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ついに辿り着いた聖国は最初からピンチ(5)


 

 茶畑の中で身を隠していたオペラだったが、世界樹の葉から得られた聖気のおかげでかなり体調は良くなった。


「これだけ回復していればもう良いわね」


 起き上がり歩き出すオペラを見てシャドウは焦り、その前に出て彼女を止めた。


「いけません! 何処へ行くのですか?!」


「何処って、聖国人があんな刻印のせいで好きにされているのよ? せめて原因だけでも探しに行かなくては。わたくしはこの国の女王ですもの」


「だ、駄目です! また怪我をしてしまいます!」


 シャドウはオペラの前に立ちはだかり行く道を止めていたが、ため息を吐いたオペラは1つ羽で飛んで行こうとした。


「だから駄目ですってば!」


「きゃっ!! ぶふっ!!」


 飛ぶオペラの様子に焦ったシャドウがその足を掴むと、バランスを崩してそのままオペラは茶畑に思いっきり突っ込んだ。


「あ……」


「……貴方……死にたいの……?」


 オペラが茶畑に伏したまま怒りのオーラを放つ。シャドウが慌てて茶畑から引き起こすが、草まみれの顔は鬼のようだった。


「す、すみません……でも、ここは騎士団長が何とかしてくれるはずです! 待ちましょう!」


「あの男が?」


 オペラが疑いの目で見て来たが、負けずにシャドウは話を続けた。


「はい! 騎士団長はあんな感じですが……いつもなんやかんやで何とかなっていました。だから、きっと大丈夫なはずです……信じてください」


 シャドウの言う事は余りにもふわふわし過ぎていて、信じるには根拠が足りなかった。だが、余りにも真剣に止めるので少しは信じてみようかと気が向いた。

 あの男は一切信用出来ないが、ルーカスから生まれたとかいうこの男の言う事は聞いてみても良いと、そんな気がしたのだ。


「……分かったわ。何処にも行かないからお放しなさい」


 シャドウがその手を離すとオペラは茶畑の奥へと歩き出す。


「あの……どちらへ……」


「ただ待っているのも暇を持て余すだけでしょう。お茶が飲みたくなったの。……貴方の分も淹れて差し上げても宜しくてよ」


「!!!」


 シャドウは嬉しそうに後ろについて行った。

 茶畑が庭園のように美しく形造るその中央に白く可愛らしい屋根にこじんまりとしたテーブルがある。いつもオペラが寛ぐ東屋が見えてきた時、その足がピタリと止まった。

 シャドウが不思議に思い先を見ると、そこにはすでに先客が居るようだった。


 青い綺麗な花の飾ってあるテーブルにいる男性――


 白い髪、赤い目。聖国人らしき人物だが、優雅にお茶を飲んでいる様子は他の聖国人のように刻印で呪いにかかっているようには見えなかった。

 まだ刻印に侵されていない仲間がいたのだろうか、とシャドウは喜んでオペラを見たが、その表情は強張ったまま変わらず……まるで1番の敵を見つけたかのようにその人を睨みつけていた。


「やっぱり……生きていたのね……」


 こちらを和かに向いたその顔はオペラによく似ていた。


「嫌ね、久しぶりの兄妹再会なのにそんな怖い顔しちゃって。普通はここで生きていた兄に泣いて抱きつく所じゃないの?」


「……」


 相手が言う事が本当であれば、その人はオペラの生き別れの兄と思われる。だが、どう見ても感動の再会という雰囲気では無い。

 それも気になるが、シャドウにはもう1つ気になる事があった。兄と言っているので彼は男性なのだろう。だが、口調が女性っぽい。

 シャドウはそれが妙に気になって仕方が無かった。

 今とても聞けるような雰囲気ではないから余計に気になる……気にしてはいけない、そんな場合ではないとシャドウは自分に言い聞かせた。


「あの……オペラ様のお兄様ですか?」


「……兄では無いわ、あんなヤツ……兄なんかじゃない!」


 それはどっちの意味だろうとシャドウは更に気になった。


「ロスト!!! 貴方があの日、聖国に魔族を引き入れたの?!!」


「酷いわね、兄じゃないなんて……」


「答えなさい!!!」


 オペラの余りの剣幕にシャドウは近付く事が出来なかった。その憎しみの込められた問いかけを茶化すようにロストは笑った。


「くすっ……あははは! その顔、そう、それが見たくてね。聖国なんか滅んじゃえって思ったのよね。まさか知ってたなんてね。見たヤツも全員消したと思ったのにね」


「!!!!!」


 オペラは表れたロストの本性に言葉が出なかった。激昂し過ぎて息が出来ない。苦しくなる胸を押さえた。


「オペラ様!」


「あっはっはっは!! 相変わらずね! 何でアンタなんかが女王なのかしらね。ねぇ、聖国の女王は絶対的なのよ? 知ってた? アンタみたいな子がなるべきじゃなかったのよ」


