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突如降り注ぐ悪役令嬢の影(後編)



「それで、コレはどうしたらゴールなんだ? ……もしかしてゲーム自体にゴールはないのか? 糞ゲーと名高いゲームってくらいだし……」


 俺たちはひたすら落ちてくるスライムを集めていた。5匹同じ色のスライムをくっつけると確かに消えるが、終わりが見えない程次々と降り注いでくる。


「失礼な、糞ゲーなのは乙女ゲームの方ですわ。このシリーズ、付帯するミニゲーム自体は中毒性の高いもので、私達ランキング争いをしていたのですよ?」


「本当に。よく乙女ゲームとして売り出そうと思ったわねって感じですの。シナリオも薄ければスチルも酷くて、作画崩壊ゲームとして違う意味で人気が出ていた位ですもの。ゲーム自体は面白いのに残念すぎます……」


 そうなのか。だが、そこまで言われると確かに糞ゲーと分かっていてもどんなゲームか気になってやりたくなってしまうかもしれない。


「このスライムをこの様に同時に2色消したり、1回消すと連鎖的に次々と他の色も消えていくという連続消しをすると、スライムの魔力が溜まりあの魔法陣に向かって放たれます。そうすると魔法陣に少しずつヒビが入っていくので、魔法陣が壊れるまでどんどん上手く消していけばいいのです」


 グリーンスライムとレッドスライムを同時に消してみると赤と緑の光が魔法陣に向かって放たれた。

 なるほど、確かにこれは適度に頭を使って面白いかもしれない……だが――


「意外と難しい……あっ、間違えた」


 欲張ると間違えてしまうので、それをフォローする為にまた更に積み上げてしまう。ミスが怖くてなかなか同時に沢山消す事が出来ない。

 令嬢達は流石に前世でランキングを競っていただけあって、凄いスピードで消していく。あ、陛下も結構上手い。


「流石【あああああ】ね。あなた、大会にも出てましたわよね? でも、私も負けませ……ん……」


 マロンが次のスライムを探そうと見上げて、手が止まる。


「あれは……」


 その指差す方を見ると、魔法陣の中心部から通常のスライムの10倍はあろうかというビッグなスライムが顔を覗かせた。


「あれは何だ?! あのビッグスライムも5匹集めろとか言わないよな?!」


「あれは魔力をぶつけないと壊れないスライムです! 落ちて来る前に連続消ししないと、その分埋もれてしまいゲームオーバーが早くなります!! ハードモード設定なの!? くっそ!」


 令嬢がくそとか言っちゃいけませんが、マリアはスライムを消すスピードを早めてありったけの魔力をぶつける。

 その甲斐あって、何とか落ちる寸前でビッグスライムは消滅した。


「ふぅ……危なかった――」


「あ、あれ……嘘でしょ……?」


 マロンが震える指を差す。その先の魔法陣を見ると、先程は1つだったビッグスライムが、魔法陣の至る所から顔を覗かせてる。うわぁ……ポコポコして魔法陣が気持ち悪い。


「そ、そんな鬼モード、ゲームには無かったわよ!!」


 ビッグスライム達は、令嬢達から魔力が沢山放出されると見たのか、そちらに一斉に集中砲撃してきた。令嬢達も必死でスライムを消しまくる、だが――


「あっ、しまっ! キャアアアア!!」


「マリア!!」


 マリアがミスをしてしまい、埋もれてゲームオーバーになってしまった。

 足だけは見えているが、大丈夫なのだろうか。


「スライムの弾力性のおかげで、何とか無事です……でも、動けません……」


 ビッグスライムに押し潰されたかと思ったが、生きているようで安堵した。だが、1番の戦力であるマリアがやられ、その分マロンにビッグスライムの集中砲撃が襲いかかる。必死で抵抗しているが、最早死ぬ寸前であった。いや……死なないんだが。


 直後、必死なマロンが次のスライムを見上げて悲鳴を上げる。


 それは魔法陣全体を覆うかのようなとんでもない大きさのスライムであった。大きいだけにすぐには落ちて来ないが、ゆっくり確実に魔法陣から出ようとしている。


「あ、あんなの……ゲームに……無い……」


 マロンの顔色が絶望に染まる。

 あんなのが落ちてきたら、帝国は終わるんじゃないか……?



「騎士様……?」


「ねー、何これどうなってるの?」


 そこに現れたのは黒猫を抱いたノエル・フォルティスとそのストーカーの聖女であった。


「あっ、ノエルたん危ない! 聖女パーンチ!!」


 ノエルたんの上にスライムが落ちて来そうになったが、聖女が聖気を纏った拳をスライムに向かって突き上げるとスライムはふっ飛んで行った。

 陛下がノエルたんの方へ駆け寄る。


「ノエル嬢、何故ここへ? ここは魔法陣の中心部、危ないので避難して下さい」


 陛下の問いにノエルたんは首を振り、ソラを差し出した。


「1人だけ逃げるなんてそんな事できません……それに、ソラがここに来たがっていたのです。なので、茜様に護衛をお願いして連れてきて頂きました」


「何でかわかんないけど私の周りには降らないのよねー」


 確かに、スライムは何故か聖女の周りは避けて降っているようだった。相変わらず拳で語り合う武闘派だからスライム側も怖いのだろうか?

 すると、ソラがするりとノエルたんの腕を抜け、積もっているスライムへと駆け出す。


「にゃ、にゃ、にゃ」


 スライムに向かって何度か鳴くと、スライムは山を分解し、色ごとに別れはじめた。

 分解された山からは酒屋の主人が出てきた。あ、その山だったのか。 他のスライムも、ソラに説得されたかのように各々集まり出し、どんどん消えていき巨大な魔力の塊となり魔法陣のスライムに向かってぶつかって行った。

 最後のスライムが消えて魔法陣にぶつかった時、スーパービッグスライムと共に魔法陣は粉々に砕け、空へと溶けて行った。


「助かった……のか?」


 スライムが説得に応じるとは盲点だった。やっぱ魔王呼んだほうが早かったのでは……?

 街の人達もそれぞれ助け起こされたりしている。令嬢達も怪我はなく、皆無事そうだ。


 陛下がソラを抱き上げ、ノエルたんに渡す。


「ノエル嬢、ソラ、ありがとう。助かったよ」


「にゃ、にゃ」


 ソラはノエルたんに何か伝えているようだった。ノエルたんも最近はソラとの意思疎通が少し出来るようになったのか、その言葉を理解しようと必死で聞いている。


「ソラは何て言っているんだい?」


「えと……あのスライム達、無理やり召喚されて困っていたみたい。だから、一緒に魔法陣を壊そうって説得したって言っています」


「無理やり……一体誰が」


 陛下は魔法陣のあった空を見上げた。


「誰かが引き起こしたならば……絶対に許す訳にはいかない……」



 ★★★



 魔石が割れ白い光が消えると、中にいたスライムは聖気に耐えきれず湯気を立てながら溶けて行った。

 ドロドロと薄汚れた魔物の溶ける様にオペラは笑顔を曇らせる。


「……やっぱり魔の物は駄目ね。この世に無くてもいい存在だわ」


 オペラの思い描いた結果にはならなかったが、スライムを通して魔法陣越しに見えたルーカスのこちらを睨みつける瞳を思い出し、オペラはうっすらと微笑んだ。


「嫌ですわルーカス様。わたくし、本当にそんなつもりじゃありませんの……」


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