ついに始まる第1回オペラ杯武闘会(3)
話は当日の朝に遡る。
聖国主催の武闘会、その参加者1人であるウサギマスクマンは当日の受付で驚愕した。
「……何だこの行列は……」
世界樹の頂上、聖国と隣接する展望所に出来た真新しいコロシアム。その周りを埋め尽くすように大行列が続いていた。その行列はエレベーターゲートにまで延びていて、数百人もの様々な人種が受付を待っている。
よくもまぁこんなに人が居ても世界樹は折れないものだ、と思うくらい展望所は人に溢れていて、改めて世界樹は広く大きく、そして力強いのだなとウサギマスクマンは感心した。
しかし、気になるのはこの者達全てが聖国の女王の恋人になりたくて参加しているのか、という所だったが……話をよくよく聞いてみると半分位は単純に武闘会で戦いたい戦闘狂ばかりだった。
平和な世界を作ろうと各国が働く昨今、中々武闘会は開かれないし各国の猛者と戦う機会も少ない。
ここぞとばかりに大々的に力を誇示しようとする輩や筋肉自慢は何処にでも居るものなのだ。
そんなヤツらは鼻っ柱をへし折り、お帰り頂けばいいだけなので簡単である。
問題は、残りの半分が本気で結婚を考えて来ているという事。
「なぁ、聖国の女王オペラ・ヴァルキュリアって見た事あるか?」
「無いけど噂じゃすげぇ悪女らしいぞ? 聖国の為なら手段を選ばないとか……ま、性格が悪くても顔が悪くても女王と結婚して一国の王になれるんだろ? それ位どうって事ないさ。王になりゃ他に幾らでも妾だって作れるだろうし」
「ははは! 確かにな」
談笑している目の前のグループにウサギマスクマンは怒りを抑えきれずにいた。
まず第1に噂程の悪女では無い事。というか本人が冷酷だの非情だのと言っているだけで性格が悪いと言われる程の事をしてはいない。……帝国を襲ったりもしたが、それは自分が許しているから大丈夫だ。と、ウサギマスクマンは頷いた。
次に、顔が悪いというのは全くの事実無根なので訂正して欲しかった。が、出来ればその事実を知らぬまま御退場頂きたい。相当、かなり……まぁ、顔はいい。見たら妾だとか言っていた考えを180度変える事になるだろう。ウサギマスクマンは何度も頷いた。
「お前ら、女王を見た事ないのか?」
そのグループの前の更に男が可哀想な目で男達を見て言った。
「そういうお前は見た事あるのかよ」
「勿論だ。俺はマジで真剣に恋人になりたくて武闘会に参加しているからな」
男はポーっと空を見つめ、胸を押さえて言った。
「美しく白い流れるような髪、白いまつ毛から溢れそうな赤い瞳……華奢な身体に美しい仕草……目を瞑ると鮮明に思い出す事が出来る位、美しい女性だった……」
「……マジで?」
その話に周りの筋肉自慢もザワザワとし始めた。
――そう、コレなのだ。見た事があって本気で彼女を手に入れようとしている輩が1番厄介なのである。
もし万が一にでも彼女がその者と新しい恋を見つけてしまったら……
ウサギマスクマンはウサギの頭を叩いた。
嫌な想像をする前に……消せば良いだけの話だ、と殺気を飛ばしまくった。
「……何かココ寒くない?」
「急に冷え込んだな……俺も寒気がする」
男達達がブルブルと震え出した。その隣のグループはまた違う話題で盛り上がっていた。
「聖国の女王ってムチムチとスレンダーどっちだと思う?」
「有翼人だからあんまムチムチだと飛べないんじゃないか?」
「いや、あまり地面を歩かないから運動してなくて逆にムチムチかもよ」
「俺はやっぱ胸はあった方がいいなぁ……」
女性の好みの話をするのは男としては大いに構わないが、構わないが、ウサギはムカムカとした。あちらではやれ可愛い系が好みだの匂いフェチだのと好き勝手に想像している。
太ってようが細かろうが綺麗系が良かろうが可愛い系が良かろうが、好きになればどんな見た目だっていいじゃないかとウサギは苛々した。
それに、彼女はあんな見た目だが意外と抜けている所もあるしご飯を美味しそうに食べる所は女王としてはどうかと思うが堪らなく可愛い。出来れば沢山食べてその顔を沢山見せて欲しいと思った。
ウサギマスクマンはそこまで考えて自分で恥ずかしくなり激しく咳払いをした。
いずれ全ての参加者を退場させるにしても、気に入らない話題で盛り上がる輩から消さなくてはならない。片っ端から顔は覚えたのでそいつらは何らかの形で消そうとウサギマスクマンは決意した。
「……何かあのウサギ怖くね?」
「めちゃくちゃ見てるな……」
ウサギマスクマンが睨みを利かせるその後方、ヒヨコ仮面がわなわなと震えていた。
「聖国の女王って美人かな?」
「こんな大々的に武闘会開いて優勝得点にするからには美女じゃなきゃズッコケるだろ」
「いや、美女なら大々的に募集なんかしなくても恋人なんて選び放題だろ。俺はある程度の怪物が出てくる覚悟で臨んでるぞ」
「俺は許容範囲が広いから太ましくても可愛くなくても女なら何でもいいぞ」
「俺……実は男でしたって言われても美人ならまぁまぁ行ける」
男達の好き勝手な言動に、ヒヨコ仮面の中の人の血管は爆発寸前である。
