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悪役令嬢からの脱出と謎のオッサン広告(中編)

 


「助けてくれーーー!!」


「またなのかよ……」


 覚えのある感覚と共に訪れた空間のズレ。そして見覚えのある、さっきぶりのオッサン。

 ああ……これはアレだ。分かる、既に分かる。この展開はもう何回かやるやつ……

 こういう流れは大体いつもアレするのだ。『テンドン』

 元は異世界人が「これはテンドンだ……」と言っていた事から来ている異世界謎文化の一つで、同じ展開が何度も続くとそうなるらしい。テンドン自体はカツドンと同じ異世界の飯らしいのだが、それが何でそう言われるのかは全く分かってない。言った本人もよく分かってないらしく、謎のまま伝わっている異世界の文化だとか……元ネタは知らないけど使っているというのは往々にあるらしいので俺もフィーリングでよく使う。

 ……いや、テンドンの話はどうでもいいんだよ。


 突然目の前に現れたのは紛れもなくさっき見たオッサンだった。


「助けてくれーーー!!」


「ハイハイ、もう分かってるって……」


 悪役令嬢アズールからオッサンの説明は受けている。この世界はほぼ幻や夢であり、オッサンがどんなにピンチだろうとそのままやり過ごせば勝手に終わるらしい……

 ――だが、俺がそのままやり過ごせると思うか?

 数々の悪役令嬢をなんやかんやで助けてきた、この漆黒の騎士団長ジェド・クランバル。意思とは全く別に身体が勝手に人助けをする癖がついているのだ……悪役令嬢に人格を更正させられとる。

 今の俺はやれやれ系主人公……やれやれ言いながらもちゃんと助けを求める者に手を差し伸べるぐう聖。主人公の鑑である……


「……水攻めに遭うからこの下のブロックをどうにかして避ければいいんだろう避ければ……ん?」


 俺は慣れた手つきで下に降りようとしたが、肝心の下に行く入り口が見当たらなかった。


「あれ? 何だこれ……違うのか?」


 またこの流れかやれやれ、と慣れた感じで目を伏せていた俺は慌ててオッサンの方へ振り向いた。


「……???」


 なんだろう……確かに同じオッサンなのだが、何か汚い。そこはかとなくみすぼらしい。

 貴族っぽかったさっきの様子と違い、何か臭いし何なら眉毛も繋がって髭もボーボーである。いや、その辺りは元々そういう容姿なのか知らんけど。


「ワシは、この後パーティに行かねばならん」


「はぁ……」


 いや何……? 急に……


「だが、この格好では無理だ」


「でしょうね……」


「なので、助けてくれ」


「いやメイドとかにやらせろよ!!」


 俺は助けを求めて差し出されたオッサンの手をはたき落とした。何か手にベタリと油っぽい汚れがつく。ウワァ……


「そこを何とか!! 頼む!! 時間が無いんだ!!!」


「こちとら公爵家子息で騎士団長なんですが??? 何が悲しくてオッサンの身の回りのお世話せないかんのだよ!!!」


 悪役令嬢の嫁ぎ先の斡旋とか、中身は成人男子だけど見た目の可愛いいも弟のジュエリーちゃんこと大輔のお世話とかならまだ分かる。だが、汚くて臭いオッサンの世話は1ミリも分からない。やりたく無いというか触りたくない。


「簡単な話だ、そこに置いてあるアイテムをいい感じに使って貰えれば直ぐに綺麗になるんじゃ!!」


 そう言ってオッサンが指差す先には櫛とか石鹸とかタオルとか色々置いてあった。


「つーか簡単な話なら自分でやれよ!!!」


「分かった……そこまで言うなら仕方ない……」


 すると、オッサンは諦めたように哀しげな顔をして迷いなく手にした。バチバチと稲光の漏れる魔術具を。


 ――数刻後


 燃え盛る炎。黒焦げのオッサン。体臭は臭いまま……


「ね?」


「ね? じゃねえわ!!! どうしてその選択をした???? 普通分かるよな???」


「ワシ、生粋の貴族だからわかんない……」


 箱入り娘のようなぶりっ子を見せるオッサン。貴族を舐めすぎてないか? 全家紋に謝れ。


「こうなってはもう駄目だ……君も、早く逃げるんだ……」


「いやお前のせいなんだけど……って、おい! オッサン、諦めるな!! お前も逃げるんだよ!!」


「駄目だ……私は逃げられない……何故なら……」


 オッサンが指差した方向――没入しすぎてすっかり忘れていたが、右上の方にはやはり×マークがついていた。

 ……俺は無言でそのマークに触れる。

『OSSANs Escape――』


 タイトルらしき文字とオッサンのドヤ顔が見えそうになった瞬間……


「ヒントは……檻のすぐ下の溝を調べてみろ……そこに書かれたマークと同じものがどこかにある……」


 というオッサンの囁き声と共に世界が暗転した。



 ★★★



「檻のすぐ下だ! 溝にマークがあるらしい!!」


 ガバっと起きた俺をきょとん顔で見つめる悪悪令嬢とシルバー。その悪役令嬢の手には鍵束が握られ、檻は開いていた。


「……何で檻が開いているんだ……?」


「え? ですから、ジェド様が寝ている間に檻のすぐ下の溝のヒントから同じマークを探し、更になんやかんやで看守から鍵を貰いました」


 ……なんて事でしょう。俺が寝ている間に攻略を進めていたらしいのだが……


「ジェド様、時間が経てばすぐに×マーク出てましたよね? 結構な時間寝ていましたが……」


「えっ……」


 言われてみれば確かに……前回のオッサンをブロックで水攻めから守る奴は時間でゲームオーバーになっていたのだが、さっきのやつは時間制限が無かった分時間の許すまでオッサンを見守っていた気がする……

 つまり、俺が無駄な時間をオッサンに費やしていたその間に、アズールとシルバーで謎解きをどんどんと進めてクリアしていたらしい。……俺とオッサンとの時間は何だったんだ……


「俺は、無駄な時間を過ごしたのか……」


「というか、私このゲームを前世で既に遊んでいたのでヒント自体が無駄というか……」


 なんて事だ。そもそも、俺がオッサンに会いに行ったこと自体が既に無駄だったらしい……


「……ああ、もう分かった。金輪際オッサンには会いに行かない」


「あ、でも……」


 檻を抜けた瞬間――『ファーストステージクリア』の文字の後に続いて……『次のステージ、地下牢の外・ゲート都市の職員達の監視からの脱出』というタイトルが現れた。


「え……」


「ですから、先に説明した通り、私の行く先行く先がすべて『悪役令嬢からの脱出』のステージになってしまい、全然終わらないのです……」


「それってどうやっても断罪から逃げ続けなくてはいけないって事なのか……?」


「ハイ。悪役令嬢と言えば断罪不可避なので……あと」


 悪役令嬢でも断罪可避の奴は沢山いる。が、こんなにも永遠に追い詰められるようなやつ、そうおります……? 開発者は悪役令嬢に厳しすぎんか……?

 などと思っていると、またしても目の前がスーッと暗転しかけた。


「広告の多い部類のゲームなので……クリアごとに入っちゃうんですよね……」


 という言葉を残して、やはり世界が暗転し、目の前にはオッサンが居た。

 多いのは百歩譲っていいのだが、何で毎度毎度アズールじゃなくて俺の方がオッサンの所に行くようになっちゃう訳……????


 何もかも全然分からない。分からないまま、またしても目の前に現れたオッサンは……


 今度は大量のアンデッドに追いかけられていた……いや、何でだよ!!!!

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