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ついに乗り込んだ青龍の王城……目的の人はどこ?(3)

 


「お召し物は気に入っていただけましたか?」


「……気に入る訳ないでしょう。目腐ってんの?」


 時折角にぶつかったり置いてある荷物に躓いたりしながら案内をするハオに着いて行くと、豪奢部屋へとたどり着いた。

 食卓の先には東国の現王ルオ・ロンが座って待っている。


「ロスト、似合っているよ。やっぱり君は何年経っても美しさを損なわないね」


「……」


 ロストが嫌そうに引きずる服はどうみても女物だった。それも、東国式の服では無くどう見ても聖国のデザイン。ロストが忘れたい子供の頃に着ていた服にソックリなのだ。

 嫌がらせか煽っているのか、ぶち切れそうになるのを抑えて大人しく着てここまで案内されたのにも理由がある。


「……アタシはこういう仕打ちが1番嫌いなの。でも、大人しく着てやっているんだから、あいつらはちゃんと外に捨てたんでしょうね」


「私が君の嫌がる事をする訳無いだろう。君が言う事を素直に聞いても聞かなくても、ちゃんと捨ててきたよ」


 だったら今すぐ破り捨ててやろうかと青筋が立つのを必死で堪えた。ルオは子供の頃から変わってはいない。ナーガと同じで人の神経を逆撫でするのと言う事を聞かせる状況を絶妙に渡るような奴だった。


「でもおかしいね、君は確か……妹の事は嫌いだったはずだよね?」


「……妹だとは一言も言ってないけど」


「君がそこまでして執着するような人は1人しかいないんだろう?」


 今更嘘をついた所でバレバレなのだ。今も昔も、ロストが考えていた人は1人であり、無意味に助ける聖国人など他に居る訳が無い。


「ええ、そうね。ま、今更どうでもいいわ。アタシと間違えられてあの子が拐われたのも癪ならアタシ以外の奴に痛めつけられるのもムカついただけよ」


「ふふ……君はそういう人だったね」


「……で、結局あんたはアタシを探してどうしたかったワケ? まさか結婚したいなんて寝ぼけた事を言うわけじゃないわよね」


「私は君とならそうなってもいいと思っているけど」


「ぶっ飛ばすわよ……当然、コレなんでしょ?」


 ロストは自身の羽根に残るナーガの形見を見せるように羽を広げた。幸い、聖国式の服は羽が出せるように出来ている。

 ロストの羽は半分が黒く染まっていた。ナーガの一部を直接植えつけられた事でナーガの持つ闇魔法を使う事が出来るのだ。

 だが、そのせいでずっと頭が痛かった。ロストが感情的になればそれを刺激するようにナーガの手が頭に伸びてきた。オペラに対して怒りと共に違う感情が台頭してきたのもそのせいだった……


「そうだね。でもね、ナーガが居なくなったこの国で……本当に私の心を分かってくれるのは君だけだと思ったのも事実なんだよ」


「アンタの心……?」


 そんなもの、分かる訳無いと吐き捨てたかった。ロストとルオは人種が違うのだ。

 ロストが抱いたのは単純な復讐心だった。でも、ルオは違う。

 ルオが東国で足元のおぼろげな平穏を保っているのは……


「……」


 そこまで考えた所で、ロストの視線に妙な者が写った。

 それはルオの後ろで晩餐の準備の為食事を用意している給仕の女性……

 いや、その厳つさは明らかに女性の域を超えていた。東国人はセリオンに住む獣人のように大柄ではない。

 辛うじて保っているピチピチの女官服は今にも張り裂けそうだった。何よりもその容姿……

 何故誰も突っ込みを入れないのかと思うくらいには不気味。不気味を通り越してモザイクすらかかっていた。隣の美しい少女の給仕が不気味さを打ち消して……などはいない。


「ああ、そろそろ食事の時間でしたね。ご苦労様」


 と、ハオが普通に対応しているのに思わず口に含んだお茶を全て吹いてしまった。ハオ、アンタ目が悪いにも程があるだろ――という言葉を飲み込んだ代わりに酷くむせる。


「……? 大丈夫か、ロスト? どこか変な所に入ったかい?」


 驚き訝しげに見るルオの後ろで、驚愕の表情をしている見覚えのある騎士。……いや、騎士の体は成していなかった。見る度に変な男だとは思っていたのだが、流石に突拍子も無く女性の給仕の格好をして現れるとロストも平常心ではいられなかった。驚愕の表情をしたいのはこちらなのだ、と。


「い……いや、何でもないわ。ちょっと変なものが目に入っただけよ」


 目を擦り誤魔化すと、ルオに気付かれないようにその変なものをチラリと見た。相変わらずロストを凝視する変なものは、ハンドサインで『何でお前がここにそんな格好でいるのだ』と訴えているようだった。

