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開かれる帝国舞踏会……后は誰がなる(5)

 


 漆黒の騎士団長ジェド・クランバルは沢山の馬車と人で賑わう皇城の前に居た。


 隣には魔王アーク(女装)とオペラの兄のロスト(女装)。

 2人が何でそんな格好で居るのかというと、この沢山の女性達と同じ理由だ……そう、陛下の后を決める舞踏会だか何だかに参加する為である。

 君達、男だよね……? 陛下と結婚したいの……? ――という理由はナンセンスである。

 そもそも、この舞踏会自体がフェイクであり、オペラを使って陛下を騙そうとした謎の存在を炙り出す為にわざと騙されたふりをしているに過ぎない。

 尚、陛下は本当に振られたと思っている。それもこれも陛下が恋愛耐性が無く、明らかに怪しいであろう偽オペラ(?)に簡単に騙されるのがいけない。

 とはいえ、オペラもここに居るはずだから以前聖国で逆の展開が行われた時のようにとっとと元の恋人同士に戻って休暇でもなんでも取ってさっさと仲直りしてくれって感じである。

 願わくば何のトラブルも無く2人が元の鞘に収まり、怪しい奴もとっ捕まえられるのが理想だが……


「にしても、この人だかりじゃ流石にオペラが居るかどうかも分からないな……羽でも生えていれば見分けがつくのだろうけど、今は羽も無いしなぁ……」


 フェイクで開催したはずの舞踏会は、フェイクとバレないように盛大に行おう! という家臣達の下準備のせいで妙な信憑性を持ち、集まっているご令嬢の数も相当だ。

 まぁ、皇帝が后を探すって位だから盛大でなくてはいけないのだろうけど……陛下って意外と人気あったんだね。


「アーク、オペラの声とか聞こえないのか?」


「…………いや、俺もこの人数の中から1人を探すのは難しい。何処かには居るのだろう」


「まぁ、それはそうか」


「……」


 こんなに人が居ちゃあ都合よく1人の声を聞き分けるなんて難しいか……前に「お前の声は煩いからどこに居ても分かる」って言ってたから聞き分けられるのかと思ってたけど、毎回そうとは限らないんだな。


「いや……まぁ、分かるんだが……」


「ん?」


「……何でも無い。そろそろ城に入れるんじゃないのか?」


 アークに言われた通り、行列に並び待っていた俺達はいつの間にか皇城の入り口にたどり着いていた。


「あー、団長、お疲れ様ッスー」


 城門ではいつもの騎士団仲間や魔法士達が来客者達の名前や身分をチェックしている。


 この舞踏会は事前に参加者達の名簿が作成されているが、ただでさえ得体の知れない他国の間者や良からぬ犯罪目的の者が紛れているかもしれないのに、例の偽オペラに関わっている奴についても慎重に調査しなくてはならない。

 その場で身分が分かるようにと怪しい奴は魔法士達が魔法鑑定している上で、危険が無いように騎士も配備されていた。……俺は遊んでていいのか? 魔法士団長のストーンも働いているのに……

 そんな俺に、後輩騎士のロイは尊敬の眼差しを向けて呟いた。


「団長って本当仕事熱心ですよね。まさか陛下の護衛とは言え后に立候補する立場になるなんて……仕事でもなんでも僕には絶対無理です。彼女も出来たばかりですし……」


「…………今、なんつった……?」


「え? アッ、彼女が出来た事ですか?! ご、ごめんなさい……そういえば団長って彼女が出来た事無いんですよね……だから仕事とは言えそんな事も出来るんですよね……捨てるものの無い猛者のボッチ先輩に僕はなんて無神経な……あててててて」


 先輩で上司の俺に対するディスりが酷すぎたので、無言でロイの両米神に拳をぐりぐりとねじ込んだ。陛下直伝ウメボシである。由来は異世界の酸っぱい実を食べたのと同じ顔になるからとされている。


「す、すみません!! ギブ! ギブ! そんなに傷つくなら彼女作ったらいいじゃないですかぁー!」


「それはそれだが、そっちじゃなねぇ! お前今、俺が陛下の后に立候補したとか言ってなかったか??」


「え? 立候補したからここに名前があるんでしょう??」


 痛がりながらもロイが俺の前に差し出した紙は『舞踏会参加者』と書かれたもの。更に下の方を指差すその先には……確かに俺の名前が書いてあった。


「……何で俺の名前があるんだ……?」


「えっ、申し込んだからあるんでしょう??」


 何で俺が申し込んだ事になってんだ??

 えっ、これももしかしてあの怪しい偽オペラの奴の陰謀……?


「えっ、もしかして団長は参加しない感じだったんスか?! 俺、全員纏めて参加者に申し込んじゃいましたけど」


 三つ子の騎士の1人が申し訳なさそうに謝罪した。お前かよ!!

