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10年後の未来は初キス出来るような楽園では全然無い(前編)

 


 見覚えのありそうで全然見覚えの無い学園の景色……


「何であんたまでいるのよ。元ネタの乙女ゲーム『聖女の初恋kiss〜魔法学園は異世界のイケメン花園(パラダイス)』略して初キスイケパラにだってそんな騎士は居なかったし、そもそも私が修行していた時にだってあんたの名前、聞いたことないんだけど……」


 聖女の茜が困ったように眉を寄せて言う。生憎だが、一番困っているのは本人の俺だ。何でなのかは俺が聞きたい。


 現実逃避するのか確認か、俺は魔法学園らしき建物から窓の外を見た。

 景色は間違いなくアンデヴェロプトだ。魔法火山があるし……いや――


「あの辺に魔塔無かったっけ……」


「魔塔……? 魔塔なんて10年前にぶっ壊れたけど。当時の魔塔主が起こした大爆発と共に沢山の魔法使いが死んだのよね。だからこの魔法学園で魔法使いを育成しているんでしょう?」


 ノエルたん……いや、ノエルさんが冷たい目を向けて丁寧に教えてくれる。――え? 今何つった……?


「爆は……え? あいつ爆発したの……??」


「そうだって言っているでしょう。だから魔法使いが必要なの……各大陸が争っているのにアンデヴェロプトには戦力が少ないんだから」


「ほ、ほう……? ちょっと一旦考えさせて貰ってもいいか……」


 確かに過去、幾度となく俺の前に現れた悪役令嬢が『破滅の未来』だことの『断罪処刑』だことのと不穏な未来を訴えかけてきた。その度に俺は、この平和な帝国でそうはならんやろ。と呟いていたのだが……


 俺が思っている以上に、俺の迷い込んでしまった未来は……やばいことになっているっぽい……?



 ――――――――――――――――――――――――



 漆黒の騎士団長ジェド・クランバルは何でなのかはサッパリ分からないが10年後の未来に来ていた。

 何でか、というかどうやって来たのかは分かる。

 ノエルたんの愛猫のソラが溜め込んだ力を使い切る為、茜を悪役令嬢のノエルさんごと未来に返したのだ。

 そこまでは良かった。茜もノエルさんも納得していたからね。本当の運命と書いてトゥルーエンドですわ。

 ……だが、そこに何故か巻き込まれて一緒に飛ばされた俺の存在があるのは何故……?

 何の納得もしていないし、先に茜が言っていたように俺はゲームとやらに登場すらしていない。仮に初キスイケパラに登場していたとしても名前の出ないモブだろう。モブ系漆黒の騎士。


「いや……今は俺の存在も置いておいていい……」


 俺は頭を抱えた。百歩譲って俺が何か未来に飛ばされた事は良しとしよう。ちょっとみんなと歳が離れちゃっただけだし、前にも俺が2人存在していた事もあったからな。ギリギリ何とか10年くらい諦めてここで生活する方向にシフト出来なくもない……

 だが、10年後の未来は思いの外ヤバそうだったのだ。


「今から10年前……私が闇に飲まれた頃。世界は瓦解するように堕ちて行ったわ。魔塔の爆発、それを合図に魔族が世界を襲い、聖国が剣を持って対抗した。争いを止める為に帝国が立ち上がったのだけど、混乱に乗じて竜の国までもが争いを引き起こし……そうして世界は混沌としてしまった」


「なるほど……?」


「へー、何かそんな大変な事になってたんだ」


 色々置いて行かれている俺の横で、一緒に聞いている茜は他人事の様に聞き流していた。


「……いや、何でお前は知らないんだよ。お前もこの未来から来たんだよな?」


「何でと言われても……私、この世界に来てからノエルたんを救う事しか考えてなかったし。歴史とか情勢とか興味無かったから。というかそんな設定、ゲームにも無かったし。そんな事より――」


 茜はノエルさんの両肩を掴んで身体をまじまじと見た。


「ノエル、あんた闇の竜はどうしたの? 脚に描かれていた刻印は!? 私の知っているノエルはいつも闇の竜に蝕まれて怒りをぶつけていた。こんなにずっと落ち着いて喋れるような状態じゃなかったはず……」


「……これ」


 ノエルの腕には魔術具が嵌められていた。それは確か、目覚める度に暴れていたノエルたんを抑える為に、シルバーがノエルたんの腕に着けた物だ。

 シルバーがジャラジャラと着けている物と同じ、魔力を封印する魔術具だったはず。


「この魔術具が私の魔力を抑えているから、闇の力も弱まっている。あの魔法使いはこの次元には存在していなかったからね。こんな強力な魔術具は見た事無いし……いつまで持つかは分からないけど、暫くは私の中の黒い心が暴れる事は無いと……思う」


「ノエル……良かっ――」


「勘違いしないで。私は未だ私を苦しめた世界の全てを許した訳じゃ無いから。……まぁ、あなたが必死なのは少し……認めてやっても……」


 ノエルさんが頬を赤くしながらごにょごにょと呟く。おお……ノエルたんが立派なツンデレに育っている。ちょっと想像していたノエルたんの10年後の姿ではないけど……これはこれでアリだな。

 ……なんて考えていると茜に凄い顔で睨まれた。何で考えている事が分かったのだろう。顔に出てた?


