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東国人は魔王領に行く……その裏で複雑に事件が動き出す(7)

  


 魔王アークに服の首根っこを咥えられたまま、オペラは混乱していた。


「――ちょ、ちょっと!! これは一体何なの?! どういう状況なの!!」


「知るか!! 今はとにかくアイツから逃げるのが先だろう!!」


 黒い獅子の姿に変身したままロストから逃げるアーク。追いかけるロストは攻撃を仕掛けているが、その狙いは単純に命を狙っているというよりはアークからオペラを奪い捕まえようとしているようだった。


(――大体、ロストはわたくしを捕まえて何が目的で――)


 そこまで考えてオペラは自身に呆れた。

 ロストの目的なんて分かり切っているのだ。あの愚かな兄は以前の聖国から必要とされなかったなんてくだらない理由でオペラをずっと恨んでいて、ナーガに付け入られ手を貸した。

 以前よりも羽の穢れが濃くなっている事から、どれだけオペラへの恨みを募らせているのかが分かる。

 ロストとの思い出はいつもそうだ。マトモに話が出来た試しなど無かった。今回だって捕まればまた積年の恨みつらみを投げつけられるだけなのだ。


「……不毛なことを。いくらそんな風に思われていても、貴方のそれを受け入れる事なんてわたくしには出来る訳が無いのに……」


 ボソリと呟いたオペラの言葉にギョッとしたのはアークだった。


「えっ?! きゃあ!!」


「あっ!!」


 思わず口を開いてしまい離したオペラが一瞬落下するも、またすぐに咥えて空中を走り出す。


「ちょっと何ですの?! というか、わたくし自分で飛べましてよ!! いい加減離して――」


「うるさい! いいから大人しくしてろ!! こっちだってちょっと考え事をしてんだよ!!」


「はぁ?!」


 オペラの呟きがロストに宛てているものだというのは魔法障壁を作るのを忘れてダダ漏れなオペラの心から分かってはいた。だが、分かっているはずなのにアークは何故か動揺した。


 そんなアークの訳の分からぬ反応と返答に、オペラは更に混乱するばかりだった。


「ただでさえ訳の分からない輩に襲われているのに、貴方まで謎を増やさないで下さいます?? そうだ――」


 オペラは飛び進みいう事を聞かないアークの目の前に手の平を差し出した。

 それを見た瞬間、アークがまたしても固まる。その一瞬でロストに距離を詰められるが、何とか交わして逃げ延びた。


「ばっ、邪魔するな……」


「わたくしだって貴方に用があって来ましたのよ! あっちの目的や何を考えているのかは全然分からないけれど、わたくしは一刻も早く、この、貴方の指輪を外したいの!!!」


 オペラの指には2つの指輪が嵌っていた。

 1つはよく知っている。それはアークが両親の死から肌身離さず持っていたもの。父が母に、ずっと共に生きる事を誓った証として贈ったものだ。

 そしてもう1つは皇帝ルーカスがオペラに贈ったもの。


「これを――」


「ああー!! 今はゆっくりそんな話をしている暇は無いんだよ!! 後にしろ、後に!!」


 それを取り戻したいのはアークも同じ事だった。

 最初手段は土下座してでも取り返そうとしていたアークだったが、本当にゆっくり話をしている時間は無い。

 だからオペラの話を遮ったのはただ、それが理由なだけ。

 2つ嵌まる指輪のうち、自分の指輪だけを外そうとするのに心が少しズキリとするなど――


(今更そんな事ある訳無いだろ。何考えてんだ、馬鹿馬鹿しい……)


 2人の事はずっと知っていた。誰よりも先に、オペラの心を知っていたのはアークだった。

 帝国が夢に包まれたあの日、一瞬覗く事が出来たオペラの心にはルーカスが居た。

 その時はオペラの事も聖国にも興味が無かったから、敢えて触れる事でも無いし正直魔族を目の敵にする聖国人になんて関わりたくも無かったのだ。

 それが、親友でもあるルーカスと彼女が心を通わせ、次第に外の国に興味を持ち始めてから気にするようになり……次第に大きくなったとしても、全てが遅いのだ。

 オペラがルーカスに憧れを抱いたあの日、最初に出会ったあの日あの時に自分が同じ場所に居たとしても。最初から敵同士と思っていなかったら、出会いが違った物だったら――なんて、全て虫の良すぎる話である。

 始まった時が一体いつだったのかすら覚えてはいないが、アークがいくら何を思った所で全てに決着がついていて、もう遅いのだ。


「――っ痛っ!?」


「――え?」


 そんな事をモヤモヤ考えながら飛んでいると、オペラが一瞬指を押さえて痛がった。見ると、指輪が少し食い込んでいるのだ。


「え? な、何?? コレ呪いの指輪なの……?」


「んな訳あるか!! それはなぁ、父さんが母さんに――」


 ずっと一緒に居られるようにと嵌めた指輪。そう思った時、アークの脳裏に過ぎる。


 ――もしや、俺の心に反応して……?


 オペラから離れたくないのは、果たして指輪が呪われているのか、それともアーク自身か――


「あっ!!! ちょ、ちょっと――」


「?!」


 一瞬考えて止まった瞬間にロストに詰め寄られ、アークは頭の上から叩き落された。


「ば、バカ!!! 何やってんのよ!!」


 咄嗟に咥えていたオペラを放したアークだったが、オペラは直ぐに魔法陣を描いてロストに目くらましを仕掛け、勢いよく落ちていくアークを追いかけた。

 アークが落ちる先には山の中にも関わらず小さな湖のようなものが見えた。オペラはそれに見覚えがある……


「温泉……?」


 アークは先にあった温泉に勢いよく音を立てて落ちた。


「がはっ!!」


 飛び込んだ拍子にアークは元の人間体に戻っていた。オペラが直ぐにたどり着き、温泉の上からアークに向かって引き上げるように手を伸ばす。


「もう、何をしているの?! だからわたくし、貴方の手なんて要らないって言ったでしょ!!」


 お湯に浸かるアークは、助け起こそうと伸ばしたオペラの手を見て止まる。その指には、やはり気にしている指輪があった。


(だから、どうしてそっちの手なんだよ……)


 アークはなるべく指輪を目に入れないようその手を取り握るが、オペラがアークの先に何かを見つけて固まったのに気が付いた。


「……?」


 不思議に思い、アークも後を振り向くと、そこには2人の人影……見覚えのある漆黒の騎士と、全然見覚えの無い子供が1人、裸で温泉に浸かっていた。


「……ジェド……お前こんな所で何をしているんだ?」


「……それは、全然こっちの台詞なんですが……???」


 普通に入浴していただけの漆黒の騎士団長ジェド・クランバルとフェイの元に、アークは飛び込んでしまったのだった。

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