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竜の修行道はあの……アレ(中編)



 深刻そうなワンダー。その前で俺達は首を傾げていた。


「で、結局これは何なんだ?」


「……昔々、ある所に地下でひたすら下水道の工事をしているおじさんがいました」


 何で昔話……?


「下水道にはありとあらゆる魔物が生まれ、それをひたすら倒していました」


「おじさん強いな」


「ある時、その国の姫が怪物に拐われまして……おじさんは地上に出て姫を救出に行くのです」


「おじさんに急に課せられるな。他に騎士とか勇者とかいなかったのかよ??」


「運命を背負うのは我々のような魔法使いや騎士ではなく、何の力を持たない何でもない者というのは往々にある話だねぇ」


 最近異世界から来たイケメンでも何でもないモブ顔のやれやれしているヤツがやたらにモテるのはそういう事か……? 俺達みたいに力を手に入れる為に日々コツコツと頑張っている者もいるのに世の中は不公平である。いや、おじさんが地下で筋トレとか頑張っていたからこそ凄いパワーで怪物を倒せたのだろう。きっとそうに違いない。


「で、その話と今の状況に何の関係があるんだ? まさかそのゲームだとか言わないよな?」


「その……まさかです。僕はこのトンネルに見覚えがあります。そのおじさんが地上に出て姫を助けに行くスタート地点こそ、このトンネルなのです」


 ワンダーは神妙な顔でトンネルを指差した。何だろう、その話とかゲームとかいうヤツに妙なデジャヴを感じた……どこかで……


「この修行道自体がゲームのようになっているという事かな? 崖下に落ちてしまったのでスタート地点に戻ってしまったと」


「恐らく……それに」


 ワンダーが指差す俺の頭上……見覚えのある数字――


「……これはアレか? 減っていく数字が時間制限で、ゼロになるとまたスタート地点に戻されるとかいう……?」


「知っているのですか?」


「……今思い出した」


 そう……あれは悪役令嬢に絡まれる事が増え始めた時期だから相当前である。コレはあの岩令嬢の岩流れ洞窟と同じ状況なのだ。


 岩令嬢とは……岩がひたすら転がって来る謎の洞窟で出会った悪役令嬢である。信じられない事にそれも乙女ゲームなのだとか。登場人物である本人達も謎ゲームと言っていたので本当によく分からない。


「前に似たようなゲームに巻き込まれた事があるんだ。その時は洞窟だったが、やはり同じ様に数字が減っていた。この数字が減って0になっても、ダメでまた元の場所に戻ってしまうんだ。もしかしたら異世界人が絡んでいるのか……はたまた同じ奴の事件に巻き込まれているか」


 とは言え、俺達の目的地はこの遥か先である。今更引き返す事も出来ないし、そもそも引き返せるのかどうか……


「とりあえず、進んでみるしか無さそうだねぇ」


「気をつけて行こう」


 まぁ、いざとなればシルバーが魔法で何とかして……ダメだ、またすぐ魔法に頼ろうとしている。いけない。


 俺達は慎重に辺りを伺いながら先に進む事にした。先程迫って来たスライム達が再び出る様子は無く、少しホッとした。

 警戒しながら少し進むと、道端にポツンと宝箱が置いてあった。


「? 何だこれ……」


 気になって開けてみると中から食肉花が飛び出して来て俺の腕に齧り付いた――痛い。

 すると辺り一面暗くなり、また3人とも元のトンネルから這い出るようになる……え? 今のダメなの??


「……ジェド、気を付けようって言いましたよね?」


「というか、あんな腕に齧り付かれただけで死に判定っておかしくないか?? さっきの崖もそうだけど全然平気なんだが???」


 そう、先程から全然死ぬような怪我は負って無いのに勝手にトンネルに送り返されているのだ。


「そもそも、崖や食肉花で死んで戻っているのを理解するとしても、さっきからジェドだけが死に判定を受けているのに何故私達も一緒にトンネルから出るようになってしまっているのだろうねぇ?」


「もしかして死に判定出るのは俺だけなのか?」


「試してみようか」


 シルバーはワンダーの事をむんずっと掴んで食肉花に差し出した。おま……


「うわーーーー!!!」


 ワンダーが叫びと共に丸飲みされるとやはり辺りが暗くなり、気がつくとトンネルから這い出ていた。


「急に何するんですか!! 死ぬかと思いました!」


「ふふ、大丈夫じゃ無さそうだったら私が必ず助けるつもりだったから安心して?」


 鬼かコイツは。あと、それはやる前に言うセリフだぞ……?


