ついに始まる第1回オペラ杯武闘会(2)
目の前で急に始まる乱戦。雄々しい叫び声と共に始まったプレート争奪戦に観客達はブーイングから大盛り上がりへと変わった。
俺の所にも男達が迫って来たので剣を抜いた。ああ、この迫り来る男達……あのイケメンの悪夢を思い出す。
俺は剣に剣気を込めて地面にぶっ刺そうとしたが、アークに後ろから尻に蹴りを入れられた。
「お前、本当破壊神だな! 作りたての闘技場の床を早速壊そうとするなよ」
「えー、こんな様子ならどうせいずれ壊れるんだから良くない?」
するとシルバーが床を触りながらニコニコした
「ジェド、この床は対魔法・対衝撃に優れた素材で出来ていて、更に自動再生する素材で出来ているから壊しても大丈夫だよ」
「何で分かるんだ?」
「魔塔で開発したからねぇ。再生に特化したホワイトスライムを練り込んであるんだ」
「……前々から思っていたんだが、スライムの扱い酷くない? アイツらも魔物だよな?」
「スライム側には話は付いているんだよねぇ」
「ついているのか。何の?」
スライム側はそれでいいのか?
「アイツらの常識は俺達とは違うからな。潰されてもすぐ再生するしすぐ増えるから素材になるのに抵抗は無いのだろう」
「こうして素材になって定住出来た方が、野原で狩られて経験値になるより余程いいらしい。定期的に栄養になる物を与える代わりに強度を保ってくれるからね」
「スライム語なんて分かるのか?」
「翻訳魔法というのがあるんだよ」
「そんな暢気な事言ってる場合か!」
そう、俺達は暢気にお喋りをしているように見えるが、全て怒号で向かって来る男達を避けながらなのだった。
「ジェド、試しに剣気で床を刺してみればいい」
「えー?」
そんな話を聞いた後で言う? それ。
まぁ、開発している魔塔の人が大丈夫ってんだから大丈夫なのだろう。俺は言われた通り剣に剣気を込めて思いっきり床にぶっ刺した。
ゴゴゴゴゴゴ
「ん?」
地面に光の亀裂は入らず刺さったまま地面が揺れ始めた。何これ?
コロシアム内の男達も異変に気付いて皆ピタリと動きが止まる。
「な、何だ――うわっ!」
立っているヤツが次々と転び始め、見ると床がボコボコと沸騰しているかのように沢山隆起してきた。マジでなんなんコレきもすぎる。
沸騰が激しくなった時、地面から沢山のホワイトスライムが飛び出して穴が空き、スライムが激しく飛び交いコロシアム内は大混乱に陥った。
「ギャー!! 何だこれ!!」
「痛っ! 痛!!」
「どわっ! 邪魔だ!」
スライムに当たる、転ぶ、上手くスライムを避けていたヤツも転倒してるヤツに引っかかって転ぶ、空いた穴に足を取られる……と、阿鼻叫喚である。――どの辺りがどう大丈夫なんだ? 全然予想してない感じで大丈夫じゃないんだが……
俺とシルバーは飛び交うスライムを避けていたが、参加者の中には思いっきり当たって気絶しているヤツもいてその隙にプレートを取られていた。
ちなみにスライムは魔王の事は避けていた。流石魔王らしくなくても魔を統べる王である。
一頻り暴れ回ったスライムは元の位置に戻って行った。空いた穴に片足突っ込んでしまったヤツは危うく一緒に飲み込まれそうになり、ブーツが埋まっていた。危な……
シーンとコロシアムが静まり返り、皆が辺りを伺ったが、ホワイトスライムの暴走は完全に落ち着いたようである。
「全然大丈夫じゃねーじゃないか! さっきのは何なんだよ」
「ジェドの剣気で刺して壊れても元に戻っているという点は間違って無いと思うけど、さっきの暴走については私もよく分からないねぇ。アークなら分かるのかい?」
シルバーの問いかけにアークはよく分からない微妙な顔をした。
「何かお前の剣気が凄く気持ち良くて細胞が活性化して元気になり過ぎたらしいぞ……何か変な物でも送ったのか?」
