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漆黒の騎士団長の幻影(中編)

 


 グラス大陸の白い雪の中に建つ氷のような純白の城――スノーマンの王城は壁も床も真っ白だった。


 汚れ一つ無い白い通路をひたすら走る純白の騎士ブレイドと、それを追いかけるブレイドの幻影(仮)ジェド・クランバル。


 ブレイドはナーガが何処にいるか分かっているのだろう、迷うことなく進んでいった。

 正直、真っ白なこの城は景色が一緒すぎて俺には元来た所が何処かすら検討がつかない。帰りも案内してくれるかな? 強敵と書いて友だし……


 スノーマンの王城は壁や床が真っ白なだけではなく、真っ白なローブを着た骸骨達が従者として働いていた。彼らは元からスノーマンに仕えていた者達なのだろうか? みんな骨だから見分けがつかない。

 今この骨の中から悪役令嬢とか現れても、じゃない骨との見分けが付かないからね?


「邪魔だ!!」


 ブレイドは勢いを落とさず従者骨白ローブにぶつかりながら走っていく。跳ね除けられた白ローブは壁に思いっきり激突し、砕けた白い骨がローブから零れ落ちバラバラと床にばら撒かれた。骨ーーー!!


「おいコラ! 流石に可愛そうだろ! 骨は大事にしろよ」


 立ち止まって哀れにもバラバラになった骨を拾いながら怒るとブレイドも立ち止まった。

 不思議そうな顔をしてこちらを見ている。


「……? 何故私の中の幻影であるお前がそんな取るに足りない者達の心配をするのだ?」


「うっ……それは」


 それは最もな意見である。だが、こういう時は迷うと余計に怪しいので堂々と行った者勝ちなのである。


「俺は……お前の中に潜む善良な部分がジェドの幻影の姿を借りている存在――」


「なんだと……?? 生霊ではないのか……?」


「もちろん生霊でもある」


 しまった……設定盛りすぎて忘れてしまいそうになる……つらい……誰か俺の脳みそをサポートしてくれる人が必要……しんどい


「……何だか分からないが、お前は幻影であり生霊だ。そんなお前が私を騙そうとして何の得があるのか分からないしな……」


「ああ。そういう事だ」


 どういう事か分からないが、ブレイドが勝手に納得してくれているから良しとしよう


「何故私の中のお前が心配するのかは分からんが、その者達は心配するに値しない者だ。欲望を全て吐き出し、ナーガに搾り取られた残り粕。穢れなき白となった代償でその魂さえも輪廻に回る事は無い。永遠にナーガの僕としてこの城で働かされる骨となったのだ」


「やっぱこの人……いや、骨たちはそういう感じだったのか……」


「元はこの国の王や貴族だった者達だ。末期のスノーマンに残っていた者共はそんな奴等しか居ない。国に見限りを付けた者は南の温泉地へ逃げるか、はたまたゲートを越えて他国へ逃げるかしていただろう。まぁ、ナーガの刻印から逃れられるのは余程全うに生きていた者くらいだがな」


 南って事はテルメか……てことはあのオカ――性別不詳の方々は全うな方だったんだな。親切ではあったが……

 しかしこの骨たち王様か貴族達だったのか……床に散らばる骨は悲しげだった。欲望は持つもんじゃないな。


 俺は元は偉かったのかもしれない骨を集めて廊下の端に寄せてあげた。ブレイドいわく、彼らは死なないので放っておけばそのうちくっつくそうだ。元貴族骨の扱いの雑さよ……


 城の奥に進んでいくと、白い壁や床にも関わらず嫌な雰囲気と寒気が強くなっていくのを肌で感じてきた。

 この感じには覚えがある……ナーガの城で地下の寝室に近付いた時と同じだった。じめじめとした濃い闇を感じるのだ……


「……」


 心なしかブレイドの勢いも落ちているような気がしてきた。足取りは重くなり顔も爛々と輝いていたものからいつものちょっと闇深な感じに変わっている……


「……? どうした?」


「私は……本当にこんな事をしていて良かったのか……?」


 マズイ、折角ブレイドが光の剣士(戦闘狂)に目覚めようとしているのに、闇が強すぎて元のブレイドに戻りそうだ。母さんみたいな顔のブレイドも怖いけどここで冷静になられるとそれはそれで困る……


