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聖国で騎士団長はひたすら怒られる

  


 本から抜け出たワンダーはその本をパタンと閉じて鞄に仕舞った。色んな所に本をばら撒いてあるので、自分の本同士を移動出来るワンダーのいい脱出経路になっていた。


 今回も予想外の事態が沢山あった。まさか入り口でジェドに見つかるとは思っておらず、協力させられてしかも鞄を奪われるとは思っていなかったので焦ってかなり手を出してしまっていた。


 ワンダーは書く側なので話を考える事は得意でも、話の渦中に入り込むのはあまり得意では無かった。やはり他人の物語が1番楽しいのだ。

 ジェドは予想外で今回も面白かったのだが、一緒に殴られるのだけは勘弁して欲しかった。


(……しかし、何故オペラはあんなにも僕を恨んでいるのだろう?)


 ワンダーは首を傾げながら記憶を辿るように本に書いたメモを見た。鍵付きの本――表紙には黒い獅子の魔物と少女。

 10数年前、ワンダーは確かに聖国に居た――


「あの時も今も、僕はただ助言に来ただけなんだけどなぁ……」


 ワンダーは付箋を取り出してページに貼り付けた。『大人になった少女は兄と再会する』『※実物は思っていたより割と可愛い』


 ワンダーはうんうんと頷いて本に栞を挟んだ。


 そう言えばと思い出す。彼は自分の話を聞いてくれると言っていた。

 次に会う時には一体何をしでかすのだろう……とワクワクしながら歩き出した。



 ―――――――――――――――――――



 聖国破壊犯こと漆黒の騎士団長ジェド・クランバルは聖国人と一緒に空中回廊のあちこちに空いた穴の修復作業を行っていた。


 聖国人兵士達は怪我だらけではあったが、こちらを恨んでいるような素振りはない。むしろ沈痛な面持ちで修復作業に没頭していた。

 恐らく刻印に呪われたとは言え女王に危害を加えた事が信じられないのだろう……

 聖国は女王絶対主義だからな。だが、オペラは誰1人を責める事は無かった。オペラは聖国人に罪は無いと知っているし、ああ見えて誰よりも聖国の民を大切にしているのだ。

 だがオペラよ……時として怒ってくれた方が良い場合もあるのだよ……?

 1回殴り飛ばす位してあげた方が聖国人の為になるんじゃないかと思う位には気の毒な空気だった。


 その暗い顔の聖国人達の周りでは子供達も片付けを手伝っていた。

 展望台で眠る子供達を発見したオペラには再度殴り飛ばされたが、眠りから覚めた子供達が皆オペラを心配していたのを見て泣きそうになっていた。そう、子供達は君の為に頑張ったのだよ? 結果は大変な事になったけど……ハイハイ、俺が全面的に悪いです。

 子供達はあの後すぐに元気になり、こうして片付けを手伝っている。聖国に対するイメージって前は良くなかったが、話をしてみると案外皆いいヤツばかりで安心した。

 昔は自分たちの正義の為には汚い事もする国、とか言われてたんだけどなぁ。



「……今まで連絡も殆どなく、職務放棄していた理由については分かったわ。わたくし、聖国の女王ですもの。気が長くて貴方のような怠慢な者にも寛大な心を持って接してあげていますのよ。感謝なさい」


 オペラは半分壊れた執務室で仕事をしながら誰かと通信をしていた。

事件が収まった直後、何故か急に仕事を全部前倒しで終わらせると言って執務室に向かった。シャドウにも手伝わせている……他国の人間に手伝って貰っていい仕事なのだろうか。

 通信の終わったオペラは、執務室を掃除している俺に仕事をしながら問いかけた。


「それで、貴方言う竜の国の話って……信憑性のあるものなのかしら?」


「ああ。俺は直接あの刻印と同じ物を竜の国の女王の体に見たから間違いない。それに、結構前に黒い竜が俺の身体に噛み付いた時も同じ物が出ていた……」


「……やはり、わたくしの時と一緒ね。ならば今回の一連の騒動は、竜の国の差し金で間違いは無さそうね」


 オペラは憎々しげに窓の外を見た。刻印のあった所に噛み傷があるのが見えたので、黒い竜に噛まれたのだろう……痛そう。


「竜の国の女王は陛下の事を酷く恨んでいるからな。貴女に帝国を襲わせたのもその所為だろう。何でも先代魔王に心酔していたらしく、手に入れる為に魔族を襲ったらしいからな」


「先代魔王――ルーカス様が消した魔の国の王ね。……でも、もしかしたら聖国を襲ったのは……それだけが理由じゃないかもしれないわ」


「……? 何か違う理由があるのか?」


「……確証は無い。でも、もしあの男と竜の国が絡んでいるなら……10数年前に聖国が襲われたのも……だから、あの時の目撃者のあの男に聞けば――はっ! そうだわ、あの男は何処なの?!!」


 オペラが急に思い出したかのように俺の襟元を掴んで揺すってきた。ええ?? あの男が多すぎてどの男とどの男の事言ってんのか分からないよぉ!!


