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悪役令嬢はやっぱりぶつかり合う



 公爵家子息、皇室騎士団長ジェド・クランバルは悪役令嬢呼び寄せ体質である。


 ここ最近は、知らず知らずのうちに巻き込まれて、知らず知らずのうちに解決しているという現象すら起こっていて、結果的に不可解だけが俺の所に残っている事すらある。

 『俺、何かしました?』という文句は何かしているのを自覚して言うような確信犯的な言葉だと思っていたが……原因も何で解決したのかも分からない事件は、最早ただのミステリーだろう。奇妙な物語である。

 先日も急に猫になるという謎の事件に巻き込まれたのだが、それについてはノエルたんの愛猫、魔獣のソラによる悪戯だったらしい。

 ノエルたんから謝罪を受けたのだが、正直ノエルたんは目に入れても痛くないくらい可愛いので何をされても怒る事は全く無いから謝る必要は微塵も無いのに。

 お土産を受け取って喜ぶノエルたん可愛かったなぁ……マジ天使。

 推しが理想すぎて結婚したいくらいだと尊ぶ意味で『○○は俺の嫁』という言葉があるらしいが、実際に「ノエルたんは俺の嫁!」と叫ぶとヤバいが過ぎるので言わない。……が、心の中では完全に俺の嫁である。推しが尊い。

 それはそれとして、何が不可解ってあの後、皇城内のメイドからヒソヒソされるようになった事だ。それについては全く身に覚えがない。

 本当に何かやってしまったのだろうか……


 ああ、いかんいかん。そろそろ目の前の現実に戻らなくては。あまりにも不毛な時間が過ぎていくので瞑想したまま戻れなくなる所だった……


「貴方もしつこい女ね! いい加減、諦めなさいって言ってるのよ! この私、乙女ゲーム『運命の鐘が鳴る時聖女は恋をする』の中で断罪される悪役令嬢サーシャの運命を変える為に、ジェド様には私の夫となって頂くのよ!」


「はぁ??? そっちこそしつこいのよ!! ジェド様は私、ミレイラの運命を変える為に結婚して頂かなくてはいけなくってよ? あんな悪役令嬢として断罪される未来はこりごりよ!!! せっかく時間が巻き戻ったんだから、今度こそ失敗は出来ないの!!」



 この、完全なコピペを覚えているだろうか?

 迷惑対決悪役令嬢が、またしてもやって来たのである。



 ―――――――――――――――――――



 公爵家子息、漆黒の騎士団長ジェド・クランバルは、皇城内のメイドにヒソヒソされるのに耐えきれず、酒場で一人で呑んでいたはずだったのだが……

 そこへデジャヴのように2人同時に現れた対決悪役令嬢ことサーシャとミレイラに連れられ、何故か今は山の中に居た。


 理由は一切話さず、出会い頭に「山に行く」と言われ、両脇を挟んで連れて行かれた。何これ? ついに俺、山にでも埋められるの?

 山に来るやいなや、令嬢2人は対決の準備をし始めた。良かった、埋められる訳ではないようだ。

 しかし、山に来る意味あるの? 何をする気なの。


「いや〜今度は何対決なんでしょうなぁ」


「この間はミレイラ嬢に賭けてたんだがなぁ。あまりにいつも引き分けだから、もう賭けを取り仕切る側も「決着着く」「決着着かない」っていう項目を作っていたぞ?」


「だが、決着着くにプラスして、どっちが勝つか当てられるヤツがいたら凄いよな! 俺はギャンブラーだからそこを狙うぜ!!」


 何故か、酒場客もついて来た。ついでに商売が繁盛するからと酒場の店員も売り物を持ってついて来た。最早ビアガーデン、お花見である。ああ、お花きれい。


「――で、結局何をするんだ?」


 酒場の店主がツマミを持ちながら聞いて来たが、俺もこんな大自然の中に悪役令嬢2人がなんの用があるのか気になってはいた。


「それはもちろん……修行対決ですわ!!」


 ……修行? 修行って対決するもんだっけ……?


「ジェド様と結婚するのに、どちらがよりふさわしいか花嫁修行対決をして決めますの!! 修行と言えば山ですわよね?」


 山で花嫁修行をするというのは初耳だが、昨今の令嬢はそんな事もさせられるのかー。大変だな。


「なぁ騎士団長殿、俺は1周回ってあの悪役令嬢さん達の発想力に感心してるんだが」


「そうだよなぁ、案外結婚したら毎日楽しいんじゃないか?」


 ……そういう発想力や楽しさは嫁には求めてないので勘弁して頂きたい。


 悪役令嬢達の従者さん達はもうお嬢様達の奇行に慣れたのか、色々な物資を準備して遠い目をしながら待機していた。

 担架が二つ置いてあるが、花嫁修行に担架必要……?