「はぁ……それはそれとして、ジェドだけじゃないみたいですね」


 どうやら俺達3人ひとまとめで1つのプレイヤーになっているらしい。


「誰か1人が死に判定になるとトンネルからやり直しとは……結構厄介だねぇ」


 確かに……俺やシルバーはともかく、ワンダーは子供の姿だし戦い向きのスキルも持っていない。

 だが、ワンダーは鞄からゴソゴソと本を取り出した。


「それなら、僕はこの本の中に入っていれば良いんじゃないですかね? 鞄を持っていて貰うだけなら僕1人を守りながら進むよりは楽ですよね」


「確かに」


 ワンダーは本を広げてピョンとそのままダイブした。

 ……その瞬間、俺達の景色が真っ暗になりまたトンネルから這い出ていた。


「……ちょっと待て、ワンダーのそれも死に判定なのか???」


「ふむ。この世界から居なくなったのが死んだという事に値するのかもしれないねぇ」


「そんなぁ……」


 ワンダーはがっくしと肩を落とした。楽はしちゃいかんという事だ。諦めて一緒に頑張れ。

 俺はワンダーをいつもの様に肩車して進む事にしたが、ワンダーを持ち上げた時に急にクシャミがしたくなり変な体制で思いっきりクシャミが出てしまった。


「へっくしっ!!! あでっ!」


「ジェド、大丈夫ですか?」


 クシャミの勢いで首がつった。よくクシャミで肋骨折れる奴もいるが、こういうのって鍛えられないから打撃攻撃を受けるより死ぬ程痛い。


「ちょっと……首がつって痛――」


 ……次の瞬間またトンネルから出ていた。……おい。


「今のは死に判定じゃないだろ! いてて……」


「ダメージを食らった時点で駄目とは手厳しいねぇ」


 シルバーが首に回復魔法をかけてくれた。首がつったのも回復魔法で治るとは知らなかった。魔法って本当便利だ。


「まぁ、割と古いゲームってそういう所ありますから……敵に当たっただけで死ぬとか」


「怪物に立ち向かう割には繊細過ぎないか?」


「ゲームですから……」


 もう色々考えても無駄だと悟った。数刻やっても一向に前に進んでないのだから……


「もう、しのごの言わずに前に進もう。とにかく、気をつけて行くしかないんだろ?」


「……さっきも同じ事言ってましたけどね」


 とりあえず現状が把握出来た俺達は辺りを警戒しながら山をどんどん進んで行った。

 やはりスライムや変な生物が襲って来たが、なるべく触らない様にシルバーの魔法や俺の剣波で吹き飛ばして蹴散らした。

 普通に戦ったらね、強いはずなんだけどね。何でいつも普通に戦う機会が無いのだろうか……


 途中、幾つかの似たようなトンネルの横を通ったが、しばらく進んで行くとそれは現れた。

 道沿いに建っていた赤い石像。

 変な生き物の石像だったので何かの魔獣のモチーフか? と思いながら横を通り過ぎようとした時、石像の目が急に光出しその口に魔法陣が現れて炎が放たれた。


「! 危ない!!」


 俺はシルバーのフードを掴み、横に飛び退く。受け身は怖いから取らない。そっと着地した。

 炎は俺達の居た辺り一面を焼き、燃え広がりそうだったので火を剣で凪いで消しとばした。


「そんな事も出来るのですね……」


「まぁな。騎士団長だからな。それより、あの石像には魔法がかかっているみたいだ。目に入った者に炎を吹き出すタイプみたいだな。気をつけて進――」


 進もう、と言いかけた時……俺は嫌なものを見た。

 目をキラキラと輝かせているシルバー。


「石像が出す炎かぁ……どんな威力なんだろうねぇ」


「……おい、お前……まさかとは思うが食らいたいとか言わないよな?」


「あの石像の魔法陣、ちょっと変わったタイプだったんだ。魔術具じゃないね、石像自体に力が込められている……天然物かな? 人工物かな? ああ……味見したい……」


 いや、魔法は食べ物じゃないけど???


 引き止める俺達に「ちょっとだけ、ちょっとだけだから」とトロンとした目で石像に近付くシルバー。うん、説得無理かも。

 案の定正面に来た瞬間に石像の出す炎を3人いっぺんにマトモに食らい、次の瞬間暗転した。

 またしてもトンネルを這い出る俺達……ちょっと心配だったが幸い火傷はしていなかった。食らう直前は死ぬ程熱かったんだが……


「うーん、直前でトンネルに戻ってしまうとは。お預けを食ってしまったねぇ」


「……お前なぁ」


「ああ、ごめんねジェド。ちょっと物珍しさについつい試したくなってしまったんだ。次は大丈夫だから」


 ニコニコと笑う反省の色の見えない魔ゾである。


「あれ? でも、ここって最初の所と違いますね」


 ワンダーが言うように、トンネルを這い出た所は先程の石像の手前であった。


「どうやら定期的に現れるトンネルがセーブポイントになっているみたいですね」


「はー……良かったぁ。あの最初の所まで戻されるのかと思って焦った」


 気を取り直して赤い石像の方を見た。俺は遠めから石像の視界に入らないように剣をぶん投げる。剣の刺さった石像はそこから粉々に砕けた。流石光のオッサン剣……本当は剣士としてこんな雑な剣の使い方は良くないんだが、マゾのクレスト剣にはこの位で丁度いいだろう。

 現に石像から剣を引き抜いた時に剣が熱く高揚しているようだった。うーん、剣が喜んでいる。……やっぱこの方法は止めよう。


「これでここは大丈夫だな」


「ジェド……大丈夫じゃないみたいです……」


 ワンダーが困ったように指差す先、道が延びる先には色んな色の石像がこちらを見ていた。


 皆が一斉に口に魔法陣を出す。


「……」

「……」


 俺とワンダーは恐る恐る横を見た。予想通りシルバーは手を組んでキラキラとした目で石像を見ていた。


「ああ……あんなに沢山……」


「おい、やめ――」


「ジェド、止めても無駄ですよ……」


「そうだな」


 両手を広げて嬉しそうに魔法攻撃に包まれるシルバーと、諦めて目を瞑る俺達は……火なんだか水なんだか雷なんだか氷なんだかレーザービームなんだか爆発なんだか分からない攻撃ちゃんぽんを受けて、そのまま視界が暗転した。

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