泉までわざわざ来たくらいなのだから、貴方だってちゃんと友情を感じているのでしょう?!』
「えっ……危険なの……」
俺はシルバーをじっと見た。いや、ここには連れて来られただけで、危険とか何も聞いてないんだが……?
「まぁ、確かに危険な場所ではあるねぇ。かくいう私も悪質な魔法使いにここに落とされて危うく魔石の結晶化した位だし」
「……初耳なんですが……? 何で毎回そういう大事な事後出しする訳……??」
俺の文句にシルバーはニヨニヨと笑った。何わろてんねん。
「ははは、いや、魔石への結晶化なんて相当な月日をここで過ごして何度も噴煙を浴びないと起こり得ないさ。どうもつい最近に大きな噴火を起こしたばかりらしいからねぇ。暫くは魔力が噴き出る事も無いだろうから安心してくれたまえ。それに、1度や2度くらい何とも無い事は実証済みさ」
頬杖をついて笑うシルバー。
「お前……ま、いいや。安全ならばそれで」
前に話をした時もあまり多くは語らず簡潔で端的だった位だ。きっとこんな風に笑っていてもあまり思い出したいものではないのだろう。
それでもここに来たのは今のシルバーだって腑に落ちない何かを感じているからだ。俺は魔力さんに向き直った。
「大体分かった。いや、あんま分からないし危険とかそこまでの重い友情とかも全然分からんのだが……とにかく、俺は一旦巻き込まれたからにはちゃんと最後まで巻き込まれる男だ……」
どんなに足掻いても逃げ場など何処にも無く、流されて早く終わらせた方が早いという事は身に染みて分かっている。立ちあがっちまった話はやりきるしかないのさ……
「それで、彼はここに座って君の出す問題に答えれば良いのかい?」
シルバーは興味津々で他人事のように魔力さんに訪ねた。いやまぁ、シルバーの俺に関する記憶戻ろうが戻るまいが、今のシルバーには関係無いのだけどさぁ……
『いえ、違うわ。それじゃあつまらないでしょう』
「と、言うと?」
『ただ答えるだけじゃ足りないわ。貴方がどれだけ本体の為に必死になれるのかも試させてもらうのよ!』
「必死に……?」
わざわざ危険を冒してまでここにきて、更にわざわざテストを受けてやってるのは必死には当たらないのだろうか?
きっと……俺のアプローチが足りないのかもしれない。すぐこうやって心の中で考え込んでしまうのも必死さに欠けて見えるんだろうなぁ……クールさが余分な試練を生んでしまう……
『ええ。だから、魔力が貴方の必死さを測れるように魔術具を作ってあげる』
「え……」
と、魔力さんが竜を作った時のように魔法陣を描くと、魔力が形となって実現する。
そこに現れたのは、何だか分からない魔術具だった。
「……で、それは何なんだ?」
「ほうほうほう、コレはこの部分の中身が回転棒というかローラーになっていて、周りに巻いてあるベルト部分が人力で送られる訳だねぇ。つまり、この上で歩いたり走ったりすれば床が進み、その場所に居ながらも延々と走ることができる訳で……」
「……? その場に居て延々と走れる事が何になるんだよ……」
「いわゆる訓練魔術具さ。君のように常に訓練を積んでいるような騎士や兵士は外を走れば良いのでは? と思うかもしれないが、世の中にはわざわざ外を走って運動する程の気力がある人間ばかりではないからね。特にでっぷりと太った貴族の方々には屋敷に居ながら気軽にちょっとだけ歩けるようなこういう魔術具が重宝するのさ」
なるほど……前に階段が悪役令嬢だった時もその後トレーニングの場所に重宝していたけど、確かに遠方まで赴かんでも気軽に運動が出来るのはありがたいような気がする。雨の日とかは屋内でしか出来ないしなぁ。階段が悪役令嬢って何だったんだよ。
「それだけじゃないねぇ。コレは回る事を動力としてエネルギーを生んでいる。ここが走って回転する事により魔力が溜まり、ここのランプが光る」
