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悪役令嬢の周りにはろくな男がいやしない(前編)

 


「お父様、お母様……ご心配をおかけして申し訳ありません」


 フォルティス家の一室。やっとベッドから起き上がり、元気な姿を見せたノエルにフォルティス夫妻は安堵の涙を浮かべた。


「ノエル……あなたが無事でいてくれるなら、私達はそれでいいの」


「魔法学園に行って勉強すると言ったお前の成長を喜んだが……私達はまだまだ心配したいんだよ。でも、目を覚まさないような不安な心配はもうこりごりだ。ずっと可愛らしい元気な姿を見せておくれ……」


「お父様……お母様……」


 ノエルを抱きしめる両親、その姿を見てメイドや従者達も涙した。

 ノエルが伏せっていて、悪役令嬢ノエルの目覚めを妨げるようピコピコハンマーで打ちつけていた時は血の涙を流しすぎた従者達だったが、嬉し涙や感動の涙は別腹……いや、別目だった。もう目が萎れるほどに流した涙だったはずなのに、暖かな涙はフォルティス家を水浸しにする程に皆の目から溢れた。


「お父様、お母様、でもノエルは早く立派な魔法使いになって、みんなのお役に立ちたいのです。私の事を助けてくださった騎士様……や、皆様の為にも、立派な大人になれるよう魔法学園に戻ります」


「そうか……」


 頬を赤らめながら話す愛娘……その姿を見てノエルの両親は確信し頷いた。


「ノエル……魔法学園に戻る前に、あなたにはちゃんと決めてほしい事があるのよ」


「ああ。大事な事だ」


「え……」


 両親の真剣な表情。その話を聞いたノエルは卒倒しそうな位叫んだ。

 ――いや、叫ぶのはレディに反するので、心の中で叫んだ。



 ―――――――――――――――――――



「……騎士様、お願いがあります。何も聞かずに私と一緒に来て頂きたいのです……」


 漆黒の騎士団長ジェド・クランバルと皇室魔法士団、新人魔法士のシアンこと魔塔主シルバーは街中のカフェに居た。

 テーブルの目の前には長い眠りから覚めたばかりのノエルたんが猫のソラを抱いている。


 つい先日まで、悪役令嬢ノエルさんを宿していた事やナーガに身体を乗っ取られていた影響もあってノエルたんは永い眠りについていたのだ。

 ノエルたんの中に居たノエルさんは、淀んだ闇を宿しすぎた魔獣の猫のソラの力を解放する代償として、聖女の茜と一緒に未来に戻って行った。

 白昼夢か何だか分からないが、一瞬見えた未来では2人は大丈夫そうだったので、苦難を乗り越えて強く生きていくのだろう……他の人は強く生きていられてはいなかったが。

 まぁ、逆行系悪役令嬢達の来世は明るいものだろうと信じよう……過去の自分へのフラグを立てまくって行ったような気もしなくも無いけど、気のせいだと思いたい。

 あと、あのまま最終回みたいな流れだったけど、解決していない事件が多すぎるので俺の人生が終わることは無いので悪しからず。何回最終回みたいな流れやるんだよ……


 それはそれとして、元気になったノエルたんは俺とシアンがカフェで休憩中に突然先の言葉をかけてきたのだ。

 悪役令嬢の常套句のようなセリフ……確かにノエルたんも元悪役令嬢だが……

 しかしノエルたんの頼みを断る人がいるだろうか。いや、いやしない。


「勿論だとも、ノエル嬢の頼みなら何も聞かずに行くに決まっているさ」


「……ジェド、我々は別に非番では無く休憩中だったはずなのだがねぇ。城に戻らなくていいのかい?」


 シルバーのくせに真っ当な事を言ってきた。魔塔に居た頃は全然仕事をしてなかったように見えたのだが、こう見えてシルバーはちゃんと魔塔でも魔塔主の仕事を、皇室でもシアンとして魔法士の仕事をちゃんとこなしている。

 なんなら与えられた仕事以上の仕事をし過ぎる。その結果、魔法士団長のストーンの劣等感をグサグサと刺しまくっているので少しは休めと陛下に言われ……こうして長めの休憩を取っている所だったのだ。期待以上の仕事をしすぎるのも問題である……


「いや、何というか俺は元々そんなに役に立ってない上に、お前が必要以上の仕事をしてくれているおかげでかなり仕事環境は良くなったからな。何かみんな久々に定時で帰れているみたいだし。それにノエルた……嬢の頼みならば、陛下も2つ返事で俺を送るだろう。俺達が一番に考えなくてはいけないのは帝国民の事だからな」


「なるほど。まぁ、わた……僕は追い出されなければそれでいいです」


 シルバーもとい、シアンがにっこりと微笑んだ。

 ノエルたんは俺達のやり取りに胸を撫で下ろし、すくっと席を立った。


「事態は一刻を争いますので……私についてきてください!」


 いつにも無く焦った様子のノエルたんに俺達は顔を見合わせた。

 先日までノエルたんの身に大変な事が起きていた。また何か事件に巻き込まれたのではないかと不安を覚えつつ……ノエルたんがトコトコと可愛らしく歩いて着いた先はフォルティス家だった。


「只今戻りました」


「ああ、ノエル、急に飛び出すから何処へ行ったのかと心配していたのですよ!」


 ノエルの姿を見てフォルティス夫妻は安堵のため息を吐きながら抱きしめた。


「ごめんなさい……でも、でも私……」


「良いんだよ。おや、これは……騎士団長ジェド・クランバル様に、それに新しい魔法士様ですかな?」


 フォルティス夫妻は俺を目にするや、少し眉を寄せた。何でです?


