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ついに辿り着いた聖国は最初からピンチ(4)


 

「……」


 飛びながらきゃいきゃいと嬉しそうに笑う聖国人の子供達……


 俺とワンダーは顔面生クリーム、電気感電、ぬるぬる床、大量の虫の雨、また落とし穴……

 ありとあらゆる子供の悪戯のような罠にかかり翻弄されていた。


「ワンダー……俺は真っ向勝負でこんなにも苦戦を強いられたのは初めてかもしれない……」


「子供のイタズラって読めないですからね……何かそういう映画あったなぁ……」


 エイガって何だ……? こいつ時折異世界人みたいな変な事言うなぁ。単純に俺の知らない何かの魔法とかかもしれないが。


「何かいい方法思いつかないか? そのエイガとやらでも……」


「え? 映画で? うーん……まぁ映画に限らず子供番組とかで子供を呼び寄せる方法なら……無い事もないですが……」


「頼む! その間に何とか上着だけでも奪い返す事が出来れば良いんだ」


「……この子供達に効果あるかは分かりませんよ?」


 そう言いながらワンダーは前に出た。指を上に一本上げて明るく大きな声で子供達に呼びかける。


「はーい! お兄さんと遊びたい人この指とーまれ!! 早くしないと始まっちゃうぞー♪」


 ワンダーが急に歌い出すと、子供達の動きがピタリと止まりワンダーの指に集中した。


「ろうそく1本切れちゃうぞー、3ー2ー1ーふーっ」


 ワンダーがロウソクを吹き消すポーズをすると子供達が何だか訳も分からずキャー! と指に集まった。

 おお! 凄い! その隙に俺は子供が落とした上着を拾いポケットから御守りを取り出す。


「なにして遊ぶのー??」


「はーい、馬車に乗りまーす」


「馬車ー?」


「あの馬が引く乗り物だよ。ぼく乗った事無いー」


「馬車ごっこだよ〜」


 子供達がザワザワする中、ワンダーは手を叩きながら歌い出した。


「馬車、馬車揺れる、馬車、馬車走る〜遠くに旅に出かけてみよう〜♪ 馬車、馬車揺れる、馬車、馬車走る〜馬車に乗るには切符が要るぞ♪」


 短調なリズムだったので子供達も手を叩きながら一緒に歌い始める。

 するとワンダーが歌いながらこちらに手を出してきた。え? 切符? 切符は持ってないけど……

 訳の分からない顔をしていると焦った笑いをしながら御守りの持つ手を指差した。ああ、これが欲しかったのか。

 ワンダーの手に御守りを乗せるとワンダーはそれを1人に手渡した。


「切符、切符、周る、歌の間に渡さないと馬車から落ちるぞ♪ 馬車、馬車走る、馬車、馬車揺れる♪」


 ワンダーが手のリズムを早めるとキャーという歓声と共に次々と切符代わりの御守りが手から手へと渡されていき、持った子供達の刻印が次々と消えてあっという間に皆の呪いが解けていた。


「凄いな……何かの魔法か?」


「いえ、故郷でやった子供の頃の遊びをアレンジしたというか……どこの子供もこういう遊びは好きなんですね」


「なるほど……なぁ、その要領で他のヤツらにも流用出来ないのか?」


「いやぁ、無理でしょう、子供達はまだ悪意とか良く理解していないからこそ刻印の影響が少なかったのでしょうし……聖国の兵士達が全体的に若めとはいえ大人の兵士相手にふざけた遊びを始めたら刺されますよ」


「やっぱそうだよなぁ……」


 聖国の子供達はそのままキャイキャイと遊んでいた。確かに刻印があっても無邪気に遊んでるようなものだったしなぁ。


「ねぇねぇ、次は何して遊ぶのー?」


「早く遊ぼうよー!!」


 大量の遊びたい盛りの子供達に囲まれて服や色んな所を引っ張られた。ワンダーは鞄を取り戻して嬉しそうだったが、早くもまた鞄を引っ張られたり開けられたりしそうになっている。