「まず最初の修行対決は!! 滝行よ!!」


「どちらか音をあげた方が負けって事ね。私、人魚として水泳界では名が知れてましたのよ?」


「あーら、私も凄い肩凝りで家には打たせ湯がありますので、滝行なんて朝飯前ですわ!!」


 最早どこから突っ込んでいいか分からないが、まず第一に滝と花嫁に何の関係があるのか知りたい。


「まぁ、奥さんになったら洗濯したり食器洗ったり、水扱う所任されるって言うしなぁ。あれかね? 貴族女性は水の神様に許されるようなこんな辛い修行をするのかねぇ」


 観客達は悪役令嬢の話題を酒のツマミに盛り上がっていた。うん、いい酔っぱらいの暇つぶしである。

 従者達が首を振っているので違うと思いますがね。


「……」

「……」


 この山にある滝は物凄く立派な滝だった。こんな凄い滝、熊と犬が闘うようなバトル小説でしか見た事ない。熊だって流されそうである。本当にやるの?


「ふっ……サーシャさん、貴方、怖気付いてるんじゃありません事?」


「あーら、ミレイラさん? 私のどこが怖気付いているように見えまして?」


 2人とも足がガクガクしていた。完全に怖気付いてますがな。


「「いざ!!」」


 意を決したのか、同時に滝壺の方に飛び込んだが、滝には一向に姿を表さない。

 ……うん、こりゃ溺れましたな。


「令嬢様方の勇気には、本当感服致しますなぁ」


 酒を飲んでいた水の魔法士がスルメを片手に魔法を唱えると滝壺の一部に穴が空き、倒れている悪役令嬢2人が見えた。

 従者が無言でタオルを持って行く。2人は口から水を吐き出していた。


「引き分けね」

「引き分けですわね」


 勝負が始まってすらいないが、滝行対決は引き分けに終わった。


「次はお花対決ですわ!!」


「そうね! 山ですものね!!」


 お花対決、山でする必要ある? と思ったが、どうやら俺の思っている生花対決とは違うらしい。


「どちらがより美しい花を見繕うかで競いますのよ!!」


「そうですわ! 絶対に負けませんわ! この山には伝説級の美しい花があると聞いておりますのよ!!」


 そう口々に言うと、悪役令嬢達は草木の奥へと消えて行った。



「まぁ、あんたらも飲みなされ。なーに、何かあっても僧侶や魔法使いのヤツらもいるし、傭兵や騎士様だっているからな」


 そう言いながら悪役令嬢ズの従者さん達にお酒やツマミを進める酔っぱらいの皆さん。

 本当、この街の酒場は帝国の平和具合を象徴してるよなぁ。と、つくづく感心した。


「実の所……我々は心配しておりました。ミレイラお嬢様は、ある日を境に人が変わってしまったのです。未来を見たと言っておりました。悪役となり、処刑されるのだと。以来、以前のように冷たく当たったり、とんでもない我儘は言わなくなりました。……ですが、どこか怯えたり人を信じられなくなったような、そんな性格に変わってしまいました。未来はどうであれ、そんな風に生きるという事はお嬢様にとって本当に良い事なのかと……心配だったのです。ああ、もちろん処刑だなんて無い方が良いですが……」


 ミレイラ嬢の執事さんが話すのを聞いてサーシャ嬢の召使いも話出す。


「うちのお嬢様も一緒です。そんな所まで似てしまうとは……ですが、ここ最近はミレイラ様には絶対に負けられないと日々闘志を燃やしておりました。お嬢様が自身の不幸な未来に囚われるよりも打ちこめる事に出会えて……こんな事を言っていいのかは分かりませんが、我々は嬉しいのです」


 悪役令嬢ズは、それまで不幸な未来を決めつけガムシャラに生き急いでいたらしい。だが、何だかよく分からない対決をしている時の2人は、まるで我侭な子供の頃に戻ったように楽しそうだと従者達は言う。

 こんなに想われていて、本当にそんな断罪だの処刑だのの未来が来るのだろうか……?

 これまでの2人の努力も相まって、すでに未来は変わっているような気がした。


 酒も入り皆でほっこりしながら盛り上がっていると、遠くで悲鳴が聞こえた。

 熊にでも襲われたのかと振り向くと、二足歩行の巨大な食虫植物がこちらに歩いてきていた。

 その食虫植物の口元……ミレイラが食われかけていて、サーシャが必死で止めている。


「た、た、た、助けてーーー!」


 …………


「……何スかね、あれ」


「花っちゃー花だな……」


「野生の魔獣とかじゃないですかねー……いや、植物だから魔樹?」


「何にしても、捕まえて魔王領に送らんといけないヤツですな……」


 酔っぱらい観客と従者さん達と俺は静かにコップを置いて武器に持ち替えた。



 服の一部が溶けた位で奇跡的に無傷だった悪役令嬢ズは、仲良く気絶しながら担架で運ばれた。


 今回も賭けの結果は引き分けで終わった……

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