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ラヴィーンの洗礼はとんだハプニング(2)


 

 ジェドとオペラがスライム魔法陣に落ちるのを見た甲冑騎士は、慌ててオペラに手を伸ばそうとした。

 だが、戦っている途中で気付くのが遅くなり、その指を少し掠めただけで掴むことは出来なかった。2人を飲み込んだ魔法陣はそのまま消えてしまう。


「くそっ……!!」


 急いで2人を探そうとしたが、その後ろから大斧が飛んできて甲冑騎士を横から凪いで斬りつけて来た。当たる寸前にガードをしたが、そのまま吹っ飛び壁にめり込んだ。凪いだ風圧で刻印スライムもいくつか吹っ飛び、スライムに押しつぶされていた竜族達はその様子を呆然と見つめていた。


「なっ、何を……」


「分かった……分かったぞ……お前、ルーカスじゃ無いのか???」


「――っ!」


 アンバーは振り切った大斧をゆっくりと持ち上げた。その目は楽しそうにギラギラとしていた。


「何でそんな格好をしているんだ?」


「……何の事ですか? 今はそんな場合じゃ――」


「惚けるなよ、俺は負けた相手はちゃんと覚えているしぶとい性なんでな。そんな重い蹴り食らわせて来る奴がルーカス以外に居てたまるか」


 アンバーの大斧が兜を掠る。避けたつもりだったが少しヒビが入ってしまったその兜を外して甲冑騎士は振り返る。

 太陽のような金色、帝国最強の皇帝ルーカスの顔がそこにあった。


「やっぱりそうじゃねぇか」


「……この甲冑の持ち主も同じ顔なんだけどね。君にそんな話をしても無駄だろうけど」


「経緯はどうでもいいが、お前はルーカスなんだろ? 何で邪魔をするんだ??」


「……アンバー、君は相手の気持ちを考えずにガツガツ行き過ぎている」


「人の恋路に口出さないで貰おうか? お前にゃ関係無いだろう?」


「関係は――」


 ルーカスは言葉が出なかった。関係無いと言えば確かに関係無い。自分はオペラに正体を明かしてもいないし、心を受け取った訳でも無い。だが、他人の邪魔だけはするズルい人間なのだと知らされる。どんどんと善き人間から遠ざかっていた。


「関係無いなら俺のやり方に口出するんじゃねぇよ」


「……」


 2人がやり取りをしている間にも刻印のスライムは魔法陣から降り注ぎ、ジェドとオペラがどうなっているのかは分からない。


 ――ブチッ


「……ん?」


「……もう、いい加減頭に来た……」


 状況を考えないアンバーのしつこさ、竜の国の訳の分からない陰謀に訳の分からない魔法、訳も分からずオペラを巻き込んで落ちて行ったアホの騎士団長、勝手に甲冑を押し付けて帰るシャドウに、人の気も知らないでいるオペラに……それから……


「……何で私ばかりこんな目に遭わないといけないんだ……どいつもこいつも好き勝手言って……」


 ルーカスは配管をへし折って引っこ抜いた。石畳にカンカンと配管の引きずられる音が響く。

 頭上に降ってくる黒いスライムを叩き落とした。

 潰れたスライムを見て竜族達が小さく悲鳴を上げる。


「お? お前が怒っている所なんて初めて見たけど、何で怒ってるんだ?」


 ガンッ!


 振り下ろされた配管は受けたアンバーの腕にミシミシと食い込んだ。


「お前のせいだよ……」


「何でだよ」


「何でもくそも無いわ!! 私の事情とかは一切関係無くとも、お前みたいな輩には絶対に渡さない!!」


 ラヴィーンの街中に突如響き渡る爆撃。

 竜族の市民が何事か分からぬまま――ラヴィーンの首都はセリオンの覇者である獣王アンバーと、帝国最強で3日間寝てない皇帝ルーカスによって戦場と化した。


 巻き込まれないように逃げ惑う竜族、巻き添えを食らい吹っ飛ぶ黒いスライム。ぶっ潰されては上から降ってくる黒いスライム。

 それを目撃していたラヴィーンの竜族達は、地獄のようだと思った……



 ★★★



「ここって何処なんだ……?」


「わたくしにわかる訳が無いでしょう。全く、何で貴方はいつもわたくしを巻き込むの??」


 檻越しに辺りを見回すが誰も居ない。巻き込まれたオペラはぷりぷりと怒っていた。本当にねぇ、何でいつも巻き込んじゃうんだろうね? それはやっぱり君が悪役令嬢だからじゃないかな?


「大体にしてジェド・クランバル、貴方そんな檻くらい斬れるんじゃなくて? その腰のものは飾りなの?」


 そう言われてハッとして腰の剣を見た。投獄し慣れてしまったせいか全く気づかなかったが、今の俺は武器もあるし何かの罪で連行された訳ではないのだ。大手を振って普通に脱獄して良いのだ。


「うーむ……イージーモードすぎて逆に盲点だった。確かに。よし、出よう」


 俺は剣を抜いて檻をスパスパと斬った。今まで変な物で斬りすぎたせいか、俺の剣はよく切れるのが分かる。というか剣士の剣なのにあまり使う機会が無くて本当ごめん。

 切れた檻を抜け出した時、部屋の扉が開いて人が入って来た。オペラと似た雰囲気を持つ有翼の男だった……が、その羽はオペラとは違って白い部分と青黒い部分がある。


「ロスト……」


「あらやだ、貴方までついて来ちゃったの? 本当に邪魔な子ね。ま、でもあの怪我でここまで来た事だけは褒めてあげるわ、オペラ」


 やはりオペラとは知り合いというか何かしら因縁のありそうな感じであった。


 ……所で、その、男……ですよね? 男にしては結構露出度高めな服の胸元とか……明らかに男な感じなんだけど、喋り方と仕草は女な感じだし、顔もこう中性的な感じだからどっちか微妙なんだけど、これって今聞いていいヤツ?