 確かに、俺の名前の下にはアーク達や古竜のファフニールの名前まであった。ファフニールは鼻歌を歌いながら上機嫌で受付をしている。


「……おい、お前……確か陛下推しだとか言っていたよな……? まさかどさくさに紛れて陛下にアタックかけようってんじゃないだろうな……?」


 俺の訝しげな疑問にファフニールは千切れるほどぶんぶんと首を振った。


「とんでもない!!! 私、ファフニール、推しの視界には入りたくない系腐女子でございましてよ! 陛下とジェド様が熱烈なダンスを踊る姿を皇城の壁と一体化して見届けて候……」


「踊りませんが……?」


 そうだった……こいつは腐の国の住人だった……。一瞬こいつみたいに陛下を慕う輩の犯行かと思ったのだが、自他共に認める腐った女子……その高いんだか低いんだか分からない矜持。

 こいつらが陛下に直接何かをすることはないだろう……こういう奴らは害が無いから余計に性質が悪い。


「それはさておき……オペラはまだ来てないみたいだな」


「あ、この名簿に載っているオペラ様って、やっぱ本物のオペラ様なんですかね? まだ受付には来られていないみたいですが……」


「そうか……まぁ、そのうち来るだろう。来たら俺達は先に城に入っている事を伝えてくれ」


「わかりました。シャドウもオペラ様の事心配していましたからねー。東国に拐われたとか陛下と破局したとか、本当訳が分かりませんよ」


「……それは、どちらも本人のせいじゃないんだがな……」


 そう言われて見ればオペラは本当に踏んだり蹴ったりである。人違いで東国に連れて行かれた上に羽も折られて挙句、知らない間に偽者が陛下と勝手に破局しているんだもんなぁ……犯人はオペラに何か恨みでもあるんだろうか……


「それで、団長はその格好で良いのですか? 后との舞踏会ですが……」


 アークがドレスを無理やり着させられているのを指差してロイは首を傾げた。


「……お前……俺の女装が見たいのか……?」


「……全然見たくないです」


 ロイは死んだ目で参加名簿の俺の所に丸をした。女装回ならつい最近2回もやったからもういいんだよ……


 その後に続き、死んだ目のアークと対照的に目を輝かせるファフニール。そして同じように上機嫌のロストは鼻歌を歌いながら城へと入っていった。腐女子竜はともかくロストは何でそんなに機嫌がいいんだ……? 何かあったのか?


「あ、そういえば……何かこういう本って最近読んだんですよねぇ」


 別れ際にロイが不審な事を言い始めたので嫌な予感がして聞き流そうとしたが……


「……参考までに聞くが、その本は禁書とかじゃないよな」


「いえ、市制で普通に売っていたお姫様の童話です。あー、でも悪女とかは出てますよ、お姫様ものですからね」


「出てるんかい……」


「やだなぁ、団長、いくら団長が悪役令嬢ホイホイだからってそんな細かい童話の悪女まで寄せ付けるような事ありませんでしょー。それにこれ、結構有名な話ですよ。確か、城で舞踏会があって、継母や姉に意地悪されて舞踏会には行けなかったという灰に汚れた少女の話で……」


「ああ……そういう奴か……」


 それは俺でも知っている有名な童話だ。灰かぶり、とかいう女の子が魔法使いに魔法をかけて貰い、城に行って舞踏会に参加するとか。俺も昔寝る前に読んで貰ったくらいでしか知らないので詳しくは覚えていないが……


「舞踏会って言ったらそういうメルヘンな童話でしか行われないと思っていたんですけどねー。うちの国、あんまりそういう華美なイベント少ないし……」


「俺も昔付き合いで数回参加しただけだからな……今日は久々に舞踏会の雰囲気を堪能出来るかな」


 ダンスなんて覚えちゃいないが……綺麗な女子と踊る機会なんて滅多に無いから少し期待してしま――


「まぁ、団長は后候補参加者の方だから陛下と踊んなくちゃいけないんでしょうけど」


 ……そうだった。俺は陛下の后を目指して他の女子とバトルする方だった……えっ、俺、陛下と踊るの……????



 ★★★



 ジェドが肩を落としながら城に入っていった少し後。

 背の高い従者と共にフードを被った女性が人混み賑わう列の先頭、城門の受付までたどり着いた。


「次の方、フードを……ああ、えーっと、はいはい、オペラ様」


 フードから覗く長い髪は灰色で、目の色もいつもとは違うがその容姿は確かに騎士団員が見慣れたオペラの顔だった。


「ええと、一応鑑定させて頂いても大丈夫ですかね? あ、みんなさせて頂いていますので」


「……ええ。もちろんよ」


 ニコリと微笑むオペラの前に現れた鑑定画面には、ジジッと少し揺れ動く文字で確かに『聖国の女王オペラ・ヴァルキュリア』と書かれていた。


「あー、大丈夫みたいですね。失礼しました、ではお通りください」


 新人魔法士の疑いの無い様子に、オペラはニコリと微笑み従者と共に城へと入っていった。



 やがて、全ての参加者のチェックが終わり騎士達が城門を閉める。

 夜の帳が下りる頃、城に煌びやかな明かりが灯り、舞踏会が始まった。

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