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シュパースの南は魅惑のウォーターリゾート(前編)

  


 漆黒の騎士団長ジェド・クランバルと未だ子供のままの小説家ワンダーは、遊び人の島・シュパースに来ていた。

 この島の持ち主であるナスカという遊び人を探す目的もありつつ、この一大リゾート大陸で半分休暇を楽しむ予定だったのだが……最初に訪れたカジノでは借金を抱えた令嬢に巻き込まれてナスカを探すどころでは無くなってしまった。


 何やかんやで地下借金返済クラブを抜け出しカジノを探す事にした俺達だったが……



「手掛かり無しか……」


 カジノで働く元遊び人達にナスカの居場所を聞いてみたが……誰に聞いても知らない、見てない、分からないとしか返って来なかった。

 ナスカを探してると訪ねただけで皆一様に可哀想な人を見る様な目をしたので、この広い島内でナスカを探すのは余程大変な事なのだろう。


 カジノ内を地下まで一通り聞き回ったが何の情報も得られず、俺達は休憩がてらカジノのレストランで軽く食事を取っていた。


「ライアーはこの島に詳しいようだが、ナスカを見た事はあるか」


 俺達と一緒に行動し、皿の肉をフォークで弄びながら食べているのはカジノで知り合ったライアーという男である。

 親切な事に、ライアーは一緒にナスカを探してくれるそうだ。見た目は派手でチャラ軽そうだが話せば結構いいヤツである。


「うん、詳しいっちゃー詳しいかなー、常連だし。ナスカとは面と向かって会った事無いけど。あははは」


「常連の方でも中々会える人では無いんですね……」


「人も沢山居るからな。会った事無いならすれ違っても分からないよなー」


「そうそう。所で、ジェドは帝国から来たんだろ? 帝国騎士団でしょ、その服。何でナスカを探してんの?」


 ライアーは肉を細切れにして積み木のように積み上げていた。質問よりも積み木の方に集中しているようで余り興味は無さげである。


「ああ。何というか……皇帝がナスカに協力して欲しい事が有ってな。仕事というか」


「ふーん。噂だとナスカは仕事したくないでござるみたいなヤツらしいけど。そんなヤツだから探し出しても協力してくれるか分かんないよ?」


「そうか……」


 仕事したくないでござるか。それは困ったな……


「まぁ、その辺りは見つけてから考える。まずは会ってどんなヤツか知らないと話にならないからな」


「そうですよね。あの、ライアーはこの島の事は割と知っていると言ってましたよね? この島の楽しい所を案内して頂けませんか?」


「何で? 諦めて観光でもする気になった??」


 ライアーはニコニコと笑いワンダーを見た。


「あ、いえ……この島の楽しい所に行けばナスカに行き着くかなと思って。働く事が嫌いで遊び歩いているんですよね」


「確かに一理あるな」


 なるほど……と納得したライアーはニッと笑い立ち上がった。


「よっしゃ、俺がシュパースを案内してやるよ。楽しい所なら任せとけ! シュパースツアーにご案内いたしま〜す、何つって」


 ライアーに言われるがまま、俺達はカジノを後にした。本当に……ナスカは何処に居るんだろうなぁ。



 ―――――――――――――――――――



 ライアーに連れられ来たのはシュパースの南側にあるウォーターリゾートの島であった。


 中央の大島と桟橋で繋がれたその小島。外側は白砂のビーチで海水浴が出来て、島全体を占める大きな建物は大小様々の流れるプールや水を使った魔法ショーが楽しめるステージ、海の生物や水系の妖精達が果物や飲み物を運び寛げるテラスなどがあり……薄着の客達がはしゃいで遊んでいた。


「水系の施設なんだな。うーむ……制服じゃあ流石にヤバイかな」


「ここは結構暑いんですね」


「南側は年中夏気分が楽しめるように島全体に気温を調節出来る魔石が埋め込まれてンだって。2人は水着とか持ってないの?」


「僕は子供用は……」


 ワンダーは本の中に行けばあっちの世界の自室に行けるのだが、流石に子供用の水着は持っていなかった。俺も、有るにはあるんだが……いつぞやに人魚の国で着た半分ケツが出るブーメランみたいな布の小さい水着が。あんなん公共の場所で履いていいヤツでは無いだろう。


