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開かれる帝国舞踏会……后は誰がなる(8)皇城に侵入したオペラもどき

 


 一方その頃……皇城の賑やかさの中心、広間から離れ辺りをキョロキョロと見回す女性が居た。


 灰色の長い髪と目立つ容姿を布で覆い隠し、目的の場所へと警戒しながら近づく。

 見つかっても大丈夫なようにまた借りた姿だったが、問題を起こしたばかりで同じ姿になるのは失敗だったかと後悔した。

 だが、どうしても確認せねばならない場所があったのだ。


 はぐれてしまった連れの騎士……その彼いわく、東国で第二皇子に読ませた本。それと同じような本が何冊も帝国の皇城にある図書館に眠っているというのだ。


「まさか帝国にあるなんてなぁ……」


 目立たぬように客人や騎士達の横をすり抜けてなんとか目的地へたどり着こうとしたその時――


 ドカアアアアン!!!!


「?!」


 部屋の扉にかけた手を遮るように窓の外から隕石か何かが落ちる音が聞こえた。


「なっ……」


「何なに?! 事件?! それとも事故ですか??!」


 図書室の扉を開けて沢山の本を抱えながら若い騎士が走り出て窓の外を見下ろした。


「あーあ……誰か侵入者かな……勘弁してくださいよぉ、自分休憩中で読書を……ん?」


 そばかす残る若い騎士は扉の前で目を白黒させている女性の存在に気がついた。

 驚きのあまりはらりと落ちた布から除くその容姿は、確実にこの城に出入りしている女性であることは間違い無い。だからこそ怪しまれることは無いと思っていたのだが……


「なぁんだ、オペラ様じゃありませんか。あれ? 何故こちらに……ああ」


 若い騎士は女性の手を引くと廊下をどんどんと進み始めた。


「陛下の執務室でも探していました? やだなぁ、流石の陛下もオペラ様に破局を言い渡された後でショックを受けているとは言え仕事はしていませんよぉ。まぁ、オペラ様の偽者だってことは気付いてはいませんが。そちらはそちらで僕達騎士が何とかしますし。ほら、騎士団長もいるでしょう?」


「えっ」


 ニコニコと笑う騎士の口から出た内容、皇帝はともかくとして他の騎士達は皇帝の破局事件を偽者の仕業だと踏んでいるらしい。

 一体何故バレたのか……それよりも彼女――いや、彼が考えなくてはいけないのは自身の安全の事だった。

 何せ、便りの騎士とははぐれてしまったから。


「あのあと直ぐに本物のオペラ様が現れなければ半信半疑でしたけどねー。まさか本物が騎士団長と一緒にそんな姿で帰ってくるとは思いませんでしたよー。ま、散々帝国を苦しめたり城に侵入した時のあの様子を考えるとオペラ様がそう簡単に陛下と破局を考えるなんてねぇ」


「えっ、あ、ああ」


 訳の分からない内容に手を引かれながら必死で頭を回転させた。そもそも自分の知っている()()()()とは全く違う彼女の行動など、分かる訳も無いから。

 そもそも()()()()()の知識が無い彼は少しでも情報を得ようとここに来ているのだから……


「ああ、し、侵入ね、あの、あの時はわたくしもワルだったわね、ほほほほ」


「……? 侵入した時はオペラ様は悪くなかったような気もしましたけど……」


「えっ、あ、あははは、わたくしったらよく覚えてなくて――」


 きょとんとしている騎士にそこまで話して、しまったと口を隠した。流石によく覚えていない事は無いだろう、言い分け下手かと後悔したが、騎士はうんうんと頷いた。


「あの時はそうでしたね。そう言えば。オペラ様も災難でしたねー」


「えっ……合ってるの」


「えっ」


 やはり全然かみ合わない会話に彼は頭を押さえた。明らかに知識が足りな過ぎるのだ……


「今日のオペラ様いつもにも増して変ですね」


「いやいつもってどういうこっ……ふふふ、いつもより変かしら、おかしいわ――」


 首を傾げる若い騎士……ロイがその手に抱えている本。愛想笑いをしながらもその本を見た瞬間、オペラもどきの彼は目を見開いて思わずロイに問い詰めるように寄った。


「き、君、その本……」


「え? ああ、これですか? えーっと……」


 ロイはきょろきょろと辺りを警戒しながらオペラもどきに小声で話す。


「これ、実は禁書なんですよ。皇室図書館に結構沢山ありまして……これらの本って異世界から来た技術や魔法が絡んでいたり、果ては人の運命まで変えてしまうかもしれなくて。現に僕、これらの本の通りの運命を辿りそうになったご令嬢や精霊を何回か見ておりまして……」


「いや君、それ分かっててやってんのやったらアカンて。閲覧禁止されとるから禁書やろがい」


「え?」


「え……あ、いえ……こほん」


「オペラ様、何か今日だいぶ変ですね。まるで偽者のオペラ様みたいですね」


「え?! に、偽者???」


「はい。何か偽者のオペラ様が陛下と破局宣言したから大変だったんですよねー。あれ? 知りませんでしたっけ?」


「そそそそ、そうだったわねー、いやですわ、わたくしの偽者なんて」


 オペラもどきは動揺して目を泳がせた。


(アカン……何でか知らんがバレとるやないか……それであんな、鑑定とか言って入るの厳しかったんかい)


