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溢れる魔力、魔塔のピンチ……?(後編)

 


 ピンク色に光る魔塔。中の様子は分からないが相変わらずお祭り騒ぎは続いていた。

 光の加減や外にはみ出る程に塔一面を覆いつくす魔法陣の規模を見るに、シルバーのものである事は間違いなさそうだったのだが……

 何故かシルバーは魔塔の外に居た。……というか魔法使い達に混ざって魔ゾンビ化していた。


「シルバー、お前がここに居るという事はあの攻撃を仕掛けているのはお前では無いのか……?」


「ん? いや? アレは間違いなく私だねぇ」


 ??? じゃあお前誰だよ。


「ジェドっち、何かその人変じゃね?」


「変……? 変ではあるな。変態寄りの」


「アハハハ、そういう話じゃなくて、何かルーカスの所に居た甲冑みたいな感じする」


「シャドウ? よく分からないが、ここに居るのはシルバーじゃないのか?」


 目の前にいるシルバー(?)をもう一度見てみたが俺には違いがイマイチ分からない。


「そちらの君は目が良いんだねぇ。だけど私は私さ。というか、あちらが本体で、私の方が劣化版の分身なんだねぇ」


 どうやら目の前に居るシルバーは、シルバー本体では無く分身らしい。劣化版という事は魔力が少し落ちるのだろうか? 何か不測の事態があって2つに分かれたって事だろうが……劣化版とはいえ状況が分かるシルバーがもう1人居てくれたのはありがたい。


「つまりは本体が何らかの暴走をしているので、分身して止めているという事か」


「? 止めている訳では無いよ?」


「……何してんだよ」


「見たままだけど?」


「……お前……まさかとは思うが、自分の魔法を受けたいが為に分身しているとか……言わないよな?」


 俺のパーフェクトアンサーにニコニコと笑って頷いた。お前さぁ……


「ヒェー、魔法使いってヤバイマゾだって聞いたことあるけど、そこまで極まってると逆に関心するなー。ジェドっちの知り合いなの?? やばみが凄い」


「……知り合いだと思われたく無いが……コイツは魔塔主だ」


「ははぁ、なるほど。やっぱ魔ゾンビ達の親玉はレベチなんだねー」


 ナスカが魔塔に這い上がるゾンビ達を関心しながら見物していた。

 カジノで遊ぶ遊び人達だってこんなに金に縋り付きはしない……魔法使いでも無い俺達にはアイツらの気持ちは一生理解出来ないだろう。剣士で良かった。


「それで、お前の魔ゾに掛ける執念はともかくとして、今どうなってんだよお前の本体は。そんなに呑気に魔法を受けているって事は大丈夫なのか?」


「いや、状況は思わしく無いねぇ。今はずっと魔法を使い続けて何とか魔力の暴走を押さえつけているけれど、何せ火山の噴火で大気中に魔力が溢れているだろう? 実は私の身体に眠る魔力を押さえつける魔石の飾りが盗まれてしまってねぇ。身体の中の魔力が大気中の魔力をひたすら取り込もうとしているんだ。時期に限界になって爆発するかもねぇ」


