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東国の王弟フェイ・ロンと青龍の騎士ハオ(後編)

    


「……婚約者……かぁ……」


「にゃー」


 ぼーっと窓の外を見つめる少女、ノエル・フォルティスは自分の状況と、憧れの騎士様の言葉を頭の中で反芻していた。

 彼とは歳がかなり離れていた。結婚の早い者ならば自分ほどの子供がいてもおかしくない。

 そんなものはただの子供心の憧れで、大人になれば忘れるものだと……分かってはいても、ノエルには――今の子供のノエルには何も飲み込む事が出来なかった。

 他にも沢山素敵な出会いがあるといっても、いつもノエルを助けてくれて頼る事が出来たのはその騎士様なのだ。

 今はまだ他の人の事を……ましてや婚約などと考える事は、子供のノエルには出来なかった。


「こうなったら……ソラ! 私――」


 ノエルは小さな手を握り締めソラに頷いた。



 ★★★



 漆黒の騎士団長、ジェド・クランバルは東国の王弟飛・フェイ・ロンと使者で騎士のハオを連れてフォルティス家へと馬車で向かっていた。

 ブレイドは仕事に戻り、近距離だからかシアンもついては来なかった。あいつらはああ見えて結構陛下の仕事を手伝っている有能家臣。……そう、暇なのは俺だけなのだ。陛下が言っていたように本当に暇なの。


「……」


 フェイ・ロンは陛下の話を聞いてからボーっと考え事をしていた。陛下に断られたのがショックだったのか、それとも思いの外平和すぎたこの国に何か思うところがあるのか。

 ずっと無言なのでハオがひたすら喋っていた。


「東国とは景色が全然違いますねー。あちらは山が多いので。その昔、東国を根城としていた神獣たちがそれぞれ高い山を好んで棲みついていたからと言われていますねー」


「そうなのか。確かに竜の国もめちゃくちゃ高い山の上なんだよな」


「竜の国!!! 我ら青龍血筋の者達には聖地聖域であるラヴィーンには一度行ってみたかったのですよね」


 ハオが興奮したようにずずいと身を乗り出した。青龍を神と崇めるだけあって、やはりラヴィーンは聖地扱いなのか。

 実際のラヴィーンは今、500度位違う方向の聖地だから実物の竜を見てガッカリしないか心配だが……


「そうか。ところ何で今までは行かなかったんだ?」


「まぁ……東国自体が他国を好まない国といいますか。我々はまだこうして他の国に行く気がありますが、他の者達は他国に対して恐怖や不安を抱いております。全然交流無いし。ワタシは多種族との交流が辛うじてありましたからね、まだその辺りは慣れておりますが」


 そういえば前は聖国人も同じような状況だった。閉鎖された国では他の国に対する情報が入ってこないので他国への偏見があったもんなぁ。魔王領や魔族の事なんてずっと信じて貰えなかったし。


「坊ちゃんが帝国との交流を決断し、邪竜の力を宿す令嬢と婚約をしようとしたのも一大決心だったのですよ。まさか邪竜はもとより、ナーガ様がすでにいなくなっているとは思っても見ませんでしたが……通りで全然姿を見ないとは思ったのですよね」


「そうか……まぁ、邪竜の件はともかく、ノエル嬢のことは丁重に扱ってほしい」


「そうですよね。あたっ……」


 話をしながら外を見ようとしてハオがまた窓のサッシに手をぶつけて傷めていた。馬車に乗るときも端につまずいていたし……コイツ、騎士の癖に遠近感というか空間把握能力無さ過ぎでは……?

 俺の様子に空気を察したのか、ハオは慌てて手を振った。


「あ、いえ、実はワタシ……目が悪くて」


「そうなのか? そう言えば眼鏡をかけるって言ってたな」


 ハオはごそごそと鞄を漁った。


「そうなんですよー。ワタシ、いわゆる『乱視』って奴でしてね。かけなくても見えるは見えるのですが、距離感が上手く掴めないというか……勿論騎士として戦う時はこうして眼鏡をかけているのですよ」


「なるほど」


 すちゃっと眼鏡をかけたハオはさっきまでの糸目と違い、目がハッキリくっきりしていた。そうか、糸目なんじゃなくて、よく見えないから目を細めていたのか……なるほどねー。


「……お、お前!!!」


 はっと我に返ったフェイ・ロンがハオの眼鏡に向かって手を伸ばしたが、ハオはその手をがしっと掴んでフェイ・ロンを見つめた。その目はうっとりとしていてさっきのおっとりした顔とは一変している……


