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閑話・魔法士団長ストーンは騎士になりたかったけど……★


挿絵(By みてみん) 


 ――皇室魔法士団、団長ストーン。


 騎士団の話は誰しもがよく耳にする皇城……その裏で地味に働いているのが皇室魔法士達であり、その魔法士団でも実力と人望で団長に挙げられたのがストーンである。


 彼は実は騎士団の副団長ロックの親戚に当たり、剣術に長けた家系で唯一魔力の才能を発現した。

 当初彼は魔法学園を卒業後、魔法使い達の憧れでもある魔塔に入り魔法の研究に没頭するはずだったのだが……当時の彼よりも随分と若い魔法使いが新たに塔主となった途端に魔塔全体が変な方向へと進み始めたので魔塔に入って直ぐに辞めざるを得なかった。

 魔法への真剣な向き合い方、研究技術、利用方法……新たな塔主は先代の意思を受け継ぎ魔法の発展へと貢献を重ねたのだが、重ねた分だけ違う何かも挟まれて重なっていった。

 魔塔の魔法使い達は魔法を愛するあまりとち狂い、魔法を受けたいとハァハァする者……魔法と結婚すると魔法を擬人化して考え始める者……魔法食とか言ってゲテモノ食いのように魔法で出来た物を食べ始める者……


 そこまで一通り見てストーンは恐ろしくなり魔塔主に退職届けを出した。

 生粋の魔法使いの家系では無く隔世遺伝で発現した彼は、本当は騎士になりたかった。

 魔法の才能しか発現せぬ事に酷く落ち込んだ彼だったが、落ち込んでいても仕方が無いと魔法使いとしてのエリートの道を歩もうとしたのだが……魔法使いのエリートはとんだ変態揃いだった。

 自身はそこまで魔法に対して愛をもって真剣に接する事は出来ないと魔塔主に退職届と共に告げると――


「魔法を愛するだけが発展への足がかりじゃないからねぇ……君みたいな人が辞めるのは残念だよ。私は元々魔力を持っていなかったから魔法への憧れが強くてこんな風に魔法を愛してしまったし、そうじゃなくとも大体の魔法使いが魔法への憧れを持って魔法使いになるんじゃないかな。けれど魔法への憧れがある訳でも無いのにそこまで頑張れた君は君で、ある意味凄いと思っていたんだけどねぇ。愛も無いのにそこまでになるのは並大抵で出来る事ではないのだよ? それは最早私にも理解の追いつかない域というか、ちょっとだいぶ変だよね」


「変……」


 魔法変態に変わり者扱いされてストーンはショックを隠しきれなかった。自身は騎士への憧れが諦めきれず、誰よりも強い想いを魔法の勉強で誤魔化していただけなのに。


 親戚のロックが皇室騎士団の試験に受かり、皇帝ルーカスの騎士となった知らせを受けたときは憤慨した。憤慨しすぎて夜中に一人魔法を夜空に向かってぶっ放していたのだが、どこからか魔法の匂いを嗅ぎつけた魔法使い達が「空に無駄に放つ位なら自分にぶっ放してくれ」とワラワラ湧いてきた。

 断ってもゾンビのように湧いてくる魔法使い達の中には魔塔主も混ざっていた。

 ストーンは魔法サドになった覚えは無く、数多の魔法ゴキブリ達から逃げ出すと「騎士は逃げないぞ!」「やめろバカ、ストーンは騎士になれなかったんだよ」「何か親戚が皇室騎士団受かって荒れているらしいぞ」「うひょー! だからあんなに魔法使っているのか! いいぞもっとやれ!」と散々な事を言われ一晩中追い掛け回された。ストーンが辞表を出すきっかけになったのはそれもあったのだ。

 変な奴らの巣窟から抜け出そうと、騎士でなくとも心は騎士なのだと思ってはいたのだが……巣窟側からするとそこまで好きでもないのになまじの魔法使いよりも研究熱心なストーンは立派な変わり者だった。


「それで、辞めてから何処に行くんだい?」


「まぁ……暫くは実家に戻るつもりではおりましたが……その、諦めきれぬ夢をもう一度追いかけてみようかと思いまして」


「夢って……騎士になる事かい?」


「……はい」


 ストーンは手の中に魔法で出来た剣を出した。


「ほほう?」


 若き魔塔主はニヤニヤと笑った。

 魔法剣――と言う物には3つ種類があった。

 魔石の埋め込まれた魔術具の剣で魔法を操る魔法剣。魔法自体を剣に定着させる魔法剣技……そしてもう一つが魔法自体で作った剣である。

 だが、最後の魔法剣は実は殆ど使う人間は居ない。単純に必要が無いからというのも一つある。何せ魔法使いでありながら剣術に長けていなければ意味が無いからだ。

 魔法で出来た剣を維持するのには相当な魔力が必要となる。魔塔主にも作り出せない事は無いが実際に使って戦った事は無い。それを使う位なら普通に魔法を展開した方が速いからだ。

