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皇室騎士、魔法士採用試験(20)シュパースの探し物(中編)

 


「案外近かったのですね、シュパース」


「……そうだと分かっていれば――いや……分かった所で、か」


 正気を取り戻した鯨便に乗った漆黒の騎士団長ジェド・クランバルと皇帝ルーカス、魔法士志願者のシアンはシュパースの船着場に降り立った。


 シュパースに向けて出発した……のではなく、その前にブレイドを探そうと飛んで行った方角に鯨を進めたらシュパースが見えてきたのである。そんな偶然あります? って思うじゃん……? これが割とあるから困る。現実は冒険物語以上に都合良く出来ているものなのだ。


「ようこそシュパースへー! ゲートじゃなく海から来る方、最近増えてるんですよねー。長旅お疲れ様でーす――って、その出立ちは帝国の騎士試験の方……? いや、普通に騎士……?」


 船着場では関門職員が俺達を出迎えた。俺達の姿を見て試験を受ける者達かと思いつつも俺や陛下の姿を見て首を傾げる。紛らわしくてすまんな。


「あー、正確には俺と陛下は試験を受けている訳じゃないんだが……いや、俺は受けているのか」


「そうなんですねー? よく事情は分かりませんが……ここシュパースでは騎士らしい体力勝負といいますか、島内にいるナスカさんを探し出して印を貰うようになります。……ちょっと自分らにもマジで何処に居るのか把握出来ていませんが、頑張って下さいねー」


 う……それ、この間来た時もやらなかったっけ……

 俺達はナスカの顔を知ってるから有利だけど他の参加者不利じゃない? と思っていたが、ご親切にも島のあちこちに指名手配犯のように姿絵が貼られていた。


「ああ……それはそれとして、銀髪の騎士っぽい男を見なかっただろうか? 海上で魔獣と戦っている間にこちらの方角に飛ばされてしまったのだが……」


「銀髪の騎士っぽい方ですか? うーん……自分は見てないのですが、この辺りは海流が島を中心にぐるぐると回っているので何処かには流れ着いているかもしれませんね。見つけたらお知らせするようにしますが、何か他に特徴あります? 服装とか」


「服装か……服は着ていないと思う」


「えっ」


 職員が驚愕の表情を浮かべていた。幾ら海だからって素っ裸で流れ着く騎士がおるかい?! と思っているだろう。俺達だってそうはならんやろって思っていたからね……だが、残念ながらなっとるんですわ。


「服を着てないとなると……変質者として届けられている可能性が高いですが……」


「いや、まぁ……時に変態っぽくなる事もあるが、今回に限っては事故というか彼の意思で服が無くなった訳では無いので仮に捕まったとしても容赦して貰えるよう通達しておいてくれ」


「自分の意思じゃなくそうそう服が無くなるものなんですかね……??? まぁ、帝国の騎士様が仰るのでしたら……」


 職員は腑に落ちない話を無理矢理納得してくれた。自分の意思ではなくそうそう服が無くなる事がここ最近頻繁に彼には起きているので許して欲しい。現実は冒険物語より奇なんすわ。


「よし、島とはいえシュパースは下手な小国よりも広い。ナスカを探すのも大事だがブレイドが捕まる前に保護してあげたい。ここは手分けして探そう」


「手遅れじゃないと良いんですがね……分かりました」


 俺はシアンをチラリと見ると、人の良さそうな顔でニコリと笑った。


「ああ、僕で良ければ手伝いますよ。じゃあ……この辺りに行きますので……」


 シアンが地図を広げるとシュパースの南側を指差した。シアンの持っていた地図の印は殆ど埋まっていて、アンデヴェロプトにも印がある。


「ならば私は西で、ジェドは東を頼んだよ」


「分かりました」


 俺達はそれぞれ違う方向に駆け出したが、シアンの姿が見えなくなると何故か西に駆け出したはずの陛下が戻って来た。


「あれ……? 陛下、何で――」


 俺の腕を掴んだ陛下は辺りを警戒しながら耳打ちした。


「ジェド、確証は無いが……恐らく、襲撃者はあの子だ」


「シアンが?」


 俺は陛下の言う事にピンと来なかったが、陛下は俺の地図を指差した。


「あの子……アンデヴェロプトでの試験はもう終わっていたよね。ここシュパースは騎士用、アンデヴェロプトは魔法士用のコースだ。人魚の国からここに来る理由はほぼ無い。どう考えてもそのまま帝国に戻った方が早いからな」


「確かに……」


 人魚の国からシュパースに用があるのは、未だシュパースで騎士用の試験を受けてない者だけだ。わざわざシュパースを経由してゲートを通る必要は何処にも無い。言われてみれば人魚の国の船着場で俺達と同じようにシュパース行きの船を探していた時点でだいぶおかしいのだ。


「それに……ストーンはアンデヴェロプトに渡ってから記憶が無いと言っていた。鯨便が突然暴れ出したのもそうだ……事前に魔法をかけておくにしても私達が乗る便をどうやって知る? そうなると、1番近くに居た彼が何かしていたとしか思えない」