 あとさ、男っぽい女と女っぽい男は明らかに違うけど、女性っぽいだけの男と心が女な男……まぁ、その、オカマ的なヤツ? は違うじゃん。

 最近じゃオネエなのに女性と恋愛するヤツもいるし、訳が分からないよね?


「やっぱりあの神聖魔法――あなただったのね! どういうつもりで竜の国と組んでるのか、今度こそ聞かせて貰うわ!!」


 ああ……やっぱり因縁というか険悪なムード……これは聞けないヤツである。


「残念だけど、アタシはあんたみたいな小娘に今は用は無いの。あるのはそっちの色男だけよ」


「え??」


 うわぁ……あの言い方、確信した。あっちの方だ。俺は全然興味も用もありません。悪役令嬢以上に無い。いや、悪役令嬢にも用は無いけど。


「ふざけないで!! ぐっ」


 後退りした俺の前にオペラが出たが、その首を見えない力が締めて持ち上げた。

 いや、よく見るとロストの羽にから滲み出ている黒い光が力を帯びて空気を歪ませていた。


「?! 何だ?」


 異変を感じて周りを見ると、この部屋全体に青黒い魔法陣が張り巡らされ、ロストがそれに黒い力を送っていた。


「何の為にここに落としたと思ってるの? ただの牢屋なんて破られるって最初から分かっているでしょう」


「っ!」


 オペラの首を締めるのと同じように、俺の周りの空気も薄くなって喉を締めつけられるような感触がした。

 ヤバイ、この魔法陣の中だと身体が重くなる、空気までもロストが支配しているようだ。


「くそっ!」


 だが、まだ焦る時では無い。ロストの羽の青黒いの、アレはどう見てもナーガと同じ闇の力だ。ならば御守りが効くはず。

 俺はポケットから御守りを取り出し、苦しく震えてきた手に力を入れて渾身の御守りアタックを魔法陣にお見舞いした。


「これでっ……あれ?」


 御守りを叩きつけた魔法陣は、その部分だけが白く変わって御守りが反応しなかった。

 おかしいなと思い他の部分に付けるが、やはり御守りは何も反応しない。というか部屋のどんよりとした空気の中も御守りの周りだけ白く光が包んでいた。何これ?


「ふふ……いつまでもそれに対抗する手段を作らないで居ると思った? 貴方のその御守りはアタシには効かないわ」


「なっ、そんなバカな……」


 何だとぅ!!? かれこれ10話位からずっと持っていて140話位から万能に使えていた闇への対抗手段の万能御守りが――効かないだと????

 いや、うん、確かに都合良く使い過ぎた。いつまでも使える訳ないかも……いやでもそんな……

 俺は諦めきれずダメ元でロストの黒い羽とかにもペタペタと押し当ててみた。


「無駄よ。アタシは聖気と竜の闇の両方を自在に操る事が出来るの……残念だけどその便利な御守りは……効かな……ちょっ、いい加減に……」


 ダメだ……本当に全然効かない。いや、諦めなければワンチャン――


「効かないっつってんだろうがこのタコが!!!」


 ロストが俺から御守りを奪い、ビリビリに引き裂いた。


「ああ! そんな……」


「そんなじゃないわよ! もっと早く諦めなさいよ!! ……たく。ま、これでナーガの刻印の呪いに対抗する手段は消えて無くなったわ。後はラヴィーンに集めた大量の竜達で世界中に呪いをばら撒くだけね」


「やはり……あの集めた竜はそういう事か……」


「ええ。だけど、地方に行った竜達は簡単に従わないみたいだから、ナーガの血を飲ませて呪いにかけ、支配するそうよ。そうやって従順になった飛竜達を全世界に戻して呪いで埋め尽くす。闇に負の感情を増幅させられた者達は争い……世界中が戦争に包まれるわ」


「そんな事してどうするんだ?!」


「さぁ……そこまではアタシには分からないわね」


 これだからちゃんとした悪役ってヤツは……すぐ世界を混乱に陥れたり争いの世に変えたりしたがるんだよなぁ。悪役の気持ちはやはり俺には分からない。

 そうこうしている間に空気がマジでヤバくなってきた。アカン、死にそう。

 オペラはすでにぐったりしている。え? 大丈夫? 生きてる??


「ただでは殺さないわ。オペラもじっくり苦しませるけど……特にジェド、貴方はね……」


 ロストが不適な笑みを俺に向けた。ええ……まさか……まさかお前……


「……俺をどうする気だ……まさか、帝国で流行っている薄い本みたいにする気なのか?! あんな、全年齢じゃとても言えないような! 奪い本みたいに!!」


「……その薄い本とやらが何なのかは全く分からないけど、アンタを苦しませたいのはアタシじゃなくてナーガの方よ。アンタ、相当恨み買ってるでしょう?」


「ああ、何だ、そっちか」


 俺はホッとした後に気付いた。いや、全然何だじゃないわ……違う意味で全年齢じゃ言えないような目に遭うじゃん。ぴえええ!!


「く……」


 俺は剣に手をかけようとしてそのまま剣を抜く事なく意識が落ちた。もっと早く剣抜けたよね……うん、だっていつもいつも剣あんまり使えてないからさぁ……いざという時に使い忘れちゃ……った……

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