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消えた悪役令嬢を探す旅へ(前編)


 

 移動の魔法陣から出てくるシルバー。困ったように肩を竦めて俺達に話し出した。


「こちらも何人かの人間が突然消えたみたいだよ。魔塔の魔女エヴィルに……それに、魔法学園のノエル・フォルティスもだ」


「ノエルたんも?!」


 マズイ……それは非常にマズイ。陛下だけじゃなく聖女の茜まで激おこぷんぷん丸になってしまったら世界はどうなるの???


 聖国の空中回廊の応接間。

 本当は色々言いたい側の聖国の若き家臣達が皆下を向いていた。俺達もあまりのお怒りっぷりに直視出来ない。空気を読まず喋りかけられるのはシルバー位だった。

 皇帝ルーカス陛下は激おこぷんぷん丸……いや、シンプルにブチ切れだった。


「……何が起きてるのか徹底的に調べろ……何処ぞの輩が起こしたのだとしたら生け捕りにしろ。私が直接手を下す……」


 うわぁ、陛下それ悪役の台詞ぅ。平和を愛する陛下をこうも変えてしまうオペラはそういう意味では悪役令嬢なんじゃ無かろうか。

 俺はチラリと、自分の所有物じゃ無い肩掛け鞄の中でブルブル振動している本を見た。陛下の向かいに座っている聖国人達と同じように本は震えていた。



 ―――――――――――――――――――



 時は数時間前。

 ワンダー越しに見た本から主人公の少女の名前やそれを表す記述がスゥっと消えていった。『天使のように美しい少女』や『女王』と言った文字が黒色のモヤに変わり空気に溶けたのだ。

 ワンダーの持っている本は『   は魔の国へと旅立ち……』と空白の混じるものになっていた。


「うわ、何これ?! 元から空白だった訳じゃ無いよな?」


「そ、そんな訳無いでしょう。ジェドも今見ましたよね。文字が勝手に消えていくの……」


 青ざめるワンダーと一緒に本を捲り調べていたその時、慌てた様子のシャドウが俺を呼びに来た。


「こ、ここに居たのですね! 大変です騎士団長!!」


「ん? どうしたシャドウ、何かあったのか?」


「オペラ様が……居なくなってしまったのです」


「は??? 何で???」


 何であの流れで居なくなるんだ??? もしかしてまた喧嘩したの???

 いや、そうだとするとシャドウが陛下をぶん殴って追いかけるような気もするけど……そんな雰囲気には見えなかった。


「何でかは何も分かりません……ただ、陛下が言うには、目の前から急に消えて無くなったそうです」


「目の前から……急に?」


 俺はついさっき目の前で急に消えた文字を思い出して嫌な予感がした。くるりと振り返ると何故かワンダーの姿は無く、アイツの見ていた本がパラパラと風に揺れて捲られている。


「騎士団長、どうかされましたか?」


「ん? いや、何も無いし誰とも話していた訳じゃ無いぞ」


「……? それで皆さん聖国の応接間に呼ばれています。聖国人達が女王の安否を心配して凄い剣幕でして。騎士団長も早く来てください」


「ああ、分かった」


 俺もシャドウに続こうとしたが、事務局のテントにワンダーの鞄が忘れられているのが見えた。

 どうせすぐ逃げたワンダーが取りに来るだろうと思ったが、落ちて開かれている本には明らかにオペラの事が書かれているし、誰かに見られてもいけないとその鞄に本を仕舞おうとした時――本からワンダーの顔がニュッと出てきた。


「どわっ!!!」


「?? 騎士団長?」


「あ、いや、何でもない、先に行っててくれ!!」


 本を後ろに隠してシャドウを見送り、見えなくなったのを確認してもう一度本を開く。


「流石にキモすぎるだろ……何なんだお前は」


「ジェドから気持ち悪く見えているだけでこちらは単純に本の中に顔を入れているだけなのですが……それよりちょっと困った事になりまして……」


 ワンダーは顔だけ本から出しながら眉を顰めた。


「他の本に入れないんです」


「? どゆ事??」


「実は僕、この世界に持ち込んだ本とそれを書いた部屋にある原稿や本の間を行き来しているんです。この世界には僕が書いた本が沢山あり、原稿を通じて世界各地に散らばるその別の本へ行けるはず……なんですけど。この本、というか僕のその鞄の中にある本以外にはこちらから入る事が出来なくなっているんです……」