「……これはコレで困りましたね」


「すまない、お兄さん達は早く行かないといけないんだよ」


 何とか諭そうとするが、子供達は駄々をこね始めた。


「えー!! 嫌だー、遊ぼうよー」


「さっきのもう1回やろうー!」


「……ただじゃ解放してくれそうにありませんね……」


「うーむ……こんな事している場合じゃないんだが、遊び疲れるまで付き合うしか無いのか?」


「遊び疲れるですか……鬼ごっことか?」


 うーむ……と悩んでいる時、ふと入り口近くにある回廊間を繋ぐゲートが目に入った。前に来た時はバキバキに割れていたが、新しい物に変えられている。


「なぁなぁ、このゲートって空中回廊に繋がっているヤツだよな?」


「そうだよー! この間壊れてね、沢山聖気かけちゃいけませんってオペラ様が言ってたよ」


「そこに書いてあるよー」


 見ると、『聖気のかけすぎ注意、壊れる恐れあり』と書かれていた。

 それを見た俺はピンと来てしまった。


「そうだ、君達に試練を与えよう」


「しれんー?」


「しれんって修行みたいなやつ?」


「ああそうだ。実は今……聖国の他の人達が呪いにかけられてしまい、オペラ様がピンチなのだよ」


 俺の芝居掛かった口調に子供達は『えーー!?』と驚きザワザワした。


「そこでだ。君達の力を貸してほしい」


「どうしたらいいのー?」


「はやくオペラ様を助けなきゃ!」


 乗って来た子供達の目線を指に集め、ゲートを指した。


「君達全員分の聖気をゲートにかけるんだ」


「え?」


「そんな事していいの?」


「ああ。オペラ様のピンチだからな。致し方ないのだ」


 子供達は戸惑っていたが、1人が意を決すると次々とそれに続いた。


「ぼく……やる!」


「わたしも! オペラ様を助けなきゃ!!」


 子供達は鏡の前に集まり、皆でゲートに手をついて白色の光を送り始めた。大量の子供達の全力がゲートを光らせる。


「なんだ、めちゃくちゃ人望あるな」


「ジェド……アレって、一体どうなるのですか?」


「あれ? 知らないのか? ほれ」


 光と共にズルズルと少しずつゲートから手が出始めた。よしよし、順調に暴走し始めた。


「よし! 子供達、俺がコレを投げたら隠れろ!!」


 爆発しそうなゲートに御守りを勢いよく投げ入れる。その瞬間ゲートから無数の手が飛び出して空に向かって行った。前の暴走の時は白い手だったが、今度は光り輝く金色の手をしていた。まるで闇の刻印を持つ物を獲物として捕らえるかのように俺達には目もくれず空へ伸びて行く。


「おお……さしずめ闇を祓う光の手って所か?」


 手は空中回廊のあちこちに生えていた。直したての回廊を壊しながら聖国人兵士達を次々と掴むのが遠くに見える。


「凄いぞみんな、良くやったな!」


 子供達はニコニコと笑ったが、皆フラフラとしながら眠そうだった。

 子供達の頭を撫でながら関門所の外、世界樹の展望台の方に皆を連れて行く。


「ありがとう、ここで休んでいてくれ」


「……お兄ちゃん……オペラ様を助けてね」


 子供達は余程疲れたのかすやすやと眠りについていった。


「いやぁ……何か凄い事になってますね」


 ワンダーが空中回廊を見上げながら呟く。上の方では刻印聖国人達がゲートの手相手に必死に抵抗していた。


「今のうちに俺達もシャドウの所に戻ろう」


「……ゲートあんな状態ですけど、どうやって行きます?」


「……背負ってジャンプかな? 降りて来た時みたいに」


 実はここに戻って来た時も空中回廊からジャンプして降りて来たのだ。ワンダーは飛び降り系が苦手なのかもう2度としたくないと言っていたが……上がるなら大丈夫だろ? ダメ?


「……はぁ。仕方ない……あんまりこの手は誰かの前では使いたくなかったんですが……」


 ワンダーは鞄から本を開くと俺の腕を取って本に向かってダイブし出した。……え???


 海に潜るかのような感触。一瞬変な世界がパラパラと本の内容のように見えた後、またダイブした先は見覚えのある部屋だった。ベッドの傍の陛下っぽい人形に壁際にかけられた陛下の絵姿……もしかしなくてもオペラの部屋である。

 お? しかもアレはレアな陛下の寝巻き姿。この間のヤツだよな……? いつの間に見たんだ?


 いや、それよりも今のどんな魔法……?


「ワープか何か……? てよりは魔術具か?」


「……僕、本の間でしたらこうやって移動出来るんですよね。背負われて飛ぶのはちょっと勘弁して欲しかったので。あまりお見せしたくなかったのですが……」


「なるほど……世の中には変な特技を持つ奴が居るんだな」


「……えーと……気にならないんですか??」


「……え? 何が??」


 ワンダーは呆気に取られていた。何で?? 便利な特技があって羨ましい位の感想しかないんだが。


「気にしてほしいなら聞くが……俺は難しい魔法とか魔術具の種類とか全然分からないから聞いても分からんし……世の中には変な魔法は沢山あるしな」


 スライムを降らせるヤツとか、魔法を受けたい魔ゾとか……常識では考えられないような事をするヤツは山程いるのだ。


「……ふふっ、あはは、そうですよね。貴方って本当面白いですね。オペラ様には思いっきり疑われましたけど」


「あの女は陛下以外は敵だからな」


「あはははは! なるほど。……ま、僕の聞いてほしい事はそのうちお話しますよ」


「ん? そう? ああ、帝国にいい飲み屋があるんだよ……」


 呑気な話をしながら俺達2人はオペラの部屋を後にし、茶畑へと向かった。

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