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竜の修行道はあの……アレ(前編)


 

「ふふふ、昨日はお楽しみでしたか???」


 レイジーが腐った笑顔をこちらに向けてくる朝……ああ、お楽しみだったとも。

 シルバーに服を着せるための危機一髪パズル第2回戦をな。


 竜の秘湯で休んだ俺たちはしっかり英気を養い、宿を後にした。

 レイジー・トパーズは妄想をフル充電したらしく、忙しそうに帝国へと帰って行った。またいらぬ薄い本が生まれてしまうのかと思うとここに埋めて行った方が良かったのかもしれないが。


「この道を真っ直ぐ下ったり登ったりするのが竜の修行道で、それを抜ければウィルダーネス大陸ですね」


「ああ。ここまで長かったが……更に道は遠いな」


 本当に長い旅である……。新たな目的が増える度に目的地へ行く道のりがどんどん長くなっている気がする。おかしいな、1〜2話の短編の集まりではなかったのだろうか? 長編になっちゃってるけどついて来てくれよみんな。


 それもこれもシルバーが断固として移動魔法を使いたがらないのがいけない。結果として道中あちこちで不穏な事件を発見している訳なのだが……

 まぁ、シルバーの魔法にはあまり頼らないと決めたのだ。自力で頑張ろう。


「そういえばジェドは竜の修行道を通った事があるのでしたっけ?」


「通ったって言ってもラヴィーンへ向かう途中で落っこちただけだからなぁ。しかもラヴィーン寄りの場所だったみたいだし」


 以前、ナーガが未だ竜の国にいた頃に空から行こうとして竜兵の襲撃に遭い、落っこちたのがこの道の途中であった。

 俺の腰に勝手に収まるロマゾこと光の剣士クレストが長い年月をかけて修行した後に辿り着いたとか何とか言っていた気がする。


「クレストのオッサンが何十年も修行して辿り着いたらしいが、そんなにウィルダーネス大陸までは遠いのか?」


「そんな事は無いと思いますが……」


 ワンダーは鞄の中から地図を取り出した。


「ええと、竜の抜け道がこの辺で……ラヴィーンがここでしょう? 温泉宿が景色的にこの辺りで……」


 地図はかなり精巧に出来ていて山々の詳しい道まで載っていた。マップ専門職の方々が出している詳細な地図は各国毎に発行されていたりする。ちゃんと毎年更新されて新しい道も対応しているのが素晴らしい。

 ワンダーが指差す先からするすると道沿いに指を伸ばして行くとウィルダーネス大陸の国境になり、更に山を下るとイスピリの国へと入る。


「……かかってもひと月……いやまぁ、どんなにゆっくり行ったって1年が限度だろ。何十年も何してたんだよオッサンは」


「まぁ……修行だろうね」


 地図で見ると案外近くてビックリした。長い年月をかけて竜の国を目指したとか仰々しい事言ってビビらせるからどんなに遠いのかと思っただろうが……


「でも、案外険しい道のりだったり過酷な試練があるんじゃないですか? 何たって古から冒険者が竜に挑戦していた位ですから」


「それもあるかもな。だが、俺たちは逆方向なんだが……この場合は険しいのか??」


「どうなんですかね? 想像もつきませんが」


 ワンダーも竜の修行道についてはあまり詳しくは無いらしい。昔作った乙女ゲームで似たようなマップを見た事がある気もするらしいが、ワンダーはシナリオを書いても実際にその乙女ゲームをプレイした訳では無いので様子が分からないそうだ。


「ま、とりあえず行ってみれば分かるか。よしワンダー、肩車してやるから乗れ」


「……僕はいつまでこのままなのでしょうか? あと、僕だけ歩いてないのも何だか申し訳ないのですが」


「お前の指名手配が解けるまではそのままで居て貰うしか無いだろ? 普通に歩くとリーチが短いから合わせてらんないし気にするな。シルバーだって全然歩いてないし」


 シルバーはたまに箒に乗ったり普通に浮いたりしながら休んでいた。何故箒なのか聞いたら特に意味は無いらしい。ふわふわ浮く布団で寝ながら付いてくる時もある。魔法の無駄遣いであるが、コイツは無駄遣いする位で丁度いいみたいだ……


