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ゲート都市に現れた偽騎士団長(前編)

 


「騎士団長の……偽者?」


 漆黒の騎士団長ジェド・クランバルがまたしてもゲート都市で捕まってしまい、置いていく訳にもいかなかった甲冑騎士シャドウと聖国の女王オペラ・ヴァルキュリアは(オペラはジェドを置いて先に行こうとしていたが……)関門所の職員に事情を聞いていた。


「はい、というか先に通したジェド・クランバル様が受理されてしまったので、関門所としては後から来た方を通す訳にはいかないらしいのですよね……」


 帝国の公爵家であり、皇室騎士団長になんて扱いを!? と憤ったが、関門所としてもどちらが偽者か分からない以上、今いるジェドも偽者も白黒着くまでは両方拘束せざるを得ない。被害者のジェドにとっては災難だが、帝国の法的には関門所の主張は間違ってはいないのだ。極刑も無いし権力者だからといって優遇はしない分、こうして拘束されてしまうのは仕方の無い事だった。


「こちらも先に通られた方を指名手配しています。まだ関門所を抜けてからそんなに経ってないので余程の魔法を使わない限りすぐに見つかるとは思いますが……申し訳ありません、それまでお待ち頂きたいです」


「……分かりました」


 溜息を吐きながらシャドウは諦めて窓口を離れた。2人はゲート都市の街中を当てもなく歩く。


「はぁ……まさかまた捕まるとは思っていませんでした」


「またって、何回捕まっているのよあの男は」


 オペラは心底呆れた顔をしていたが、シャドウがジェドから聞いた話だと最初に聖国に行った時も捕まったのらしいのでこの都市だけで3回目である。


「前回は完全に自業自得でしたが、今回は冤罪なので。その前も……多分巻き込まれただけだと思うのですが」


 ジェドはとにかく巻き込まれ体質なので本人の予期なく道草を食ってしまうのだ。


「オペラ様……貴女を1人で竜の国に行かせる訳にも行きませんが、騎士団長を1人で置いて行くのも心配なのでその……」


 シャドウの申し訳無さそうな様子にオペラはため息を吐いた。


「何回も言わなくても分かっているからもういいわ。どうしても急ぐならば最初から仕事も何もかも放り出しているし」


 時間がかかる事は最初から予想していたので自分が居なくても大丈夫なように仕事を終わらせて家臣に任せて来た。女王が不在の聖国は心配だが、いつまでもオペラが居ないと自分達で守れないような、守られるだけの民ではいけないと言い出したのは家臣達の方であった。今回の事で相当懲りたのだろう。


「それに良い機会だわ。わたくしも、余りにも聖国と魔の国だけに目を向け過ぎましたもの。これからは他の国にも目を向けなくてはいけないわ」


 最近、お茶製品の需要でかなり事業が忙しくなってきた。昔の聖国は神だの誇りだのと煩い大人が多かったが、聖魔戦争が起こらないのであれば……平和が保たれるのであればそこから先を考えなくてはいけない。聖国には若者しか居ないのだ。


 まずは竜の国をどうにかしなくてはいけないが、それが解決したら色んな国を見てみたいとは思っていた。


「いずれにせよプレリ大陸や竜の国についてはわたくしも貴方もよく分からないでしょう。こんな所で話をしていても時間の無駄よ」


 そう言ってオペラが歩き出すのでシャドウは慌てて後ろを追いかけた。


「あ、あの! オペラ様、どちらへ……」


「まだ関門所を抜けてからそんなに経ってないって言っていたでしょう? 仮にゲートで他の大陸に行ったならまだしも、そう言って無かったならば行き先は帝国内。もしかしたらまだこの街に残っている可能性だって無い訳じゃないわ」


「確かに……」


 ゲート都市は街中至る所に大きなゲートがあり、それぞれが各大陸に繋がっていた。各ゲート近くには関門所があり、そこからゲートに入ると別の国や大陸管轄ではあるが、街自体は帝国内に当たる。