「ブレイド、お前がそんな黒なんだか白なんだか分からないような心でどうする! 心をしっかりと持て! お前は、漆黒の騎士団長と戦う事を望んでいるんだろう!? 今度こそ白黒つけるんだろう??」


「そうだ……私は、奴を倒すんだ……邪魔が入らないよう、潔白に、白日の元に……奴と白黒つける」


 ブレイドが何で白にそんなに拘るのかは全然分からないが、俺の謎の説得はブレイドに届いたようで調子を取り戻して勢い良く走り出してくれた。よしよし、良いぞ。お前は迷うことなく俺との決着をつける為にナーガの元に行くのだ……

 ナーガの所に着いたらどうしよう……何も考えてないけど、ま、何とかなるだろう。



「……ここだ」


 ブレイドが走り抜けた突き当たり……白い壁が黒く汚れる程一際闇の深い部屋があった。恐らくここがナーガの居る場所……


「よし……入るか」


 俺が部屋の扉に手をかけようとするとブレイドが止めた。


「おい、お前幻影の癖に馬鹿なのか? 真正面から扉を開けて入る奴がいるか」


 馬鹿と言われた。この状況だと馬鹿さ加減はどっこいどっこいだと思いますがね。

 だが、ブレイドの言う事は確かに一理有る。ラスボスに正面から扉を開けて入っていく丁寧な襲撃者なんて普通いないよな……


「じゃあどうするんだ?」


「無論、襲撃だからこうだろう」


 と、ブレイドは白い呪いの剣に剣気を溜め思いっきり振りかぶった。


「はあああああ!!!!!!!」


 扉に叩き込まれる白い剣波。白く鋭い剣波は扉を抉り壁を壊し、ナーガの部屋らしき場所に白い土煙を上げさせた。

 中々の卑怯な襲撃である。騎士道とかは関係無いのだろうか……?

 てかお前、もし仮に俺の言うことが本当で俺が中でナーガに捕らわれていたらどうすんですかね? 一緒に吹っ飛んでましたが……? 本当に邪魔が入らないサシの決闘を純白に望んでいるんですかね……?


 と、部屋の奥から黒い光の刃が飛んできたので俺とブレイドは左右に分かれて避けた。

 土煙の奥では訝しげな表情を浮かべたノエルたん……ではない、ナーガが光る目と黒い爪をこちらに見せていた。


「ブレイド……貴方、何のつもりかしら?」


「ふん……ナーガ、とぼけても無駄だ」


「はぁ?」


 ナーガは眉を寄せた。いや、実際寄せているのはノエルたんの体なんだが、ノエルたんでそんな怖い表情しないで欲しい。

 はぁ? と言いたくなるのは分かりますがね。ナーガにしてみるとブレイドの行動や言っている事は謎でしかない。もう少し説明いると思うんだ……?


「貴様、最初からジェド・クランバルを利用するために……」


「ジェド・クランバル……? ――はっ、貴様!」


 ナーガはようやく俺の存在に気付いたのか、俺を見て目を大きく開いた。


「ジェド・クランバル! 何故……貴様、生きていたのか」


「そうだ、ジェド・クランバルは生きていたのだ。お前は、私がジェドと純粋に戦いたい気持ちを利用したな……」


「……言っている意味がよく分からないわ……」


「私は全て知っている! 貴様がジェドを偽者と入れ替え、焼死したように見せかけたな……!」


「……ブレイド、貴方どんな騙され方をしたらそんな方向性が変わるのよ……ふっ、クスクス」


 ブレイドの騙されっぷりに流石のナーガも呆れて笑い出す。その意見には俺も完全同意である。


「どうやって生きていたのかは知らないけど、ブレイド貴方どこまでもその男に踊らされているのね」


「な、何?」


「まんまと騙されてしまって可哀想な子」


「……そうなのか……?」


 ブレイドは自信なさげに俺を振り返った。いや、まぁそれはそうなんですが、お前も一度決めたなら騙されてても貫けよ。自信なさげなブレイドは全然自分の心に白黒付いてない情けなさだった。


