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獣王アンバー再び……え? お前……(後編)

 


「俺は……各地の情報を集めさせ、調べに調べ尽くした。そして、ついに辿り着いたのだ。真の悪役令嬢に! 聖国は昔からあまりいい噂を聞かなかったのだが、10数年前に新たに君主になったという若き女王、オペラ・ヴァルキュリア。貴女こそ帝国と魔王領に害をもたらす悪女であり、悪役中の悪役。そして凍る程ツンが凄いと聞く。正に、俺の求めていたツンデレ悪役令嬢だ!! 結婚してほしい!」


「……」


 ああ、オペラが真っ白になっている。帝国に害をもたらしたのはまぁ色々事情があるとは言え、事実だから何とも言い難い。ちなみに魔王領にはまだ何もしてない。

 そんなに悪役令嬢として噂になっていたとは知らなかったなぁ。まぁ、自分の撒いた種だ。頑張れ……


 俺が諦めて成り行きを見守っていると、シャドウがアンバーの掴む手をチョップして切った。ずずいとオペラの前に出る。


「獣王様、初めて会う女性相手にいきなり求婚なんて失礼じゃないですか?」


「ん? まぁそうか? だが、我々獣人は運命を感じたらガシガシ行く種族だからな。俺はもうすでに相当気に入っているが、俺の事についてはお付き合いしながら知って貰えば良かろう」


「全然良くないです!! オペラ様にはすでに意中の人がいますので!」


「??!!!」


 いや、シャドウよお前、そんな事勝手に言って良いのかよ。オペラが目を丸くして口をパクパクさせている……


「ん? そうなのか? だが、その相手とはまだ恋仲では無いのだろう?」


「い、いや……それは……そうですが」


「ならば問題無い。未だ実っていない恋ならば移り変わる事もあるだろう。俺の事を好きになればいいだけだ。俺は努力するタイプだからな、番には尽くすのが獣人というものだ」


「絶対に駄目ですし移り変わりません!」


「何故だ? というか、そもそもその相手とは誰なんだ……?」


「そっ、それは……」


 シャドウがチラッとオペラを見ると、オペラはプルプルと真っ赤になって震えていた。ああ……オコだ。


「全員……いい加減にしなさい!!!!!!!」


 怒りが限界に達したオペラの裁きの雷により全員感電した。俺は何もしてないのに何故俺まで……


 だが、電気療法なのか何なのか分からないが何故か頬の腫れが引いてきた。何故? 人体の不思議。



「まぁ、結婚の話はひとまず保留として、俺達はセリオンの現状を知りたいのと……あと、どうにかしてまた竜の国に乗り込む方法は無いものかと相談に来たんだ」


 感電して黒こげになった俺達は落ち着いて座りながら話し合った。

 オペラはまだぷりぷり怒っている。黒こげになった部屋中を獣人の家臣達が片付けていた。


「ふむ。まず現状だが、セリオンを始めとしたプレリ大陸中には例の刻印の呪いの被害はあれから出ていない。ただし、先に話した通り世界中の飛竜が竜の国に戻され一切の国交を絶っている。そしてラヴィーンの裏道を通り抜ける事が出来るゲートも先日壊してしまったから入国は中々に難しいだろう」


「そうか……」


「だが、こちらとしてもラヴィーンが怪しい動きをしている以上、そのまま大人しくしている訳にはいかないからな。何とか入国出来る方法を用意しよう。明日まで待ってくれ」


 アンバーは家臣達を呼んで準備をさせた。


「今日の所は城でゆっくり休んでくれ。前回の反省を生かしてちゃんと客人が泊まれる部屋を用意した。1日中移動して来たのならば疲れただろう」


 そう言って俺達を城内の部屋に案内させた。

 確かに……前と違って1日自分で走って来たからなぁ……もうクタクタである。

 用意された部屋はそれぞれ違う部屋だったが、ふわふわの毛皮の布団が気持ち良すぎてベッドに入るなり眠りについてしまった。



 ★★★



 オペラは部屋に戻るなり毛皮の布団の上にある枕を叩きつけた。

 何だか訳の分からない出来事が多すぎて情報過多ですっかり疲れていた。ここ最近は聖国や魔の国以外に目を向けた分、新たなよく分からない出来事に心労を負わされている気さえした。

 半分以上はあの漆黒の騎士のせいだったのだが、今回もこの国に寄らずに真っ直ぐに竜の国に行けばこんな事にはならなかった。やはり元を辿れば全てジェドのせいである。

 獣王が協力してくれるのはありがたいが、それ以上に勝手に告白されるなど迷惑な話でしか無かった。


 ただ、オペラは誰かにそんな事を言われたのは初めてであり、どうしたら良いか分からずに真っ白になった先程を思い出した。

 思い出してまた怒りがこみ上げてバシバシと枕を叩く。助け舟を出したつもりであろう甲冑騎士……


「言わないって言ったのに……」


 ――コンコン


 呟いた直後、ドアをノックするのが聞こえた。応じようかと思ったが、自分が枕を布団に叩きつけて寝所が荒れているのに気が付いて焦っているとノックした相手から声がかかる。