「坊ちゃん……はぁ……可愛い。これで男の子じゃなかったら……」


「心底気持ち悪いわ!!!」


 フェイ・ロンは慌てて手を振り払い眼鏡を吹っ飛ばした。ハオの目は元の糸目に戻り、眼鏡眼鏡……と眼鏡を手探りで探している。


「……おい……、念の為確認するが、そいつはボーイがラブなのか……?」


 俺は目の前の光景を思い出して不安になりフェイ・ロンに尋ねた。ボーイがラブな奴は竜族的にはオッケーだが、帝国というか俺的にはアウトなのでこのままラヴィーンに送り付けたい。


「……いや、そういう嗜好では辛うじて無い」


「そうか、それは良かった。確かに男の子じゃなかったらって言ってはいたな。じゃあ結局なんなんだ」


「ハオは……いわゆるアレだ。可愛いものが好きなんだ」


「なる……ほど?」


 フェイ・ロンはハオを汚物のように見た。空気を察したハオがぶんぶんと首を振る。


「ちょっと坊ちゃん、人聞きの悪い事言わないでください!!! ちょっと可愛い……とりわけ女の子を尊ぶだけじゃないですか!!!」


「お前の目つきが度を超しているんだよ!!! ……確かにハオは剣の腕は優秀な騎士なんだが、眼鏡をかけると可愛い女の子が良く見えてしまうので必要の無い時は眼鏡を外して貰っている」


「一歩間違えると犯罪者だな」


 色んな属性の変態を沢山見てきたが、そういうタイプの変質者はいなかったなぁ……

 ――と、俺は今向かっている先を思い出してハオの探している眼鏡を踏みつけた。


「ウワーー!!! ちょ、何するんですか!!!」


「……お前は帝国を出るまで眼鏡を外しておいてくれ」


「その通りだ。察しが早いな」


 フェイ・ロンも嫌な顔でハオを見ていた。こういう普通そうな顔している奴が大体1番やべえんだよな……

 だが、フェイ・ロンはすぐにため息をつき椅子にどっかりと腰をかけ直した。


「まぁ、ノエルという少女は悪役令嬢とかいう奴なのだろう? 貴族令嬢だしな……性格が悪すぎて破滅の未来を迎えるとあったが、そのような女ならばとくに心配する気も起きんのだが……というか、邪竜の強力な力も宿していないのにそんな者に会いにいかねばならんというのがさっきから憂鬱過ぎてボーっとしていたわ」


 フェイ・ロンは不機嫌そうに呟いた。お前がボーっとしていた理由そっちかよ。


「いや……ノエルた――ノエル嬢はそんな人ではない。以前はその、悪役令嬢ルートに入りかけていたというか、そういう未来は回避したから」


「……? 何を言っているのか全然分からん」


「……上手く説明出来ないが会えば分かる」


 悪役令嬢の未来を回避とか、知らない人には全然何の事かサッパリでしょうな。だが、ソレもアレもこれも、ノエルたんの天使具合を見れば分かるだろう。……ハオには絶対に見せてはいけないが。

 フェイ・ロンがどんな奴なのかはイマイチ分からないので本当にノエルたんの婚約者に相応しいかどうか判断つきにくいが……ノエルたんが勘違いされたままなのは心外だ。


「とにかく、彼女は邪悪や悪い令嬢とは凡そ無縁の天使のような女の子だ。その辺りは俺も陛下も保障するから安心してほしい」


「そうなのか……? 我は邪竜の力を宿す悪い令嬢のままなら良かったのだがな」


「えっ、天使のような女の子?! 眼鏡かけて拝見しても良いですか坊ちゃん!!」


 テンションだだ下がりのフェイ・ロンに対してハオのテンションの高さ……というかお前ら。


 まぁいいさ。実物の天使を見ればその不順な心など洗われるに決まっている。……いや、ハオは見るな。



 そうこうしている間にフォルティス家が見えてきた。東国の王族である婚約者フェイ・ロンをノエルたん含めフォルティス家の者達が出迎える。


「ノエル嬢、東国の王弟フェイ・ロン殿下をお連れして――」


 馬車を降り挨拶をしようとした俺の言葉を遮ったのは、ノエルたんの信じられない言葉だった。


「おーっほっほっほ、私の婚約者ですの??? その、他国の子供が? か、片腹痛いですわ」


 ノエルたんは開口一番、妙な高笑いを上げて俺達を迎えた。


 ――え? ノエル……たん?

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