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ゲート都市に現れた偽騎士団長(後編)


 

 甲冑騎士シャドウはオペラの元へ戻って来た。

 場所に着くなり見えたのは、地面に埋まってグリグリと踏み付けられている数人の男達と、踏み付けるオペラの姿だった。


「……遅かった」


 執拗に男達を踏み付けるオペラの肩をシャドウは後ろから掴んで止めた。


「オペラ様、その位でご勘弁を――」


 振り向いたオペラが涙目だったのでシャドウは固まった。

 男達がオペラに何かしたのかと感情が爆発しそうになる。あんな大怪我をした時でさえ強い目をしていた。そのオペラを悲しませるなんて……


 シャドウは初めて制御が効かなくなりそうな程の怒りを心に感じ1歩出たが、次の足が出る前に言葉を発したのはオペラだった。


「黄色の小鳥……1個しか無かったのに……」


「え……?」


 オペラの目線の先には無残に踏まれて崩れた砂糖細工と、手に持っていた包みにも可愛らしい砂糖細工の小鳥が入っていた。


「……何だ……」


 シャドウはオペラが何か危害を加えられた訳ではなかった事に心底安堵したが、オペラがシャドウの頭をポカポカと叩いた。


「何だとは何よ!! わたくしが大事に最後に取っておこうと思っていた黄色の小鳥があんな無残な姿になってしまったのよ???!!」


「あっ、あの、そういう意味では無くて、オペラ様に何かあったのかと心配したので……何も無くて良かったなという……」


「シャドウ、貴方わたくしを誰だと思っていらっしゃるの?」


「非情にして冷酷な聖国の女王は黄色が好きなのですね」


「え?」


 シャドウのニコニコとした問いかけにオペラは赤くなり顔を背けた。


「わ、わたくしは別に黄色だからとかそういう、ああ! そもそもこんな砂糖の小鳥なんてわたくしが欲しくて買った訳じゃなくてよ!!」


 慌てて包みを収納魔法に隠すオペラを微笑ましく見守った。やはりシャドウが皇城で見た通り、オペラは可愛らしい一面があるのだ。

 先程は今まで感じた事の無い変な感情が出そうになった。それが何なのか不思議に思いながらも、何はともあれ誤解で良かったとシャドウは胸を撫で下ろした。


「ところで、この方達は一体何なのでしょう?」


 地面にめり込んでいる男達の中には騎士風の男も居た。


「思い出したわ。その男、ジェド・クランバルとか言っていたわ。よくもわたくしの前でその名前を出してくれたわね」


 シャドウはとりあえずその黒騎士風の偽ジェドらしき男を引き起こした。小鳥の件が無くても騎士団長の名前を出した時点でしばかれていただろう。騎士団長並みに不運な所は評価したかった。


「うう……一体なんなんだ……アンタら」


「あのー、偽者さん。貴方のせいで本物の漆黒の騎士団長ジェド・クランバルが困っているのですが、何でこんな事をしたのかとりあえず聞かせて頂けませんか?」


「えっ、ほ……本物の関係者……??」



 偽騎士団長とゴロツキの男達は並んで正座をしていた。

 街中の女性達が皆揃って男達に襲われては助けられるなんてあまりにも出来すぎていたのだ。


「すみません……まさか本人が来るとは……」


「流石に騎士団長の名前を使ってゲートを移動するのは犯罪です。何故そこまでして騎士団長になりすましたのですか?」


「いえ……俺もまさかバレずに通れるとは思っていなかったのですが……通れてしまった事で調子に乗ってしまいました」


「コイツは……アレクは悪く無いんです!!」


「そうだ、全部女が! 悪役令嬢が悪いんです!」


「え?」


 ゴロツキの男達が次々と偽騎士団長ことアレクを庇い始めた。


「悪役令嬢って……一体どういう事ですか?」


「実は……俺が本気で好きになった女は皆……悪役令嬢だったんです」


 シャドウとオペラは言っている意味が全く分からず『????』な顔をした。偽騎士団長アレクはそのまま話し続ける。


「好きになった女がことごとくある日前世の記憶を思い出したり、前世を知ってるから破滅する訳にはいかないとか訳の分からない事を言ったりして……俺はいつも振られるんです。この間なんて、結婚直前に婚約破棄ですよ??? 前世を思い出したから婚約破棄って、そんな事あります???」


