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皇室騎士、魔法士採用試験(4)精霊国の印

 


 私は六条 香苗、高校一年生!


 学校から帰る途中の横断歩道で信号待ちをしていた時に飛び出した猫を助けようと手を伸ばした先にトラックが突っ込んできて……私の人生もー終わり!! ――って思ったんだけど……なんと目を覚ますとそこは妖精飛び交う異世界だったの。


 訳も分からず辺りを彷徨い、やっと見つけた湖を覗いた時……そこで映っていた自分の姿は、まさかの愛読書「棘の園の妖精姫~美しい瞳に吸い込まれて……」の主人公――ではなく、妖精のように美しい主人公の姫を苛める悪役令嬢カガーベラじゃないの!!!

 丁度昨日読了したばかりなのだけど、ガーベラは最後に断罪されて棘に刺さりながら花のように死んで行ったわ……その時は主人公に感情移入しすぎて「ざまぁ」とか思っていたけど……自分がガーベラになってしまったからには、ざまぁどころの話ではない……トラックに引かれて転生先でも棘に刺さって死ぬなんてそんなの酷過ぎる!


 そうだ……こういう小説、ネットでめっちゃ見たのよね……悪役令嬢は大体何らかのパワーで断罪回避に動いていたんだから……

 そうよ、どうせなら生きて生きて生き抜いて……せっかく異世界に来たんだから、素敵な騎士様と恋に落ちてやるんだから!

 あ、どうせなら黒髪黒い瞳の超絶イケメンがいい……あと、金持ち希望。やっぱ異世界だろうが現実世界だろうが、最後は金なんだわ……


 と、言うわけで心機一転頑張る決意をした訳だけど……ここ、一体何処なのだろう。


 辺りを見回すと不思議な景色が広がっていて驚いた。

 初夏のように緑が深い森が続くかと思いきや、先は冬を通り越した氷の木々。あっちの木は燃えているし、こっちの空は雨がざんざん降り……


「……コレってもしかして、精霊国……かな?」


 本の中に精霊が集まる精霊国の描写があった。妖精姫と呼ばれる主人公は精霊国に集まる数々の精霊達に愛され、加護を受けていたから。精霊なのか妖精なのかハッキリせえ! と思ったからよく覚えている。


 森に不釣り合いのドレスを引き摺りながら、精霊の国を歩いた。精霊の国というと神秘的で美しいイメージだったのだが、先でお話した通りとにかく自然のパワーがとっ散らかっている。確かに精霊が共存している国だろうけど……流石に森が燃えたり嵐が起きたり、異世界民と思しき方々が阿鼻叫喚で逃げ惑っているのは……何コレ。


「いくら悪役令嬢だからって、こんなハードモードで始まるのおかしくない……? というか断罪には早いでしょ。まだ何もしてないわよ私」


 小説の中でガーベラは精霊を探しに来たヒーローを追いかけて精霊国へと行き、そこで主人公を見つける事になる。

 ヒーローは精霊よりも美しい主人公に一目惚れをして国に連れ帰るって寸法なんだけど……何か精霊国やたら荒れてるし、やけに阿鼻叫喚しまくる人も多いのでヒーローや主人公が何処にいるかすら見当がつかない。確か美しい湖とか言っていたけど、美しい所……何処?


「あのー……ここって精霊国で、合ってます……よね?」


 阿鼻叫喚の人々の中、落ち着いて話が出来そうな人を見つけたので思い切って話しかけてみた。


「ん? ああ。そうだな」


 私は振り返った男性を見て息を飲んだ。

 なんて素敵な人なの……闇のような黒髪に黒い瞳の超超イケメン……しかも何か肩にあの謎のヒラヒラも付いているし、この方絶対騎士よね???