 魔力で作り出した普通の剣……ではなく魔術具の剣や魔法剣技のようにちゃんと魔法の威力もある。余程騎士になりたい魔法使いでなければ持つことは無いだろう……つまり、ストーン位しか使う人はいないのだ。


「そう言えば帝国で先日行われた皇室騎士採用試験では残った騎士が殆ど居なかったらしいから、再度募集をかけていたみたいだねぇ。もしかしてそれの事かい?」


 魔塔主はストーンの親戚がその殆ど居ない騎士の中に入っている事を知っているのか、揶揄うように笑った。


「魔法使いは騎士にはなれないと思うけどねぇ。戻ってきたかったらいつでも――」


「絶対に、二度と、変態の巣窟には戻りません!!!!」


 魔塔主の言葉に憤慨したストーンは怒りながら移動魔法の魔法陣を展開して消えた。残された魔塔主は頬に手を当てて笑った。


「普通の騎士はそうやって移動魔法をポンポン使えないんだよ。ふふ……変な子」



 ★★★



「君……何かロックと雰囲気が似てるね」


 騎士採用試験当日。皇帝ルーカスを前にストーンは冷や汗を流していた。

 試験は聞いていた通り皇帝陛下直々に手合わせをする。同じように試験を受けていた騎士候補は既に何人かが開始と共に床に転がっていた。

 皇帝ルーカスが帝国最強であり、たった1人で魔王を倒し諸国を黙らせたというのは噂に尾ひれが付いたものでは無い事をストーンは瞬時に悟った。目の前に立つと剣士でなくともその強さが肌をひりつかせるのが分かる。

 魔塔主から聞いていた話では皇帝は並の魔法使いよりも魔法を使う事が出来るとか。本当は素手で戦うのが一番強いのだが、手を抜く為に敢えて剣を使っているという話さえ耳に挟んだりもした。それでもストーンの知っている剣士よりも遥かに剣が早く鋭かった。親戚のロックだってこんなにも鬼のような剣を繰り出す事はないだろうと汗を拭う。


「まぁ、でも剣の腕はどうかな?」


 皇帝の剣が見る事もままならぬうちに近くに迫っていた。このままでは先に地面に転がった者達と同じように何もせずに終わってしまうと思ったストーンは、使うのを躊躇っていた魔法を使い姿を消した。


「ん?」


 一瞬で消えるストーンの後には魔法陣しか残っていなかった。ルーカスの動体視力でも追いつかぬ場所……目を伏せて気配を辿ると空間の切れ目から稲妻の走る剣が振り下ろされた。


「痛った……ん? 魔法剣……」


 ストーンの剣を受けた木の剣からはビリビリと痺れるような電流がルーカスに流れた。剣の端も焦げている。


 見えぬ相手は魔法陣を空間に出現させ、そこから稲妻のように魔法剣を落としてルーカスを追いかける。

 だが、その降り注ぐ稲妻を全て避けていたルーカスだったが、埒が明かないと踏んで足を止め深呼吸して徐ろに剣を掴んだ。


「?!」


 ルーカスの身体中に雷が走り、服のあちこちが焼けて切れる。


「……君、騎士じゃなくて魔法使いだよね?」


「……」


 剣を掴まれたストーンは黙って剣を消した。


「えっと……騎士の募集なんだけど……」


「私は、それでも騎士になりたかったから……」


「うーん……」


 ルーカスは頭を掻いてストーンに向き直った。


「まぁ、えっと……良いか。私を倒せたらね」


「倒せたら……」


 ストーンは迷った。正直皇帝にストーンの魔法剣は効かないのだ。確実に倒す事が出来るとすれば剣では無く魔法だった。

 だが、それは騎士なのか……?

 それでも、自分が実際本気で挑まなくてはいけない相手を前にした時……命をかけなければならない時……拘りを捨てなくてはいけないと悟る。

 新たに作りかけた魔法剣を捨て、魔法陣を描いた。ストーンの魔法は魔塔の魔法使いが喜ぶ程の威力だ。


「『雷炎』!!!」


 ストーンが叫んだ瞬間、ルーカスの居た場所に赤く燃え盛る炎が雷の様にバチンと爆ぜた。最初は黙って立っていたルーカスだったが、魔法陣が完成する直前で魔法陣の外に移動した。


