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竜の修行道はロマゾ道(前編)


 

「何か、意外にもちゃんと道はあるんだな」


 川沿いには所々古く崩れてはいるものの踏み固められた道があり、その道を俺達は進んでいた。


「前にも話をしたと思うが竜の国は古い修行場だったので、古より竜に挑戦したい者達がこの山を登っていたからな。ここはその名残なんだろう」


「……つーことは、最初からそこを通れば良かったんじゃないのか?」


 道があるならば正面の空から堂々と入って戦う事も、川に落ちる事も俺が怒られる事も無かった気がする。


「お前、竜の修行に来るような者達がどんな奴らか知らないのか? 昔の修行や信仰者の参拝は、とにかく道が険しく遠く、苦労することに意義があると信じていたとか。そういう変な慣習と変な思想が多くてな。したがって竜の国に続く道はわざと遠くから崖や獣道や岩壁等困難な道を通してある」


「……何でそんな事をするんだ?」


「簡単に辿り着いたら雰囲気無いからだろう。そうやってただでさえ遠いのにわざと困難な道を作った為か、中々竜に挑戦出来るものもおらず……やっと辿り着いてももうすでに気力も尽き果て竜を倒すに至らず、そのまま戻って来なかったヤツらが殆どだそうだ」


「そうなのか……まぁ、好んで竜と戦うヤツなんかロマンを求めるマゾ……略してロマゾばかりだろうな」


 冒険者でも目的を持って順調に進んでいく奴もいれば、夢やロマンに酔いしれて形から入って無駄に命を落とす者も少なくない。竜や魔王の棲家は大体そんなヤツらが目指す場所であるので気の毒ではある。竜や魔王を倒しに行くとかいうロマンは一体誰が最初に言い始めたのだろうか……


「この地図上で見る限り、ラヴィーンの首都まではそう遠くはなさそうね」


「ああ。今はこの辺りだから一日も歩けば着くだろう」


 アンバーの持っていた地図をオペラが上から覗き込む。山の地図は古めかしいもので、その昔の冒険者達が長い時間をかけてラヴィーンを調べて作成したものらしい。

 本当はもう少し近くまで行く予定だったのだが、俺達はかなり手前で落とされたようだ。


「……」


 オペラが近くで覗き込んだのが恥ずかしいのか、アンバーはモジモジとし始めた。何で……? お前、求婚までしてたよな。

 アンバーがコソコソと俺に耳打ちをして来る。


「……凄くいい匂いがする」


「お前、女と話した事無いのか? セリオンにだって女は沢山いるだろ……」


「いや、あんなに上品な女は正直ほとんど居ないぞ。特に王城で働く獣人の女性は皆、野生的で筋骨隆々の女戦士ばかりだ。凄くドキドキする。これが真の悪役令嬢というものか……」


「いや、悪役令嬢は全く関係ないと思うが」


 とんだチェリーボーイである。まぁ、俺も一緒ですがね?


「なぁジェドよ。頼があるんだが」


「何だよ」


「何とか2人きりになる方法は無いだろうか……?」


「……何でだよ。俺達全員で竜の国目指してるんだよな?」


「うむ。だが、道中に何らかのハプニングがあってこそ2人の距離が縮まるとは思わないか?」


「……これ以上ハプニングは起きないで欲しいと、俺は願っているんだが……?」


「頼む。協力してくれ……俺は、運命だと思っているんだ。あんなに理想の美しい女性はこの先現れない。ダメならキッパリ諦めるが、少しでもチャンスは有った方が良いだろう」


「えー……」


 そんなんに協力したって知れたら俺またオペラに蹴られるじゃん。

 だが、必死なアンバーを見てると何だか可哀想になって来た。同じチェリーボーイとして。

 1人でも寂しい男が救われるならば協力してもいいのかなぁ。ま、ここに陛下が居るならまだしも居るわけじゃないし、少しくらい良いだろう。オペラにだって選ぶ選択肢はあったっていいだろうしな。


「分かった分かった。俺が協力出来る時があればな。あるかは分からないが……」


「頼んだぞ!」


「貴方達、何をコソコソと話をしているの?」


 不審に感じたオペラがこちらを見たが、俺達は何事も無かったかのように首を振った。

 シャドウも無言でこちらを見ていたが多分聞こえてはいないだろう。俺や陛下は雑音の中でも小さな音が聞こえるように特別な訓練をしているが、アイツはまだそこまで習得していないからな。うんうん。



 どんどん標高が高くなり、山道をしばらく歩いていると川が遠く下の方になっていった。次第に景色が見渡せるようになり、渓谷の続く先の遥か遠くの方に街並みが見える。


「あれが首都かぁ。前に来た時はゲートを通ったから距離が分からなかったけど、こんなに遠かったんだな……」


「ああ。ここからだとよく見渡せるが、ここから更に下ったり登ったりを繰り返してやっと竜の国に辿り着ける。ラヴィーンの山脈はプレリ大陸と他の大陸を分けるように流れ、プレリの天井とも言われているんだ。大自然が多く残り、広大な山々に沢山の竜が棲む」


「へー。竜ってそんなんに詳しくないんだが、いろんな種類が居るのか?」


「わたくしも知りたいわ。竜の話は本によって様々語られていて何が正解か全然分からないのよね」


「うーむ……そう言われると難しいな。竜の国の女王ナーガは、神話時代から居る死者を乗せて飛ぶ黒い闇の竜とされている。まぁ、色で分類するならブラックドラゴンか? それと同様に色で分けるならレッドドラゴンだことのブルードラゴンだことのと沢山居るが、蛇みたいなヤツも居ればトカゲみたいなヤツも居て種類なんて分からんぞ?」