「ふーん……お前ってそうなってんのか。お前の本って事は、皇城で預かっているオペラの本とかショコラティエ伯爵家とかで見たアレか?」


「そうです。それらの本に今何が起きているのかはちょっと分からないのですが、このまま何処かへ行っても何も分かりそうにないので……とりあえず情報を得る為に一緒にその執務室へ連れて行って貰っでもいいですか?」


「……俺は別に構わないけど。お前、その顔を出した状態だとヤバイんじゃないのか?」


 本から出ている生首が怖すぎて持ち運ぶのは正直しんどい。


「ああ、こうすれば大丈夫です」


 ワンダーの顔が引っ込み、本の表紙に耳が付いていた。……コレはコレでキモい。また顔がニュッと出てくる。


「本の表紙に耳を当てているだけですが……こうしていれば状況は分かるはずですし」


「お前、便利なのか不便なのかイマイチ分からんなその能力」


 ま、良いかと耳のついた本を閉じて鞄に仕舞い、肩に鞄をかけて聖国の空中回廊に向かった。

 でも、アークも居るなら奴にはすぐバレちゃうと思うんだが……アークなら黙っててくれそうだし説得してみようか。どう考えてもこの状況、ワンダーの本のせいっぽいけど本人も何が起こってるのか分からないみたいだし……解決するのに手が多いに越した事はないだろう。



 聖国人の兵士に声をかけ、ゲートに入れてもらうとすぐに王城の応接間に出た。

 そこにはアークやアンバー、シャドウ――それに陛下とその目の前には王城の家臣達が数人居たが、陛下の対面でガタガタ震えていた。

 安否を心配して凄い剣幕じゃなかたのか? と思ったが、理由は直ぐに分かった。目の前の陛下がそれ以上にとんでもなくブチ切れていたからだ。

 いや、顔は優しげなんですよ。口調も申し訳無さそうに聖国人家臣達に説明していたし。


「……君達の大切な女王が目の前で消えて行くのに何も出来なかった事は本当に済まないと思っている。我々の総力をかけて捜索に当たる」


「ハイ……オネガイシマス……」


 うーん、会話の文章で上手く表せないのが残念な位の威圧感と怒りのオーラがすごい。

 アークが痛そうに頭を抱えていた……色々聞こえるのだろう、陛下の声が。

 そりゃそうだよなぁ。あの決勝の感じだともうラブがラブするだけだったもんね。わざわざ2人きりになれる所に行った位だから今頃イチャイチャしてるんだろうなぁと会場中の誰しもが思って嫉妬に狂い、羨まし過ぎて泣いていた奴までいたからな。まさかそんな事になってるなんて思わなかったわ……


 陛下もね、前回はイチャイチャ前に寝落ちとかやらかしちゃったのに、今回は理由も分からず目の前で相手が消えちゃうとか不憫過ぎる。


 アークが俺の心を読んでウンウンと頷いていた。やはりそうか。

 が、アークは頷きをピタリと止めて俺の持ってる鞄を凄い顔で凝視した。……うん、そうね、何つーもん持って来てるんだって思ってるよね?? でも、今は黙っていて欲しいの。明らかにコイツのせいっぽいんだけど、何か違うみたいなんだよ。全然分からないけど……

 俺が目と心で訴えて首を振ると、アークは神妙な顔で頷いた。やはりアークは世界一話の分かる魔王である。ありがたい。


「所でシルバーは何処に行ったんだ?」


 見渡すとシルバーの姿が無かったのでコソッとシャドウに聞いた。


「……それが、実は消えたのはオペラ様だけでは無いみたいなのです。聖国の王城の通信魔術具に宰相から連絡がありました。帝国内で何人もの女性が消える事件がほぼ同時に起きたと……それで、とりあえず移動魔法の使える魔塔主様には魔塔に戻って頂き、アンデヴェロプトでも事件が起きてないか調べて頂いています」


