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悪役令嬢はダイエットしたい



 悪役令嬢エリス・バンデアは気付いてしまった。


 この世界が『改革ヒロイン! 恋愛成就大作戦』という乙女ゲームの世界であり、自分はその中でライバルとして競い合う悪役令嬢である事に……

 自分はそのゲームの結末のように勝負に負けて追放される訳にはいかない。


「いかないのだ!!」


 バキッ


「えっ?」


「は? ちよっ、危な」



 エリスが休憩にと思い腰掛けた橋のヘリが壊れた。

 悪役令嬢エリス・バンデアは100キロを越すデ……ぽっちゃりさんであった。

 たまたま通りかかった漆黒の騎士ジェド・クランバルは手を伸ばしたが、思ったよりも令嬢が重かった為……一緒に川に落ちてしまった。



 ―――――――――――――――――――



 公爵家子息、皇室騎士団長ジェド・クランバルは悪役令嬢呼び寄せ体質である。


 とにかく悪役令嬢が絡む事件によく巻き込まれる。最近では悪役令嬢というワードが出てくるだけで呼ばれる程、この不思議な体質は皆に周知されていた。ただでさえ自力でも出会ってしまうのに余分に引き合わせないでほしい……


 先日は悪役令嬢を倒すべく異世界から来た自称勇者に絡まれて大変だった。異世界人は厄介なヤツもたまにいると聞くが、悪役令嬢が絡む事によって話が更にややこしくなっていた。

 尚、その事件の悪役令嬢は全然悪役令嬢ではありませんでしたがね。

 あまりにも俺が厄介事に巻き込まれるため『漆黒の厄介事処理班』とか陰で呼ばれ始めた。そんな役職は無いからやめてくれ……



 今日は普通に道を歩いていたら、女性が橋から落ちそうになっていたので咄嗟に助けようとした。

 が、思いの外重くて一緒に落ちてしまった。幸い川はそんなに深く無かったので令嬢を引っ張り岸に上がり、服の水を絞る。


「もしや貴方様は……悪役令嬢を救って下さると有名な漆黒の騎士ジェド様ではございませんか?」


 いや誰だそんな噂流したの。俺は何か? 悪役令嬢の救世主だったのか? そんな訳は無いので変な評判を流さないでくれ。大行列が出来る相談所みたいに悪役令嬢が俺の前に並ぶ姿を想像して心底嫌になった。


「私は前世で『改革ヒロイン! 恋愛成就大作戦』というゲームをプレイしており、恐らくその悪役令嬢であるエリス・バンデアに憑依したのだと思われます」


 はい、やっぱ悪役令嬢でしたー! ああもう逃げたい……と思いつつ、今回の悪役令嬢は何だかいつもみたいにグイグイ来ないというか落ち込んでいるというか、なんかフォルムもいつもより丸いので色々気になった。


「して、そのゲームとやらはどういう内容なんだ?」


「『改革ヒロイン! 恋愛成就大作戦』は、超ぽっちゃりな主人公が減量したり花嫁修行したりしながらイケメン攻略者と恋に落ちるというストーリーです。そこに出てくる悪役令嬢エリスは、主人公の減量や花嫁修行をことごとく邪魔するライバルで、最後には国外追放となるのです」


「そうか……それで、君は何故川に飛び込んだのかね? 自分の悪役令嬢の運命を苦に命を断とうと……?」


「いえ、ランニングしていて疲れて休憩をしていただけなのですが……橋が脆かったのか壊れました」


「……」


 俺は無言で橋を見上げた。なるほど、橋が脆かったのだろう。あと何だ、俺が予想していたより力加減が足りなかったから落ちたのだ。エリス嬢はなんにも悪くない。うん。


「思っている事は分かります。悪役令嬢エリスはかなりぽっちゃりさんなので。そうゲームで語られていましたし。……でも!!」


 エリスは肩を掴み揺すってきた。痛い、以外と力強い。異国にはスモウとかいうぽっちゃりさんが操る武術があるらしい。ぽっちゃりさんは強いのだろうか?


「騎士様!! 私のダイエットを手伝って下さい!! 私……婚約者のカイルを愛しているのです!! ゲームでは、カイルは主人公の攻略対象者であり、私は婚約破棄されてしまう運命にありました。ですが……私は……綺麗になってカイルと結ばれたいのです!!! お願いします!!」


 えー……そんな事言われちゃうと放っておくわけにもいかないじゃん。


 かくして、俺と悪役令嬢エリスのダイエット大作戦が始まった。



「まぁ、1番手っ取り早いのは運動だろうな。丁度君も走っていた所なのだろうし。まずはこの辺りを一周してみよう」


「はい!!」


 ドスドスと音を立てながら走るエリスだが、数10歩進んだところで疲れてペースが落ちる。え? 待って、早すぎない? 始まったばかりなんですが……?


