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解決した東国の騒動……だったが?(前編)

 


 漆黒の騎士団長ジェド・クランバルは東国の首都、青龍の地の王城に居た。

 元はと言えば東国の王弟フェイ・ロンに帝国を案内する所から始まった騒動は、よく分からんうちに人違いでオペラが拐われてしまったり浴衣1枚で東国に移動させられたり……と、あれよあれよという間に巻き込まれながら大事になっていった。

 ……その結果、俺がババアの何か凄い下着姿になるというとんでもない収束の仕方を辿ってしまったのだが。ドウシテ……

 毎度毎度、巻き込まれては何かを失いかける俺の姿にアークも同情の目を向けている。そんな目で見ないで欲しい……

 流石にアークのコート1枚では寒すぎるので青龍の方々が服を貸してくれた。

 ルオが暴れまくった皇城は騎士や従者達が他の領地の方々と一緒に片付けている。玄武領からも資材が運ばれ、壊滅状態だった城や町は少しずつ綺麗になっていった。


「それにしても、あの神聖魔法が役に立つとはな……」


 あの魔法には以前、帝国の首都全体が苦しめられた。悪夢をいい夢に変えて夢に捕らえる魔法……


「あれは本来、悪夢を見せる魔族に対抗する為に作られたものよ。聖国が馬鹿だから古代魔法を悪用して攻撃手段に流用していたけど、本来はこういう使い方の方が正しいに決まっているでしょ」


 オペラがぎょっとして明後日の方を向いた。悪用して帝国を窮地に陥れた人がそちらになります。


「ま、そもそもこの城を中心に渦巻いていた闇を一気に使って竜になったはいいけど、あれくらいじゃ竜の形を保つのに精一杯で直ぐに朽ちていたでしょうね。他の領地だって十分な闇が育ってはいなかったし」


「そうなのか……あのままでいたら姉上はどうなっていたのだ?」


「スノーマンの骨と同じよ。体中が闇と同化して、それを吸い尽くされ人じゃ無くなっていたでしょうね。ま、手遅れになる前で良かったんじゃない」


「そうか……感謝する」


「……アタシは別に感謝されるような事はしてないけど。ただ、骨に恨まれるのはごめんだから」


 あの後、ルオは深い眠りについた。以前ノエルたんがナーガに乗っ取られた時のように自身の力量以上の力を使ってしまったから。城中の従者や騎士達もそうだった。ナーガが東国の、青龍の地に力を貸した頃から……スノーマンのように少しずつ闇に侵略されそうになっていた。

 中には手遅れで完全に闇に囚われてしまった者も居たのだが、幸いな事に、東国は青龍の一族が王として君臨した後も他領が王位を狙おうと争っていた分、地方への闇の侵略は薄く取り返しがつくレベルだった。だが、1番煽りを受けていた青龍の地は壊れた王城のように正常に戻るのは容易では無いだろう。

 4つの一族も、すぐに仲良く――とはいかない。


「姉上はかなり衰弱しているので、話をするまでには時間がかかりそうだ。でも……目覚めたら我は、今まで恐れ離れていた分、ちゃんと向き合おうと思っている。東国とも……」


 フェイは最初に出会った時とは違い、わがままな子供の顔から少し大人びた目をしていた。


「我は……未だ経験が足りないであろう子供ではあるが、力をつけて争いを諌めるのではなく、よく話を聞いて真摯に向き合う事こそが1番の力になると知った。我は、我に出来る事をやって行きたいと思っている」


「そうか……まぁ、頑張れよ」


「……でも、我はまだ未熟だ。不安も沢山あるし……その……」


 俺はぎゅっと裾をつかむフェイの頭に手を置いた。そういう顔をする奴の心は、アークみたいに心を読む能力がなくても大体分かる。


「また来るさ。ゲートだってすぐに、とは行かなくても直るみたいだし。いつでも頼ってくれれば、俺は断らないから」


「ジェド……」


 帝国のゲート都市とを繋ぐゲートは壊れたままだった。特に東国は帝国からかなり離れた大陸にあるのでゲートを直すには時間がかかる。

 俺達はアークとロストが来たというラヴィーンから帰る事は出来るらしいが、そのゲートもナーガが不正に作ったものなので多用する訳には行かない。

 陛下にはオペラが拐われた事を知らせてないからこの騒動を知らないはずだが、それでも急に壊れたゲートの件も含め、今までの東国の信用の無さから友好国として国交を結ぶには相当時間がかかるだろう。

