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漆黒の結末、繰り返すチャック(1)

 


「はー、今回ばかりはヤバかった……俺もうあのまま膀胱が爆発して死ぬんじゃないかと思ったよ」


 ナスカの後を追ってトイレに駆け込むと、死んだような顔で花を積み終えたナスカでがいた。膀胱が爆発して死んだヤツを今まで見た事は無いが、人として死ぬという意味では確かに。


「そういや、そろそろ日が落ちてきてシル子がヤバイって言おうと思ったんだけど、それどころじゃ無かったんだよね。シル子大丈夫?」


「気付いていたのなら早く教えて欲しかったな。爆発していない所から察して貰えると思うが、急いでキノコを食わせたから大丈夫だ」


「嫌がる女児に無理矢理茸を食わせたのかー」


「嫌がって無いし食わせた時にはもう女児じゃなかったし嫌な言い方は止めろ」


 ナスカはどうしても俺に疑惑をかけて遊びたいらしい。疑惑など何も無い、潔白の漆黒の騎士なのでやめてほしい。


「ま、ジェドっちの性癖の話は置いといて、んで、これからどーすんの? もう夜だけど……まさかなるべく近くまで進むとか言わないよね。俺、野宿とかあんまり好きじゃないんだけど……」


「奇遇だな。俺も育ちがいいから野宿はあまりしたくない。特にこんな荒れた荒野ではな。とりあえずイスピリで宿を取って、休んでから進むとしよう。さっきみたいに変なタイミングでシルバーに戻られても困るしな」


 少しでも進みたいのは山々だが、グラス大陸に渡るまで次にどんな環境で休めるかも何が出てくるかも分からない。体力も温存したいし、あと何か昨日遅かったからあんまよく寝れてないので早めに寝たい。徹夜の次の日は無理したくない系騎士団長とは俺の事。


 俺は「よし」とチャックを閉めてトイレを出た。



 ―――――――――――――――――――



 トイレを出て戻ると、シルバーは茶色い子供用のローブに着替えていた。

 さっき着ていた女児の服は一瞬大人になった時にビリっと行ってしまったのだよね。借り物なのに破いてゴメンね大輔。


「いやー、お客さん方ご迷惑をおかけしてすみませんね」


 シルバーの近くに居た悪役係員と飛竜が俺の顔を見ると申し訳無さそうに謝ってくれた。


「いや……まぁ、悪気があった訳では無いのだし」


 そう、俺を巻き込む奴らは大概悪気は無い。切羽詰まっているだけなのだ。……たまに悪気のある奴も混ざってはいるが。


「そう言って頂けて……あ、お客さん方ここからグラス大陸に行かれるのですよね? すぐ出られるのですか?」


「いや、イスピリで一泊してから大陸の境まで向かう予定だ」


「そうなのですね、でしたらイスピリで1番マシな宿を紹介しますね!」


 悪役係員が目を逸らしながら言う。何だよその言い方。ロクな宿が無いって言ってるようなもんじゃねーか……


「まぁ、貧乏大国イスピリだからね。これから発展するだろうけど、まだ宿の整備がされてないんじゃないかな?」


「確かに……前回来た時の喫茶店を考えるとロクな宿は無さそうだな……」


「えー、そうなの? でも野宿よりマシっしょ??」


 ナスカが嫌そうな顔をした。きっとマシだろう……宿って名前が付く位だし。

 とりあえず教えて貰えるマシな宿とやらに行ってみる事にした。



「なるほど……」


 係員が教えてくれた先にあったのは、やはり前に見た喫茶店と同じ様なボロボロの宿だった。

 宿の看板には【宿・ヴィンテージ】と書かれていた。物は言い様である。


 建て付けの悪い扉を開けると、宿の店員が割と綺麗な服で迎えてくれた。思いの外綺麗でももう驚かない。そのカラクリは知っているから……


「いらっしゃいませー! あ、停留所の係員から聞いています、本日は開放感たっぷりの宿・ヴィンテージへようこそ! いや〜、お客さんラッキーですよ! 今日は満天の星空ですからね、なーんにもないウィルダーネス唯一の魅力を思う存分楽しんでくださいね」