「あんたの邪な考えはさて置き、一先ずノエルは大丈夫そうだから。問題はあんたをどうするか……よね」


「うーむ、そうだな。平和そうなら普通にそのまま住もうかとも思ったのだが……あまり平和そうじゃないみたいだしな」


「いや、何で早くも順応ありきなのよ。少しは焦って元の時間に戻る事考えなさいよ」


 何でと言われてもなぁ。過去色々ありすぎて麻痺してしまったというか……

 こうなっちゃったからには……もう、ネ。っていう変な方向に前向きに検討していく心しか湧かなくなってしまったのだ。

 順応の騎士団長ジェド・クランバル。……あ、いや、今の時間の俺が未だ騎士団長なのかは怪しいが。


「とにかく、元の時間に戻る方法を探すにせよ諦めて強く生きていくにせよ、今の俺がどうなっているのかを確認せにゃ始まらんからな。とりあえず帝国に戻って様子を見てみるさ」


「そう……1人で大丈夫?」


 心配そうな茜の言葉に耳を疑った。心配する心とか、あったんだ……

 いや、全方向に尖っていたのは何が何でもノエルたんを守るという強い意志からだったのだろうか。ノエルさんを変える為に帰って来た茜は、最初の彼女とは違う……心なしか何か、オッサン剣やブレイドに似た光を感じた。


「ああ、大丈夫だ。君はノエルさんを運命から守ってくれ。俺は俺で何とかするさ」


「そう……」


「所で、アンデヴェロプトのゲートはちゃんと稼働しているのか? こんな様子だと前と同じように繋がっているのかも、そもそも同じ場所にあるのかも怪しいが……」


 俺は不安げに窓の外を見た。10年も経つと様変わりし過ぎているからな……

 そんな俺の服を、茜はむんずと掴んだ。


「ああ、ゲートならば確かまだ通じていると思うわ。ゲーム内でも他の国に行けたし。ただ、場所がちょっと違うから、案内してあげるわね――ハァァァァアアアア!!!」


 そう言って良い笑顔を俺に向けると、雄叫びを上げて力の限り俺に蹴りを繰り出した。

 いや、君、それ案内って言わないから。

 以前見た茜の全力パンチは、勘違いでやらかした勇者高橋を他国まで吹っ飛ばしていた。

 絶妙に痛い蹴りを食らった俺の身体は、他国までとは行かなくともアンデヴェロプトの空中を勢いよく飛び、ゲートらしき場所の壁へと思いっきりめり込ませた。

 心外な事を考えていたのがバレてのこの所業なのだろうか? いや、あいつの全力はもっと遠くまでぶっ飛ばせるはずだから多少手加減はしているのだろう。優しいのか優しくないのか分からんなコレ。


 ギャグ小説のような吹っ飛び方で案内(?)されたゲートの壁。めり込んだ壁から身体を引き抜き、パラパラと落ちる瓦礫の破片を払うと、周りにゲート職員の人だかりが出来ていた。

 ――分かる、もうこの後の展開は分かっているのだ。

 俺は無抵抗を主張する為に両手を上げた。


「お、お前! ゲートに攻撃を仕掛けるとか、まさか魔法都市を狙っての敵国か!?」


「とりあえずゲート都市の地下牢に連行しろ! 何処の刺客か、洗いざらい吐いてもらうぞ!」


 そう言われ、数人の警備兵達至る所を固められずるずると引き摺られて行った。

 ああ……ゲートって聞いて嫌な予感はしていたけど……未来に来て早々シンプルに襲撃犯として連行されるとは……


 引っ張られながら抜けたアンデヴェロプトのゲートの先……帝国のゲート都市は、俺の知っている活気の溢れた感じは無く、傭兵や冒険者達等の武装した連中がピリピリとした空気を送っていた。

 ぶち込まれるように入れられた地下牢は勝手知ったるいつもの休憩場所感は一切なく……談笑するテーブルも椅子も無い、冷たい石造りだった。


 ……え……俺、こんな次元で、やっていけるかなぁ……びぇぇ……

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