 東国にしても皇城がこんな状態で、更に帝であるルオが目覚めない以上は内部事情を解決するのさえ時間を要する。

 やる事が多すぎてフェイも大変だろうが……いままでルオ1人で決めていた東国の行く末を皆で担っていくように話し合うらしいので、困難ではあるが良い方向には向かうはずだ。


「ありがたい。それはそれとして、姉上が目覚めたら聞くつもりではあるが……その、今回の騒動といい、各領地の女達の件といい……未だ分からない事が残っているのだが……」


 そう。実はルオを倒したから解決……とはいかない問題が実は幾つか残っていた。

 まず、各領地の女達の話からちょいちょい現れる占術士の存在だ。

 ミン・シュウらに話を聞いても、どの占術士達も容姿や年齢がバラバラしていたのだが、言っている事は決まって悪女の破滅の未来で共通している。

 そのやり方……どう考えてもいつぞやのワンダーの行動とソックリなんだよなぁ。それに……


「それと、あの馬鹿が……ハオが行方不明だ」


 あの馬鹿――こと、ハオ。東国の騎士である眼鏡のロリコンことハオの姿はいつの間にか無くなっていた。

 思い起こしてみれば、闇がルオに集まり次々と倒れていく従者や騎士達の中でハオだけは比較的早く正気を保っていた。

 それも気になるし、倒れる前に言っていたルオの口ぶりでは『フェイを帝国に捨ててきてもいい』と言ってはいたが、手荒な真似をしてまで目的を達成しろとは言っていなかった。

 ハオは、何処かルオの思惑から少し外れているような、そんな違和感を感じるのだ。気のせいかもしれないが……


「青龍に見切りをつけて逃げたのかも知れぬし……あやつの真意は分からぬが……」


「……アイツにはこちらも深手を負わされた奴もいるし、今度何処かで見かけたらとっ捕まえて突き出してやるよ」


「シルバー殿には本当に済まない事をした。なんと詫びたものか……」


「まぁ、あいつは殺しても死なないし、帝国が爆破したという知らせがないのであれば多分大丈夫だ」


 シルバーは広範囲爆弾みたいなものだからな。魔法マゾのくせに……だが、そんな知らせが入ってないのであれば多分大丈夫だろう。多分……」


「お主達にも迷惑をかけたな……」


「……まぁ、迷惑だけでは無かったし……」


 1番被害を蒙ったであろうオペラは、何かいつにも増して大変な事になっていた。

 毎度のように羽が無くなっているオペラなのだが、今回はいつにも増して酷い。オペラもロストも何か羽が無くなった代わりに髪や目の色が変わっている。髪はグレーに、目は赤みの残る黒。

 オペラ曰く、聖国人が聖気を作り出すのが羽の役割であり、前のように1本でも残っていればそこから聖気が作られ回復も早い。しかし今回のように全てもぎ取られた場合は羽が生えるまでにかなり時間を要するらしい。何だか踏んだり蹴ったりだな……


 だが、そんな姿になったお陰かこちらもずっと確執のあった兄妹喧嘩についに決着が着いたらしい。まだぎこちなくはあるが、普通に話をしているので変わろうと思えば人は変われるもんなんだな。

 何故かロストと一緒にオペラを助けに来たアークもボロボロだった。

 いったい何をしに来たのだろうと思ったけど……オペラが拐われたのも魔王領だったし、やはり例によって巻き込まれたのだろう。アークは魔王のくせに人一倍面倒見がいいからな。そういう事にしておこう。


