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プレリ大陸のあの村で(中編)


 

「……明るいねぇ」


 俺とシルバーは子供用の服を着て宿の外へと出た。村中至る所に屋台が並び、楽しそうな音楽と共に子供達がわいわいと遊んでいる。

 お菓子や玩具が置いてある屋台は自由に取っても大丈夫なのだ。この夜だけは、夢を見ているかのように子供になって自由に遊ぶ事が出来る。


「何食べたい?」


「……その林檎の形をしたヤツ」


 シルバーの分も取って2人で噴水の縁に座って食べる。

 ここの屋台で売っている食べ物は見たことの無いものばかりだった。犬のお姉さん曰く、前に来た異世界人がどうせ夜に子供達が遊ぶなら子供の喜ぶ雰囲気がいいとお祭りを演出してくれたらしい。

 多国籍なお祭りの雰囲気は誰が見ても微妙に懐かしさを感じるようになっていたが、シルバーはあまりピンと来てないようだった。


「お前、こういうお祭りに来た事無いのか?」


「うーん……ある程度大きくなってからは、魔法都市で開かれるお祭りに行った事があるのだけど……子供の頃はあまり無いねぇ。だからこんなに小さな年の頃にこういう景色はあまり馴染みがないね」


「ふーん。つーか、お前いつから魔法使えるようになったんだ? その位の頃は使えなかったんだろ?」


 俺の問いかけにシルバーはピタリと笑みを止めた。え? 何か聞いちゃマズかった?


「いや、聞いちゃいけない話なら無理には――」


「……昔々、ある所に貧しい大陸に住む身寄りもない、何も持たない物乞いの子供がおりました」


 何で昔話風……? というかその子供誰?


「ある時、人さらいの魔法使いに騙されて連れ去られ魔力が噴き出る穴に落とされ……何やかんやあって不幸にもその子供は身体が膨大な魔力に乗っ取られそうになりました」


「ほほう、なるほど」


 どんな何やかんやなのかは聞かない方がいいな。


「それが私です」


「なるほど……?」


 話が端折られすぎて、料理過程をすっ飛ばして出てきた完成品を目の前に急に出された気分だった。


「そりゃあ大変だったな」


「まぁ、結果として魔法が使えるようになったのは良かったんだけど、年々魔力の調整が難しくなってねぇ」


 シルバーはポケットから割れた飾りを取り出した。魔力封印の魔術具だが、魔力に耐えきれず割れてしまったらしい。


「今はまだ大丈夫だけど、この先この身体がいつまで持つか分からないんだよ。先代の魔道主は何百年も生きたらしいからね、それは何百年も先かもしれないし、明日かもしれない。でも……何年、何十年か先にもし自分の魔力の制御が利かなくなって、大切な人を吹き飛ばしてしまったらと思ったらさ。……そんな存在は作らないようにした方がいいとも思っていたんだけど、ダメだねぇ。この世界には消したくない人が多すぎる」


 シルバーは寂しそうに呟いて語る。んー、何かコイツも大変なんだな。

 ……え? ちょっと待て、そのうち爆発すんの?? 怖いんだけど。

 俺は密かにシルバーから距離を取ろうとしたが、そういえば今は魔力無い子供だったんだ、と思い出して浮きかけた腰を下ろした。


「……ねえジェド」


 シルバーはいつもの笑いを無くして真剣な目で見てきた。笑っていない時のシルバーは寂しく暗い顔なんだよな。


「いつかの賭けで勝った時のお願い、今しても良いかな?」


「嫌だ。お断りします」


 俺の即答にシルバーは驚きこちらを見る。


「まだ何も言ってないのだけど……」


「言わんでも分かるわ!!! その流れだと絶対に爆発する前に君の手で殺してくれとかじゃねえか! 確実に!! 嫌に決まってるだろ!! 誰が喜んで友人を刺すんだよ!!」


「私は君になら刺されても良いと思ったんだけど」


「俺は嫌なんだが! 友人だと思ってるなら安易にトラウマ植え付けようとするの止めてくれないか? あと俺はお前がそんな事になったって泣かんぞ??」


「……薄情だねぇ」


 シルバーは少し残念そうな顔をした。いや、残念がられても嫌なものは嫌です。


「はぁ……あのなぁ、死なない方向で考えられないのかよお前は。誰も不幸にならない方がいいに決まってるだろ」


「……一理あるね」


「大体お前、魔塔の大魔法使いならその位自分で何とかしろ。お前だって自分のせいで友人が死んだら悲しいだろ?」


「……悲しいねぇ。だから私は君に――」


「お前が大切な人達を死なせたくないように、お前が死んで悲しむ人だって居るんだから、そうならないように努力しろ。甘えんな。自分でやれ!」


 俺はそういう後味悪いのが心底嫌なので全力で回避した。誰が好き好んで友人を殺めんだよ全く……

 少しでも多く魔力を消費したいとか、そういう事なら手伝うが後は自分で何とかしろ。


「……そうだね。ごめんね」


 シルバーは納得していつものニコニコ顔に戻った。


「じゃあ賭けのお願いは未だ保留だねぇ。どうしようかな……君の未来のお嫁さんとの新婚旅行にでも一緒に連れて行って貰おうかな? ふふふ」


「それは本当にやめてくれ」


 何かちょっと重そうな話になりかけたが回避出来て良かった。俺は他人の人生は背負わない漆黒の騎士。

 背負うのは未だ見ぬ未来の、かわいい恋人の人生だけでいい。


 2人で食べていた林檎の飴も無くなりかけた頃、俺達の前に1人の子供が現れた。

 見慣れた細い目は幼く身長も低い。


「ワンダー。ご飯、食べたのか」


「……」


 そこに現れたのは本の中に入ったまま出て来なかったワンダーだった。周りの者と同じく子供になっている。


「ジェド、彼は誰だい?」


 あれ? シルバーってワンダーを見た事無かったんだっけ?? ええと……何て説明したものか……


「あー……何というか、今指名手配されているヤツ……?」


「ああ、あの本の作者とかいう。でも何でここに普通に――ん? 君、さっき夕食もう1人頼んでいたよね。もしかしてずっと匿っていたのかい??」


「まぁ、そういう事になるな」


 シルバーにバレたか。そりゃあ、一緒に居たらいずれはバレるだろうけど。

 だが、オペラみたいに匿った事をめちゃくちゃ責めてくるかと思いきや、シルバーはくっくっくっと笑い出した。


「皆が血眼で探しているのに平然と匿っているなんて……君、本当面白いね」


 まぁ……血眼で探すようになったのも俺がうっかりポロっと口にしてしまったせいなんですがね。だが、シルバーはワンダーの事を通報する気はないみたいで安心した。アークといいシルバーといい、話が分かるやつが多くて助かる。


 当のワンダーは服の裾をぎゅっと掴んで言い出し難そうにおずおずと話し出した。


「ジェド……ええと、僕の話を聞いてくれるかな……?」


 ……お前まで身の上を話すの? 俺はお悩み相談室かな。いやまぁ、いつも悪役令嬢のお悩み相談室なんだけど。いつから悪役令嬢じゃないヤツのお悩みも聞くようになってしまったのか……

シルバーの過去のお話については番外編の方もご覧頂ければと思います(_ _)

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