 ゲート都市内には土産物屋もあればキャンプ用品、魔術具、食料品にポーション等……それぞれの大陸に行くのに必要な店が並び、旅人で賑わっていた。


 シャドウの前を歩くオペラは目深の白いフードを被っていた。

 羽はローブの中に隠れていて分からないが、仕事をしていた時にはまだ1枚しか無かった。聖気が回復してきたのでじきに治るとは言っていたが、それがいつなのかとは断言していなかった。

 普段出歩く時も小さく畳んで服に隠しているらしく確かに見ただけでは聖国の有翼人とは分からないが、その歩く姿は明らかに貴族女性だったのでそれだけでもシャドウは心配だった。フードを取れば目を引く程の美しい女性なので、1人にするとどんな輩に絡まれるか分からない。

 シャドウは手掛かりを探しつつ、なるべく人混みの中で逸れないよう気をつけた。オペラ自身もあまり混雑した街中に慣れてないのかすぐに押し潰されそうになる。

 シャドウは埋まりそうになっていたオペラを助け出した。


「あの……大丈夫ですか?」


「……わたくしがこんな人混み位で負ける程弱く見えて? 非情にして冷酷、聖国の王女オペラ・ヴァルキュリアよ?」


「ええと……人混みは大変ですので、非情にして冷酷に端を歩きましょう」


「……そうね」


 オペラはふん、と偉そうに店側でなく比較的空いている道端を歩いた。その様子が可笑しくてシャドウはくすりと笑った。


 脇道の路地に可愛い雑貨屋が見えた。オペラがチラチラとそちらを見ているのでさりげなくシャドウはそちらに寄って足を止めて休憩する素振りを見せた。

 興味の無い様子を出しながら壁際で休むオペラは横目で店の中を見ていた。何か気になるものでもあるのかとシャドウは見ないフリをしながら人混みに目を向ける。


「さっき素敵な騎士様に助けられて〜……」

「えー!!」


 と、人混みを歩く女性からそんな声が聞こえた。

 そんな風に女性をスマートに助けられる騎士様がいるのか、羨ましいなぁと妙に気になったシャドウは、いけないと思いつつその女性達を目で追いかけて話に耳を傾けてしまう。


「悪そうな男達に絡まれている所に颯爽と現れて簡単に追い払ってくれたのよ〜」


「えー、素敵ー! どんな人だったの??」


「それがぁ、全身黒い服のイケメンで、何でも帝国の皇室騎士団長だとか……」


「え……」


 遠くなる女性の会話の端に手掛かりを感じて人混みに出ると、その女性達は雑踏の中に消えそうになっていた。

 すぐに追いかけたいシャドウだったが、オペラを引きずって人混みの中を揉みくちゃにする訳にはいかない。


「あの! もしかしたら手掛かりを見つけたかもしれません! オペラ様はここを動かず待っていてください!!」


「え?」


 オペラが居る場所を確認したシャドウはすぐに人混みの中の女性2人を追いかけた。


「……何処に行くのよ。わたくしに待っていろですって? 全く……」


 か弱い女性かなんかと勘違いしているのだろうかとオペラは憤った。とは言え1度逸れたら再度合流するのも大変だし面倒だと思い、オペラはその場所で待った。


「……」


 シャドウが消えた事を確認したオペラは辺りを見回しながら雑貨屋を覗き込む。

 目に止まったのは猫がパンを捏ねているような姿の置物だった。

 世界樹の上にある聖国は羽の生えた者や鳥しか居ない。猫や兎はたまに他国へ仕事で出た時に運が良ければ見られる位で触った事すら無かった。


(わたくし……興味がある訳ではありませんのよ?)