「……」


「それで、お主達は直ぐに戻るのか?」


「ああ、あまり長い時間離れている訳にもいかないからな。いい加減陛下にも怪しまれるし……」


「そうか、ルーカス殿には東国で異変が起き直ぐに帰らなくてはいけなくなったと伝達を入れておこう。ゲートは使えないが通信魔術具ならば繋がるはずだ」


 ルオが目覚め、東国内部が落ち着いた頃に後日改めて帝国を訪れるとフェイは言う。いつになるかは分からないが、必ずまた今度はちゃんとした形で会いに来ると。

 次に会う時にはもっと成長して、男らしくなっているのだろうな。子供の成長は早いから……

 この様子ならば大輔が心配していたようなゲームの世界にもならないだろうし。良かった良かった。


「それで、帰りは何処から帰るんだ?」


「ラヴィーンと繋がるゲートはルオの私室にあるの。帰る位ならこれで十分行けるはずよ」


 そう言ってロストは1枚黒い羽根を取り出した。

 ロストの羽根は皇城の廊下に幾枚か落ちていた。完全に真っ黒になった羽根はルオに吸い取られたが、白い部分が見える羽根は何枚か吸い取られずに残っていたらしい。


「ルオの私室……か」


 王城は未だ半分以上瓦礫に埋もれている。私室……何処。


「……まぁ、あれ位で壊れるようなものじゃないと思うけど……」


「うーむ……姉上の私室が正直何処か把握してはいないのだが……そちらを早急に掘り出すようにしよう」


 と、言うわけで東国の騒動は一旦の解決を迎えたものの、竜体になったルオが城を壊してしまったせいで俺達が帝国に帰るにはもう数日かかったのであった。



 ★★★



「はぁ……酷い目にあった」


 東国の王城から少し離れた場所、青龍の地の端の森に逃げるように歩く男が1人。

 かなり目が悪いせいか時折木のウロに躓いていたのだが、目的の場所は分かっているようでキョロキョロと何かを探しながら森の奥へと進んでいた。


「あー、居た居た。おーい」


 声をかけた相手はフードを目深に被り手には水晶。待ち人がやっと来たのを確認して立ち上がる。


「やっと来たわ……つか、その格好……」


 長らく待っていた人はボロボロの姿だった。目が悪いからとかけていた眼鏡も割れていて殆どレンズが入ってない。

 ため息を吐きながら代わりの眼鏡を差し出すと、受け取っては暢気に笑い、悪びれも無く言い放った。


「あははは、失敗失敗。駄目だった。でも坊ちゃんの可愛い姿をこの目に焼き付けて来たのでワタシは満足です」


「いや、何自分だけ満足してんねん……ハァ」


 フードの男は水晶を覗き込む。その中にはゲームのような画面が浮かんでいた。


「あー、何でこう全然上手く軌道修正へんのやろなぁ。何1つゲームがちゃんと始まらんわ……」


 ため息を1つ吐いた男は空を見上げた。折角元のゲーム通りの流れに戻そうと、バグった世界を直そうとしているのに、全然直る気配が無いどころかどんどんカオスな方向に進んでいく。

 何が原因か分からないが、分かっているのはこの世界に居る筈のラスボスがいつの間にか居なくなってしまったという事だけだった。

 世界に闇を振りまき、全ての元凶とされる悪女ナーガ。突然姿を消した彼女の存在はゲーム性に大きな穴を開けた。

 折角巻いた種も、やはりそれを大きくする者が居なくては霞になって消えていくだけなのだ……

 物語には悪役が必要だ。そうでなければ売れないから。


「やっぱ、消えたナーガを探したほうが早かったなぁ……」


 代わりになる悪女を育てようと思うも、尽く上手く行く事はない。がっくりと肩を落とし、ヒントも手がかりも何も無い困難な道のりを歩むしか無いと現実を突きつけられた男は項垂れた。


「そもそも、帝国が平和ってどういう事なん……魔王が平和主義とか、その時点であり得へんわぁ」


「そう言われても、ワタシが知っている帝国は最強の皇帝が平和を守る地なので……あ」


「ん?」


「そう言えば、悪女では無くなってましたけど……帝国を惑わす事の出来る女性ならワタシ、知ってますよ」


「は、マジで」


「しかも何か魔王が助けに来てましたけど」


「そういう話は早よ言えや!」


 一応の解決を見せたはずの事件は……それをきっかけに更に不穏な方向へと進もうとしていた。

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