「……今、陛下受ける気だったけど避けたよな」


「避けたな……」


 見守っていた騎士達がザワザワとする中、先日騎士になったばかりのロックが目を伏せた。


「……何で騎士の家系であんなヤツが生まれたのか全然分からないのだけど、ストーンは魔法の才能があり過ぎて魔法学園も主席で卒業したような男だからな……流石の陛下も受け切れないんじゃないかな」


 騎士達が注目する中、ルーカスは目を伏せ微笑んだ。もう一度魔法陣を描こうとしたストーンだったが、魔法式を書く腕を上げた横腹にルーカスの重く硬い回し蹴りが入り魔法陣は完成する事無く消えて行った。


「……」

「……」

「……陛下?」


「……当たらなければどうということは無い」


「まぁ……そうなんですがね」


 脇腹を押さえ運ばれて行くストーンを笑顔で見送る皇帝ルーカス。その後ろで騎士達は、真面目に戦おうとしていた哀れな魔法使いに手を合わせた。



 ★★★



「……」


「気が付いた?」


 ストーンが目を覚ますと見慣れぬ天上が写り、後ろから皇帝の声が聞こえた。

 そこは皇帝の執務室であり、ストーンはソファーに寝かされていた。


「私は……」


 ストーンは自分が皇帝に負けた事を悟り顔を曇らせた。騎士としての試験を受けたのにも関わらず、プライドを剣と一緒に捨ててまで挑んだのに……その魔法でさえ当たらずして試験は終わってしまったのだ。


「あのさぁ、私が剣を使わずに脇腹に蹴りを入れた人間って何人居たか知ってる?」


「は……?」


 呆気に取られるストーンにルーカスはニコリと微笑んだ。


「良いよ。君も私に……というか国の為になってくれるかい?」


「も、勿論です! 私は――」


「皇室魔法士に」


「私は騎s――え?」


「要らないと思っていたんだけどね、魔法使い。やっぱあの威力見ちゃうとさー、ちょっと危機感というか。必要だよね皇室魔法士。しかもアレでしょ、最近魔塔主が変わってから魔術具の活用法が変わって便利になったとか……だから魔法士採用枠、作る予定なんだ。君、魔法士団長ね」


「わ……私は……」


「後、大変申し訳ないのだけど、魔法の耐久度を高める為に訓練に付き合って貰っていい?」


「……」


 結局、魔法使いのストーンは騎士にもなれず、しかも魔塔の魔ゾ達が嫌で魔塔を辞めてきたのに皇帝の対魔法訓練に付き合わされて魔法を浴びせる毎日を送る羽目になってしまったのであった。



 ★★★



「そういや、ストーン団長って騎士になりたくて試験受けたって聞いたんスけど本当ですか?」


 三つ子の1人が魔法士団長のストーンの元に書類を届けに来た。ストーンはその時の事を思い出して渋い顔をする。


「……ああ。まぁな……家が騎士を排出する家系でな。あの時までは騎士に憧れていたんだ」


「今でも騎士になりたいんスか?」


「いや……実際、騎士の仕事を目の当たりにするとな。騎士って何だっけってなった……」


 最初は嫌がっていた魔法士団だったが、ルーカスの采配かストーンの魔法士としての能力をフル稼働する程忙しく、それはストーンが思っていたよりもつまらない仕事ではなかった。少なくとも変態の巣窟である魔塔よりは良かったのだ。

 魔法剣や魔法剣技を習得したい者達はストーンの元へ集まり、騎士達からも一目置かれていた。


 魔法士としての立場に慣れてきた反面、憧れていた騎士が隣の青い芝生というか、憧れとは程遠すぎて酷く落ち込み……ストーンはすっかり騎士になる気も失せてしまっていた。


「ストーン団長は騎士団長と違って真面目に仕事してますからねー。いや、団長もあれで真面目っちゃー真面目なんスけど……」


 ストーンは嫌なことを思い出した。

 それまで親戚のロックに対して騎士になった嫉妬が湧いていたのだが、それよりも騎士団長のジェドが思ってた騎士像とあまりにもかけ離れ過ぎてあまり好きでは無かった。

 最初に会った時は雰囲気が漆黒でカッコいいと思っていたのだが、次第に「あれ? 何かおかしいぞ……」と思い始め、数年経つ頃には根が漆黒のパッパラパーである事を悟って眉間を押さえた。

 ストーンが「騎士とは……?」と思ったのもほぼジェドのせいなのだ。


「あ、所で今度の騎士、魔法士採用試験なんスけど団長達も出られるんスね」


「……は?」


「え、これ」


 三つ子の持って来た書類には、騎士と魔法士の試験を受けに来る者達の名前に混じりストーンとジェドの名前……それに何故かルーカスの名前まであり、日にちと概要が書かれていた。


「……何で私まで……?」



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