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帝国に居る竜族の説得(後編)

 


「そうですか……ナーガ様が消滅されたのですか」


「ああ、何れにせよあのまま放っておくと他国に害を及ぼすからな……遅かれ早かれそうなっていた」


 竜族の11人の女達と俺とシルバーは集会場の屋台で飯を食いながら話し合っていた。竜族側は議長が代表で話をしているので、彼女が女王候補なのだろうか。


「それで、竜族の者達は何と?」


「今残っている者達はナーガが消滅した事については納得している。帝国の人間が女王を倒した以上、帝国の指示に従うそうだ。陛下としては竜族は竜族の中で治めてもらいたいと思っているんだ」


「……なる程。貴方達の話は分かりました。ですが……」


 議長は仲間達を見て頷き、目を伏せた。


「我々はラヴィーンに戻るつもりはありません」


 他の10人達も同じように頷いている。


「何故だ? ナーガの考えに賛同する者はもう居ない。それどころか大半の竜族は他国に出向していたお陰で友好的だ。貴女達が失望したような竜の国はもう無いだろう」


「いえ……確かに我々が国を捨て、山を降りたのはそう言った理由ですが……今戻らない理由はとうにそこでは無いのです」


「では一体……」


「竜族にイケメンが居ないからです」


「……は? 何……イケメン?」


「はい。何度でも言いますがイケメンが居ないからです」


 冗談で言っているのかと思って聞き返したが、議長も他の女達も真剣な目で頷いていた。

 え? イケメン……居なかったっけ? 男前なヤツは結構居たような気もするけど……


「イケメンというのは中々ふんわりとした定義だね。好みにもよるし。君達はどういう男性を望んでいるのか、まずそれを聞かせてくれない事には分からないねぇ」


 シルバーがそう言ったが、確かに男側にしたってふんわり可愛い系女子が好きな奴もいれば、スレンダークール美人が好きなヤツもいる。ちなみにおれはちょっとポチャっとした位の出る所がしっかり出ている方が好きである。

 イケメンだって彫りが深いのとか可愛いのとか細マッチョとかガッシリとか好みがあって人それぞれ色々だよな。


「我々の男性の趣味とか好みとかいう話をしているのであれば、そういう話では無いのです」


「……?? ちょっと話が見えないんだが?」


「妄想に値するような男が居ないのです」


「……は?」


「妄想に値するような男が居ないのです。大事な事なので2度言いました」


 いや、2度言われてもわからん。


「……つまり、なんと言えばいいか。竜族の男達は基本的につまらない男ばかりなのです。俺様系も居なければ可愛い系も、ミステリアス系も、ツンデレもギャップ萌えも……何の要素も持たないただの男竜ばかりなのです」


「……いや、それってそんなに大事?」


 議長はテーブルをダンッと叩いた。


「大事です!」


「全く以って議長の言う通りです」

「異議なし」

「つまらない男達のいるラヴィーンには価値なし」


 全員が同じように頷いていた。……陛下は本当にこいつらに竜の国任せるつもりなのか??


「……とにかく、私達は今のラヴィーンに帰るつもりはありません。竜族が変わらなければ、同じ事の繰り返しです」


 議長が立ち上がると他の女達もその後について行ってしまった。

 俺達は顔を見合わせる。


「なぁ、どう思う? あの議長の口ぶり……単純な我儘のようにも思えないしなぁ。それに陛下がああ言うんだからそれなりに何か理由があるのだろうか……」


「ふむ……確かに彼女の言う事も分からない訳では無い。竜族は強さを求める以外は確固たる意志があまり無いので、ナーガみたいな悪しき強者が王になると悪い方へ国が傾いてしまう……もしかして議長は竜の国に新たな方向性を見出そうとしているのでは?」


「方向性……?」


「競ってイケメンになりたいというのは立派な方向性だからね。強くなりたいのとはまた努力の方向が違う。イケメンになりたいと思うのは競って強くなる事と違って戦争を引き起こすような者じゃ無いだろう?」


「なるほど……? そう言われてみれば……分かるような? じゃあ、とりあえず彼女達が納得するように竜の国の者達をイケメンに仕立て上げれば良いのか……っても、どうやって仕立てればいいんだか」