「失敬な。サボっている訳じゃ無いんだよ? 魔法で浮くのだって体幹とかバランスを取る筋力とか要るんだからね?」


「そうなの……? そういやお前、無駄に身体ががっしりしていたな」


「魔法使いだからってガリガリだと思うのは君の偏見だよ。この魔術具達だって意外と重いんだからね」


 そういえば意外とずっしりしているなとは思っていたんだよな。

 え? 魔法使いのローブの中身とか全然興味は無かったんだけど、もしかして知らないだけで皆ムキムキなのか…? それは何か意外すぎるな……今度城に戻ったら魔法士に聞いてみよう。

 渋々と乗るワンダーを肩車して俺達は山道を下って行った。


 最初は順調に何も無く歩いたのだが、次第に異変は少しずつ見えてきた。


「何だ、このトンネル」


 山道に突然現れたトンネル。それは地下に続いている縦型の穴だった。


「中は……何も無さそうだけど?」


 シルバーがライトボールを作って下に投げてみたが、トンネルの中は下に続くばかりで何も見えなかった。そもそも、人が1人やっと通れるようなそのトンネルは落とし穴にしても微妙に目立ちすぎるし用途が全く以って謎だった。


「?? 特に意味は無いのか……?」


 俺とシルバーは首を傾げているが、ワンダーだけは何か考えているようだった。


「ん? どした? 何か分かったのか?」


「いえ……ちょっと僕の知っている物に似ていたのですが……多分気のせいです。何も無いみたいだし先を急ぎましょう」


 ワンダーの言う通り、トンネルから何かが出てくる訳でも無く何も無さそうなので無視して先に進む事にした。


 少し進むと崖近くの道に出た。

 崖から望む景色はまだまだ山の中でウィルダーネス大陸は見えない。反対側にはプレリ大陸の草原が広がっていた。


「こう見ると結構な高さですね」


 ワンダーが下を覗き込んでプルプル震えた。高所は苦手らしい。俺は高い所は得意な方だとワンダーに言うと、何とかは高い所が好きって言いますもんねと言われた。何とかってなんだよ。


「ま、シルバーも居るし落ちる事はまず無いだろうが、仮に落ちても俺が助けてやるよ。これ位の高さなら多分受け身が取れる」


「……頑丈すぎません? あとこういう時に落ちる話はしないで頂けると――」


 ワンダーがそう言いかけた時、何かを発見して話が止まった。ワンダーの見る方を振り向くとそこには大量のスライムが居た。


「……これは……」


 そのスライムには見覚えがあった。アレだ、めっちゃアレだわ。ラヴィーンに居た黒いスライム。ラヴィーンの空から降って来たやつ……

 その黒スライムは大量に崖と反対側から現れ、ジリジリと迫ってきた。俺たちを崖に押しやる気である。


「うーむ……やっぱここは光のオッサンを起こさないとダメそうかな」


「まぁ、こうやって落とす事も出来るけど」


 シルバーが描いた魔法陣が幾つかのスライムの足元に現れ、そこにポッカリ穴が開いてスライムが落ちて行く。それは楽で良いな。


「難点はここが崖で足場が悪いという事だねぇ」


「おいコラ」


 シルバーがそう言った瞬間、穴の空いた辺りの地盤が耐えきれなくなり、俺たちの足場が崩れて真っ逆さまに落ちて行った。

 シルバーは魔法陣を作り、俺はワンダーを掴む。

 かなり深い崖下で受け身を取ろうとした瞬間――世界が暗転した。……え?


「ん? え???」


 真っ暗なトンネルを抜けたような感覚になり、次に光が目に入って来た時には見覚えのある縦型のトンネルから這い上がっていた。

 俺がトンネルから出ると、ワンダーも後ろに付いていて、魔法陣で浮いたはずのシルバーも何故か後ろから出てきた。……ナニコレ。


「なぁ……俺達は崖下に落ちたよな……?」


「むしろ私は魔法で浮いていたはずなんだけど、気がついたら辺りが暗くなってトンネルを出ていたねぇ」


「……何故?」


「摩訶不思議だねぇ」


 俺達が首を傾げていると、ワンダーがふるふると震えた。


「どうした?」


「……やっぱり……これは、アレかもしれません……」


「アレって何だ?」


「……あの……アレです」


 ……いやだから何だよ。

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