 え、ちょっと待って、タイプオブタイプ。一目惚れってマジであるのね……しんどい。


「所で君は、こんな所で何をしているんだ? ……ええと、まさかとは思うんだけど、悪役の令嬢的なヤツとか言わない……よな?」


 私は何故騎士様がそれを知っているのかと、驚きすぎて口を押さえたまま言葉を失った。この反応を肯定と取った騎士様は何故かため息を吐く。


「はぁ……こんな所にも野良悪役令嬢が……悪いんだけど、今君の相手をしている暇は無いというか、君もこんな所に居ては危ないから早く帰った方がいい」


「え……危ないってどういう――」


 私が疑問に首を傾げていると、騎士様も首を傾げて森を指した。


「いや、見れば分かるだろう。今の精霊国はとある試験の真っ最中でな……精霊達が全力で邪魔をしているんだよ」


 騎士様の示す森は轟々と燃えたり凍ったり雷が沢山落ちたり腐ったり地獄のようだった。


「え、あ……コレってデフォルトじゃないんですね」


「どう考えてもデフォルトじゃなくない? 神秘的な精霊国ですが……?」


 異世界ならば何かしらそういう事もあるのかも、と普通に受け入れていたのだけど……全然異常だったみたい。ごめんなさいね、異世界素人なもので。


「あ、所で君、この辺りで真っ白な服の奴か太陽みたいな人見なかった?」


「え……いえ。お連れの方ですか?」


「ああ、この精霊の大騒ぎではぐれてしまってな……」


 騎士様が困ったように眉を寄せる……ああ、困り顔も素敵すぎる……

 イケメンを見つめていると、近くの茂みがガサガサと鳴り人が現れた。


「……ジェド……君はどうして勝手に居なくなるんだね……」


 茂みから現れたのは騎士様が話していた人、真っ白な服に身を包んだ銀髪の……新たな超絶イケメンであった。ギョワー!!! これまたタイプ!!

 え、ちょっと待って、イケメン1人だけでもしんどいのにもう1人イケメンてぇ!! 破壊力ヤバくない……???


「勝手に居なくなったつもりは無いんだけどさー、色々避けているうちにいつの間にかさぁ……」


「……はぁ、まぁ良い。此処の試練が分かったぞ」


「え? マジで?? 流石真面目に試験受けているだけあるな!」


「……お前も真面目に受けているのでは……?」


 2人並ぶとイケメン力がケンカするどころか耽美な世界が広がる。あまりの絵面の良さに語彙量を失いボーっと2人を見つめていると、先程白騎士様が出てきた茂みがまたガサガサと揺れて新たな人が現れた。


「ジェド、ブレイド! 誰が印を持っているか分かったよ。どうやら太陽の精霊姫みたいだよ」


 現れたのは太陽を思わせる様な髪色に瞳の――とんでもねえイケメンオゴォォォ!!!!!

 余りの美しさに目がヤラれそうになった。ヤバい……このイケメン、破壊力パねえ。


「太陽の精霊姫……サニーか。なら簡単じゃないか」


「ああ……そうだね」


 そう言ってイケメン2人は徐ろに上半身に着ているものを脱ぎ始めた。――え????? ど、え? 何??? 何が起きた???


「……どういう事だ?」


「あー、ブレイドは知らないよな。太陽と風の精霊姫はイケてる腹筋とか胸板が好きなんだよ。だから騎士団のみんなで毎年夏には泳ぎに出かけているんだよな」


「……私はあまり人前で脱ぐのは憚れるというかあまり好きじゃないんだが……」


「とか言って陛下バッキバキじゃないですか。ブレイドも脱ぐなら手伝うぞ?」


「……触るな。1人で出来るわ」


 もう1人のイケメンも上着を脱ぎ、上半身裸の3人は湖に飛び込んだ。湖の水で濡れてズボンもビチャビチャのスケスケでウオォォ!!! ってなっていたら、同じように精霊の女性達もウオォォ!! ってなっていて、国中の荒れ狂う騒ぎはピタリと収まった。

 騎士様達が無言で紙を出すと、真っ赤な髪をした太陽の精霊らしき女性がこくこくと頷いて紙に印を押した。


 案外精霊達とは気が合いそう……いや、イケメンが好きというのは万国異世界共通なのだ……



 そんなこんなで精霊国での騎士様達か去っていった後を見送っていた頃、ヒーローと主人公の妖精姫を見つけた。

 2人とも所々焦げているし、何なら火に炙られたのか髪もちょっとチリチリしていた。荒れ狂う精霊国を彷徨っていたのだろうか……


「ガーベラ!! 君は俺を追いかけてこんな所にまで!! だが、君とはもう婚約し続ける事は出来ない。何故なら俺は真実の愛を見つけてしまったから――」


 そう言うヒーローの顔をまじまじと見る。


 私は先程の騎士様達を思い出して盛大にため息を吐いた。


「……な、何だ?」


「……何処からその自信が来る訳ですかね……こんな、顔もパッとしないヒョロガリもやしの浮気者、こちらから願い下げなんですが」


「なっ!」


 私は悟った。自身の運命に左右される事なく……そう、好きなだけイケメンを愛でる事が正解でありジャスティスだと。

 何が悲しくてこんなパッとしない男や主人公に惑わせなくてはいかんのだ……私は、小説とは関係ない! ただイケメンが好きなだけなのだ。


 自身の真実を知り、拳を握りしめていると周りから拍手が起きていた。

 精霊達が私の心を理解して拍手して頷いているのだ。

 私も頷いた。


 言葉なんて要らない……欲しいのはイケメンの肌。胸板、腹筋。



 それから私はガーベラの家に戻り資金を貯め結婚せずとも生きていける道を探した。毎年夏にはイケメンの裸を見る為に精霊国を訪れるのだ……

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