一昔前の女王ならば憎き魔族諸共皆粛正していたが、今の女王は冷酷非情の中に人を許す寛容さを持ち合わせているので、命拾いしたな――とブチ切れそうになるのを抑えた。
それに今の自分はヒヨコ仮面であり、その不細工なのか美女なのかデブなのか男なのか不明な女王などではないのだと自分に言い聞かせた。
そもそも、大々的に開いたのは件の女王も知らないし、更には恋人を探したい等とは一言も言ってない。何をどう間違ってこんな事になったのかと、ヒヨコ仮面は頭が痛くなった。
「おい、お前何でそんな面してんだよ」
声をかけられて振り返ると後ろの団体の筋肉自慢のような男がニヤニヤとヒヨコ仮面を見ていた。
「……」
「無視すんなよ、そんな変な被り物してるって事は余程見せられない顔なんだろ? 人生の一発逆転狙って武闘会に出場しに来たのかもしれねぇが、筋肉も全然無さそうなガリガリじゃ出るだけ無駄なんじゃねえのか?」
周りの取り巻きが筋肉自慢男の言葉に賛同して笑う。
誰を愚弄しているのだ此奴らはと、今すぐヒヨコの皮を脱ぎ捨ててやろうかと思ったが……受付前に正体がバレて失格になる訳にもいかず怒りを堪えて無視した。
「へっ、言い返す気概もないとはとんだ腰抜けだな」
何処の国の者か知らないが国民の教育がなってないものだと、国の王ごとぶん殴りたい気持ちでいっぱいになった。
受付は長蛇の列で中々進まず、そこかしこで聞こえる女王の養子の話題や後ろの団体の男達の下らない冷やかしは暫く続いた。
やっと受付に辿り着いたと思ったら人手が足りなさ過ぎて係員が慌てふためいていた。
急に決めた武闘会にここまで用意した所だけは褒めてやりたかったが、やはり相当無理していたのだろうとその様子から感じた。
「あっ、あの、お待たせしてすみません! 今手続きを――あっ!」
受付の聖国人が慌てすぎて書類をひっくり返していたのでヒヨコ仮面がその手を制して止める。
「慌てなくていい。いくらでも待つ」
「あっ、ありがとうございます!」
後ろの筋肉自慢男がイライラと睨んでいたが、ヒヨコ仮面は無視を決め込んだ。
「……失礼だが人が足りてないのでは?」
「はは、面目無いです。実は急に開いたもので準備が追いついてなくて皆寝不足で……」
やはり……と、ヒヨコ仮面は思った。何故そこまでして彼らはこんな事をしているのか、目の下にクマを作ってまで一体何をしているのだとヒヨコ仮面は中身の眉を顰めた。
「女王の恋人候補を決める為に何故ここまでするのだ?」
その問いかけに受付の有翼人は力無く笑う。
「それが……最近女王がその、他国人の所為で元気が無くて……」
ヒヨコ仮面はビクッと動揺したが受付の係員には気付かれなかったようで、そのまま話を続ける。
「我々で力になれれば良かったのですが、いかんせん力不足で……だから出来る限りの事をしようと聖国人皆頑張っているのです」
頑張りの方向がおかしいし、そんな事に勝手に予算を使うなとか色々言いたい事はあったのだが、聖国人がそんなに女王を心配しているとは思わず驚いた。
冷酷非情と謳われる聖国の女王は絶対的に従うのが聖国人の義務だから、皆がそうしているのかと思っていたが、自主的に女王の為にこんな事を仕出かしていたのだ……その想いだけは汲もうと思った。
「おい! 待ってんだぞ! 早くしろ!!」
筋肉自慢男が後ろから偉そうに怒鳴って煽る。
武闘会がどんな形式で行われるのか分からないが、コイツは思いっきりぶん殴りたいと思いながらヒヨコ仮面はプレートを受け取った。筋肉自慢男は順番が来るとまた偉そうにしていて腹が立った。
そして開催宣言。 有翼人の係員が汗を拭きながら書面を読み上げる。
「第1試合はここから人数を10分の1に絞りたいと思います。ルールは単純です、皆さんが付けている参加プレートを今から奪い合って頂きます」
「何だよそれー!」
「ふざけんなー!!」
「扱いが雑すぎんだろーー!」
参加者数百名のブーイングの嵐の中、ウサギマスクマンは喜んだ。
これは楽でいい、一気に出場者を殱滅出来ると。まずは不埒な会話をしていた輩からだ――顔はしっかり覚えている。と。
笛の音を聞いたウサギマスクマンは拳を固く握りしめ、記憶にある厭らしい顔をしていた男達を次々と沈めて行った。
そしてブーイングの中ヒヨコ仮面も喜んだ。
ナイスな判断だ。これで一気に出場者を殱滅出来ると。
人の容姿だのをとやかく言うヤツらは片っ端からぶん殴って失格にしてやるが、まずはあの筋肉自慢男のムカつく顔面にお見舞いしてやろう。ガリガリの拳をその自慢の筋肉で思う存分に受けるが良い。
笛の音を聞いたヒヨコ仮面は拳を握りしめ、ぶかぶかの服の中に隠した羽を広げて空中から勢いよく拳を打ち込んで行った。
途中、何故か床からスライムが飛び出して来たが、ウサギとヒヨコには関係無かった。飛び交うスライムを受け止めてはまだ無事な出場者に投げつけ気絶させ、次々とプレートを奪って行った。
笛が鳴り終わる頃には数十本のプレートが2人の手元に集まり、コロシアム内に男達の倒れる山が出来ていた。よしよしと2人は満足した。
こうして、ウサギとヒヨコの狩りにより第1試合で殆どのザコ出場者は消えて行ったのだった。