 完全に納得した訳ではないが、とりあえず彼女達がそう望むのならばそういう環境を作るしかないよな。しかしイケメンかぁ……


「何か彼女達が喜びそうなイケメンに心当たりは無いのかい? 君はよく悪役令嬢だとか乙女ゲームだとかに巻き込まれているんだろう?」


「ああ、そっか。乙女ゲームかぁ……うーん……」


 沢山のイケメンが出る乙女ゲームだよなぁ。どこかで……


 俺はふと、大量のイケメンの記憶を思い出した。


「あるじゃん。心当たり」


「……あるのかい?」


「あるんだわ」



 ★★★



「ナイトメアと話がしたい?」


「ああ。ちょっとお願いがあってな」


 俺とシルバーはひとまず皇城にいる魔王アークの所へと戻った。

 ナイトメアといえば悪夢を見せる馬の魔物で、以前帝国民が眠りについてしまった時に皆に悪夢を見せて起こしてくれた魔王の部下である。


「それは別に構わないが……一旦魔王領に帰らないといけないし、それを更に竜の国に連れて行くんだよな……?」


「それなら大丈夫だ。俺には移動魔法を何回でも使ってくれる大魔法使いの友達が居るからな」


「……お前、魔塔主をそんな雑な使い方するのは世界中探してもお前だけだからな」


「え? そう? シルバーは俺の頼みなら何でもしてくれるらしいぞ?」


 俺の言葉にアークは微妙な顔をして、シルバーはめちゃくちゃ笑っていた。


「く……くくく、君って中々鬼畜だよねぇ。そういう所、本当いいねぇ」


 アークはあんまり知らないだろうが、コイツは魔法に関してはただの魔法マゾで持ってる魔力も国1つ吹っ飛ぶ位有り余っているから、こういう扱いで合ってると思う。本人も俺と居ても疲れる事は絶対無いって自負していたし。


「……いや、お前らがいいなら良いけど……」



 シルバーの描いた魔法陣によって魔王領に移動すると、アークはナイトメアを呼び出した。


「お呼びでしょうか? アーク様」


 目の前に現れたのは前に見たのと同じ黒い馬だった。

 ナイトメアは普段は不眠症や睡眠の質に悩みを抱えている者達向けの相談役として働いている睡眠のプロなんだとか。安眠枕とかも開発しているらしい。


「忙しい所を急に済まないな。用があるのは俺ではなくこの男だ。話を聞いてやって欲しい」


「これは騎士団長、お久しぶりです。して、私に何の御用でしょう?」


「ああ……実はな」


 俺は竜の国の事情と俺の希望をナイトメアに伝えた。

 俺の話を聞いたナイトメアは快く引き受けてくれたが、アークは頭を抱えて引いていた。


「騎士団長のご希望は凡そ叶えられますが、以前帝国民に悪夢を見せた時と同じく私の魔気ではそんなに沢山の者達に一度に夢を見せる事は出来ません」


「と、いう訳らしいから竜の国の為にアークも手伝ってくれ」


 アークは嫌な顔をしていた。


「……また俺がそう言う事に手を貸さなくてはいけないのか?」


「前だって人助けの為の悪夢だっただろ? 今回も結果竜の国の為なんだからよろしくお願いしたい」


 俺が一切の邪気の無い笑顔を向けるとアークはため息を吐いた。



 ★★★



 更にシルバーの移動魔法を使って竜の国ラヴィーンに移動した俺達は、ラヴィーン選りすぐりの若い男達を街の広場に集めた。


 ラヴィーンは王不在のためか未だ方向性が定まっておらず、瓦礫を片付けるだけで暇を持て余している者も沢山いた。アンバーは一旦国に帰ったみたいで不在だったが。


「あのー、何故自分達はここに集められたのでしょう?」


「皆さんには今からイケメンとは何たるかを勉強して頂きます」


「……は?」

「え?」

「何で……?」


 集められた男達はザワザワと動揺した。


「何故そんな事をしなくてはいけないのでしょうか?」


「竜族の未来の為です」


「????」


 竜族の男達は全く理解出来ない様子だった。まぁ、分からなくもない。俺も半分以上何の話をしてるのかよく分からない。


 俺は咳払いをして真剣な顔で皆に言った。


「今の竜族に欠けているのは未来を見つめる事です。それが欠けているから新しい女王候補は来てはくれません。今までの竜の国は王の方針により動くだけの道具にすぎませんでした。ですが、これからは自分達で女王を迎え、他の国の人々と交流し、竜の国を作っていかなくてはなりません。そこで!」


「そ、そこで……?」


「貴方達には魅力あるイケメンになって頂きます」


「な、なるほど……??」


 俺は最もらしい事を並べた。多分そういう事だろう。何でも良いからお前らには新しい女王を迎える為にイケメンになって貰わねばならんのだ。

 俺のふんわりした説得に竜族達はある程度納得したようである。


「そうですか……確かに、今までは先代女王ナーガ様の方針に従って動いて来ました。……ですが、あのようにスライムに襲われ街が半壊し分かりました。あんな事はもう懲り懲りです」


