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密林のTKG……とても過酷なご飯(前編)


 

 在りし日の記憶


 まだ眠気の残る早朝、ぼんやりと目を開けるとエプロンを縛る後ろ姿。

 まな板を叩く包丁の音……鍋から香る味噌汁の匂い……


 温かなご飯の香り……


『早く起きろよ。ったく』


 がばりと起き上がるとそれは夢だった。もう、その人間は別の国に帰っていてここに居る訳が無いのだ。


 王の目覚めに家臣達が朝食を運ぶ。料理人が腕によりをかけた料理。同じ様に指定した食事……


 ――だが、それでは無い。


「……それではないのだ」


 小さな子供となり眠る獣王はポロポロと涙を流した。獣王を守る兵士達は困って顔を見合わせた。



 ―――――――――――――――――――



 奥に行くにつれてどんどんと蒸し暑く、草木も様相が変わっていく謎の密林。

 ここで暫く暮らしていたという三つ子の騎士の1人のザッハは、目印があるんだか無いんだか分からないような道を迷わずに進んで行く。

 何故プレリ大陸の爽やかな草原から急にこんな蒸し暑くてジメジメして生態系もよく分からない密林が出現したのかは誰にも分からないらしい。


「不思議な密林だよねぇ。プレリ大陸の中でここだけぽっかりと気温も雨量も何もかも違う。大地から感じる生命力も多いし、地底火山でもあるのかねぇ?」


「まぁファンタジー世界ですからね。アンデヴェロプトの魔力火山も不可思議ですし、僕からしてみると何が不思議で何が不思議じゃないのか基準がよく分かりませんが」


 先を進んでいたザッハだったが、俺が肩車しているワンダーの方をチラチラと見ながら聞いて来た。


「団長、その子……どこの子っスか? 子供にしてはめっちゃ流暢に喋るし、それにあの指名手配の男の人相書きに似てる気がするんすけど……」


「……細かい事は気にするな。俺にも深くて浅い事情があるんだ。それより、何処に向かっているんだ?」


 もう会う人会う人にワンダーの事を疑われている気がする……早い所、行方不明事件を解決した方が良さそうなのだが……何故俺達はこんな密林に居るのだろう。


「だから、卵を取りに行くって言ってるじゃないですか。もちろんニワトリの巣ですよ」


「……こんな密林の奥地にニワトリの巣?」


 てっきりとんでもない爬虫類やゲテモノの卵かと思ったのだが、普通にニワトリと聞いて肩透かしを食らった。

 そんなのでいいなら別にここまで来る必要無くない?


「まぁ、でもアンバーがここの食材がいいって言ってんだから何か違うんだろうな。ザッハが結構大変だとか言って脅すから、どんな化け物が出てくるのかと思っていたが……」


 ザパーーーーン


「ん?」


「あ」


 川沿いを歩いていると、急に川から何かでかい魚が這い上がってきた。身の丈は俺の倍以上ある巨大な魚だ。


「あー、主っスね。久々に見たわ」


「え、主……?」


「平たく言うと鮒っス」


「鮒……」


 ザッハが主と呼んだソイツはこちらをギョロリと向くと、大きな口を開けて急に襲いかかってきた。

 というか一瞬で俺が丸飲みされた。え??? マジ???


「ウワアアアア!!!!!」


 俺は一瞬地獄を見た。形容し難い景色だったので何とは言いたくないが何か凄い物を見た。

 あまりにヤバすぎたので剣を抜いて一刀両断するとすぐに外の景色が見えた。

 俺の肩にいたはずのワンダーはシルバーが抱えていた。おま……俺も助けろよ。

 そんな俺を見てザッハが関心した様に手を叩く。


「うわー、流石団長。アンバーに最初に会った日を思い出しました」


「おい……何なんだコイツは。てか、アンバーもこうだったのか?」


 身体中何か色々とベトベトで不快だった。充満する魚の臭い。くっさ……


「あー、割とそんな感じでした。ちなみにその魚はめちゃマズいっス……」


「食ったのかよ」


「まぁ……食わされたというか。流れで。それより団長、早く洗い流した方がいいですよ」


「え――」


 ザパーーーーン!!!!


 ザッハの指差す先、川からはさっきの主より更にでかいワニが現れた。


「主の血を嗅ぎつけて寄ってきたんスね」


「呑気に言ってる場合か!!」


 ワニはでかかった。もう、何かでかい、怪獣である。何これデカすぎない??