「お2人は私がお連れいたしました」


「ノエルが? 一体、どうしたと言うのだね……」


 困った様子の夫妻に、ノエルたんは意を決したように言い放った。


「私……私……騎士様に勝てる方でなくては、絶対に婚約なんて致しません!!!」


「えっ……」


 え? 今、なんて……


「ほほう、ノエル様は婚約されるのですか?」


 シアンが面白そうに言うも、ノエルたんは首をぶんぶんと振った。


「いいえ! ま、まだ決まった訳ではありませんの!! お父様とお母様が……その、勝手に……」


 ノエルたんが済まなそうに夫妻を見る。夫妻も困ったようにこちらを見た。




「ああ……その、ジェド様方を巻き込んで本当申し訳ありません……」


 玄関先での立ち話もなんなので応接間に案内された俺達は、困り果てた様子の夫妻の話を聞いていた。


「確かに、ノエルの婚約者は我々が話を進めたものではありますが……その、ノエルもそろそろ、そう言った話を進めなくてはいけない歳になってきましたので――」


「私、ま、まだ早いですし……それに、自身の相手はちゃんと自分で……」


 ノエルたんがごにょごにょと言いながらこちらを見た。そうか……ノエルたんは両親が勝手に決めた婚約話が嫌で俺に助けを求めに来たのか……

 任せろ。俺はノエルたんに頷き微笑んだ。ノエルたんも頬を赤らめ目を輝かせる。うーん、可愛いなぁ。


「夫妻、ノエル嬢は未だ幼い子供ですし、そういう話はまだ早すぎるでしょう。もう少し大人になれば、自ずと受け入れる事も出来るはず」


 俺にしては真っ当な意見を言ったと思ったのだが、ノエルたんは何故かこちらを若干不服そうに見た。何で?


「……ですが、私達は心配で……特に最近ノエルが憧れている方がいるのですが……」


「ノエル嬢が憧れている? それは良い事なのでは……」


 夫人の言葉を聞いたノエルたんは目を見開いて凝視していた。聞かれたくない話だったのだろうか? まぁ、確かに恋バナは恥ずかしいよね。

 そうか……ノエルたんにも気になる人が居たのか……いつまでも子供だと思っていたのだけど少しは大人になっていたのだなぁ……誰だよ畜生。


「ですが、そのお相手は歳が離れておりますし、それにその……ちょっと女性関係で問題が多いと言いますか……」


「女性関係で問題が……?」


 歳が離れていて女性関係多めって、ヤバイ奴じゃないのか……? そりゃあ、可愛い娘がそんな奴に憧れているのは親御さんとしては心配になるよなぁ。


「で、でも、その女性の方々は……お悩みを相談されているだけというか……時折結婚をせがまれておりますが……それは本気ではないというか……」


 結婚をせがまれて本気じゃない……? 結婚詐欺か何か? ノエルたん……どんな奴に憧れてんの……?


「ノエル、お前のその気持ちは大人に憧れる一時的なものだ。お前に見合った相手を、少しは考えてはどうかね?」


 フォルティス卿が本当に心配そうにノエルたんをなだめるが、ノエルたんは未だ諦めずに食い下がろうとしていた。

 俺は落ち着けるようにノエルたんの手にそっと触れる。


「?! あ……あの、騎士様……」


「ノエル嬢、両親の心配するお気持ちも分かる。歳の離れた女性関係がやばそうな奴に可愛い娘が騙されるのが見ていられないのだろう……どうだろう、決めるかどうかは君次第だが、一度婚約者に会われてはいかがかな?」


「――っ?!!!!」


 優しく諭したつもりだったのだが、俺の言葉にショックを受けたように固まり、ふらふらと扉に向かって歩き出した。


「……わ……わかりました……」


 余程憧れの人への想いがあったのだろうか、肩を落とし落ち込んだ様子でそのまま立ち去ってしまった。だが、幼い頃に憧れる人は一時の思い出なのだ……俺も旅先で見た物凄い美人の女騎士に憧れたものである。ちなみにその後その女騎士が男だと知って、あえなく初恋は崩れ去りましたがね……


 何か痛いと思っていたら、俺の手を何故かソラが噛んでいた。何で?


「……ありがとうございます、ジェド様。ご進言のおかげでノエルも少しは目を向けてくれる気になったようです」


「いえ、俺もノエル嬢には幸せになっていただきたいので。そんな歳の離れた女性関係ヤバめな男への一時の感情は忘れた方が良いかと思いますし」


 夫妻は頷きながら何故か目を逸らした。……どうしたのです?


「……ジェド、私もそんな無神経で鈍い男はおススメ出来ないねぇ」


 シアンが気の毒そうな苦笑いを浮かべて呟いた。

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