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悪役令嬢は知らず知らずのうちに(前編)



 ノエル・フォルティスは悪役令嬢である。


 が、今はその運命からは外れ、魔獣の子猫に愛を注ぐ心優しい少女であった。


「騎士様、お土産を買って来てくれるって言っていたけど、砂漠の国はすごく遠いらしいの……ソラ、いつお帰りになると思う?」


「ニャー」


「そうよね。ソラにも分からないわよね……」


 ノエルの話も意に返さず、お腹を見せて伸びるソラ。猫は気まぐれで自由な所がかわいいのだ。


「騎士様はいつもお忙しそう。陛下みたいにノエルとお茶をご一緒してくれる時間も全然ないの」


 実際、仕事をしているのはルーカスの方だが、ジェドはいつも厄介事に巻き込まれてタイミングも悪く、ノエルが憧れの騎士様とゆっくりお話をする事は中々叶わなかった。


「騎士様が構ってくれないから不満とか、困らせようとか子供みたいな事を言ってる訳じゃないのよ? 聡明なソラには分かるわね?」


「にゃ」


「ノエルは騎士様が無理していないか心配なの。……騎士様もソラみたいな猫のように、自由だったら良かったのになぁ」


 そう言いながらお腹を撫でた時、ソラの魔石が一瞬煌めいたように見えた。



 執務室の前に散らばる変な土産物と黒い服……


「……大丈夫か?」


 またしても偶然通りかかってしまった副団長のロックが服の中に動く黒い毛玉に手を伸ばした。


 ジェドがロックに向かって伸ばした自身の手は、可愛らしい猫の手だった。



 ―――――――――――――――――――



「君って、次から次へとトラブルに巻き込まれてしまうよね。数日ぶりに顔を見られるかと思っていたのだけど、とても残念だよ」


 公爵家子息、皇室騎士団長ジェド・クランバルは猫の姿になっていた。副団長のロックに抱えられながら陛下への謁見を許されている。


 ルーカス陛下は、貝殻で作られた何とも味のあるんだか無いんだかわからないような人形と俺を交互に見ながら微笑んだ。


「全然残念そうな顔ではないのですが?」


「残念なのは本当だよ。だけど、君がその姿の方が良いならば私は一向に構わないよ。君は大事な友人だからね。給料は魚と肉どちらで欲しい?」


 陛下は時折酷い。俺は深刻なのに全然深刻に受け止めてくれない……

砂漠も大変だったし、そこに行くまでも大変だった。やっと帰ったと思ったらこの仕打ち……何だか悲しくなって両手の肉球で目を覆った。


「ごめんね。悪かったよ……君がそんなに悩んでるとは知らず、揶揄うような事を言って済まないね。ただ、ジェド、今の君は猫なんだから、その……行動には気をつけた方がいいよ?」


 目を覆う成人男子はかわいくないが、両手のクリームパンで目を覆う猫は圧倒的にかわいいのだ。


「……長らく団長が不在で、正直騎士団も困っている。俺も手伝うから原因を探ろう」


「ロック。お前はいいヤツだな……ゴロゴロゴロ」


「ジェド……あんまりロックに甘えない方が君の為だと思う」


 え、なにが?



★★★



 副団長のロックは深いため息をついた。


 最近、団長の不幸体質(?)の煽りが騎士団にまで来ていて巻き込まれる事が増えている……というのは、実はそんなに問題ではなかった。何故なら騎士団は一蓮托生、連帯責任。誰かがミスをすれば全員で動くのは昔からであり、ジェドと1番団員としての付き合いが長いロックには日常茶飯事で慣れていたのだ。

 悩みはそれではなく、ロックは先日から不安に思う事があり、早く何とかしなければいけない別の問題があった。



 ――そしてもう1人、執務室のドアの外、中の話を聞いて青ざめる少女がいた。


 ノエルはジェドが帰って来たという知らせを聞き、お土産話が待ちきれずに会いに来てしまった。

 ジェドは真っ直ぐ皇帝の執務室に向かったと聞いたのだが、ノエルならば皇帝陛下にも執務室への気軽な出入りを許されている。直接執務室に行けばジェドも喜ぶと執事に言われててうきうきとしながら部屋へと向かった。

 執務室に着いた時、中から聞こえる話し声にノエルはノックを躊躇った。立ち聞きするのははしたない……と離れようとした瞬間に聞こえて来たのは――


「ジェド、今の君は猫なんだから」


 という皇帝の声だった。


 ノエルは驚きのあまりその場を立ち去ってしまい、皇城の外の庭園で待つソラの元へと走った。

 

(もしかしたら違う可能性だってある……でも……もし、あの時、自分がそんな風に願ってしまったせいならば……大変な事をしでかしてしまったかもしれない)


 庭園でノエルを待っていたかわいい猫のソラ。

 あどけなくノエルを見つめるソラの額の魔石が仄かに黒く光ったように見えた。

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