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閑話・帰って来た皇城で


 

 

 その日、皇城に衝撃が走った。


 陛下が急に戻らなくなってから数日――陛下が帰還した。

 家臣達はシャドウから事情をある程度聞いてはいた。先日の襲撃騒動の根源である竜の国に行っているのだと。

 先に手紙を受け取った時に居た宰相エースと副団長のロックもそこそこ事情は察していた。


 だが、久々に帰還した陛下の腕には、先日襲撃した犯人である聖国の女王が抱かれていた。

 通りすがった家臣は次々と固まり手に持っていた物を落とす。

 誰1人、驚きのあまり言葉を発する事が出来なかった。


 ――ついに……陛下がその腕に女性を抱いている。


 正確にはその女性とは未だちゃんと心を通わせた訳ではなかったのだが、皆の心の中はお祭りだった。


 帝国の事だけを考え仕事一筋、お見合い舞踏会のはずが謎の武闘会になってしまい、帝国1のイケメンなのに女性と縁の無かった陛下がついに――


 あまりの嬉しさに泣き出す者もいた。


「応接間……いや、執務室にお連れする。準備をしておいてくれないか? ……あと、着替えも」


「は、はい!!」


 声をかけられたメイドは泣きながら準備に取り掛かった。他のメイド達も光の速さで動いた。お待たせしてはいけない。絶対にヘマをしてはならないのだ。

 庭師は今1番美しく咲く花を急いで選別した。騎士団の皆は陛下の行く先に絶対に人を近付けてはならないと規制線を張った。


 知らせを受けたシャドウは執務室に居たが、急いでその姿を見に飛び出た。

 シャドウが扉を開けた時に見たのは無言で歩いている陛下の腕に抱かれたオペラだった。

 また傷だらけになっていたのは痛々しかったが、今度はちゃんと陛下が守ってくれたんだと思うと兜の中で涙が頬に伝って落ちた。


「シャドウ、不在の間ありがとう。……その」


「陛下……お話は後で結構です。さぁ、中へどうぞ」


 メイド達が光の速さで準備した執務室はいつもと様子が違い、花で溢れていた。ルーカスは浮き足立つ城内の様子を表しているようで目眩がして恥ずかしくなった。

 オペラが恥ずかしそうにシャドウを見たが、シャドウは頷いて優しくドアを閉めた。



 ルーカスはオペラを執務室のソファーに座らせた。

 ソファーの近くに女性ものの綺麗な服が置いてあったのが目に止まった。オペラによく似合いそうな沢山の花の飾りのついた服で、メイド達のセンスの良さに感謝するもふと、拘束具の付いたままでは着替えられないという事に気が付いた。まさか自分が着替えさせる訳にもいかず、とりあえず保留にして傷の手当てをしようとその手を取った。


 ルーカスは魔法使いではないので魔法が得意な訳じゃなかったのだが、必要な物だけは覚えておこうと魔法も勉強していた。お陰で移動魔法まで使えるようになった。

 オペラの手の上に魔法陣を描くとその身体中に優しい光が走った。ルーカスの描く魔法陣はその髪色と同じで優しい太陽の色だとオペラは思った。


 身体中の傷は回復したのだが、ルーカスはその手を握ったままだった。


「あの……」


「君に聞きたい事があるのだけど」


「え……?」


 ルーカスは手を離すと執務室の机に向かい、引き出しから何かを取り出した。

 オペラの横に座ると背中の羽に取り出した物を照らし合わせた。オペラの背中には大きな一枚の羽と生えかけの小さな羽があった。


「これ、君のじゃないの?」


「え……確かにそれは……わたくしの……」


「私の寝室に落ちていたんだけど」


「!!??!!!」


 オペラは思い出した。1度ルーカスの寝室て鉢合わせした時、イヤリングの他にもそんな証拠を残していたのだ……


「君でしょう? あの時寝室を爆破したの」


「わ……わたくし……」


「あの時、私の頬を叩いて行ったよね?」


 ルーカスは少しずつオペラに近付いて行った。後退るオペラはソファーの端に追い詰められる。


「私の寝室で何していたのか聞いてもいい……?」


「え……え……と」


 ソファーの上で追い詰められたオペラの上から覆うようにルーカスが迫った。


「わ、わた……くし……」


 何をしていたのかと聞かれてもオペラには答えられない。そもそも腕を引いたのはルーカスだった。

 あの時とは逆で、ソファに押し倒されるような形になっている事に気付いたオペラは叫び出しそうになったが、その瞳が近付いて来た時に思考も停止した。そして――


 ――ルーカスはオペラの上に倒れ込んだ。


「???!!!!」


 状況が飲み込めずルーカスの顔を見ると、目を瞑り寝息を立てていた。


「寝……ええ……??!!」


 つまりどういう事か――ルーカスは限界だった。


 睡眠時間を殆ど取れていないルーカスは、精神的にも体力的にも疲弊していた。

 そもそも忙しくてマトモに寝てない上に旅でも殆ど寝れず、更に獣王との戦い、瓦礫の中からの救出……その上で使った回復魔法はルーカスの体力に止めを刺した。


 後にルーカスが、最強の皇帝だと良く言えた物だ――と激しく落ち込む事になる彼の人生の中でもワースト級の出来事だった。


 ――だが、何よりも1番彼を眠りにつかせたのはその安心だった。

 無事に戻って来た事……獣王が諦めた事……シャドウが少し喜んでいた事……色々分からなかったオペラの事が分かった事……


 ――抱きしめた彼女は柔らかく暖かかった。



 オペラはその腕から逃れる事が出来ずにルーカスが起きるまで待つしか無かった。



 ★★★



「…………そんなヘタレな展開ある?」


 色々と聞こえていた魔王アークはため息を吐いた。


 ジェド達が応接間に行くと魔王アークがハムスターを連れて待っていた。

 ジェドが魔王領に忘れて行ったハムスターのハムを届けに来ていたのだ。


「え?? どうなったの??」


「なんつーか……寝た」


「寝……あー、そういやあの旅中全然寝てなかったからなぁ」


「え……陛下、そっちでも寝てないんですか?? 城で仕事を早く終わらせて出ていく時も相当無理していましたけど……」


「……流石のルーカスも寝ないとだめだよねぇ。これに懲りたらちゃんと寝るようになるんじゃないのかな? 人間、睡眠時間は大事だよ。うんうん」


 宰相のエースやシャドウも集まって皆でお茶を飲んでいた。執務室では仕事が出来なかったので、応接間で仕事をしているのだ。


「しっかし、いつの間にか入れ替わってたとはなー。全然気付かなかった」


「騎士団長はもう少し人をちゃんと見た方が良いと思いますよ」


「えー? ……そうか?」


 雑談する中で、アークがコソッとシャドウに話しかけた。


「なぁ、お前はいいのかアレで」


「私はオペラ様が幸せならばそれで。……ただ、余りにもヘタレな自分ならば許してはおけないですかね」


 シャドウは執務室の方を向いた。


「お前も中々いい性格になって来たな……」


 アークも笑ってシャドウの肩を叩いた。


「それにしてもごめんなハム、すっかりお前の事忘れ――」


 ペシっ


 執務室にいる巨大ハムスターのハムの頭を撫でようとしたジェドの手をハムは払い退けた。


「え……?」


「あー、ジェド。お前……ハムが拗ねてるぞ」


「……え?」


 ハムスターのハムはジェドに置いていかれた事を根に持って拗ねていた。暫くジェドの手を受け入れる事は無く、ジェドは何日も落ち込んだ。

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