え……何それ知らない。と、思って剣をふと見るといつもの剣じゃなく光のオッサン剣を使っていた事に気がつく。え? もしかしてこの剣って人をマゾにする力でも持ってるの?? 怖いんだけど。
「……いや、ホワイトスライムが光属性だからだろ。光の剣で回復効果とかあるんじゃないか?」
なるほど。それは何かすみません。
俺の納得を他所に、周りで起き出した他の出場者がザワザワと騒ぎ始めた。
「何だったんだ……今の」
「地面からスライムが沢山出てきたぞ……」
「あ!!! アイツ!!」
1人が大声でアークを指差すと、指された本人は嫌な顔をして俺を睨んだ。え? 何……
「アイツ魔王じゃねえか?!! スライムを使って全体攻撃とか卑怯すぎるだろ!!」
「え?! 魔王?? じゃあ、アイツのせいか!!」
コロシアムに倒れている出場者が一斉にアークを睨んだ。いや、誤解なんだ……アークは全く関係無くて引き起こしたのは俺で、引き起こさせたのはシルバーなんだ。
「お前ら……」
「いやぁ……何かごめんね」
「また全体攻撃される前に魔王のプレートから奪えーーー!!!!」
「ウオォォ!!!!」
沢山の男達がアークに押し寄せる。やべえかと思ったが、瞬間アークは黒い獅子に変身した。
その黒獅子の姿を見た観客席の有翼人は恐怖で次々と倒れる。
「なっ! これは……」
「プ、プレートはどこだ!!?」
アークに寄ってきた男達がもふもふの毛の中を探すが、アークの首からぶら下げたプレートはもふもふに埋もれて見えなくなっていた。その隙に前や後ろ足で近づく参加者を叩き倒す。
「うーむ、いい感じにアークが囮になってくれてるな。よし、人の流れがアークに集中している今のうちに地道にプレートを回収に行こう」
さっきまでだと身動きを取るのも大変な位混戦していたが、アークに沢山集まったのとだいぶ決着が着いてる所もあって戦いやすくなってきた。人が混雑してると長剣の剣士は不利なのだ……
「はーっはっは!! どうしたどうした!! どんどんかかって来い、来ないならこっちから行くぞ!!!」
調子のいい声が聞こえて来たので振り返ると、アンバーが倒した男達を山の様に積み上げてプレートを引きちぎって片手に持っていた。
その手を見ると明らかに20本以上は回収しているんだが……
「お前、何でそんなに回収してんだよ。10本でいいんだよ。わざわざ他国から来てるのに余分に奪っちゃ可哀想だろ」
「何? そうなのか?? あいつらも余分に奪ってるからいいのかと思ったんだが」
アンバーが指差す先を見ると例の兎男と鳥男が凄い勢いで何十本もプレートを奪っていた。何でアイツらそんなに危機迫った感じなの?
ピーーーーー!!!
笛の音の方を見ると係員が叫んだ。
「はーい! そろそろ時間なので終了となりまーす!」
「え? やべ、もう終わり?」
俺達何1つ集めてないじゃんと思って隣のシルバーを見ると、手にしっかりとプレートを10本持っていた。
「おま、いつ集めたんだ?」
「いつ? スタート直後に魔法で。ジェドはあんなに大混乱させておいて1本も集めてなかったんだねぇ」
シルバーはニヤニヤと笑った。くぅ……大魔法使いめ……
アークの方を見ると黒い爪にプレートを沢山ひっかけていた。マジで俺だけじゃねぇか……
「ん? 何だ? ジェドお前集めてなかったのか?? じゃあ脱落だな。はっはっは!」
「……」
そう笑うアンバーの足元に光の剣を思いっきりぶっ刺した。
「どわっ!!」
転んだアンバーの手からプレートを10本奪った。残りはちゃんと10本あるから良いだろう。
「ジェド……お前、仲間から……」
「余分に取るお前が悪い。そしてコロシアムに足を踏み入れた時点で仲間じゃ無いのだ」
「くぅ……」
俺がここで負けて帰る訳にいかないのだ。何故なら主人公だから。
こうして、数百人いた候補者は10分の1以下に絞られて第1試合を終えたのだった。