「ほー、それは大変だな。で、お前はそんな大変な状況で何をしてんだよ」


「私は劣化版だからね、止める程の魔力は持っていないんだよ。本体の代わりに余り普段使えない全力魔法を受けるだけしか能が無い、ただの魔ゾの化身だねぇ、ふふふ」


 おいコラ。笑っている場合じゃないだろ。


「ヤバイのでは?」


「ヤバイねぇ」


 シルバーは相変わらずニヤニヤと笑っていた。その様子を見てナスカが上機嫌に笑って劣化版の肩を叩く。


「アハハハ! マジウケる、なんでそんな2人とも落ち着いてんの? 爆発とか言ってなかったっけ??」


「本当にな。しかもコイツの爆発はマジで洒落にならない規模の爆発なんだよな……何でだろうな。焦る気持ちに何故かならないんだが……」


 何故かは分かっている。本人が全然焦っていないからだろう。本人はもっと責任感じろよ本人は。


「とりあえず向かってみる? 面白現場に」


 ナスカが楽しそうに塔の上階を指差した。さっきよりも光がより強くなっていて、描かれている魔法陣の範囲も広がって来ている。

 弾き出された下級魔法使いはその魔法陣に我先に触れようと足掻き合っていた。そんなになのかお前ら……


「だが、俺達では魔塔に入れないだろう? どうやって中に入るんだ?」


「え? 劣化版が入れんじゃん。さっきからずっと入っては弾き出されてを繰り返す元気があるんだし。劣化版って言っても本体よりはって話だろー?」


 俺は劣化版を振り返った。キョトンとした顔で首を傾げている。


「? ジェド、中に入りたかったの?」


 お前……本当に何とかしようとする気は無かったんだな。



 劣化版シルバーに連れられて魔塔の中に入ると、外から見た時より更に酷い地獄絵図が待っていた。

 塔の内部は複雑に絡み合う魔法陣が壁から床から建物全てに描かれ、そこから絶えず魔法が放出している。

 火なのか水なのか……固形なのか液体なのか気体なのか……魔法が混ざりすぎて全然分からない。が、魔法使い達は上手い具合にクリーンヒットしまくっていた。避けられるヤツも避けない。自ら当たりに行くスタイル。魔法の方が避けている位である。

 壁や床には魔法使い達が『悔いなし』みたいな顔をして伸びていて、魔法で作られた手が動けなくなった者を外に吹っ飛ばしていた。


「はー、何か想像通りっちゃー想像通りだね」


「何が楽しいのかは全然理解出来ないがな……」


「そう? ちょっと楽しそうではあるけど」


 いや、楽しそうなのは魔法使いだけだろう。良い子は絶対に真似しちゃいけないヤツである。あっちのヤツ真っ黒に焦げてるし……それ大丈夫なの?


「それで本体は何処にいるんだよシルバー……」


 振り向くとそこには劣化版は居なかった。


「ん? 劣化版なら入って真っ先に魔法受けに走ってったけど」


 ナスカがクイクイと指差す方を見ると焦げたフードが横たわっていた。焦げてたのお前かよ!


「あ、ジェドっち危ない」


 ナスカが俺の背中に蹴りを入れるとそこに魔法が降って来た。俺は床に倒れるも、手を着こうとしたら手が床で滑って顔面から激突する。これ、床に倒れたらもれなく激突コースなんだが?


「これさー、ゆっくりしてらんなくない?」


「その通りだ。おいシルバー、早く本体の所に案内しろ」


 俺は飛び交う魔法を避ける為、床を這いながら黒こげのシルバーに近付いた。ナスカは何故かスタスタ普通に歩いている。何でお前には当たらないの?

 黒こげのシルバーは焦げた部分をバサリと払って起き上がる。


「確かに、名残惜しいがこのままにしておく訳にはいかないねぇ。だけど、今の私では自分をどうにかする事は出来ないし、他の魔法使い達もあの様子だ。せめてあの飾りが有れば魔力を押さえつける事も出来るんだけどねぇ……」


「どうにかする方法か……」


「ジェドが剣で止めを刺してくれるっていうなら話は別だけど」


「やらんっつーの!!」


 コイツ……まだ懲りもせずに俺に刺されようとしてるのか……? 本当に勘弁して欲しい。俺は友人だろうと人の人生を背負いたく無い系男子。


「刺すまでしなくても何か眠らせるとか状態変化させる魔法とか無いの? 魔力の無い動物に変えちゃうとか」


「うーん、発想は良いけど眠らせたり状態変化の魔法をかける事は難しいねぇ。そういう魔法は魔力の強い方には効果が薄いからね、魔法じゃない何かなら効くかもしれないけど……」