「……つまり、本によって竜の種類の書かれ方が様々で何が正解か分からない、という事では無くて全部居るって事?」


「そういう事だ」


「げっ、そんなに居るのか……」


「いつからそうなのかは分からんが、昔――あまりにも世界中のドラゴンが狩られすぎた時代、世界中のドラゴンが静かに暮らそうとこの山に竜の聖地を作ったのがラヴィーンの始まりと言われている。実際は静かに暮らせなくとも、一箇所の山に集まれば竜同士助け合えるので悪戯に狩られる事もないからな」


 竜は小さなヤツでも素材として高値で売買されるとか聞いたりするからなぁ。竜も大変なんだな。


「あの……あれ、何ですかね?」


 話をしている間にシャドウが渓谷の下の方に何か見つけたらしくそちらを覗き込む。


「……竜の群れだな」


「竜の群れね」


「何であんなに沢山いるんだ……?」


 渓谷の間に長蛇の列を作り犇き合っていた。


「あれって運送や移動用の飛竜じゃないかな?」


 その竜達は体に鞍を付けたり籠を付けたりした大型の飛竜ばかりだった。て事は世界中から回収されたヤツらだよな……?


 どこまで続いているんだろうと思ったら、結構向こうまで続いていた。何でこんな大渋滞してるんだ……


「もしかして、世界中から飛竜を呼び集めちゃったから国に入りきれてないんじゃないのか……?」


「……いくら何でもそんな無計画な訳ないでしょう」


「そうだったら何か悲しいな……」


 来るのがちょっと早過ぎたのかもしれない。いや、早いに越した事は無いんだが……何かごめん。

 俺達はその大行列は見なかった事にして崖の上の道を更に北上した。



 ★★★



 竜の谷山を満身創痍で這うように歩く壮年の男が1人。

 彼はただ、己の剣を磨く為に――長い年月をかけて竜の国を目指していた。

 修行を始めて、ラヴィーンの山に入るまでに幾数年。山々を越える途中で様々な試練や罠にかかって更に幾数年。やっと目指す竜の国が見えてきた。


 彼は必ず強くならなければいけなかった。あの剣士を倒す為に……


「やっと……ここまで来ることが出来た」


 男は持っていた剣を強く握りしめ、その剣に誓った。必ず竜を倒し、ヤツに挑むのだと……



「あー…何か疲れない? そろそろ昼にしないか?」


「貴方、本当に緊張感の欠片も無いわね。まぁ、そんな事今更かもしれないけれど……」


「オペラもやっと俺に慣れて来たようだな。良い事だ」


「いや……慣れないで下さい」


「昼ならば城で沢山弁当を作って貰ったからな。そうそう、丁度この辺りの広い丘が着地予定地点だったんだ。ここら辺でシートでも敷いて休憩しよう」


 男が祈る後ろでワイワイとシートを広げてピクニックを始める男女達。祈りを捧げる男は何も聞かないように精神を統一していた。


「おお、美味しそうなおにぎり」


「オニギリ……? わたくし、こんな風に丸めた物は初めてですわ。パンでは無いのですね」


「プレリは結構米の栽培が盛んなんだが、気に入ったならば是非聖国でも輸入してくれ」


「……手で持って食べるのですね……もぐもぐ……これは……中に入っているのは……酸っぱい! ……けど、悪くないわ……」


「梅干初めてか? というかおにぎりを知らないなんて人生損してるぞ」


「……オペラ様……あの、頬に……米が」


「?!」


 ガヤガヤガヤガヤ


「……」


 ガヤガヤガヤガヤガヤガヤ


「うるせーーーーーー!!!!!!」


 男が急に怒りだしたのでジェド達はおにぎりを頬張ったままピタリと黙った。


「え……あ、人が居たんですか。気がつかなかった……」


「すみません。あ、おにぎり食べます……?」


「食べるかーー!!!!! こっちは何年も何年もかけてやっとここまで辿り着いて感傷に浸っているのにお前ら何なんだーー!!!」


 ジェド達は顔を見合わせて首を傾げた。


「もしかして、さっき話していた竜の修行の人か?」


「みたいだな。未だにそんな人間が居るとは……竜の修行道は変な罠やヤバイ道が多いらしいから、真っ当に修行道を来たならば健闘を讃えたい位だが」


「ロマゾって本当に居たのね……」


「いい加減にしろーー!!! お前達、馬鹿にしているのか?!!」


「何か凄く怒ってる。何で?」


「俺は竜を倒して最強の剣士となり、悪役令嬢ジャスミン・クランバルを倒さねばならんのだ!!! こんな所で油を売っている場合ではない!」


「ん?」


 皆の視線がジェドに集中した。


「あの男、クランバルって言わなかった? ジェド、貴方の関係じゃなくて?」


「うわぁ……ジャスミン・クランバルかぁ……」


「?! お前、ジャスミンを知っているのか???!!」


 壮年の男が驚きジェドに駆け寄った。


「知ってるも何も……」


 ジェドは何と言って説明したら良いものかと視線を彷徨わせて明後日を向いた。


 悪役令嬢ジャスミン・クランバルと言えば……ジェドの父親である。

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