 と、誰が聞くでも無い自分への言い訳をしながらまたキョロキョロと見回ると、今度は星やハート、猫等の可愛らしい砂糖を見つけた。コップの端に止まるタイプの小鳥の砂糖まであって、オペラは衝撃のあまり拳を握りしめて感情を押さえた。

 こんな可愛いもので趣味のティータイムを彩ったらどうなるのか想像した。

 最近、甘いミルクティーにもハマっていたのだ。

 想像を膨らませながらその小鳥達を連れて帰る事にした。


 店を出たオペラは包みを抱えてニヤけるのを必死で堪えた。

 シャドウが来る前に収納魔法に入れなければならないが、その前にもう1度だけ見ておこうと袋を覗き込んだ時、オペラの近くに男が数人現れた。


「おいおい、お嬢さん。こんな人通りの少ない路地で1人で買い物かい?」


「寂しいんじゃねぇの? 良かったら俺たち一緒にいてやろうか??」


 ニヤニヤと笑う汚らしい男達に、オペラの上がった気分が爆下がりした。

 チラリと袋を見る。砂糖の小鳥はこんなに可愛いのに目の前の男達は不快の権化である。


「わたくし……不愉快ですの。汚らしい者とは一切話をしたくなくてよ。目の前から消えなさい」


 オペラの言葉に触発され男達が周りを取り囲む。


「おお、酷い言い様じゃねえか? ガラスのハートが傷ついちまったぜ」


「よく見るとめちゃくちゃ綺麗な顔してんな? いいから付き合えよ??」


 男の1人が腕を掴もうとしたのでオペラは振り払った。

 だがその時――


 口の空いていた紙袋の包みから小鳥が1羽飛び出した。


「!?」


 手を振り払われた男の1人が足元に落ちた小鳥をよろけて踏んでしまった。


「?!!!!!!」


「何だこの女、少し手荒にされても――ん?」


 オペラは膝を着き、粉々になってしまった小鳥を見た。大事に頂くつもりだったのに……と、目の前が少し滲んだ。


「急にどうしたんだ?」


「さぁ……このまま連れて行くか?」


 男達がオペラに近付こうとした時、路地の入り口から1人の騎士が現れた。


「お前達……汚らしい手で女性に乱暴な振る舞いをしないで貰おうか」


「ん? 何だてめぇ!!」


 男達が騎士を見た。黒い鎧、端正なイケメン。黒い剣をスッと抜き男達に構えた。


「冥土の土産に教えてやろう。俺は……皇室騎士ジェド・クランバル!! 悪党は許さな――」


 騎士が高らかに名乗ろうとポーズを決めた時、汚らしい男達の後ろから光る赤い目の女の怨念を感じた。


「ひっ!!」


 騎士の様子がおかしくなり男達も振り向くと、血管を浮き立たせて怒りに震えながら浮かぶ1枚羽の女が怒気を白い光のオーラに変えて震えていた。



 ★★★



 女性の話を聞いたシャドウは首を傾げて歩いていた。


 実は他にも同じように黒いイケメン皇室騎士に助けられた女性が沢山居たのだ。

 それも皆女性。揃いも揃って男達に襲われた所を騎士団長らしき人に助けられている。


 その騎士は十中八九偽者のジェドであるとシャドウは確信した。

 しかし何故そんな事をあちこちでしているのだろうと疑問に思った。


 何故かあちこちで襲われていたのは人通りの少ない場所を1人で歩いていた女性だった。

 それを考えた時にハッとオペラを1人で置いてきた事を思い出して足を早めた。


 仮に男達に襲われても普通の人間がオペラに敵うはずは無いと分かってはいるが、今は大人しく人に紛れて旅をしている所だ……万が一があってはいけない。それに回復してきているとは言え怪我もしているのだ。


 ドカアアアアン!!!!


「?!!」


 目的の路地の方向で爆発のような音が聞こえた。皆がザワザワしてそちらを振り向く。


「オペラ様に何か……」


 では無く、何かあったのは相手の方かもしれない……と両方の心配をしながらシャドウはオペラの元へと急いだ。

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