「いや、俺が言うのもなんだが初志貫徹しろよ。そんなんだから騙されるんだぞお前は」


「う……」


「ふっ……そうね。それについては私もそう思うわ……私達の餌になるのはいつだって迷子の子……人間は本当愚かね」


 クックックと笑うナーガの顔を見た瞬間、ブレイドは頭を押さえた。何かを思い出すようにナーガの笑顔を忌々しく見つめる。


「うおおおおお!!!!!」


 ブレイドは剣を振りかぶり、剣気を込めてナーガに切り掛かった。

 だが、ナーガの周りの床から展開される黒い魔法陣にブレイドの身体が捕らえられ、ブレイドの全身に刻印が巡る。


「貴方のそんな迷える光じゃ、私を斬ることは出来ないわ。残念ね」


 ナーガが手を開いた瞬間、ブレイドの身体は吹っ飛んだ。窓ガラスが割れ、白銀の雪景色へと飛ばされて埋もれる。

 俺は慌てて窓の外を見たが、かなり遠くに飛ばされたらしくブレイドの安否は確認出来なかった。


「浅はかね。私に敵うとでも思ったのかしら……身の程知らずな子」


 ナーガは満足そうに窓を見る


「それで、貴方は見たところ丸腰みたいだけと?」


 本当にそれはそう。俺は今、剣を持たないただの無力な俺である。頼りのブレイドもワンパンで吹っ飛ばされているし……


 ナーガが指を動かすと俺の周りに小さな魔法陣が沢山現れた。

 魔法式が繋がって円が完成した側から小さな爆発が起きる。

 俺は身を交わすも小さな魔法陣はどんどんと増えていった。


「鼠で遊ぶ猫みたいだな!」


 必死に避けるもナーガは楽しそうに魔法陣を描き続けた。剣があれば完成前の魔法陣を斬ることが出来るが、丸腰の俺は避けるしか出来ない。

 遊ぶような小さな魔法陣の爆発は当たると死ぬ程では無いにせよ結構痛い。

 こういうのはマゾ達の得意分野なのだが、残念ながら俺はマゾでは無いのだ……


「ふふ、いつまで逃げ切れるかしら?」


 ナーガが床に魔法陣を描くとそこから黒い液体が現れた。あれは見覚えがある……めっちゃ滑るやつーー!


「おま、卑怯だぞ!!!」


「残念ながら私はあの変人と違って正々堂々という言葉が嫌いなのよ」


 ナーガも変人だと思っていたのか……仮にも仲間だったヤツを変人とか言うなよ。と思ったが、こちらサイドにも沢山の変態がおりますからね……いい勝負だわ。


 床が黒い油で埋め尽くされて行く。ほぼ詰んでる。

 あー、やっぱ丸腰で乗り込むのは辛かったなー……このまま俺はジワジワとナーガに弄ばれて死ぬのだろうか?

 折角回避した俺の最期だったが、死期が伸びただけだったらしい。もうむり。。。


 逃げ場が無くなった俺の周りには黒い魔法陣がどんどんと溜まって行く。怖い……あれよ、花火が上がる前のカウントダウンの時のような気持ち……あー、死ぬーー。


 魔法陣が描かれるのがスローモーションに見え、数々の思い出が蘇って来た。走馬灯タイムである。

 過去何回も走馬灯を見てきた俺レベルとなると、逆に落ち着いて過去を振り返る事が出来るものだ……あー、ここ最近はシルバーやナスカと過ごしてたからなぁ。

 ナスカあいつ消える前に攻撃食らってたけど大丈夫なのかな?

 それよりももう大分日が高いけどシルバーは爆発していないよな……あの窓の外に薄っすら見えているジャックプリズンに連れて行かれたみたいだけどふっ飛んでる気配無いしなぁ。

 そういや前にナーガと戦った時もシルバーが駆けつけてくれたっけ?


 俺は指に嵌められた魔術具の指輪を見た。

 ワンチャン助けてくれないだろうか……


「シルバー……助けて」


 指輪は何の反応もしなかった。無理か――と、思った瞬間勢いよく扉が開いた。

 奇跡が起きて助けが来た! と、期待の眼差しで振り返るが――


「無事??? 助けに来たわよ!!!!」


 先頭で叫ぶのはマリリン。

 扉を開けて流れ込んで来たのはテルメのオカ――性別不詳の方々だった。

最近色々手がけすぎて更新遅れ気味ですが生きています( ̄▽ ̄;)

YouTubeに6話、14話のボイスドラマを投稿しました


https://youtu.be/ly17Scjg7zk

ループする悪役令嬢は消えてなくなりたい


https://youtu.be/onczsuCg7Lk

悪役令嬢だって夢を見る


良ければそちらもお楽しみくださいね

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