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東国の空、闇の竜を救うのは……(前編)

 


「何でルオ・ロンからナーガが生まれたんだ……?」


「さぁ……何でかしらね」


「あっ、姉上!!」


 東国の首都、青龍の地は暗雲に包まれ轟々と風が吹いていた。

 壊れて窓と天井の境が分からない場所から見上げれば暗黒竜。


「あー、我々の始祖は竜の一族だったとか言われておりますからねー。しかしあんなに立派な竜は初めて見ますね」


「暢気に言っている場合か!」


 空気も読まず緊迫感なく解説するハオの顔面にまたしても近くにあった壷を叩き込んだ。粉々に止めを刺される眼鏡……ああ、戦力が。


『ガアアアアア!!!!』


 苦しむように暴れ始めた巨大な竜ルオは口から黒い炎を吐き出した。


「危ない!!」


 皆が伏せたり蹴飛ばされたりしながら次々と吐き出される黒い炎を避ける。被弾した壁や置物が抉り取られるように溶けて無くなり、その威力にゾッと青くなった。


「このままでは城どころか町まで壊しかねないな……」


「そんな……それではやはり姉上は……」


 暴れるルオを見上げフェイは眉を寄せ泣き出しそうになったが、すぐにふるふると首を振って俺の服を掴んだ。


「いや、違う、決めつけてはならんのだ! 我は、学んだ。悪女などと決めつけてはならぬと、必ず破滅じゃない未来も何処かに存在すると。ジェド、我は……東国の者を傷つけたくないし……姉上を、助けたい」


「フェイ……」


「ジェドが絡めば大体何とかなったからな。まぁ、心配するな」


 フェイの震える手から、不安が伝わってくる。そんな心を読んだアークはフェイの頭に手を置いた。大体何とかなったって言い方がちょっとふわふわしているのが気になるけど、実際そうだからしょうがない……


「まずはアイツを止めなければ……」


 ルオの攻撃は街にも及ぼうとしていた。流れ弾が城を飛び越え余波で次々と街の建物が燃えていく。

 だが、あちこちに上がりかけた火の手や叫びが徐々に消え街に人が増える。


「……? なんだ?」


 よく見ると、逃げる人々を先導し火の手を防いでいるのは赤い服の者達。その先頭に立つのは真っ赤な髪を刺々しい装飾で結い上げる女だった。


「あれは……朱雀の、ミン・シュウ?」


 街の者達を先導する人の中には白と黒の鬣のような髪の女、マオ・フウや玄武領の者達の姿も見える。


「何故……他の領地の者達が」


「分からんが……とにかく街の者達は無事みたいだな。後はルオをどうにかしなくてはなのだが……」


「闇の竜をか……あいつは厄介な事に不死身だからな……」


 以前、ナーガと戦った時もかなり苦戦した。何せ物理攻撃も魔法攻撃も何1つ効かず、いや、効いてはいたのだがすぐに復活してしまう。闇の力に対抗するには光の力しか無いのだ。

 だが……今はお守りもオッサン剣も無い……うーむ、やっぱあんな変なオッサンでも居て貰った方が良かったのか……?

 居たら居たで心底嫌なのに……居ないと居ないで不便なのが本当に嫌だ……


「ねぇ、貴方ナーガの近くに居たのでしょう? 何か良い方法は知らないの?」


 いつの間に仲直り(?)したのかオペラはロストの腕を引き見上げて問いかけた。


「知るわけ無いでしょ、ナーガの事なんて。それに、あの子がああなったのだってあの子の自業自得で――」


「……」


 眉を寄せて押し黙るオペラに、ロストはため息を吐いた。


「まぁ……アタシは何もしてないんだけど、アタシのせいでもあるんでしょうね。ウザいからそんな顔しないでよ」


 オペラの手を振り払い、ロストは俺達に向き直った。


「あの子の気を逸らさせてくれたら、アタシが何とかするわ」


 ロストの手には白い部分が多く残る羽根が何枚か握られていた。


「羽根は無いけど、神聖魔法は使えるの。でも、この枚数だとここからじゃ無理ね。近くまで行かないと」


「近くに……それなら俺が運ぼう。だが、アイツの気を逸らさせる手立ては……」


「やっぱ……俺が一緒に行くしか無いのか……」


「だな」


 アークが俺の方を向くので、やっぱ俺が頑張るしか無いのだろう。だが、攻撃をしてもすぐに立ち直るような奴の足止めってもなぁ……


「ジェド、頼む……どうか、姉上を無事な姿で……助けて欲しい」


 と、フェイが涙目で訴えるのでプレッシャーが更に増す。

 正直、俺も無駄に剣を振るいたい訳では無い……特にルオのようなちょっと可哀想な女子には。


「極力……頑張る」


 とは言っても俺も剣しか取り得の無い男……手加減できるような余裕も無さそうなので少しは斬ってしまうかもしれない……


 アークが黒い獅子の姿になった。魔法が使えるアークはルオの近くまで飛んで行く事が出来る。

 俺とロストがアークの背中に乗ろうとした時、壊れかけの城に人影が現れた。


「おい! 街の奴らは避難させた! というか、これは一体どういう状況なんだ?!」


 そこに現れたのは白虎の女傑マオ・フウだった。


「お主……何故」


「妾達は手を取り合って東国を住み良い地にすると決めたのだ。話を聞けば白虎のも、玄武のも同じ意見だという。ならば後は青龍の、帝を説得するのみと来てみればこの騒ぎよ……」


「出来る協力はさせて貰うつもりだ。青龍の地の者達は玄武の領地へと急ぎ避難させている。リン・ヘイも大いに協力してくれている。あの守銭奴だった奴がな……」


「お主ら……」


 何という事だ……佳境になって今まで敵だった奴が駆けつける胸熱展開……最終回かな?

 良く見ると街の至るところで幽霊の宿屋の皆さんもけが人の介護をしたりしていて……


「ああ、どうやら困っているようじゃが、わしも協力させて貰うぞ」


 と言ってミン・シュウ達と一緒に朱雀門のババアも最後の戦士面をして立っていた。おま……ババア……


「……何でその婆さんまで連れてきた……?」


「いや、話を聞けばこの老婆もお主らに助けられた1人だと言うので」


 いや……確かに助けたけどさぁ……


「――あ」


 老婆を見たフェイが、閃いたように声を上げた。


「ジェド、足止めをする方法……我、思いついたぞ」


「え……」


「いや……この方法はもしかしたら失う物が大きすぎるかもしれないが……だが、姉上を救う為ならば……」


 苦悶するフェイの表情……多大な犠牲って、それじゃあルオと変わらないのでは……

 心配そうに見る俺の横で、アークはフェイの案が読めたのか同じように苦悶し始めた。


「それは……確かに効き目がありそうだが……良いのか?」


「我は……いや、ジェドはもう我の事を……こんな手段を考えた我の事を軽蔑するかもしれないが……」


 そう言って俯くフェイ。アークも悲しそうな顔をしながら俺を見ている。

 俺は1度目を瞑りフェイの肩に手を置いた。


「安心しろ、フェイ。俺は……どんな奴だって、嫌いになる事は無い。そして、その方法がルオを救いたくて出した結論ならば……尚更だ。俺はお前を信じるさ」


「ジェド……」


 ……で、結局どういう作戦なんだ……?


 頷いたフェイは決心し、助っ人達の方へと向き直り彼女に言い放った。

 とんでもない事を。


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