「ほほう」
「……光るだけだがねぇ。もっと有意義な使い方をすれば良いのに」
シルバーがげんなりした顔で眉を寄せると、魔力さんが高らかに笑った。
『いいえ、無駄などでは無いわ。だってそこが光れば解答権を得られるもの。つまり、この一見回りくどくて面倒臭い魔術具の中に信念や友情を測る要素が含まれているのよ!!!』
「あー……つまり、出題されたシルバーに関するクイズの答えが分かってもこの魔術具の魔力を満たすまで走らないと答えられない、と……」
『そういう事よ』
何でそこまで俺に強いるの……? 俺はただの友人なんですが……
オペラの記憶を取り戻す為に奮闘する陛下ならいざ知らず、何で俺がそこまでせにゃならんのだ……と思いげんなりしながらも、俺は魔術具に手をかけた。
「おや? 君の反応といい面倒臭さといい、流石に乗らないと思っていたのだけど案外情に厚くて気が長いのだねぇ」
「いや誰の為にやってると思ってんだよ……まぁ、今のお前の為じゃ無いんですけど」
『ふっふっふ、準備は出来たようね。ではルールの確認よ。魔力が本体に関する問題を読み上げるわ。正解がが分かってもまだ答えてはダメよ。走ってその魔術具を作動し、魔力が溜まって光ったら解答権を得るわ。本体への友情を測る為にせいぜい足掻きなさい』
「はぁ……」
聞けば聞く程理不尽なルールである。俺が体力おばけの騎士団長だから余裕で受け入れているが、普通の魔法使いとかならどうしていたんだコレ……
あと何か分からないけどなんとなく、コレって1人でやるものじゃなくて1人が走ってもう1人が答えるようなシステムな気がしてしょうがない。
『では第1問』
「何問やる気だ……?」
『ジェド・クランバルさん、貴方は皇帝ルーカス陛下の為にお菓子を求めてショコラティエ領に旅していますね』
「何でそんなやたら詳しいんだ……まぁ、確かに行ったが。三つ子達と……それが何の――」
『三つ子』
「えっ」
『ショコラティエ領に同行した三つ子の騎士ガトー、ザッハ、トルテですが、その内1人は本体が変装した偽者です。ではその偽物は誰だったのか、お答え下さい!』
「は?! 何それ知らな――」
『走って!』
「ちょっ」
俺は言われるがままに走り出す。どの位で魔力が溜まるのかは全然分からないが、騎士団長の俺には余裕だろうと走り始めた――が
「――ウッ!」
俺は体力が急激に枯渇するような眩暈を感じ、グラッと揺れた。こんなに疲れるのは陛下の稽古に付き合った時くらいなのだが、ただ走っただけでこんな風になるなんておかしい。
「ん? 魔法だねぇ。体力に比例してローラーが重くなり不利になるような効果がかかっているようだけど」
『普通の人と同じ土壌じゃなきゃ平等じゃないでしょ?』
平等……とは……これ……如何に……
「ぜぇ……ぜぇ……」
死ぬ程全力疾走した後、やっと魔力が溜まり魔石が光出した。
『お答え下さい、どうぞ』
「……ガトー」
『残念!!!』
俺の回答が間違っていたらしく、上から魔力で作られたでかい罰が脳天目掛けて落ちてきた。痛い。
「……いや、そんなエピソード初耳なんだが……そもそもどういう事なんだよ……」
「私に聞かれても分からないねぇ」
「そうだった……」
確かに今のシルバーが知るはずもない。俺も分からない。真相は闇の中。
は? あの時誰か偽者だったって事だよな?? 何それこわい。
『続いて第2問』
「まだ続くのかよ!」
どうやら失敗したら失格とか、そういうシステムではないらしい。首の皮が繋がったのはありがたいが、え? この魔術具全然余裕じゃない上に、問題自体が記憶力を試すとか試さないとかそういう域を超えて難しいのだが……コレって俺が何とか出来る可能性……あるの??