「竜の国が新しい女王によって良い方向に向かって貰えるのならば、我々は従います」


 先日の騒動に相当懲りたのか納得してくれたようである。ちなみに街を半壊させたのはナーガではなく陛下とアンバーだがそれは黙っておこう。


「分かって貰えて良かったです。では、今から悪夢を見ますが、必要な事ですのでちゃんと勉強して下さい」


「……え??」


 俺はナイトメアに頷いた。納得したはずの竜族の男達はまたザワザワし始めた。


「すみません……竜の国の未来や方針については分かりましたが、今から起きる事にもう少し説明を頂いても良いでしょうか?」


 悪夢という言葉に動揺したのか皆不安顔である。そうだよね、説明必要だよね。


「今から皆さんが見る夢には沢山のイケメンが出てきます。それで皆さんは勉強して下さい」


「は、はぁ」


「魅力あるイケメンになるまで毎晩悪夢を見続けて頂きます」


「……え?」


 皆が青い顔をしている。


「先に説明した通り、竜の国の未来の為なのです」


「わ、分かりました……」


 皆の覚悟は決まったようである。よし、準備は万端だ。という訳でアーク、頼んだぞ。


 俺がアークに頷くとアークは頭を押さえてナイトメアに魔気を送る。ナイトメアは紫色に光り、次々と竜族の男達は倒れた。




「……こ、ここは……」


 竜族の男達はふわふわとした夢かわいいパステルカラーの世界に居た。キョロキョロと辺りを伺う竜族達の後ろには、大量の夢かわイケメン達が近付いていた……



 ★★★



「ギャアアアアア!!!!」

「た、助けてくれーー!! 俺には、俺にはそんな趣味は無いんだ!!!」

「イケメンが!! イケメンが襲ってくる!!!」


 竜族の男達の阿鼻叫喚とした寝言が木霊する中、シルバーは興味深げに見つめていた。


「ねぇ、コレ何の夢を見ているんだい?」


「これは俺が以前見た乙女ゲームの夢だ。夢かわいい色合いのイケメン達が死霊のように大量に襲ってくる」


「……それって乙女が喜ぶゲームなのかい?」


「異世界ではそうらしいぞ。異世界人の考える事は全く理解出来ないが……」


「ふーん。こんな事なら魔塔で開発中の夢の中身が覗ける魔術具を持って来れば良かった」


「……それこそ何に使うんだよ。あと、見ない方が良いぞ」



「はっ!!!」


 そうこうしている間に竜族の男達が夢から覚めた。凄いな、イケメン軍団を全部倒したのか。流石竜族、早いな。


「な、何なんですかあの夢は!!! 恐ろし過ぎるでしょう!!」


 蒼白となった竜族の男達が怒っているが、俺は説明したはずだ。


「だから竜の国の未来の為にはあいつらみたいなイケメンにならなくてはいけないんだ。良いからつべこべ言わずイケメンを勉強して来い! やれ、ナイトメア!!」


 俺が指差すとナイトメアは竜族に紫色の光を浴びせ、竜族達は再び倒れた。


「……お前……本当容赦無いな」


 今の俺は悪役令息である。

 アークが呆れる中、夢かわイケメンの夢は3日3晩竜族の男達を苦しめた。

 たまに夢かわイケメンを現実に持ち帰る輩も居た。いや、真実の愛を見つけるんじゃないよ……お前がイケメンになるんだよ。



 3日3晩経つ頃には、竜族の男達はイケメンが何たるかを完全に理解していた。



 ★★★



「こ、これは……」


 竜族の精鋭をイケメンに調教した俺達は議長達11人をラヴィーンへと連れてきた。

 議長達が目にしたのは、すっかりイケメンに調教された竜族の男達である。

 俺様系、執事系、やんちゃ系……属性選り取り見取りである。ちなみに属性は俺が今までの経験から適性を選別した。無駄に小説やら乙女ゲームやらに巻き込まれた経験がこういう時に役に立つ。他に役に立つ機会はもう無いと思うが……


「彼らは貴女達の為に、ラヴィーンの未来の為に変わろうとしている。だから貴女達も彼らに応えてくれないか?」


 イケメン竜族達は議長達を優しく迎えた。


「おかえりなさいませ、お嬢様」


「ふん。俺はこんな女達には興味無いぜ……」


「こら、お前なんて口を! すみません、後でちゃんと叱っておきますので……」


「かわいい子猫ちゃん達、俺と遊ばないかい?」


 うんうん、素晴らしい調教ぷりだ。ちゃんと男同士の妄想の余地を残す所、ちゃんと分かっているようだ。

 議長達は竜族の男達の変わりように目を見開き驚いた。


「こんな……彼らは本気で変わろうとしているのですね……」


「ああ」


「……わかりました。我等一同、新たな竜の国ラヴィーンの代表として新しい竜の国へ尽くす事を誓いましょう」


 そうして、竜の国に新たな指導者11人が付き、議長ことエキドナの新女王誕生であった。

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