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皇帝の妃を決める舞踏会……?(前編)



 ゴンッッッッ


 陛下のめちゃくちゃ痛いゲンコツを食らったロイは、冗談みたいなでかいタンコブを作って執務室に倒れていた。

 あのゲンコツは痛覚無効や身体強化等が一切効かない謎のゲンコツとして知られている。噂では『皇帝のゲンコツ』という神をも黙らせる事が出来るスキルなんじゃないかと言われているが……そんな訳無いか。

 その観念から行くと神をも黙らせるシッペと、神をも黙らせるウメボシも存在する。


「しかし……ジェド、本当に君はそういう悪女関係の事件に巻き込まれるよね。そろそろ『漆黒の悪役令嬢専門家』とかに肩書き変えた方がいいんじゃない?」


「変えようが変えまいが巻き込まれる事には変わりないので勘弁してください……」


 あと、悪役令嬢はまだまだ知らないタイプのヤツが沢山いすぎるので専門家を名乗るにはまだ早いと思う……いや、後にも先にも名乗りたくないけど。


「そう? まぁ、それはそれとして……後宮かぁ」


 陛下の様子がどこかおかしい。何だか面倒臭そうにため息をついている。


「どうかしたのですか?」


「うーん、丁度タイムリーというか……ほら、私も結婚するにはいい年頃だろう? 宰相とかに早く伴侶を見つけろってせっつかれていてね。まぁ、確かに後宮とかは嫌だけど、誰かいい人でも居ればって言ったら、今度そのいい人を見つける為に舞踏会を開く事になったんだ……」


「舞踏会ですか。美しい女性を集めるにはいいイベントですね。貴婦人としての教養や所作を確かめるにはやっぱり舞踏会は鉄板ですよね」


 古くから、王が嫁を探すにはダンスパーリーと決まっているのだ。楽しいし華やかだし。

 先帝の頃はあまり開かれなかったので久々の大々的な舞踏会であろう。


「私はともかくとして、君達騎士団員もあまり女性と親しくなれる場所が無いと言っていたので良い機会だ。一緒に楽しもうね」


 騎士団員達もワーっと盛り上がっていた。俺も社交パーティーは悪役令嬢が多くて遠慮していたが、皇室主催のダンスパーリーならば変な断罪事件とかも無いだろう。可愛いご令嬢に出会えるといいな。ワクワク。


 あまりに楽しみすぎて寝れなかったが、その舞踏会の日はすぐにやってきた。



「……陛下?」


「うん?」


「舞踏会って言ってましたよね……?」


「うん。私も舞踏会って聞いていたけど?」


 宰相のエースも青い顔をして頷く。


「私も……ちゃんと舞踏会って言ったのですが……」


「……舞踏会ってこんなんだったっけ?」


 そこに集まったのは煌びやかなドレスの女性達――……ではなく、厳つい鎧に各々武器を持ち闘志を燃やすご令嬢であった。


 うん。これ、舞踏会じゃなくて武闘会だわ。



 ―――――――――――――――――――



 皇帝ルーカス陛下、宰相エース・ウイング、そして俺……騎士団長ジェド・クランバルは王座とその隣に並んで闘技場を見下ろした。


 意気揚々、闘志満々、ギラギラと燃えるご令嬢達が集まっている。

 確かに陛下の結婚相手を探す会ならば女性達がギラギラしてるのはまぁ分かるけど、妃選びってこういうヤツだっけ?

 観客の男達も震え上がるくらいの火花を散らしている。


「おい宰相、ちゃんと確認したのか……?」


「確かに数日前まではちゃんと舞踏会の準備をしていたはずなのに……風邪で休んでる間に何がどうなったか、こんな事になっていました」


 宰相の下の家臣どうなってるの? 報・連・相に伝言ゲームでも取り入れてるの???

 しかも、ザワザワとしている令嬢達から聞こえてくるのは――


「この戦いに勝ったら何でも願いを叶えてくれるらしいわよ??」


「え? 私は誰でも好きな人と結婚出来るって聞いたけど……」


「焼肉1年分食べ放題じゃないの??」


 ……というように、最早陛下の妃を選ぶ舞踏会から大分かけ離れてしまっているんだが。伝言ゲームならば0点である。


「はぁ……まぁ、開いちゃったものは仕方ないね。幸いご令嬢達も楽しみにしているみたいだし、景品の事は後で考えるとして始めよう」


 かくして、皇帝陛下もビックリの最強の令嬢を決める武闘会が始まった。

 バトルものの物語で急に天下で1番の強者を決める武術大会を開くようになる展開は聞いた事があるんだが、こういう騎士とか悪役令嬢とか言ってる世界観で開かれるモノなのだろうか。しかも令嬢が。


「ルーカス、お前にしては珍しいモノを開いているな」


 酒を片手に現れたのは、魔王アークであった。


「皇城で舞踏会と思ったら闘技場で武闘会とはな。まぁ、皇城じゃないならうちのヤツも入れるからな。あいつも乗り気だ」


 アークが示す方を見ると魔王領でモフモフカフェを経営してる魔族の令嬢ベルが混ざっていた。

 え??? 魔族混ぜちゃダメでしょう????


 ズガーン!!


「おおー!」


 破壊音と共に歓声が上がり振り返ると、もうすでに開始している戦闘で令嬢を床に沈めている女がいた。

 ノエルたんのストーカーの聖女、茜である。初戦から飛ばしているのか、聖気を纏った聖女パンチが令嬢ごと床にめり込んでいる。え、大丈夫?? あのご令嬢。


「あの女やるな。聖気を纏ってるけどあれは聖女か? あんな凶暴な聖気とか見た事無いが……」


 魔王アークが嫌そうな顔で見ている。魔王もビックリの凶悪聖女である。

 え? ちょっと待て、もしかしてこれは……今まで関わった凶悪令嬢達が最強の座をかけて戦う武闘会なのか……?

 エースはもう遠い目で現実逃避していた。そうよね。気持ちはわかる。

 浮いた話が無い陛下がやっとその気になったのに、蓋を開けてみると全然別の事が始まってんだもんね。

 帝国最強の皇帝の妃は、別に帝国最強のゴリラである必要ないもんね。


「ははは、ルーカス、これはゴリラみたいな令嬢がお前の妃になる事を望んだら叶えてやらないとな」


 魔王アークは既に出来上がっているのか大盛り上がりだったが、我々は深い悲しみに暮れていた。


 違う、こういうのじゃない……

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