「オペラ様、落ち着いてください! その言い方じゃ誰が誰だか分からないです。騎士団長、多分ワンダーさんの事では?」 


 シャドウがオペラを止めて助言してくれた。


「竜の国と絡んでいるあの男……については騎士団長は見てないので分からないかもしれませんが、そのオペラ様が探している方のあの男の方は、恐らくワンダーさんです」


「ああ、ワンダーな。そうなの?」


「ワンダー……? あの男……が……ワンダー?」


 俺はゴソゴソと荷物から本を取り出した。


「何か、気が付いたら居なくなっていたんだよなぁ。逃げられたというか……あの時のオペラ、凄い顔で走って来ていたしなぁ。多分殴り飛ばされたくなかったんだと思う」


「え? 逃げたって、どうやって逃げたんですか?」


「ん? だからこう本の中に――」


 その本をバッと奪うと、オペラはわなわなと震え出した。


「ジェド・クランバル……貴方、前にルーカス様と来た時に……わたくしの話……ちゃんと聞いていらして????」


「え? 前に来た時……ああ、確か10数年前に聖国が襲われた時に本を渡して来た奴を探して欲しいとかなんとかだったよな? まかせろ、ちゃんと覚えているぞ」


 胸を張った俺をオペラが怖い顔で睨みつけた。……え? 何??

 オペラは本の角を俺の脳天目掛けて勢いよく打ち下ろした。


「あの男がその男よ!!!!! あと、思いっきりその男が本の作者と同じ名前じゃないの!!!!! 何処をどう考えても関係ある奴でしょうが!!!! 何逃してんのよ!!!!! このアホが!!!!」


 本の角がめちゃくちゃ頭に刺さって来た。痛い。

 その高速で打ち付ける本の背表紙をよく見てみると、確かにワンダー・ライターと書いてあった。ああ、何か色んなところでその名前を見た気がするし、色んなところで本を売りに来る怪しい行商人とか出没してましたね。

 何だ、あいつ怪しいヤツだったのか……


 そういや本人も気にならないのか? とか聞いて来ましたね。アレってそういう事だったのかー……

 いやまさかですね。怪しいヤツに怪しまれない事を心配されるなんてある???

 しかもだいぶ前から出会っていましたし……


 なるほど……これは全面的に俺が悪い。俺の頭が。


「オペラ様!! それ以上騎士団長の頭を叩き続けると脳が……これ以上悪くなるとヤバいです」


「これ以上悪くなりようが無いのよ!!! このパッパラパーが!!!!」


 酷い言われようである。だが、事実だから仕方が無い。

 俺は気の済むまで殴られようと決意した……頑丈さには自信があるのだ。



 俺はその後正座のまま長い時間説教された。女王の説教マジ怖い。

 そして、頭は頑丈だが、正座のせいで足は痺れて大変な事になった。身体は強化しても正座で足が痺れるのを対策する修行なんてしないからなぁ……


「……貴方のアホさ加減はもういいわ。次忘れたら今度こそ容赦しなくてよ」


 すでに容赦はされてない気もするが、次は一体どうなってしまうのだろう……死ぬのかな。


「ワンダーさんに関しては、次に見つけた時は必ず聖国の事や彼自身の事を聞く事にしましょう。顔が分かっただけでも良かったですよ」


「そうね……ああ、時間を無駄に使ってしまったわ。今日中に仕事を片付けて行くわよ」


「へ? 行く……?」


 オペラが書類の山の中に埋もれて仕事をし始めた。陛下にしても魔王にしても、国の主ともなると色々大変だなぁ……


 所で、行くって何処に行くんだろう?


「あの……オペラ様? 仕事を片付けて何処へ行くのでしょう?」


 一瞬帝国に陛下に会いに行くのかとも過ったが、鬼気迫る仕事っぷりはそんな様子では無かった。

 それを聞いたオペラが怒りのあまりペンをボキッと折る。


「……決まっているでしょう? 竜の国に殴り込みに行くのよ……?」


「り、竜の国……」


 えー……本当に行くの?

 俺は前に大変な思いで竜の国に乗り込んで帰って来た時を思い出し嫌になった。が、オペラの目は本気だった。止められる自信は無い……

 シャドウも止められ無いと悟ったのか無言で仕事に戻った。俺も嫌すぎるけど諦めて泣きながら掃除に戻った。


 ……あ、陛下に連絡……どうしよ。

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