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ついに始まる第1回オペラ杯武闘会(1)


 

 武闘会当日、晴天の世界樹の頂上には魔法花火が上がりお祭りムードに包まれていた。

 漆黒の騎士団長ジェド・クランバルと魔王アーク、魔塔主シルバーが移動魔法陣で会場に降り立つと何故か周りがザワザワとする。


「……あいつら今移動魔法で来たけどあの魔法使い出場する訳じゃないよな」


「んなバカいるかよ。移動魔法なんて使えるヤツも限られている上に1回使ったら魔力がゴッソリ無くなって体力まで持って行かれるんだぞ」


 等と言われておりますが、そのバカは何回使ってもピンピンしてるので安心して欲しい。

 シルバーは俺と居ても何があっても疲れる事は無いと言って、この間ナーガと戦った時に魔法バンバン使っても平気そうだったからな。だが、そうなって来ると逆に疲れる所を見てみたい気もする。


「……お前、地味に性格悪いよな」


 アークが俺の心を勝手に読んで嫌な顔をするが、思うだけなら別に良くない?


「そういやアークは皇城で何をしていたんだ?」


「ああ……その、ルーカスと話をしたかったんだが、結局話は出来ず仕舞いだった」


「……もしかしてナーガの事とか?」


「まぁな」


 前にラヴィーンに行った時、アークはナーガから母親を消したのはアイツだって事を聞いていたんだよな。

 ナーガはもう居ないけど、俺もアークの事は少し心配だったんだ……もしかして自分の手で仇撃ちたかったかな、とか。けど、話をした時もアークは意外と平気そうだった。


「……お前らがそんな風に心配している所悪いが、実はあまり気にしてはいないんだ」


「そうなの?」


「恨んだって居なくなった者が生き返る訳じゃないからな。聞いた時は悲しかったし憎かったけど、復讐や喪失感からは何も生まれないって教えられたから。今はそれより魔王領を守る事に忙しい。聖国の変な誤解が解けたのとナーガを倒してくれたお前には純粋に感謝してるが」


 アークは本当に気にしてない様子だった。ふーん、意外と薄情なヤツ。


「……お前……話ちゃんと聞いてるか?」


 まぁ、気にしてないならば良しとしよう。

 そんな話をしながら俺達は大会出場受付の方へ進んだ。そちらはとんでもなく長い行列が出来ていた。え、もしかしてコイツら全員オペラと結婚したい人?