「え、えーと、ジェド、確かワニは口を開く力が弱いので上から押さえつけるといいとか、正面が死角だとか本で見た気がします!!」


 ほー、なるほど……正面が死角で上から押さえつけるね。よしよし。


 そして、ワンダーの言う通りに正面から押さえつけに行った俺はそのまま丸飲みされた。……うん、普通の大きさだったら良かったかもね。


「ハァ……ハァ……地獄を2回連続で見た」


 俺はワニを全力で中から真っ2つにした。景色は主とはまた違ったが思い出したくない……本当ヤバイ。地獄。

 俺の服についた主とワニの色んな汁をシルバーが洗浄魔法で洗い流してくれた。これ以上変なのに食われたくない……この調子でいくと俺が消化されるか精神が崩壊するかの2択である。


「なぁ、いつもこうだったのか? というか……ここに居る奴ら、何かデカくないか?」


「普通がどうなのか分かんないっスけど、アンバーはいつもああいう奴らと戦っては食って生活してましたね。気が付いたらここにいて、そうやって生活してたらしいっスよ。あと、プレリ大陸って密林に近づけば近づく程生き物が巨大に育つみたいですね。草原を走る変な生き物も、元はこの近くに生息していた動物だってアンバーが言ってましたし」


「ふむ、あの移動に使われる巨大動物はこの密林近くで進化したんだねぇ。この辺り全体に湧き出る生命力が関係しているかもしれない……興味深いね。ふふ」


 ザッハの話に感心したシルバーが上機嫌に頷いた。


「ん? という事はニワトリって……」




 辿り着いたニワトリの巣……密林の中心地に位置するそこは俺達でも感じ取れる程大地が熱く、確かに生命力が溢れていた。

 ……そう、生命力が1番溢れているであろうそこに巣を持つ密林のニワトリは――巨大だった。


「うーん、ビルで言うと5階位はありそう……」


「アレをニワトリと呼んでいいのか?」


「見た目は確かにニワトリだねぇ」


 でかい。とにかくでかい。そして、卵もでかい。卵だけで俺達より2回りはでかい。

 卵を見つめる俺達を巨大ニワトリはジロリと睨んでいた。ヒョエ。


「それでどうやってあの卵を持って帰るんだ?」


「うーん、アンバーは無理矢理持って帰ってましたけど」


「ええ……また戦うのか」


 しかし、あの卵を持って帰らない事には解決しないだろうしなぁ。

 俺は仕方なく卵を奪いに前に出た。ニワトリだから急に丸飲みする事は無いだろうと思いたい。

 ……というか、シルバーの魔法で卵1つ位チョロまかせるのでは?

 剣を抜きかけてシルバーの方を振り向こうとした時、後ろでニワトリがワッとうずくまる。……ん?


『暫く変な獣人が来ないから安心してたのに!!! また変な人間が現れた!!!! 酷い!!!!』


 ニワトリはそのままワーッと泣き出した。……何コイツ。喋った?


「ザッハ……何かニワトリが喋ってるけど」


「え? コイツ喋るんスか?? いつもアンバーが有無を言わさず気絶させて卵を奪っていたから全然気が付かなかった……」


「いや知らなかったのかよ」


 ニワトリはずっと泣いていたが、話が通じるなら普通に話せば通じるのでは??

 俺は泣いてるニワトリの肩に手を置いて話をしてみる事にした。


「あのー、泣かせるつもりは無かったんだ。済まないな。その……俺達は卵を貰いに来たんだが、1個だけ譲って貰う事は出来ないだろうか?」


 ……言ってから、そんな非道なお願いを聞いてくれるのだろうか? と思ったが、意外にもアッサリとニワトリは答えた。


『……別に良いわよ』


「やっぱダメだよな――え?! 良いのか??」


『良いわよ。だって、その卵、無精卵ですもの』


「ああ、確かに食用の卵は無精卵……つまり、雛の居ない卵ですね」


「そうなのか。よし、じゃあ卵を貰って――」


 お言葉に甘えて卵を貰って帰ろうとしたが、ニワトリはガシッと俺の肩を掴んで振り向かせ、言い放った。


『良いけど……ただし、ワタシの望みを叶えてくれたら。ね?』


 ……え? ニワトリの願いって、何?


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