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やっと足を踏み入れたグラス大陸で早くも困難(前編)

 


「参りましたーー!!」

「こんなにもお代わりを要求されるとは」

「まさか、伝説の光の騎士だったなんて……」

「もう通って貰っても良いですか???」


「まだだー!! まだ試練はこんなものでは無いはずだー!!!」


 剣から実体化した光のおっさんクレストは、グラス大陸への関門所の試練を受けていたのだが……マゾの出す試練に打ち勝つどころかお代わりを要求する程だった。

 あまりのしつこさに流石のパンイチマゾ達も音を上げるほどだ……やはり長年竜の道で神の作った修行を受けていた伝説級のマゾは違う。グラス大陸が生んだ怪物……キングオブ・マゾ。何故お前のような奴が生まれてしまったのか……


 ……もとを正すとうちの親に飛び火しそうなのでこれ以上考えるのは止めよう。そもそもマゾを生みがちなこの地がいけないのだ。


「いや! 駄目だ! まだ終わるわけにはいかない!! お前達も誇り高きグラス大陸の者ならばもっと力を見せ付けろ!」


「ひぃ」


 何の誇りなのか分からないが、クレストのおっさんは関門所のパンイチ達を追い詰めていた。なんなのお前。

 この感じ、どこかで聞いたような気がすると思ったが……神を追い詰めていた時のうちの両親と同じなんじゃないかな……?

 グラス大陸という地が悪いのか、剣の道を究めようとする者達は度が過ぎるとそうなるのか。

 ……俺も剣だけに命を捧げていたらこうなっていたのだろうか……? やば。陛下に忠誠を捧げていて良かった。


「おいクレスト、いい加減にしろ。関門所の方々も困っているだろう。というか、俺達はゆっくりしている暇は無いんだよ」


「ジェド君! 止めないでくれ! 私はこんな精神力でよくもマゾを名乗ったものだと不甲斐なく思っているのだよ! マゾの誇りにかけて彼らの性根を叩き直さなくてはいけないのだ!」


「いや、誰も名乗って無いだろ。ハッキリとマゾとか口に出すなよ」


 マゾの誇りって何……? 怖いんですけど。てかお前自分でマゾの自覚あったのか。

 とりあえず話が進まないし、何かもう気持ち悪過ぎるので後ろから蹴り飛ばして無理やり鞘に仕舞った。この鞘はシルバーの魔術具で、クレストのおっさんを封印して黙らせる事が出来る。

 普通……剣を封印するとかって、呪いで操られてしまうとか、手に負えない能力を宿すとか……そういうかっこいいヤツではないのだろうか。

 まさかマゾがしつこくて手に負えないから封印するとは思いませんでしたね。

 こいつの事は二度と抜きたくない。


「ジェドっちって何か大変だね。悪役令嬢だけじゃなくてマゾもホイホイするんだね」


 ナスカが悲しげな顔で俺の肩に手を置いた。ホイホイしていると思いたくないのだが、現状俺とナスカ以外マゾしかいないから何も言い返せねぇ……


「お前はそういう言い方をして俺で遊ぶのはやめろ。それより、関門所の試練はもう良いんだよな?」


 関門所の職員を振り返ると、パンイチ達は皆死んだ目で頷いていた。


「もう何でも大丈夫ですのでとっとと通ってください……」


 むさ苦しいパンイチのマゾ達がこんな死んだ目をするなんて、どんな試練の様子だったのか聞きたいだろうか……? 


 だが、俺は全然思い出したくないので忘れて先に進む事にした。



 ―――――――――――――――――――



 長い橋を暫くパンイチ達と歩くと、対岸に関門所が見えてきた。

 ウィラス海峡の橋を越えるとグラス大陸。入った直ぐの国はテルメである。


 グラス大陸は広大な土地を持ち、南にテルメ、中央にスノーマン、北にジャックプリズンと三つの国がある。

 中央のスノーマンの首都は大きな都市で、帝国からのゲートもある。このグラス大陸を統率している地でもあり、先代王が結構なやり手でこの北の地の開拓に力を入れていたのだが新たな王に代替わりしてからはあまりパッとした話も無いらしい。

 その頃に開拓に尽力していた人達や住人は居住を更に南に移し、独立して観光開発に力を入れる国テルメが作られた。

 テルメはまだ国としては新しく、帝国との直接の取り引きは無いが、近々親交を結びたいと陛下が言っていた。だが、その準備段階で肝心のスノーマンとの連絡が途絶えてしまい仕方なく春まで待とうとしていたとか……

 観光開発には異世界人も関わっていて珍しいものが沢山あるのだと、テルメを訪れた旅商人から聞いたことがある。観光開発に尽力する異世界人の多さには感服するが、なんかそうやって尽力してくれる異世界人多くない?

 一体この世界にはどれだけの異世界人が来ているのだろうか。こんな頻度で人が来て、あちらの世界の人が居なくなってしまわないか時折心配になる。


 話がすぐ脱線してしまうが……まぁ、テルメはそんな感じだ。ナスカが行きたいのも多分そこだろう。


 最北のジャックプリズンは、別名『果ての牢屋』とも呼ばれる。

 その昔は重罪人を封印したり、改心の見込みの無い者を閉じ込めていた牢獄の国である。だが、それももう何百年も昔の話らしくここのところ誰かが新たに牢獄に入ったという記録は無いらしい。

 何なら観光地になっているとか……誰が行きたいんだよそんな所。


「この扉を抜けて真っ直ぐ道が延びている。北に進むとスノーマンまで行く事が出来るが……正直1日では辿り着けないと思うのでテルメで休んでからにした方が良かろう。テルメの中心部はここから少し東、あちらの方に進むと見えてくる」


 パンイチの1人が指差した北の道とやらと、あちらの方……正直雪で真っ白すぎて何も見えない。


「……どこに道があって、どの辺りを見たら良いのかもう一度教えてくれないか」


「そう言うと思っていたよ。そもそもこんな時期にグラス大陸に来る方がおかしいのだからな。我々もほぼ勘で歩いているし」


「勘……」


 扉の向こうは猛吹雪だった。災害級の大雪とは聞いていたが、地面も白なら空も白……一寸先も真っ白で見えないような中、勘で何かがどうこうなるとは思えないんだが……


「ま、幹線道路沿いにはあのように矢尻の標識があるから、それを頼りに行けば大丈夫だ」


 パンイチが指差す先、幹線道路の高い位置には矢尻の標識があった。

 こんな風に猛吹雪で視界が見えない時に何処まで道か判るように幹線道路には所々に標識が建てられているとか。


「ちなみに、遭難しない様に気をつけろ。真っ白で何も見えんからな。まぁ、山も無い平地のグラス大陸は道さえ外れなければ真っ平で難所も無いから大丈夫だ。道を見失わない様にな」


 パンイチが猛吹雪に『ロクシャク』をはためかせながら嫌な事を言ってきた。


「ん、まぁ標識も点々と見えてるし、山じゃ無いから雪崩も大丈夫っしょ?」


 ナスカがサングラスに雪を溜めながら街道の標識を見た。まぁ確かにそうだが……何だろう、そういう言われ方をすると数時間後に道に迷って遭難するような気がして仕方が無い。

 いやいや、そこまで心配されていたら気を付けて歩くのだからそんな事になる訳が無――



 ★★★



 ――数時間後



 前後左右、上も下も分からぬ白い空間のような猛吹雪の中……


 俺とシルバーは見事に遭難していた。


 ……何でや。

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