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漆黒の騎士VS純白の騎士(後編)

 


「はっ!! 素晴らしいな! 正に、白を愛し、白に愛されし男……純白の騎士ブレイド・ダリアに相応しい魔法だ」


 純白の騎士ブレイドは満足げに笑った。陰影も無く白だけの世界……目が可笑しくなりそう。これが絵ならば描くのが楽だろうが、生憎文字である。


「古代の神聖魔法を出してくるとは。でも、白いだけって魔法としては凄く面白いけど何の為に考えたんだろうねぇ。こんな物はすぐに破れ――」


 シルバーがニヤニヤしながら魔法陣を描こうとした。が……


「あ……」


「どうしました?」


 シルバーの指は魔法陣を描いているはずだが、その指先には何も無かった。


「……多分描けてると思うんだけど、魔力の光が白くなっちゃって何を描いているか全然見えない。参ったねぇ」


「え? 魔法が使えないんですか??」


「あ、いや、使えるんだけど……」


 シルバーが首を傾げて目を凝らしながら当てずっぽうで丸を繋げると、何かが発動して白い何かが皆の頭上から降って来た。何これ、何かベタベタして滑る。


「……これ、何の魔法ですか??」


「だから見えないからよく分からないんだねぇ。流石、意味不明でお馴染みの古代の神聖魔法だね。コレは魔法使いには完全に不利だよ」


 どうやらこの魔法、魔力が白くなり魔法陣がマトモに描けないらしい。

 俺も遠近感が分からなくてさっきからめっちゃ角にぶつかったり転んだりしている。


「ふっ……やはり白こそ最強。白は素晴らしいだろう? さぁ、君も白に抱かれながら安らかに眠るがいい」


 白くてよく分からない景色に苦戦している俺目掛けてブレイドが攻撃を仕掛けて来た。まずい、やられる……


 と、思ったが思いっきり段差を踏み外し、ヌルヌルした何かに滑り壁に激突した。いや、お前も白に愛されてないようだが。


 よし、チャンス! ――と思ったが……さっきぶつかって転んだ時に剣を落としてしまったみたいで見当たらない。え? ちょっと、どこ落とした?? 全然見えない。ガラクタと同化してる。

 その間にもブレイドが攻撃を再び仕掛けようとしたが、よく見えない上にシルバーのよく分からん魔法のせいで床がツルツルして派手にすっ転んでいた。何これ、何の時間?

 剣は見つかったけどツルツルヌルヌルして全然掴めないし。マジで何の魔法なのこれ。


「……この白い魔法さぁ、誰も得しないからもう止めない?」


「何を言っている!! 得とか損とかそう言う問題ではない! 白こそ至高なのだ!」


 いや、その至高の白に思いっきり邪魔されてますけどね。白くない時の方がマトモに戦えていた気がするんですが……??



「……これ、いつ終わるんですかね」


「さぁ。それより……君のその胸からぶら下げているペン、何故それだけ白くないんだい?」


「え?」


 ワンダーは自分の胸を見た。そこにはいつも着けている赤とか黒になる不思議なペンがあった。

 アレは前に借りたことがあるんだが、ワンダーはいつでも書き物が出来る様に胸にペンをぶら下げているらしい。


「え?? 何でこれだけ……」


 ハッとしたワンダーは鞄の中から本を取り出した。

 異世界から持って来たであろう見た事もないその絵本は白いこの部屋でもカラフルな色合いを保っていた。その赤白の服の奴が沢山居る本が何なのかは気になるが……


「つまりコレは……本の中のみ魔法が効いているって事ですか。考えてみれば確かにそうか。て事は――」


 ワンダーは自身の書いた本を開いて中に飛び込んだ。ワンダーの著書の先は異世界の自室らしい。

 再び飛び出たワンダーが手にしていたのは黒いポンプだった。


「それは何だい? 何かの魔術具……ではないねぇ」


「ただの墨汁です!」


 ワンダーはフタを開けると中身を思いっきり床にぶち撒けた。


「何?!」


 黒が床に広がる先、墨汁が染みた紙に描かれていた魔法陣はその魔法式の一部が消えて効力を失った。

 途端、部屋中に色が戻る。俺は漆黒の騎士へと戻りブレイドは銀髪に……そして喫茶店の店員の後ろ半分は肌色だった。そう言えばケツ出てたんだった。


「き、貴様!!!」


 忌々しげに見るブレイドにワンダーは墨汁の残りをぶち撒けた。


「くっ、黒!!!」


 ブレイドが怯んだ隙に俺達は喫茶店を出る。追いかけようとしたブレイドだったが、思いっきりツルツルした何かを踏んで転んでいた。よく見ると部屋中スライムだらけじゃねぇか……


