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皇帝の妃を決める舞踏会……?(後編)



 次の決闘は、聖女茜であったが――


「くっ……」


 相手をしていた悪役令嬢パメラが『水龍の怒りと悲しみ』を落とした。


「ここまで力の差があるとはな……私の負けだ」


 パメラは聖女に全く歯が立たず負けた。何かの小細工をした訳でもなく、拳1つで秘宝『水龍の怒りと悲しみ』とかいう当主以外が触れると火傷と電撃でのたうち回る剣を防いだのだ。拳で勝つ聖女とは……?

 会場を歓声が埋め尽くす。歓声の中、聖女は魔族令嬢ベルを見た。


「次は貴女ね」


「こんな所で聖魔対戦とはな。所で、貴様の優勝した時の望みは何だか聞いても良いか?」


「残念だけど、私……他力本願は嫌いなの。欲しいものは自分で手に入れるのよ!!!」


 そう言うと、聖女は聖気を纏った拳を繰り出した。ベルは魔気を纏った拳で応戦する

 白い光と黒い光が激しくぶつかり合う。黒と白の光の余波が闘技場のあちこちを破壊していた。


「……もうこれ令嬢の戦いとかいうレベルじゃないな」


「帝国を破壊する妃は勘弁してほしいのだが、エース」


 宰相のエースは酒を飲みながら項垂れていた。そんな妃はみんな嫌だよ!


 お互い1歩も譲らず繰り広げられる猛攻。客席にも吹っ飛んでくるので観客達も楽しく宴会どころでは無くなっていた。

 聖女とベルはどちらも傷だらけである。令嬢はカウンターパンチとかしないんだよ……?

 聖女も何をそこまでして勝ちたいんだ? まぁ、きっとノエルたん関連の何かだろう。


 決着がいつ着くか分からない程の打ち合いが続いたが、それはそれとして観客達も俺たちも1つ気になっている事があった。


「……あつい……ルーカス、帝国ってこんなに暑かったっけ?」


 そうなのだ。魔王の言う通りさっきからぐんぐん気温が上がっていて、皆汗だくである。空調魔術具壊れた?


 聖女とベルも滝のように汗を流していた。死闘のせいもあるが相当暑いのだろう……汗が水蒸気になって放たれている。聖気と魔気よりも湯気が出てる。

 俺はこの気温の感じに心当たりがあった。

 暑すぎて皆の口数が減っている中、涼やかな声が会場に響き渡る。


「かき氷〜かき氷あるよ〜! いかがですか〜?」


 客席に現れたのは太陽の精霊姫サニーと氷の精霊女王アイシアである。氷の菓子を番重に乗せて売り歩いていた。何で精霊がここに……?


「……精霊様方は、一体ここで何をしているのでしょうか?」


「何かお祭りみたいなのをやってるって聞いたので、お祭りといえばかき氷かと思って」


「暑い方が美味しいだろうから、暑くしてやったぞ?」


 闘技場の中は精霊姫サニーの力で灼熱地獄であった。あちこちで観客が熱中症で倒れている。君達さぁ……


 汗だくの拳を止めた聖女とベルがこちらを見る。


「……かき氷……」

「……ください……」


 そのまま2人とも熱中症で勢いよく倒れて試合は終わりを迎えた。


 第1回令嬢武闘会の優勝者は精霊姫サニーであったが、残念ながらサニーには好きな相手がいるので妃候補になる事もなかった。

 第1回と言っていたが、2度目は勘弁してくれ……



 ★★★



 闘技場の裏側。公園を歩いていたノエル・フォルティスがいた。


「もう、ソラったらこんな所まで来て……早くしないと茜様の活躍が終わっちゃうじゃない。優勝したら帝国で1番美味しいお菓子をプレゼントしてくれるって言っていたな。ふふふ。それにしても、騎士様からは舞踏会ってお聞きしたのに変ね。……騎士様や陛下とダンス、踊りたかったな。ちょっと残念」


 外はもう夕焼けが落ち、薄暗くなっていた。


「いけない、いくら平和な帝国とは言え、1人で離れていたら従者達に怒られちゃうわ。早く戻りましょうソラ!」


 ノエルはソラを抱え走り出した。


「にゃ……」


「……え」


 ふと見ると、木を椅子にして女性が座っていた。よく見ると女性には羽根が生えている。

 有翼人は帝国ではあまり見ないので、ノエルはその女性の美しさに見惚れてしまった。


「あ……ごめんなさい」


「……」


 女性はニコリと微笑んだ。何て綺麗な方だろうと、ノエルは頬が赤くなる。


「あの、闘技場に来られたのですか? もう武闘会は始まってますが……」


「……いいのよ。人の多い所は苦手だからここで休んでいるの。わたくしに構わず行ってらっしゃい。もう最後の決戦の時間みたいよ?」


「本当?! 大変! あの、ごゆっくりお過ごし下さい」


 ノエルはお辞儀をして走り出す。お話した声も綺麗で胸がドキドキとした。


「ソラ……?」


 ふと、腕の中のソラが震えていた。寒くなってしまったのだろうかとノエルはソラをぎゅっと抱きしめた。



 ノエルを見送った女性は静かに微笑む。


「魔獣なんて可愛がっちゃダメよ。可愛いお嬢さん」


 涼しくなってきた公園に流れる風に白い髪が揺れる。


「……舞踏会ですって。誰かの手が貴方に触れるなんて……いい訳ないじゃない、ルーカス様」


 冷たく微笑む、白く美しいその女性は夕暮れの中に溶けていった。

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