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スノーマンの後始末(後編)

 


「信じて頂けないかもしれませんが……私はここでは無い世界に居ました。その世界で読んだ本の登場人物とこの身体の持ち主は似てる……というよりも最早そのものとしか考えられませんでした」


「ははぁ、なるほど。もしやその登場人物の方は本の中ではヒロインに陰湿な虐めをするか陥れるかする様な悪い女性で、婚約者にも見限られて最後には破滅の未来を控えているとか言いませんかね?」


「な、何で分かったのですか??! もしや貴方も転生者??」


 俺の言葉に白骨令嬢(?)は口に手を当て慄いた。何でかって言われると、そういう人に出逢い過ぎているからとしか説明出来ませんがね……

 しかし白骨だから令嬢なのか性別がなんなのか分からないから油断しておりました……まさか骨にまで悪役令嬢が居るとは。いや、骨の悪役令嬢なのではなくて悪役令嬢が骨になっただけか。


「いや、俺は全然普通にこっちの世界の人なのだが……それより、つまり君はスノーマンの貴族令嬢という事だね。その本でも骨になってしまっていたのか?」


「いえ……この身体の持ち主である悪役令嬢ロザリーが断罪処刑されるのはもっと後のはずなのです。憑依した際にロザリーの記憶が流れ込んできましたが、今はまだ我儘や贅沢の限りを尽くしている時期のはず……それが、憑依したら既に白骨だったのです。酷すぎる……普通、こういう人に憑依とかする場合ってやり直せる所から始まりますよね?? 贅沢パートも無ければ断罪回避パートも無く既に白骨からスタートって、そんな事あります?? 何ですかねこれ????」


 白骨令嬢が話している途中から状況の理不尽さに切れ始めた。確かに可哀想過ぎる……

 恐らくナーガにスノーマンがこんな状態にされたのは本来の話からズレているのだろう。

 結果、白骨令嬢に憑依した転生者はやり直せるはずだった運命が無くなってしまったらしい……哀れ、薄幸の白骨である。


「なぁブレイド、白骨にされた人って元に戻る方法は無いのか?」


「残念ながらそれは無理だ。ナーガに闇を根刮ぎ奪われた残りかすである白骨は、その際に肉体も腐らせ一緒に奪われている。普通の怪我や呪いを直すのとは訳が違う。一度死んだ者が蘇らないように一度闇に滅びた肉体はもう取り返せない。来世に期待しろ」


「そんなぁ……折角貴族令嬢に憑依したのに……私のやり直しライフ……」


 ブレイドの言葉に白骨令嬢は項垂れ落ち込んだ。落ち込む白骨は余計に悲壮感ある。哀れ白骨令嬢。


「ま、まぁその、なんだ。もしかしたら白骨も意外と楽しいかもしれないだろ? ブレイドの言う通り来世に期待して、今世は白骨なりに楽しんだらどうだ?」


「白骨なりに……? 何を言っているんですか、白骨が楽しい訳ないでしょう」


「そうか? 俺はスライムだろうとこけしだろうと楽しそうな奴を見たからな。骨だって気の持ちようかもしれないぞ」


「気の……持ちよう……」


 白骨令嬢は骨の指を顎骨に当て考え込んだ。脳味噌は無いだろうが骨系の人々は一体何処で考えているのだろう。

 白骨令嬢の脳味噌や声帯はどうなっているのだとぼんやり観察をしていると、心が決まったように膝関節を勢いよく鳴らしながら立ち上がった。


「分かりました。この白骨状態のロザリーに憑依したのも何かの導き……ならば、私は白骨令嬢ロザリーとして幸せになる事にします!! という訳なので騎士様、私が幸せになる方向性を一緒に考えて頂けませんか?!」


 えっ……俺、そこまで面倒見る義務ある……?



 ★★★



 義務があろうが無かろうが、悪役令嬢と出会ってしまったからには納得するまで付き合わなくてはいけないのが俺なのだ。そもそもスノーマンの調査中ですからね……変な令嬢1人放置しておく訳にはいかないし。


「ところで、白骨の幸せって何だろうな?」


 自分で気の持ちようとか言っておきながらコレである。ブレイドも心底呆れた顔で俺を見ていた。ごめん、テキトーな事言って。まさかすんなり聞いてくれるとか思わず、考え無しに言ってたわ……


「骨の幸せなんて言葉は健康に気を使う者以外から聞いた事は無いが……まぁ、放置白骨だからより白くあれば良いのでは無いか?」


「白ければ良いはお前の好みだろ。……ん? 好み……」


 俺ははたりと気が付いた。あるじゃん、手っ取り早く幸せになる方法。


「ブレイド、お前ロザリー嬢と婚約したらどうだ? ほら、ダリア家はもう無いから無理に後継者残す必要も無いし、あとロザリー嬢真っ白だから好みドンピシャだろ? ロザリー嬢も幸せになれてwin-winじゃないか?」