 状態変化……


「あ、あるじゃん」


 俺は2人の会話を聞いてピンと来た。


「劣化版さぁ、アイツを連れて移動魔法を使う事って出来るのか?」


「移動魔法? それ位なら出来るけど……本体は今、魔法使いに向けて魔法を大放出しているから保っているようなものだから、移動先で大変な事になるかもしれないよ?」


「それでもここで魔力を吸い続けているよりはマシだろ。移動先で何とかしてくれそうな所に心当たりがある」


「……その先って大陸越える……?」


「移動魔法を使って書類書かされるのと大陸ごと爆発するのと、どっちがいいか選ぶまでも無いだろ。良いから早くやれ!」


「はぁ……」


 シルバー劣化版は渋々俺達に触れ、そのまま本体に近付いて移動魔法を発動した。

 移動魔法は弾き返される事無くシルバー本体を包み込んだ。本体から滲み出ていた魔力の滴が魔法陣の切れ目に落ち、シルバーと俺達は一瞬で移動した。


 そこは何度も訪れて見慣れた村……


 お馴染み、子供の夢の村である。

 まだ明るいうちから大盛況のその村の中央の噴水に魔力爆走中のシルバー本体が現れた。瞬間、当たりにピンクの光が走り、可愛らしい宿や地面に魔法陣が張り付く。


「ちょっと行ってくるから戻るまで全力で受けてろ!!」


「ジェドっち何処行くのー?」


 俺は劣化版とナスカを本体の近くに残していつもの受付を探して走った。

 受付の犬のお姉さんは食事を運んでいる所だったのか、村の様子と走り込んで来る俺に驚き目を丸くしていた。


「え?? え?? お客さん? アレ、何ですか??」


「説明は後だ! それは茸か?」


「へ? 茸ではありますけど……」


 俺はお姉さんの食事を奪い取った。そう……俺が思い出したのは夜鳴き茸。

 以前来た時、子供に戻ったシルバーは魔力を失っていた。子供の頃は魔力が無かったらしい。

 夜鳴き茸は夜の間のみ子供に戻る事が出来る茸だ……まだ日は結構高いが待ちきれない。


 と、食事のプレートを奪い取った瞬間手が滑った。あ……手がツルツルなの忘れてたー!!


「それ何とかした方がいいーー?」


 遠くの方からナスカが叫んだ。俺は床に転がりそうになりながら手を合わせた。合わせた手は滑るし多分地面にも激突する。


 ナスカは刺々しい棍棒を取り出してコインを放り投げ棍棒で撃ち放った。


 コインは宿や屋台を跳ね返って落としかけの食事の皿に当たる。と同時に屋台に置いてあったスプーンも皿の方に飛んで行き、食事に跳ね返ったと思ったら茸だけ掬い取ってシルバー本体の方に飛んで行った。

 その間にも魔法が発動されて放出されるが、茸が乗ったスプーンは魔法に跳ね返って跳ね返って……最終的に本体の口に到達した。俺は地面に激突した。


「おー、ホールインワン」


「だからどんな原理なんだよ……」


 茸を食べた瞬間、シルバー本体が放っていたピンクの光が一瞬にして消え、そして劣化版も消えた。

 良かった、昼間でも茸が効いたみたいだ。

 ナスカが転げている俺に駆け寄って来た。


「ジェドっち、あの料理って何だったの?」


「アレは夜鳴き茸って言って、この村の名物だ。夜の間だけ子供に戻る事が出来るらしい」


「子供? 子供じゃなくない?」


「ん?」


 魔法の余波か土煙が立ち上る。目のいいナスカには煙る向こうのシルバーが見えているみたいだが、子供では無いらしい……?? どゆこと??


「あーもうお客さん、説明を聞いてから使ってくださいよー! 昼間は夜鳴き茸じゃ無いって前に言ったじゃないですかー!」


 え? そうだっけ……確かにそんな事を言っていたような……ん? じゃあシルバーはどうなってんだ……?


 土煙が晴れた先に見えたのは……


 紫がかった黒色の……猫だった。

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