「君の事は必ず何とかするから、待っていてくれたまえ」


 シルバーが半ケツ……いや、全ケツ店員にそう言うと、店員はコクリと頷いて見送った。



 街中から少し離れた森の方まで逃げ延びた。ブレイドは追って来てはいないようだ。

 そのまま目的地としていた不思議な色の山の方面へ進むと白い神殿が見えて来た。……あれだろうなぁ。


「あー……このせいで他の本に行けなかったのかなぁ」


 ワンダーは喫茶店から逃げる時にブレイドの持っていた本を鞄に入れて持ち去っていた。

 抱えられて走りながらその本をパラパラと確認していたのだが、どうやら主人公の名前らしき所が千切られていたようだ。


「なるほど、君の他の著書に移動出来なかったのは、破られて本としての機能を失ったからなんだねぇ」


「僕が幾ら書き込んで内容を修正してもそんな事は無かったのに……」


「作者だから本への物理的な影響は無かったのかねぇ。所で、この本自体はこちらの世界の材質で作られているのかい?」


「ええ。本自体は……」


「じゃあ紙だけならば直す事は出来るよ?」


 シルバーが魔法を使うと破れた箇所が元通りに戻って白い紙が繋がる。


「わー……魔法って便利ですね。劣化した本とか直して貰いたい」


「この世界の材質なら可能だけどねぇ」


「なぁワンダー、それってお前が消えている所を書けば元通りなんじゃないのか?」


「確かに……そうですね」


 ワンダーはその空白の部分を書こうと胸のペンを外した。


「えーと……この本は……あ、これも『箱庭の哀れな天使』だ。じゃあ、ここは『天使のような少女』か」


 空いた空白に少女の名を書き込むと、文字が本に馴染んで一瞬光ったような気がした。

 ワンダーが試しに手を入れると、その小さな手がするすると本に入っていく。


「うん、大丈夫みたいです。良かった」


「しかし何の為に本の一部を破ったんだ?」


 破られていたのは本の登場人物の名前の部分……


「まぁ、本の女性を集める呪術か魔法か何かを使う為じゃないかね? 無くなった本に居なくなった女性……そう考えるのが妥当だろうねぇ」


「なるほど。アイツがあの本を持っていた辺り、あの神殿に本があるかも知れないな。女性達もいるといいけど……」


「可能性はありますね。何処かに連れて行かれて無ければ良いのですが」


 とりあえず俺達は白い神殿へ向かう事にした。白はもうあまり見たくないから、神殿の中は白じゃないといいなぁ……



 ★★★



 ワンダーの本が直ったのと同じ時、千切られた本の切れ端の1つがスッと消えた。行き場を失った瘴気は空中に漂って溶ける。


「……っ?」


 オペラは薄暗い部屋の中で目を覚ました。周りには女性達が寝ていたが、彼女達は瘴気に纏わり付かれいくらゆすっても起きる気配は無かった。

 ふと背中に違和感を感じ、手で確認するとまたしても羽が6枚無い。

 何故そんなに羽を毟るのが好きなのか? 生えそろったばかりなのに何をするんだ――とオペラは苛ついた。


 状況は中々把握出来ないが、ここの女性達も含めて何者かに連れ去られたと見て間違いない。

 この聖国の女王オペラ・ヴァルキュリアを誘拐した上に羽まで毟るとはやってくれる。と、オペラは怒りを抑えきれず部屋を出ようとしたが、誰かが来る音が部屋の外から消えたので他の者と同じように眠っているフリをした。


 扉を開けて入って来たのはフードを被った者達。暗くて良く見えなかったが、扉から差し込む陽の光で見えたここは牢屋だったらしい。

 向かいの牢屋に拘束された人を新たに2人捨てて、また扉を閉めてフード達は出て行った。


「……行ったみたいですよ、陛下」


 むくりと起き上がり拘束を千切るその姿に、オペラは見覚えがあった。あり過ぎた。


「――え……ルーカス様? と、シャドウ??」


「え?? オペラ様??? あ、ご無事で良かった!」


 拘束されて連れてこられたのは帝国の皇帝ルーカスとシャドウだった。寝起きのオペラには一体どうなってどの位眠っていたのかも何もかもピンと来なかった。ルーカスもオペラを凝視して驚いていた。

 そこへ……ガチャリと扉が開き、再び人が入って来る。


「怪しいヤツを拘束したって言われて来てみれば……皇帝と変な甲冑じゃない。拘束も解かれてるし……というか、何でオペラ、アンタも起きてるワケ???」


 それは、最悪な事にオペラの兄、ロスト・ヴァルキュリアであった。ロストも訳が分からない顔で3人を交互に見た。

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