「ええ……でも、狙いは何ですかね?」


 陛下は難しそうな顔をしてシアンの行った南側を睨んだ。


「分からない……が、試験参加者を狙っているのだとすると……もしかしたら南側にブレイドが居るのかもしれない」


「……目的が分からない以上、ブレイドが心配ですね」


 ブレイドはそう簡単にやられる程弱くは無い。……だが、襲撃者がシアンだとしても、未だ目的がよく分かっていない以上何をされるかは未知だ……

 ブレイドは対武力的な事に関しては問題無いが、その他の事についてはだいぶ弱いかもしれない。主に服がよわい。


「これまでの行動から見ても、命を狙う所まではいかないだろうが……警戒が必要だ。それに、魔王領でアークも多少襲われていた事を考えるとナスカも心配だ……私は彼の後をつけるから、ジェドはナスカを探してくれ」


「……分かりました」


 陛下は神妙な顔をしてシアンの後を追いかけた。陛下の尾行は流石過ぎて俺達騎士団でさえ誰も気付く事が出来ないのでまず大丈夫だろう……いや何処の世界に尾行が得意な皇帝がおるんですか。



 とりあえず1番賑やかな本島中心部へと向かってみた。

 シュパースを少し歩いたが、島全体的に前に来た時よりも人が少なく見えた。

 遊楽地としての人気が衰え人が過疎ったか――いや、そうでは無い。大陸の殆どの場所が改装中なのだ。

 ナスカが別れ際にシュパースもそろそろ改装しなくてはと言ってはいたのだが、作り替えるとなると大胆にも全土一斉に作り替えるらしい。

 運営的には細々作り替えた方が良いのでは? と思ったが、細かく改装してもリピート客は飽きてしまう。次に行きたい場所を見せておく事で足がまた軽く此方を向くのだとか。遊び場として常に最新を進んでこそ夢がある……というのがナスカの理想――

 ……とかでは全然無い。これらの運営を考えているのは全部他の遊び人である。ナスカは働いてない。

 いや、もしかしたらその人々の動きまで全て見越してそういう行動をしているのもしれないが……ナスカが長期不在だった事に皆が動揺していた所に来て、帰って来て早々「何か飽きちゃうんだよなー……」と一言言っただけでこの騒ぎになったらしい。アイツはマジで人たらしである。たぶらかされ振り回されている遊び人達はたまったものじゃないだろう……いや、案外楽しそうに改装作業しているから彼らは彼らでナスカのそんな気まぐれで破天荒な所が好きなのかもしれない。


 シュパースでの試験はナスカを探すだけなので特段運営には関係無い上に人が少ないのが幸いだった。……が、前に来た時と景色が全く変わっているので何処に何があるのか分からないし、全く検討がつかない……


「しゃーない、地道に聞き込みしながら探してみるか……」


 改装中の島内は未だ全く形が出来てない物もあればプレオープンしている場所もあって、チラホラ見える騎士試験参加者が目を奪われたり「良いなぁ……ここって住み込みで働けるんだろ……騎士よりよっぽど良くない」なんて声も聞こえて来た。

 アカン……騎士候補が遊び人になってまう……

 いや、騎士になるならこんな遊楽地に惑わされるなよ……確かに楽しそうではあるけどさぁ。これから夏も意外と涼しくて過ごしやすいんだぜここ……良いなぁ。


「あれ? ニーサン、前にナスカさんと一緒に居た方じゃないですかー。何か探してんですか?」


 声をかけられて振り返ると、見覚えのあるチャラ男がいた。確かコイツは以前ワンダーと一緒にシュパースに来た時、ホストクラブに居た店員。


「ホストクラブも改装中なのか?」


「そうですよー、ナスカさん戻って来たと思ったら全面改装なんだもんなー。まぁ、それでナスカさんを繋ぎ止めておけるなら良いんですけど……おかげで新装オープンしたのが女装ホストキャバクラと男装の麗人ホストクラブっすよー。あー、化粧あんま苦手なんですよねー、練習しとこ」


 いや、どっちが誰に向けた何の店なんだよ。ややこしいわ!


「ま、まぁ、金の街のNEWラインナップはさておき……ナスカが今何処にいるか分かるか? それと、銀髪で服を着ていない男も探している」


「いやー、俺達もヒントや情報はあげていいって言われてるんですけど、マジでナスカさんの居場所は分からないんですよね。何せこの広さでしょう? 最後に見たのも3日くらい前ですよ」


 船着場の職員も言っていたが、あちこちでフラフラしているナスカの居場所は把握出来ないらしい。元々シュパースでもいつもフラフラしているので皆それが普通すぎて気にしていないのだとか。


「そうか……」


「あ、でも裸の男の居そうな所なら心当たりありますよ」


「何?! 本当か?!」


「ええ。俺も今日暑いから行こうと思ってたんで、良かったら案内しますよ」


「? 暑いから行くっていうのがちょっと良くわからんが……とにかく頼む、えーと」


「あ、自分セージって言います。ホストのセージって覚えてください☆」


 そう言ってセージはウインクしながら名刺を渡して来た。名刺には『今宵、素敵な一夜をアナタと……セージ』と書かれているし、でっかく『愛』って書かれてるしセージの姿絵も入っていて何か嫌な気持ちになった……


 とにかく、遊び人でホストのセージに連れられ……俺は裸な男の所在に心当たりがありそうな場所へと歩き出した。



 ……すみません、そこって大丈夫な場所ですかね?

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