「……オペラ様?」


 声の主はシャドウだった。オペラの大好きなルーカスと同じ声だからすぐ分かる。


「……何か用?」


 ドアを開ける様子はお互い無かった。ノックの相手は廊下からそのまま話し出した。


「その……すみません。私は、余計な事を――」


 バンッ


 ドアにぶつけた枕に相手は驚き言葉を止めた。


「余計な事だと思うなら何故間に入ったの?! わたくしがあんな男くらいあしらえないとでも思ったのかしら? 私を誰だと思っているの??」


「……いや、そうじゃなくて……」


「……何?」


「……」


 相手が黙ったのを不審に思い、オペラはドアを開けた。そこには俯く甲冑騎士が居た。


「……何なの? シャドウ」


「……すみません、私にはまだ……止める資格は無かったです……」


「……? 話が見えないわ」


 オペラの疑問に応える事なく、会話は噛み合わなかった。オペラの手をそっと取る。


「……?」


「……オペラ様は、陛下の事が……その……」


「……シャドウ、貴方、何言って……」


 ガタン


 オペラの部屋の窓から物音がして2人がビクリとそちらを見た。そっと窓を覗き込むと、そこには獣王アンバーがフックのあるロープを窓に引っ掛け、登って来ている所だった。


「……獣王、そこで何をしているのですか……?」


「ぬ? シャドウ、何故その部屋に居る。折角ロマンティックな夜の逢瀬を演出しようとこうして窓を登っている所だったのに――」


 甲冑騎士は無言でロープを切った。獣王が落下して行くのを見送る。


「……何を考えているの? あの男は……」


 オペラが青い顔で頭を押さえた。甲冑騎士はため息を吐いてオペラの手を取って部屋を出る。


「オペラ様、私の部屋には窓が無いのでそちらで寝てください」


「え? 貴方はどうするのよ」


「私は廊下を見張っていますので」


「そこまでしなくても……」


「いや、多分あの男は部屋を探し当てて入って来ます。良いから大人しくこちらで寝てください」


 そう言ってオペラを部屋に押し込むとそのままドアを閉めてその前に腰掛けた。


 中の物音が聞こえなくなって暫くしてからそっとドアの隙間から覗くと、寝ているようだったので安心してまたドアを閉めた。


 甲冑騎士はパチンと兜の留め金を外しため息を吐く。


「……はぁ。マズイなぁ……これ」


 サラリと流れる太陽の色の髪と目。困り果てたその顔は完全に言い出すタイミングを失っている所か、どんどんと深みにハマっていた。


「これ、バレたら怒られるよなぁ」


 兜を戻し、ガックリと項垂れていると向こうの方から匂いを頼りにオペラの部屋を探し当てるアンバーの姿が見えた。

 やはりかと思いながら指を鳴らす。


 甲冑騎士はその晩も死闘を繰り広げたまま、寝る事が出来なかった。



 ★★★



「ふぁ〜、よく寝た。ん? シャドウ、ちゃんと寝たのか?」


「ええ、まぁ……」


 翌朝、シャドウだけ何故かどんよりとした顔をしていた。いや、何かアンバーも寝不足っぽい顔をしている。君達、昨日何かあったの?


「それで、竜の国へ行く方法は確立出来たのか?」


「ああ。これで近くまで行ける」


 そう言ってアンバーが家臣に用意させたのは何羽もの鳥が引く籠だった。気球の鳥版って感じ?


「こんなんで近くまで行って、飛竜に見つからないのか?」


「見つかっても大丈夫だ。倒せば良い。皇室騎士団長と獣王が居れば大丈夫だろう」


「……何でしれっとお前も付いて行こうとしてるんだよ」


「戦力は多い方がいいだろう、はっはっは!!」


 いやお前、絶対誰かへの下心があってついて来てるよな。

 オペラは完全に嫌そうな顔をしていたが、まぁ良い顔しようと活躍してくれるなら戦力としては申し分無いし……良いか。オペラよ、済まんな我慢してくれ。

 シャドウも何か壁になってくれているみたいだし大丈夫だろう。心変わりしてアンバーの事を好きになってしまったらそれはそれで。


 そうして俺達は鳥籠に乗ってラヴィーンの山々へと旅立った。ちなみに鳥籠は輸送用として訓練されているらしく、めちゃくちゃ速かった。

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