「大人気だねぇ」


「まぁ、単純に女王と結婚したいヤツ半分、力を試したいヤツ半分って所か。国を跨いだ大規模な武闘会なんてあまり開かれないからな」


 並んでいる人達を見ると、確かに戦いたいだけの戦闘狂みたいなヤツが沢山いた。

 その中に一際目立つ筋肉ムキムキで大斧を肩に担いだ大男が見えた。見間違いでもなく獣王アンバー・ビーストキングである。


「おお! ジェド、こっちだこっち!」


 アンバーがぶんぶん手を振るのでお仲間として横入りさせて貰った。少しでも並びたくない図々しく卑怯な騎士団長とは俺の事だ。


「アンバー、お前も出るのか? まぁ、出るとは思ったが」


「うむ。オペラの事を諦めたものの、こんなに早く別れるとは思わなかったな。募集しているのであれば心置きなく恋人に立候補出来るというものだ」


「……いや、別れたも何も……まだ付き合ってすら居ないんだが」


「何でだ? あんな雰囲気で付き合ってないとかそんな事あるのか……?」


「あるから困るんだなぁこれが……」


 本人達以外誰も信じられない話だが、何故かそうなのだ。誰しもがあのまま結婚すると思っていたのに、何がどうなって数日で別の恋人を募集しているのか。

 ま、どうせケンカしたのも何かの誤解ならこの大会も何かの誤解なのだろう。前に帝国で開かれた武闘会も何かの手違いだったらしいし。


「しかし、こんなに大々的にやっていてオペラ本人が知らない事もあるまい。勝者は恋人候補になれるのだから俺は挑むぞ」


「恋人になれると言ってない所が詐欺っぽいけどな」


 アンバーと話をしながら列を進んで行くと、急にアークが受付の方を見て微妙な顔をし始めた。


「ん? どうしたんだ? 変なヤツでも居たか?」


「……まぁ、変と言えば変なヤツだな」


 アークが目を逸らすのでその受付の方を見ると、兎の頭をした男が居た。所作が貴族っぽくて只者ではない感じがする……が、頭が兎である。


「……あんな頭だけ兎の顔の獣人なんて居るのか?」


「いや、居ないぞ。どう考えても被り物だろ」


「言われて見ればそっか。……ん? あっちにも鳥が居るぞ」


 列の先には鳥人間も居た。少し小柄な気もするが、武闘会に出る位だから男だよなぁ。こちらもただならぬ空気を感じた。


「アレもやっぱ被り物かな?」


「まぁ、そうだな。有翼人ならともかく頭が鳥の鳥人間なんて居ないからな」


「ふーん、やっぱ世界中から来るからには変わったヤツも多いんだなぁ」


 関心しているとアークが盛大にため息を吐いた。


「……やっぱ、俺出る必要無いと思うが」


「何でだよ、此処まで来といてそりゃないだろ! 陛下の為に皆で一肌脱ごうぜ!」


「……本人が隠したいなら何も言わないが……何なんだアイツらは……」


 アークが何かもうすでに疲れていた。お前、武闘会はこれからだぞ?



 受付では何人もの係員が忙しく対応していた。聖国側も人が思ったよりも来て対応しきれていないのか応援を呼んだり臨時受付を追加していた。コックや商人など明らかにそういう係員じゃなさそうな人まで手伝っている。

 アンバーやアーク達は別の係員に通されていたが、俺の目の前には見覚えのある狐目の男が座っていた。


「……お前、こんな所で何をしているんだ?」


「まぁ……その、成り行きと言うか。実は大会のパンフレットを刷って卸していたんですが、人が足りないとかで手伝わされています……」


 皆が探してるワンダー・ライターがそこに居た。コイツは本当によく分からない男である。


「お得意の本で逃げたら良かったのでは……?」


「いやぁ、開催されなかったり遅れたりするのは困るので……返品されても嫌ですし」


「なるほど……」


 ならば捕まえて探してるヤツらに差し出す訳にもいかないよなぁ。現状1人でも抜けると大変そうだし。見なかった事にしよう。


「それにしても、ジェドが出るとは思いませんでしたよ。……というか、何かあったんですか?」


「まぁちょっと色々あったんだよ……」


「そこの色々を詳しく……」


「あまり列を待たせると顰蹙買うから後でな」


「えー」


 ワンダーは残念そうな顔をして渋々参加のプレートを手渡して来た。首からぶら下げるプレートが参加者の証らしい。後ろが待っているので俺は足早にワンダーの元を離れた。


 でもなぁ、いくら俺が見て見ぬ振りをしてもアークにバレるのでは? と思ったが、そんな心配はしなくても大丈夫だった。

 違う受付から足早に戻ってきたアークは耳を押さえていた。


「どしたん?」


「……だから俺は嫌だと言ったんだ」


 近くにいたらしいシルバーがニコニコ笑っていた。


「何かねぇ、魔王って言ったら受付の聖国人が泡吹いてひっくり返ってたんだよ」


「ああ……まぁ、そうなっちゃうよね」


 そういやオペラの誤解はだいぶ解けていたけど、聖国人全体にはまだまだ生き渡ってないんだっけ……?

 やっぱアーク、オペラと結婚して聖魔の和解の橋になった方がいいんじゃね?


「……お前はそうやっていつも人ごとだと思って適当な事を言うよな。お前も頭の中で叫ばれてみろ……」


 頭を押さえて青くなっているアークの首には参加プレートが下げられていた。そんな状況でもちゃんと参加出来たのか。



 武闘会参加者はゾロゾロとコロシアムに集められた。日が上がりきった頃、受付も終了したのか係員が壇上に上がり、魔術機器で皆に向かって開催を宣言した。


「只今より、第1回オペラ杯武闘会を開催致します」


 第1回ってからには第2回以降もあるのか……?


 宣言した有翼人の係員は汗を拭きながら書面を読み上げた。


「えー、思っていた以上に世界中から多くの参加者がお越しいただきまして、聖国人として誇りに思います。――が、しかし……想定より多すぎたため、1人1人対戦していると決着がいつになるか分からないと判断しました」


 言われて見れば……参加者はコロシアムを埋め尽くす程居た。見物人も多いが参加者もかなり密集していて、確かにコレは1日で終わりそうに無い。


「よって、第一試合はここから人数を10分の1に絞りたいと思います。ルールは単純です、皆さんが付けている参加プレートを今から奪い合って頂きます。10本集められた方が勝ち抜けとなります!」


 ……そりゃまた雑な絞り方をして来たな。まぁ、確かにこの人数を見ればそうなるよな……

 参加者は数百人は居るかと思われる。


「何だよそれー!」

「ふざけんなー!!」

「扱いが雑すぎんだろーー!」


 参加者や見物人がブーイングを起こす中、有無を言わさず係員が吹いた笛の音で大運動会のような戦が始まった。


 ピーーーーー!!!


 何が何だか分からぬまま、男達の雄叫びがコロシアムに木霊した。


 女王の恋人候補を決めるのに、こんな雑なやり方でいいのか聖国よ。

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