 オペラもどきの変装は完璧だった。それが、彼がこの世界に来た時に授かったスキルだからだ。

 姿形だけでなく、鑑定値もそのままこの世界の人間に変えられる。あたかもこの世界に生きる人間のように擬態出来るのだ。

 この世界で一般人でさえ簡単な魔法や鑑定魔法を扱える事は知っていた。そういうゲームで見たからだ。

 彼がこの世界に来る前に、何度も何度もプレイした数々のゲーム――プレイしながらバグを探しては一つ一つ潰し、細かな所まで残さずに全てチェックしてきた……あの数々のゲームと全く同じ……

 いや、完全に同じものではない。様々なゲームが混在して、もはや違うゲームとなっているのだから。


 今の彼はこの世界に実際に居る人物をコピーして動いているようなものだった。残念なのは今成り代わっているオペラが本来の綺麗な羽を有する聖国の美しき女王ではなく羽が無い、髪も目も脱色したただの人だったという事。今のオペラがそうだから。

 だが、その制約があるからこそ今の彼でも成り代わる事が出来た。そして、本物が来たところで見分けのつくはずは無いと自信があった。

 自信はあったが……


(あのアホの言葉を鵜呑みにしたのがバカやったわ。なぁにがゲートは壊したから直ぐには来られないし今がチャンスじゃボケ……何かもう追いついとるやないか)


 オペラもどきの計画では東国を基点に修正していく予定だった。が、何故か失敗した。何一つ言う事を聞いてくれないキャラクター達……闇に落ちかけたのにいつの間にか変な方向に向いていた。

 全ての計画が滅茶苦茶になり、ハオと共に保険として準備していたスクロールで帝国へと移動した。

 すぐに本物が追いつくはずも無く、ゲートが直るまでは大丈夫だろうと……いう話だったのだ。それは何処へ行ったのか。


(くっそ……アイツほんま何処行ったん)


 庭園の方に人が集まっていき騒がしくなってきたのが聞こえた。こ大広間から人が出て廊下も賑やかになっていく。

 せめて何か収穫を持っていかねばならなかった。


「あの……あなたも騎士でしょう? あちらの騒ぎを調べに行かなくてはいけないのではなくて?」


「あー、まぁ、そうですね」


「だったら、わたくしそちらの本を戻して差し上げますわ。丁度静かな図書室で考え事をしたかったので」


「え……あ、そうか。そうですよね……」


 ロイはオペラもどきに哀しげな目を向けた。


「陛下と仲直りしなくてはいけないですもんね。本物のオペラ様は」


「そうですの」


 もどきには別に必要の無い仲直りではあった。オペラに成り代わりルーカスと破局したのはもどき自身だ。その先の()()()歴史を知る為に、情報源となる彼の本が必要なだけなのだ。


「いやぁ、一瞬偽者のオペラ様なんじゃないかなと思いましたけど、本物のオペラ様が騎士団長と一緒に戻ってきたのにそうノコノコと侵入する訳ありませんよね」


 ははは、と笑いながらロイはもどきに本を手渡し庭園へと急いだ。それを見送るオペラもどきはフゥ……と息を吐きながら図書室の扉を閉めた。


 その手には見覚えのある名前。

 オペラもどき――こと道頓堀は異世界人である。

 彼が異世界で働いていた会社……この世界の唯一の手がかりであるその制作会社が作ったゲーム。

 そして数々の駄作を生み出した中でも、何故か妙に人気を見せコアなファンがついた作品の生みの親こそ……手元にある本の作者である『ワンダー・ライター』であった。


「あかんでワンダー……俺は絶対諦めへんからな……」


 オペラもどきはきょろきょろと辺りを見回して図書室内に人が居ない事を確認すると、持っていた魔法バッグにワンダーの名前がある本を放り込んだ。道頓堀の知っている彼がよく使っていたのと同じようなデザインのバッグ。小さなその中には沢山の道具を仕舞う事が出来る。


「こんなもんか……」


 一通り本を確認した後、廊下が賑やかになってきたのを感じて人が来る前に図書室を出て喧騒に紛れ去ろうと思った。

 皇帝を騙しかき乱すことまでは成功したものの、本物が出てきたとあってはそちらを攻めるのは難しいだろう。せめて上手く入手出来た成果物を何としても無事持ち帰らねばならない。

 そっと扉を開けるとバタバタと人が走ってくるのが見えたので布を頭から被り隙間を縫って応接間に行こうとした。


(うわぁ……騎士が何人も走って来よる。見つからんうちにさっさとハオを探して皇城を出――)


 直後……急に手を掴まれたのに気がつき身体を止める。


「えっ?!」


 手を掴んで止めたのは何故かドレスに身を包んだ男だった。

 横をバタバタと騎士達がすり抜けていく中、何故止められたのか分からず誤魔化すように首を傾げた。

 が、布の間から見えたのは緑の髪にアメジストの瞳。浅黒い肌はどう見ても魔族であり、記憶が確かならばCVもつかないのに妙に人気だったその容姿……魔王アークその人だった。


「あ、アーク……」


 ハオから話は聞いていた。東国にオペラを助けに来る程にそこそこ拗らせているらしいと。だからこそ、皇帝ルーカスを攻めて混乱の種を作り、本来のゲームの流れに少しでも近づけようとしていたのだ。――が


「見つけちゃうのかよ……いや、偽者」


「えっ……」


 変装は完璧だった。鑑定でも見分けがつかない程に。例え本物に会ったとしても、混ざってしまえば言葉巧みに誤魔化せる自信はあったのだが……


「あ……そうや……魔王アークて――」


 道頓堀の不幸は……偶然ここに居合わせた魔王アークが、心の読める魔族だった事である。能力値や存在自体をコピー出来るスキルでの、偽オペラの事を見破られる唯一にして最大の弱点……中身の道頓堀の声を聞いてしまったのだ。

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