「ちょっと休け……あっ――」


「ちょ、おまっ――」


 休憩にと橋に手をかけたエリスはまたしても橋を壊して川に落ち、またしても助けようとして俺も巻き込まれて落ちた。さっきと全く同じである。そりゃそうよね、まだ少しも痩せてないから。


「……すみません、でも川を泳いだからちょっとは痩せましたかね?」


 ……川でぽっちゃりさんを引っ張って泳いだのは俺なんですが?


「……いきなり走らずに、歩こう」


 無理はいけないのでまずは歩く事にした。

 しばらく歩いていると賑やかな屋台通りが見えてくる。


「ここ、屋台の食べ物が美味しくて目の毒ですよね」


 と言いながら、エリスは流れるように屋台で買い食いをしていた。え? 何してん君?


「君は……減量中では?」


「ほーんと、目の毒ですよね」


 目の毒とは……見ると欲しくなるから見ない方が良いという意味だった気がするが。君、毒食っとりますがな。


「はー、疲れた。今日は沢山歩いたので無理はしないようにして終わりにした方がいいですよね。あーお腹空いた。帰ってご飯食べなきゃ」


 今君が食べていたのはご飯じゃないなら何だったんだ……?

 俺は思わず、帰りかけたエリスの肩を掴んだ。


「お前……痩せる気あるのか? ……ちょっと来い」



★★★



「こ……ここは一体?」


 俺と悪役令嬢エリスは洞窟に来ていた。あの岩がいっぱい流れてくる洞窟である。


「ここは、流れてくる岩を避けながら進む洞窟だ。そして――」


 俺は檻を指差した。


「?!! カイル!!」


 檻には縛られたカイルが入っていた。


「君には少し荒療治が必要だ……カイルを助けたければ岩を乗り越えゴールまで来い!!」


「そんな……あっ!」


 そうこうしているうちに岩が流れてきたが、面積の広いエリスに岩が当たりまくり粉砕する。1機減ったものの、岩が粉々だ。いやエリス頑丈すぎるやろ……


「ゴールで待っているぞ!!!」


「カイルーー!!! 待ってて!! 助けるから!!!」



 と、ノリノリで最終面まで来たものの、やはりすぐにはエリスは来ず、カイルとの沈黙の時間が結構続いた。

 ……一体俺は何をやっているのか。


「何かすみません……騎士団長にまで迷惑かけちゃって」


 檻の中のカイルが申し訳無さそうに呟いた。


「俺……別にエリスがぽっちゃりでも全然構わないんですけどね。エリスはゲームだかなんだか分からない前世の記憶に囚われて、無理して頑張ってるけど……それは全部俺の為だって知ってます。こんなに自分の為に頑張ってくれる女性を……想ってくれるエリスを嫌いになんてなれませんよ。俺は、他にどんな女性が現れようとも、すでに彼女を愛しています」


 そう言って檻の中で照れながら微笑むカイル。

 ……あれ? めっちゃいいヤツじゃん。ダイエット必要なくない?


 グオオオオオオオオオオ


 その時、雄叫びと共に岩の壊れる音が聞こえて振り向いた。


 エリスは……来たのだ。岩を鉄球で壊しながら。


 えっ? ああそうか……直接岩を壊すと当たり判定だけど、鉄球を投げて壊すのはアリなのか……そんなルールマリアも知らないんじゃない? ってそういう問題ではない。


 エリスは少し痩せていた……というか引き締まりめちゃくちゃ筋肉が付いていた。鉄球を投げ続けた腕はムキムキになっていた。え? 思ってたんと違う。


 ゴールまで来たエリスは雄叫びと共に檻を力任せにこじ開けた。いや、ここにスイッチあるから……

 その姿は正に怪物のようだった。岩を避けるゴリラのような怪物……あれ? なんか元のゲームと合ってる気がしてきた。


「カイル……私――」


「エリス! 俺は……君がどんなに頑張り屋さんか知っているし、それが俺を想っての事だって知ってるから……どんな姿だって構わない。君を愛している。ゲームだとか運命だとか……そんな物より俺を信じてほしい」


「カイル……」


 かくして、2人は結ばれた。エリスの努力が掴み取った愛である。ちょっとムキムキになったけどダイエット革命は成功したのだろう。


 ゲームクリアの音が2人を祝福しているようだった。



 ちなみに後日、違うぽっちゃりさんを助けようとしてまた川に落ちた。

 主人公の方は当分痩せそうにない。

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