 妙に元気な店員が、物は言い様な事を言っている。きっとお腹いっぱい食べられるようになってきて元気が有り余っているのだろう。

 だが、テンションで押そうとしても、隠しきれない言い方で誤魔化してる感がそこにある……


「……とりあえず3人。泊まれる部屋を頼む」


「かしこまりましたー! 今丁度10人位入れる大きさのデラックススイートルームが空いておりますのでー」


 10人位泊まれる部屋は最早、相席雑魚寝部屋ではなかろうか。


「何でもいいから頼む……あと、この茸を夜食に出してほしい」


「茸ですねー! うち、水がいいから素材本来の味を引き立てたナチュラルスープが売りですので楽しみにしていてくださいねー!」


 多分それお湯で煮ただけのヤツな。



「はー、なるほど。開放感あるねー」


「……概ね予想通りだが」


 案内された部屋は予想通り屋根が無かった。開放感で満天星空がラッキーって時点でお察しである。

 野宿よりマシなのは妙にふかふかで綺麗な布団だけである。腐り落ちた屋根はどうにも出来ないが、布団の汚れは空の魔石で綺麗になりますもんね。

 こうなってくるとだだっ広い部屋が恨めしい。冬やぞ?


「これじゃあ野宿と変わんないじゃーん。布団は何かやたらふかふかで気持ちいいけど……」


「まぁ、綺麗な布団だけは大量にあるし今日は暖かいからな。ここで我慢しろ。というかここが1番マシらしいから他に選択肢は無いし」


「はー、こんなに貧乏な国じゃ飲み屋もカジノも無いだろうけど……一応出かけてみるかなー」


 そう言ってナスカは宿の外へ出かけてしまった。あいつ朝までには帰って来るのだろうか……


「シルバー、お前は大丈夫なのか?」


「ふふ、私はどこだって平気だよ。元々はこの貧しい国で育ったからね、この姿といい懐かしい位さ」


「そうか。……寒く無いか?」


 布団をかけるシルバーが妙に寂しそうな目をしていたので、余りに余っている布団を渡した。


「こんなに布団をかけて、明日には何になるか分からないからね。潰れていないか心配だよ」


「縁起の悪い事言うなよ……」


 そういうフラグみたいな事を言わないで欲しい。


 夜中に宿の店員がスープを持って来た。本当にお湯の中に茸らしき具材が入っているだけだったのだが、水がいいせいか美味しいとシルバーは言っていた。


 茸スープを飲んだ後、星を見ながら布団に入った。ナスカはやはりいつまでも戻って来ない。何か楽しめる場所でも見つけたのだろうか……


「眠れないのか?」


 布団に入っても暫くシルバーの方からゴソゴソと聞こえて来た。


「うーん、何だろうね。もう不安なんて無いと思ったんだけどねぇ……」


「……」


「このまま魔法が使えなかったらどうしよう……とか、封印の魔術具を取り返せなくて爆発したらどうしよう……とか、そういうのじゃないんだよ?」


「……別に何でもいいよ。誰だって、何とは言えないのに不安を感じる事はあるさ。お前だけじゃないし、陛下だって、魔王だって、エースだってシャドウだって……みんなそういう時があるみたいだし」


「……ジェドにもあるのかい?」


「ん? 俺は不安ばかりだぞ。毎回毎回悪役令嬢だとか変な事件だとかに巻き込まれるだけじゃなくて、何か変な恨みまで買ってるし。まぁ、そこまで不安だらけだと逆になるようにしかならないって開き直れるというか」


「そっか……」


「俺は大体寝たら次の朝には忘れてるから。お前も早く寝ろ。明日の朝にはまた変な生き物になっててそれどころじゃないさ」


「ふふふ、そうかもね」


 そう言うとシルバーはふかふかの布団の中に潜り込んだまま物音がしなくなり、寝息が聞こえて来た。

 姿が子供になると考えも色々子供っぽくなってしまうのだろうか。

 俺も布団にすっぽりと潜り込み、目を閉じた。



 ――翌朝、空が明るみ始めた頃……何故かパチリと目が覚めた。いつもならこんな時間に自然と目は覚めないのだが、何かの知らせか妙に頭がハッキリとしている。


「ナスカは戻ってないのか……」


 起き上がり布団を確認するが、そこにナスカが戻って来た様子は無かった。

 ふと、日の光とは違う明るさを感じ振り向くとシルバーの布団が発光していた。

 そこには大人になったシルバーが寝ていて、ピンクの光が臨界点に達している……


「……は?」


 次の瞬間、目を開けていられない程の光に包まれて爆撃を身に受けた。うん、コレ、あれだわ。爆発しましたね……



 悪役令嬢なんて知りません!〜悪役令嬢ホイホイの騎士団長は今日も歩けば出会ってしまう――完



 ★★★



「よし」


 俺はチャックを閉めた。


「……ん?」


「あー、野宿じゃなくて良かったー。早く行こうよ」


 気合いを入れて閉まるチャック。見覚えのあるトイレ。スッキリした顔のナスカ……


「ジェドっち、どしたの? もしかして小便の切れ悪いの?? 先行ってるよー」


 ……え?

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