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閑話・聖国の不穏な間者



 皇帝ルーカスは、騎士団員を見送った後の執務室で呟いた。


「気付かれていないとでも思ってるのかな……」


 執務室の変な土産物を見ながら溜息をつく。平和と思われた帝国にも、未だルーカスを煩わせるものが沢山あるのだ。



 ――聖国。

 世界樹と呼ばれる、天と地を結ぶ程巨大な樹の上空にその国はあった。

 有翼人が住み、その国の者達は神や天使の末裔と信じられている。

 神聖な物への信仰が厚く、魔族は絶対に滅ぼさなくてはいけないという思想が強いので、魔王と友好を結ぶ帝国とは決して良い関係では無かった。


 国は聖気に満ち溢れ、異世界から何も知らない聖女や勇者を召喚して『聖戦』と称した戦争を魔王領に仕掛けようとしているという噂もある。


 聖国に生まれた者は『正しいのは聖国、魔族は悪い者達』としか知らないらしい。


 アークの母を殺させたのも、人間と魔族を争わせるように仕向けた聖国の差し金なのかもしれないと疑っている。

 ルーカスが1番警戒している国であり、いつかは何とかしなくてはいけないと思っていた。

 しかし、確たる証拠も動きもない今は冷戦中であり、聖国が何もしない限りはルーカスも無駄な争いはしたくなかったのだが……



 ―――――――――――――――――――



 時は数年前に遡る。


 聖国に生まれたその男は、やはり聖国こそが全てだった。この国に全てを捧げ、正義の為ならば命を落とす事すら厭わないと思っていた。


「貴方には帝国に入って、探ってきて欲しいの」


「かしこまりました。魔族を取り入れ、仮初の平和に騙された帝国の目を覚まさせるのですね」


「……ええ、そうね。その為には情報は必要ね。願わくば皇帝の弱みになるようなものがあれば。だってわたくし、無駄な争いは好みませんもの……皇帝ルーカス様と穏便に解決出来るものがあるのならば、それに越した事はありませんから」


 有翼の令嬢は静かに微笑んだ。聖国で最も尊い存在、女王オペラ・ヴァルキュリアである。


 彼女は違う国ではもしかしたら悪女と言われるのかもしれないが、この聖国では神に最も近い存在として崇められていた。

 オペラの言うことは聖国の者にとっては絶対であり、当たり前である。オペラは聖国の心であった。


 間者の命を受けた彼は、喜んで自らの翼を差し出した。

 背中には2対の傷が残ったが、騎士になるならば傷くらい有っても気にもされないだろう。

 羽根と共に聖気も無くした有翼族は、見た目は人間とほぼ見分けがつかなかった。



 皇室騎士を志望した時に初めて皇帝を見た彼は緊張した。


「君は、何故騎士団に入りたいと思ったんだい?」


「俺は国を愛してますので、その為に尽くそうと思いました」


「……そう。頑張ってね。ジェドはどう思う?」


「君、背中に傷あるよね?」


 言葉を聞いた瞬間、その騎士の目を見てぞくりとした。


(漆黒の騎士は油断ならないと聞いていたが、何故分かったのか……もしかして正体がバレ――)


「さっき着替えてる時に一瞬見えたんだよなー。痛そうだなーって。俺も実は腹に傷がある」


「ジェドのそれは盲腸だよ……? あ、全然気にしなくていいから、君は君の仕事を頑張ってね」


 バレたかと思って間者は心臓が口から飛び出そうになったが、何一つバレてはいなかった。

だが、皇帝にも騎士団長にも警戒しなくてはと改めて気を引き締めた。


 それから数年間、間者は真面目に働いた。聖国に居た頃とは雰囲気がだいぶ違いすぎたが、飲まれてはいけないと頭を振った。

 全ては聖戦の為に……何としても皇帝の弱みを握るのだ。それが自身の使命だと――



「ジャンケン、ホイ! はい、決定ー! じゃあ罰ゲームという事で、君が魔力を込めて魔石をジェドに口移ししてね」


「――え?」

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