「無いなら売店で買って来てやるからちょっと待ってて」


 そう言ってニコッと笑ったライアーは軽い足取りで売店へと走って行った。


「人を探しているだけなんだが水着になる必要はあるのか?」


「うーん、ここで人探しならプールに入って泳いで行った方が早そうですし……それに、遊んで来ていいって言われているから水遊びを楽しんでも良いんじゃないですかね」


「それもそうか」


 最終的に見つかるといいが……遊び過ぎて見つからなかったら怒られそうで心配ではある。

 そんな話をしているとライアーが売店から戻って来た。


「お待たせー、ハイこれ。そっちで着替えられるから着てくれば良いよ」


 ライアーは既に半ズボンのような水着と薄手の上着に着替えていた。それぞれ包みを受け取った俺達は言われた場所に入り服を着替えた。



「……」


「……」


 ワンダーは上下が一体となっているシマシマの子供用の水着で、ご丁寧に浮き輪まで装着していた。ワンダーはあまり気に入らないのか微妙な顔をしていた……でもお前、今子供だからね。可愛いじゃん。

 で、俺はというと……ブーメランの様な小さい布地、半分出ているケツ。……うん、人魚の国のヤツと同じやつ!


「……何でこんなチョイスなんだ」


「え、ダメ? その水着、今流行りなんだよね。何でも海の最先端である人魚の国から発信された形の水着でさぁ。売店で売ってるのコレばっかりだけど」


 見ると確かに他の奴らも布地の少ない同じ形の水着を履いていた。派手派手な色合いの奴らが多い中、俺のは黒を選んでくれたのには多少の良心を感じるが……本当だよな? ワザとじゃないよね?


「ま、ジェドっちはガタイいいから似合ってイイじゃん。皆の視線を釘付けだよ、ヒュー、よっ! 夏男!」


 ライアーが軽い感じで褒めてるのか弄ってるのか分からないような事を言って来た。お前、本当にワザとじゃないんだよな……?


「えと、とりあえず行きましょうか」


 他に術もなく、俺は半分出そうなケツを押さえながらプールへと進んだ。本当に視線が痛い。



 プールに入ると俺のブーメランは水中に潜らない限り目立たないので安心した。

 細長い通路の様なプールは川の様に一方向に勝手に流れていた。


「ここは魔術具で作られた水流があるから泳がなくても浮いてるだけで勝手に流れていくんだよな」


 ライアーがぷかぷかと浮くワンダーの浮き輪に手をかけながら浮いて流れていた。確かに、川よりも緩やかな流れが身体を運んでいく。

 ぷかーっと浮いているとふわふわして気持ちが良い。ただ、全身浮くとブーメランみたいな水着が日の目を見てしまうのが難点。仰向けに浮いてもうつ伏せに浮いても恥部でしか無いので俺は浮くのを諦めて水の中へと潜った。


(……ん?)


 水中で薄っすらと見えたのは男女が揉めて争っているような2人だった。

 水の流れや人でよく見えないので一度水上に顔を出すと、近くで1組の男女が言い争っていた。


 1人はエルフか何かの若い男だったが、1人は……水着の派手目な熟女……いや、うん。婆さんである。


「ええい、しつこい! もういい加減放っておいてくれ、儂ゃもうババアじゃ!」


「放っておける訳無いだろう! やっと見つけたんだ!!」


 ……何?? どういう状況?? エルフの男がババアに詰め寄っている。息子……? いや、孫?


 俺がよく分からず呆然と見ているとその婆さんと目が合ってしまった。

 婆さんは俺を見るなり掴みかかり、川の分岐した方へと巻き込んで押しやった。


「は?」


 丁度プールが2又の分岐になっていて、婆さんと共に違う方へと流された。エルフはこちらに入る事が出来なかったのか本流で流されて遠のいて行った。

 俺達の入った流れは何故かどんどんと早くなり、先が巨大な滝の様になっていて婆さんと共に思いっきり空中へと投げ出された。


 ああ、着水の衝撃で水着が脱げません様に……と祈ってブーメランを押さえながら俺はババアと共にプールの滝壺へと飛び込んだのだった。

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