 オペラは分かっていた。聖国の王は絶対的。非情にして冷酷、そうでなくては聖国の信念を導いてはいけないのだと散々言われていた……だが


「……あんただったら良かったって事……? 聖国の事を少しも考えていない性格ドブスのオカマが女王になれる訳ないでしょう????」


「あ??」


 オペラが切れた。俯いた所から這い上がりメンチを切り始める。ロストとオペラのガン付け合いにシャドウはどうして良いか分からず数歩下がった。


「テメェ何つったコラ? ブスはアンタでしょうがやるかこの雌ガキが」


「やってやろうじゃないの、今ここで決着着けてやるわ!!!」


 オペラが羽を広げるとロストも同じように羽を広げた。

 だが、オペラの羽は1枚しか無く明らかに回復している様には見えなかった。そして、ロストが広げた羽は7枚あったが、半分から先が黒く濁っていた。


「い、いけませんオペラ様はまだ回復してないんじゃ……」


「煩いわ!! 邪魔しないで!!」


 黒い羽を広げたその周りは草が枯れ、瘴気が漏れていた。刻印は無いが、あの呪いそのものだった。シャドウはオペラの腕を引き必至に止める。


「オペラ様!!」


「放しなさい!!!」


「あら? そっちから来ないならこっちから……」


 ロストが喋りかけたその時、勢いよく下から這い出た巨大な金色の手が彼を襲った。


「は??!」


「え??」

「何??」


 茶畑の足元を貫通して飛び出てきた巨大な手を筆頭に、次から次へと無数の手が勢いよく茶畑に穴を開けながら飛び出して来る。


「なっ、何なのこれ?!!」


 ロストは無数の手につかまり、こねこねされ始めた。


「ぎゃああ! やめっ、やめなさい!!」


 呆気に取られて固まっているシャドウとオペラ。無数の手は散々こねこねしたが、首を傾げるのかお手上げなのかそんなジェスチャーをした。どうやら黒い瘴気に反応しているらしいが、擦っても捏ねても消えない黒い瘴気にイライラしているようだった。

 首をすくめたようなジェスチャーをして諦めた金色の手は、2手に分かれてロストを両手で包みながら構えた。


「ちょ……ちょっと、何する気……」


 両手で振りかぶると、ロストをボールのように勢いよく投げつけ、反対側に居た手が棒で打つかの如く張り手でふっ飛ばした。


「ギャアアアアア!!!!!!!」


 ロストはそのまま空の彼方まで飛んで行き、見えなくなってしまった。

 金色の手達はハイタッチをしたり握手をしたりしていた。


「こ、これは……何なんでしょう?」


 シャドウの発した言葉にハッと我に返ったオペラは、その手を振り払い何処かに向かって走り出した。


「あ!! オペラ様!! 何処へ?!」


 その後ろを追いかけて走ると、廊下の至る所に穴が空き、通路では聖国人が倒れていた。皆に刻印は見当たらない。

 遠くの方で手が刻印のある聖国人を掴んで居るのが見えたが、手に捕まった者は呪いが解けているようだった。

 回廊の至る所を壊しながら起きている手の暴走は、オペラが目的地に着く頃には収まって来ていて手だけが獲物を求めてウヨウヨと沸いていた。

 オペラが勢いよく扉を開けた先には小さなゲートがあり、『緊急停止用』と書かれたそのゲートの石を拳骨で上から思いっきり叩く。

 その瞬間ゲートが光り出し、それと同時に光が消える。外を見ると無数の手は光と共に次々と消えていった。


「……やっぱり……この間の暴走と同じじゃない……念のため緊急停止を付けて貰ったけど……一体誰がこんな事を……」


 このゲートを暴走させるには大量の聖気が要るはずだった。考えられるのはあの兄や刻印に呪われた聖国人であるが、あの無数の手はそれらの者を逆に狙っているようだった。

 オペラが必死で原因を考えているとゲートからコロンと何かが落ちてくる。それは帝国の紋章が入った小さな御守り。


「あれ? それって騎士団長の……もしかして……あっ!」


 オペラはその御守りを握りしめて拳を震わせた。


「……ジェド・クランバル……またあの男か!!!!」


 直ったばかりの美しい聖国は、見るも無残にまた破壊されていた。オペラはロストに対峙した時よりも数倍怒り狂い、空中回廊を鬼の形相で走った。


「あわわ……騎士団長……何してるんですか、もう……」


 シャドウもため息を吐きながらその後を追いかけた。



 ★★★



 空中回廊のあちこちで聖国人が倒れていた。刻印は皆消えているみたいだが、至る所がボロボロになっていて不安になる。


「何かとんでもない事になっていますね……」


「うーむ……金色の手がグッジョブを通り越して最早破壊の限りを尽くしている……流石にヤバイかなぁ」


 茶畑に行ってみたがそこにオペラとシャドウは居なかった。金色の手に襲われてはいないと思うが、もしかしたら刻印に呪われたヤツらに捕まっているかもしれない。俺達は空中回廊を探し回った。

 すると向こうの方からオペラとシャドウが走って来るのが見えた。


「あ! 2人共、無事だっ――」


 声をかけようとしたが、向かってくるオペラは何か凄い形相である。……うん、これは、めちゃくちゃオコですね。しかも俺の名前を叫んでる所を見ると、この惨状の原因が俺だとバレてますね……ヤバイ、ピンチ。


 ワンダーに助けを求めようと横を見ると、パサリと本が落ちて姿が消えていた。え……アイツ、逃げやがった……

 いや、まぁ、俺1人の犯行なんですけどね。うん、素直に誠心誠意謝ろう……聖国人は皆元に戻ったみたいだし許してくれる……はず……


 少しの希望を持ってオペラの方を見るも、その瞬間俺の顔面に向かってオペラの飛び膝蹴りが飛んできた。ウーン、相変わらず可愛い顔して良い蹴り持ってんじゃん?

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