「帝国で消えた女性って、どんな方なのか分かっているのか?」


「はい。宰相から来た連絡によると、ショコラティエ伯爵夫人、男爵令嬢フェリシア、ハーフエルフのサラ、太陽や氷や雨の精霊、元女盗賊のフローラ……それに帝国だけじゃなくエルフやドワーフの国の女性も何人か消えてるみたいです」


「……意外と多いな」


「それが、報告に上がっている他にも何人か貴族女性が消えているらしく……宰相も把握しきれていないそうです」


 そんなに何人も……? 今シャドウから聞いた名前は全部知ってると言えばそうけど……共通点何?

 そうこう話をしている間にシルバーが戻って来た。やはりアンデヴェロプトでも何人か消えているようで、魔塔の魔女エヴィルやノエルたんが居なくなってしまったとか……

 ノエルたんが消えた事は聖女の茜には悟られてはいけない。最近姿を見ないので何処に行ったのかは知らないが、戻る前に解決しなくては。


「どれもこれも悪役令嬢だな……」


「じゃあ、消えたのは悪役令嬢って事かい?」


「いや……悪役令嬢と呼ばれた者が必ずしも消えた訳では無いだろう。現に魔王領にいる魔族のベルは消えてはいない。魔族同士はその存在や意識が無くなれば分かるからな」


 そうなんだよなぁ。帝国だって他にも悪役令嬢が居たはずなのだが、消えてないヤツもいるらしい。何が原因なんだろう……

 最初、ワンダーの本からオペラの名前が消えたから本かなぁとも思ったんだが、ノエルたんが消えたとなると違うよなぁ。ノエルたんは確か乙女ゲームだったよな。

 俺はコソコソとワンダーに話しかけた。


(なぁ、お前乙女ゲームとかも作っているのか?)


(乙女ゲームですか? まぁ……シナリオを手掛けたりもしましたが、でもゲームは流石に持ち込んでは居ませんし、そもそも僕、現物をほぼ持ってませんから。ああ……何か凄く昔に1本だけ持ち込んだような気もしますが。何か最強の剣士を愛で育てるヤツ)


(……心当たりがあるんだが。父さん達のアレ、お前のかよ。……て事はやっぱゲームが原因じゃないのか……ノエルたんもゲームの悪役令嬢だしな)


(ノエルの事を言っているのなら、彼女は本の物語の悪役ですよ?)


(……ん?)


 ワンダーに言われて俺は思い出して手をポンと叩いた。そうだ! アイツが……勇者高橋が持っていた本!! アレの悪役令嬢じゃないか!!


「そうか。じゃあやっぱワンダーの本が原因で間違い無いな。全員そうだし」


「おい、お前……」


「ん?」


 アークが俺の顔をビックリしたような目で見ていた。よく見ると他の皆も注目していた。

 ……やべえ、小声で話していたつもりが普通に思いっきり声に出してしまった。鞄の中の耳付きの本が冷や汗だくだくとしていた。ごめん、やっちまった。

 陛下がこちらをめちゃくちゃ見てる。


「……ジェド、今何て言った」


「あ……いや、その……」


「確かに……何で気が付かなかったのだろう。行方不明の女性達は件のワンダー・ライターとかいう男の書いた小説に運命を弄ばれた者達だ。という事は……ワンダー・ライターが彼女達を拐ったという事か」


 鞄の中の本がぶんぶん揺れていた。多分首を振っているのだろう。分かるよ、俺だけは分かるよ。お前じゃないって事……


「直ぐに指名手配をかけよう。ワンダー・ライターを探せ!!!」


 陛下の指令が通信魔術具で帝国へ行き、帝国から全国へ渡り――ワンダーが俺のせいで大々的に指名手配されてしまった……


 ワンダーは何か泣いていた。つーか、そもそもお前が悪役令嬢を弄ぶからこんな事になるんだろうが。結局は自業自得だろ。

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