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図書館の本は悪女への扉を開く(前編)



「うーん……サッパリわからん」


 漆黒の騎士団長ジェド・クランバルは皇室図書館に来ていた。


 先日のスライム魔法陣は異世界のゲームだったのだが、仮にこの世界の誰かが意図して作った魔法陣であるならばその魔法式の資料があるのではと思い、皇室図書館に調べに来ていた。

 しかし、不自然な程に手がかりは無かった。確かにあまり見た事の無い種類の魔法陣ではあったが。


「団長、何を探しているのですか?」


 新人騎士のロイが通りかかり声をかけて来た。

 ロイは読書が趣味らしく、よく皇室図書館に入り浸っている。

 が、前に異常気象事件が起こった時……両方ともロイが見た本が絡んでいたので、あまり変な本を見て欲しくはないと思っている。2度あることは3度あるという異国の教えがあるのだ。


「魔法式の本……ああ、この間のスライム魔法陣について調べているのですか? あれって多分、古い神聖魔法ですよね?」


 ロイから急に出てきた意外な回答に俺は目を見開いた。


「お前、知ってるのか?」


「ええ。僕、確かにここでその魔法について書かれた本を見ましたよ? 相当な量の埃を被っていたので誰も見てないんじゃって感じでしたが。ただ、気が付いた時には無くなっていたんですよね。まぁ、古い神聖魔法なんて禁呪ばかりですからねー。廃棄されたんですかね? 禁書でしっかり鍵かけられてましたが内容ヤバすぎましたからね。あのスライム魔法陣とか。神聖魔術なんて扱える人なんて居なそうですけど……使いたくもないでしょうし」


 神聖魔法――聖気が必要なその魔法はこの帝国では扱う人はほとんど居ない。特に古い禁呪ならば尚更だ。

 その本はつい最近まであったみたいだが、意図的に持ち出されたのだろうか……それを見て悪用したのか、或いは神聖魔法だと知られたく無かったとか?


 それはそれとして、俺には気になっている事があった。


「ロイ……お前、今サラっと『禁書でしっかりと鍵かけられていた』とか言ったよな? 何でお前がそれを読んでいるんだ?」


 ロイは、しまった! という顔で目を逸らす。


「お前……」


「す、すみません! 飽くなき探究心に勝てず、つい出来事で。ですが、皇室騎士団の騎士として絶対にそんなもの悪用しないと誓えます!! 変な魔法があるんだなー位にしか思わなかったので!」


 騎士ならダメって言われてるものを読まないでほしい。後で陛下にゲンコツを落としてもらおう……陛下のゲンコツは死ぬ程痛いのである。

 あと、禁書が簡単に見れちゃう管理体制も何とかした方がいいな……最強の皇帝が統治する平和な帝国で禁書を見るようなバカはロイ位だが。


「後で陛下に怒られろ。ところでお前、その持ってる本……」


 ロイが持っている本を見るとガッチリと鎖がかかり、鍵が閉められている。

 って、禁書やないかーい!! え? お前、何で言ってる側から禁書を持ってるの???


「ああ、これですか? 何か管理甘そうな所に普通に置いてあったから……見ていいヤツかと思って」


 そうかー、普通に置いてあったかー。ほな禁書ちゃうなー。

 とはならんだろ!! 明らかに封印してあります、みたいなヤツだろそれ!! 本当、管理どうなってんのー!?


「そんなに頑丈に鍵がかかっている本は見ちゃいけないヤツだ、返してきなさい」


「ええー! そんなぁ、ちょっとだけでも……」


 何この子、何でそんなに禁書見たいの?? 俺は見たくないけど?? 飽くなき探究心なの? そういう心は騎士の方で生かしなさいよ!


 本を取り合っているうちに、留め金が腐っていたのか本の鎖が外れてしまった。その本が落ちて中身が見えた瞬間――俺たちは光に包まれる。



★★★



「……正直俺は、お前と図書館で会った時から嫌な予感はしていた」


「ここ、どこですかねー?」


 そうしてロイと俺は、見た事の無い景色の中で倒れていた。



 ―――――――――――――――――――



「ここ多分、この本の中じゃないですかね?  ほら、ここに書いてある景色にソックリです」


 倒れていたのは遠く東の異国風のめちゃくちゃ広い建物の中庭だった。

 建物は朱塗りの柱に煌びやかな金の装飾が施され、明らかに帝国や近辺の国の物ではなかった。

 ひとまず隠れて様子を見たが、東の国の人達が着ていたような羽織りを着て、金や銀の簪をしている女性達が忙しなく給仕をしていた。


「つまり……その本の中に入ってしまったと考えるのが状況的に正解みたいだな」


 本の登場人物に憑依したとか転生したという話は最近よく聞いたのだが、まさか自分が本の中に入るとは思わなかった。誰だよそんな本を見える所に置いておいたのは……


「この本『後宮の美しき悪事』っていう本らしいですよ」


 いつの間にかロイが本を読み始めていた。いやお前この状況で? どんだけ本が好きなんだ……?


 ロイ曰く『後宮の美しき悪事』は、美しき後宮の女達が様々な方法でお互いに陥れ殺し合うという、悪女達の嫉妬と憎悪渦巻く物語らしい。

 最後のページは『そして……この後宮には誰もいなくなった。惨事のあったその建物は取り壊され……何も残らない』となっている。何その話、超こわい。

 うちの皇帝は先代の頃から1人の女性しか愛さず、妾は作らなかったので後宮は存在しないから良かったけど……陛下は未だ一切そういう話も無いからなぁ。

 女の争いとかは嫌だけど、そろそろ妃とかの話が出てもいいんじゃないかなぁ。


「団長、これって僕達が話を変えてしまえばいいんじゃないですかね?」


 ロイは本を裏返したりしながら隅々まで見た。


「この本からは魔力とか生命力みたいなものを薄っすら感じます……恐らく長い時間かけて自我が生まれたのでしょう。この物語を崩壊させれば、本自体が保てなくなり出られるんじゃないかなと思っています。実際にそういう現象があり、帰ってきた人の話を何かの本で見ましたし」


「崩壊か……ただ壊すって訳にはいかないんだろうな」


「それだと最後の一文と一緒ですし、それにこの本の肝は後宮の悪事です。本来はその方法で死ぬはずだった後宮の女性たちを生き残らせる事が大事なんじゃないですかね?」


 流石、本マニアの推理である。

 本の内容を崩壊させて本の存在意義を無くすとは、本にとっては虫よりたちが悪いので俺が本だったら近寄らないで欲しいがね。


「という訳で早速着替えましょう」


「は? 何で?」


「何でって、潜入して後宮の女性達を助けなくちゃいけないんだから……この格好ではマズイでしょう?」


 確かに、ここで働いているのは女性ばかりであるが……え?


「陰からコッソリじゃダメなのか?」


「見つかって大騒ぎになるリスク考えると……そもそもこの格好自体、この世界観と全然違いますからね。目立たなく行動するのは難しいですよ?」


 ロイの言う事は一理ある……一理あるが。

 誰も居ない事を確認して、女性給仕係や召使の着ている服が沢山置いてある部屋へと入る。


 それはつまり、女装ってことですよね……?? すごく嫌なんだけど???

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