「……」


 俺の提案を聞いたブレイドは無言で脛を蹴って来た。痛い。


「ジェド……貴様は私を馬鹿にしているのか……? いくら白が好きだからと言って白骨と婚約するとか常識的に考えてある訳無いだろ。そんなに白に拘る変態が何処に居る」


 いや、君この間までは白骨と婚約しそうな程、白に拘る変態でしたが……? ナーガの影響が薄れて来たせいかブレイドは妙に常識を取り戻していた。クソ……もう少しロザリーのタイミングが早くナーガを倒す前だったら上手く納まっていたのに……


「まぁ、でもそうですよね。どう見ても白骨と普通の御方では釣り合いが取れないというか……白骨側からしてもどう接していいか分かりませんし」


 過去、剣に転生して人間の男とデートしたいとかほざく令嬢も居たが、白骨令嬢ロザリーはちゃんと骨の立場を弁えていた。そうそう、そうやってワガママを言わずに順応する事が幸せへの第一歩なのである。偉いぞ白骨令嬢。


「……という事は、あの中から好みの骨を探せば良いのでは無いか……?」


 ブレイドの目線の先には烏合の衆である骨達が居た。


「まぁ……確かに。だが……」


 俺達はわんさか居る白骨に目を凝らした。


「この中から探すって……何を?」


 烏合の白骨は皆似たり寄ったりで見分けが付かない。何なら男女さえも分からなかった。


「ロザリー嬢、好みの骨格とかあるか……? 流石に男女は間違えちゃいけないとは思うが……」


「骨格の事なんて前世でも考えた事が無いので正直全然分かりません。あと、私は別に百合とかBLとかにはそんなに抵抗無い人間――いや、白骨ですが、そもそも白骨(女)と白骨(女)って百合なんですかね……? 百合の概念何処ですか……?」


 そう、違いが全然分からないのだ。何か男女で骨格が微妙に違うとか聞いた事がある様な気もしなくも無いが、だから何だという話である。骨は骨なのだ。


 骨骨集団を見てロザリーはため息を吐いた。息どうやって出た?


「はー……やっぱ白骨が人並みの幸せとか無理ですよね……この国に残っている白骨達も好みとか以前の問題ですし」


「そうだよなぁ……」


 ……ん?

 俺はふいに、コレと似たような事が何処かであったのを思い出した。


「なぁ白骨達、君らナーガが居なくなってからやる事を失って困っているんだよな?」


 白骨達は顔を見合わせてこくりと頷いた。


「なぁロザリー嬢、君は悪役令嬢の運命を変える為に奔走するって言っていたよな。当てはあったのか?」


「え? ええ……まぁ。前世では一応会社経営者だったのでそのスキルを活かして事業を起こそうかなと……」


 俺は確信し頷いた。首を傾げるロザリー達を置いて南へと走り出す。


「何となく見えてきた! 白骨令嬢は此処で待っていてくれ! 行くぞブレイド!」


「あ、何処へ! 君はいつも訳が分からないな全く!」


 俺とブレイドは雪の解けぬ道を走りテルメへと急いだ。



 ★★★



 テルメへ戻った俺とブレイドは陛下の居る宿へ直行した。陛下はもう国の人と話し合った後だったのだが、難航しているのか困った顔で出迎えた。


「ああ、ジェドおかえり」


「陛下……何か余り上手く行っていない様子ですかね?」


「……テルメの者達はスノーマンの復興については最大限協力してくれる事を約束したのだが……スノーマンに戻る事や国を管理する事については断られてしまったよ」


 陛下は頭を抱えていた。難しい問題なのだろうか……


「やはりスノーマンには嫌な想いを抱いているからでしょうか……?」


「うーん、それもそうなんだけど……単純に人手が足りないらしい。テルメに観光都市を新たに開いてそちらが繁盛してしまったからね……ゲートが復活したから尚更忙しくなるようで他の事を考えている余裕が無いそうだ。グラス大陸の住人は限られているし、そちらに戻るだけの人が居ないのだよ。移住者を募るにもこんな気候の地だろう? 時間がかかりそうだしなぁ……」


「あ、陛下! それでしたらスノーマンを管理してくれそうないい人材いますよ」


「えっ」


 陛下は誰の事か心当たりが無く首を傾げた。


「一体誰なんだ?」


「あっ、その前に……色々環境を整えなくちゃいけないのでラヴィーンに行っても良いでしょうか?」


「……いやラヴィーンって……何の準備……なの?」


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