 このアレクとかいう男、悪役令嬢に振られるタイプの男であった。

 ジェドからよく話を聞くシャドウは結構詳しくなっていたのでピンと来た。大方彼はゲームの攻略対象だとか本当は主人公と結ばれるはずだとかそういう系の人なのだろうと。だが、原作だなんだとかを知らない本人からして見れば、訳も分からず振られたに過ぎないのだ。


「振られた時の女の1人から聞きました。何処かに悪役令嬢を呼び寄せ、助けてくれる伝説の騎士がいるのだと……」


「騎士団長は最早伝説となって語り継がれているのですね」


「伝説級のアホには変わりないわね」


「それを聞いた俺は……その騎士になりすまして悪役令嬢を救えば結婚出来るんじゃないかと思い立ったんです……」


「俺たちも、あまりにもアレクが気の毒すぎて……協力しようと思ってついて来たんです……」


 何でそんな事を始めようと思ったのかは分からなかったが、巻き込まれた側にしてみるとはた迷惑な話だった。オペラはため息を吐きながら言う。


「貴方、そんな変な考えに至るから振られるんじゃなくて? 相手が悪役令嬢だから何? 婚約破棄されたから何?? 暗に貴方がそんな逆境に太刀打ちできる程の男だと思われなかったり信用が薄いだけでしょう? 貴方が成り済ましているのは騎士団長で剣聖じゃなくて? 表面だけ成り済ましてないで、中身をちゃんと鍛える所から始めなさい」


 オペラの凍るような辛辣さに皆が凍えた。


「ま、まぁ……とりあえず関門所に戻ってちゃんと謝ってください。騎士団長も理由を話せば多分怒らないですし。それに、貴方が思っている程騎士団長はモテませんし女性からもあまり好かれていませんよ……?」


「……そうなのか?」


「ええ、まぁ。そもそも皇室騎士団が……あまりモテませんし」


 シャドウの言葉にヒソヒソと男達が話し始めた。まだ婚約したり彼女がいただけアレクの方がマシなんじゃないかと。そう……そうなのだとシャドウは悲しくなった。


「……何かすみません」


「あなた方の言う通りです、もっと違う方面に努力して真っ当に結婚します……」


 男達とアレクは肩を落としながら憲兵と一緒に関門所へ向かった。


「はぁ……下らない事件だったわ。わたくし達も早く行きましょう」


 オペラが歩き出そうとしたが、シャドウはピタリと止まった。


「あ、あの……私、ちょっと買い忘れた物があるので待ってて頂けませんか?」


 オペラは不思議な顔をしたが、また雑貨屋をチラッと横目で見て……わざとらしくため息を吐いた。


「早くなさい。わたくし、あまり待たされるのは好きじゃなくてよ」


「はい!」


 シャドウが走って行くのを確認した後、オペラはまたチラチラと雑貨屋を覗き始めた。



 シャドウは人混みを走る途中に、先程の雑貨屋と似たようなお店があったのを思い出していた。


「やっぱり……」


 そこにはオペラの持っていた砂糖の小鳥と同じ物が売っていた。壊れてしまった黄色の小鳥も居たのでそれを手に取った。

 ふと、目に止まった同じ形の白い小鳥も一緒に買った。白と黄色を並べて手に取ると、何となく嬉しいような……胸がチクリとするような不思議な気持ちになった。


 雑貨屋を出たシャドウが急いで戻ろうとしたその前に――1人の男が現れた。




 ★★★



「遅いわ。何をしていたの?」


 待ちくたびれたオペラの所に、甲冑騎士が戻って来た。


「いえ……えっと、その、あ! これを……」


 甲冑騎士はその手に持っていた包みをオペラに渡した。

 受け取ったオペラは包みの中を見る……そこには砂糖で出来た黄色の小鳥があったので、オペラは驚いて甲冑騎士を見た。


「!!! ……何よ、わざわざ探して来たの? わたくし、別に嬉しくなんてなくてよ。……まぁ、折角探して来たのだし? 仕方ないから貰っておくわ」


 オペラは包みを受け取ってスタスタと顔を隠すように早足で歩き始めた。


「あ! 待って……下さい! オペラ様!」


 その後ろを追いかけて走り出し、2人はジェドの居る関門所へと戻って行った。

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