 それはロストの台詞である。何でお前がそんな格好でここにいるのか、はお互い様だ。

 ロストだって好き好んで女装をしている訳でも無いが、冷静に考えれば女装の騎士と女装の兄。恐らくはお互い目的とした人は一緒だったのだろう……が、何の奇跡か結果揃ってしまった女装の男子。


「先ほどから後ろが気になっているようだが……何か……」


 あまりにもロストが睨むので、流石に後に何かあるのかとルオは振り返った。


「あ……」


「……随分と女装が似合っているな」


 その変なものを見たルオの反応がロストの思っていたものと違ったので、思わず2度見した。似合うなんて言葉、余程の狂った美的感覚を持っていないと出ては来ない。

 その変なものはロストでさえずっと見ているとウッと吐き気をもよおす位には似合っていない。イケメンの女装が似合うというのは迷信なのだ。

 いいや、よく見れば……ルオの視界にはその変な騎士は入ってはいなかった。もしかしたら視界に入れないようにしているのかもしれない。

 ルオが見ているのは隣に居る美少女だった。

 ……それはよく見るとルオによく似ている容姿の、魔王領で見た少年。


「まさかそんな格好をしてまで戻ってくるとはね。易々とここに忍び込めた事は褒めてあげるよ」


「兄上……」


 ルオの弟、王弟のフェイ。漆黒の騎士団長ジェドの、漆黒歴史過ぎる女装の隣に付いていたのはその少年だった。


「えっ?!!! フェイ坊ちゃんの女装??!!!! 何か可愛い子の気配がするなと思ったら?!?!」


「ハオ、お前の目の節穴具合は相当だね。早くメガネを直しなさい」


「ぐぬぬ……坊ちゃんのいい姿が見れないなんて……」


 泣きながら極限まで目を細めるハオは腰の剣を引き抜いた。ジェドもまた給仕の女官用の着物の裾から剣を取り出す。ついでに見苦しいものが見えたような気がしたが、ロストは何も見なかったと目を閉じた。


「兄上、我は……兄上と話をしに来た」


「話、か。ちょっと大人になったんだね、フェイ」


 ニコニコと笑うルオの目に兄弟を見る優しさは無く、ハオの剣のように冷たかった。

 フェイはジェドの服の裾をぎゅっと掴みながらルオを見つめ返す。

 それでも、ルオの冷たい目に気圧されたせいか、フェイは言葉を返す事が出来なかった。

 じりじりと詰め寄るハオと距離を取りながらも、ジェドはロストの方へと移動する。


「……何でお前なんだロスト……オペラじゃないのか?」


「オペラだったわよ。アンタが遅いからもう逃がし終わってんだけど。とんでもなく遅れた上にその格好は何なのよ……こっちが色々聞きたいわ」


「それは色々事情があってだな……この格好も穏便に潜入する為に……てか、何でお前がオペラを助けるんだよ。恨んでいるんじゃなかったのか……?」


「それは……」


 それはロストにも未だ整理のついてない話だった。強いて答えられるとすれば、自分以外がオペラを痛めつけるのは耐えられない事。オペラを傷つけるのは自分でなくてはいけないのだと、あの日からずっと変わらず思っていたから。


「アンタには関係無いでしょう。とにかく、オペラはここには居ないから――」


「無駄話が過ぎるようですね。ロスト様はともかく、そちらの侵入者とけしからんフェイ様はただで済ます訳にはいきません」


「けしからんフェイくんはどういう済ませ方をするつもりなんだよ……」


「おい、けしからんって何だ……?」


「良い子は知らなくていい単語だ」


 目を細めながら迫るハオの、その剣が抜かれ……ジェドもまた同じように抜く。2人の剣が交差しかけたその時――


「――わぶっ!!!」


「んなっ!!!」


 交戦を中断させるかのようなタイミングで2人の上に何かが降って来た。それは空中に浮かんだ小さな移動魔法から落ちてきたもの。

 その一瞬前にジェドの指輪が光ったのがロストには見えた。まるでそこを狙い定めたかのように移動してきたのだ……


「きゃあ! ほ、本当にピンポイントにこの男の上に開かなくたっていいじゃない!! 全く……でもこれで何とか忍び込めたからあとはロストを探しに――」


 ジェドの上に降って来た2人は、ついさっき逃がしたその者達だった。ロストが文句1つ言わずに女装を受け入れてまで逃がしたその……


「あ……アンタ、何戻ってきてるの……?」


「え……」


 ロストとオペラの目が合うと同じく、アークは辺りに居る色々な人に気付いて蒼白とした。


「ジェド、おま……なん……え、その格好、いや……どのタイミングで落ち着いて……」


 アークがもう少し早く移動魔法を使っていれば、そんなタイミングにはならなかったのだが、少し休んでしまったばかりに……

 残念ながら、逃がされたはずの2人はピンポイントに最悪のタイミングで戻ってきてしまったのだった。

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