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ついに辿り着いた聖国は最初からピンチ(2)


 

「オペラ様! その怪我は……大丈夫ですか?!」


 縛られたままのシャドウが檻に張り付き、その向こうのオペラに呼びかける。

 全身酷い怪我を負い、白い長い髪の間から小さな羽が下向きに生えていた。


「うわぁ……それ聖国人にやられたのか? 操られてる系のヤツって、加減知らないのかよ……」


「いやいや、僕達そんなに怪我してないじゃないですか。シャドウだけボロボロでしょう? あんな風に抵抗するからボロボロになっちゃったんじゃないですかね」


「なるほど……いやお前、普通抵抗するだろ。女王だぞ?」


「まずは捕まって様子を見るべきですよ。これだから武闘派は……少人数ならばまずは引いてみるのが小説の――」


 ブチッ


 と、血管の切れるような音がして振り向くと、向かいの檻でオペラが鬼のような形相をしていた。こわ……


「あー……ワンダーお前、女王お怒りだぞ?? 流石に言い過ぎだろ。もうここで商売出来なくなるぞ?」


「え?! 僕ですか?? 何で――」


「何でもクソもないだろ――」


 ガンッ!!!


 オペラが起き上がって檻を蹴っていた。ヒュー、怖い。


「両方よ……」


 何で俺まで? 俺本当に何もしてないし神経逆撫でするような事言ったかな……?


「ジェド・クランバル……何であなたがここに居るかとか、何で状況分かった上で丸腰で縛られているのかとか、話の端々が苛つかせるのはこの際どうでもいいのよ……何でその男と一緒にいるの?! 貴方達、仲間なの???!!」


 何か鬼の形相で檻を掴んで怒っておられる……何? 何かあったの? そもそも知り合いなの君達。


「えーと……仲間……と言うには出会った時間が短い気がする。顔見知り位かな?」


「え? こんなに協力させたりしてその言い草、酷くないですか?」


「真面目に答え……な……さい……」


 頭に血が回り過ぎたのか、オペラはそのままズルズルと檻の下に蹲り倒れた。


「オペラ様!」


「なぁ、ワンダーお前……オペラと知り合いだったのか? 何でそんなに恨まれてるんだ? 何かしたのか?」


 ワンダーは困った顔で笑った。


「えーと……怒りの半分は誤解なんですけどね。なかなか分かって貰えなくて……もう半分は僕の性格が問題ですかね?」


「何かお前も無意識で神経逆撫でしそうな感じだしな」


「騎士団長もワンダーさんも!! いい加減にしてください! 呑気に話している場合じゃないでしょう、早く手当てしないと……」


「お前が思っているよりは割と大丈夫な気もするが。それにしたって何か武器が無いとなぁ……檻の向こうだし。縛られているし」


 そう……俺は今、何度目か分からない丸腰の剣士である。デッキブラシやバターナイフで何とかなった時もあったが、流石に荷物から何から武器になりそうな物は全部取られてしまった今……マジで何も無い。

 こんな事なら収納魔法に剣の何本か入れておけば良かった。空のお弁当しか無いよ。


「何か……ですか。これならどうですかね?」


 ワンダーが首から下げてる紐付きのペンを見た。


「僕、いざと言う時にペンが無いと困ると思って色んなところに忍ばせてあるんですよね。こうして首から下げていたから没収されずに済んだみたいで」


「……いや、ペンは流石に無理だろ」


「ペンは剣よりも強しって言葉があるんですけどね」


「ペンが……? 強いのか? 剣より??」


 聞いた事ない言葉だが、一体どこの国の名言だろうか。

 とりあえずそのペンを口に咥えて集中した。シャドウのロープに向かってペンを振ると、案外ロープはあっさり切れた。お? これは行けるのでは?


 シャドウにロープを解いて貰い、俺はペンを持ったまま集中した。このペンは剣よりも強し……剣よりも強し……自己暗示が1番大事だ。


 ペンに剣気が迸る。俺は勢いよくペンを檻に向かって振ると、バターナイフの時のように向かいの檻ごと切れた。何閃も走らせると、檻はサクサク折れていく。


 やれば出来るものなんだな。コレもう何でも行けるのでは……?


「……いやぁ、冗談のつもりだったんですけど……本当にジェドって規格外ですね」


「え?」


「ペンは剣よりも強しって、言論は政治や軍隊より影響力があるって意味だったんですが……」


 お前……。ま、我漆黒の騎士団長ですから。他の人に出来ない事も平然とやってのけますぞ。



「オペラ様、大丈夫ですか?」


 俺達がおちゃらけてる間にシャドウはオペラに駆け寄った。流石真面目担当。

 オペラは相当疲弊していたのか呼びかけても意識が無い。


「どうしよう……あの、回復魔法とか使えませんよね?」


「俺もそんなかなりの傷を負っている者を治せる程の回復魔法はなぁ……」


「僕もただの商人ですし……あ、でも」


 ワンダーはオペラを見た。オペラの身体からはいつもの薄く白色に光るような聖気が薄れていた。


「聖国人なら、聖気が大量に取れる所に行けば回復が早いと思いますよ」


「聖気が大量に……あ!! 世界樹の葉!!」


 そう言えば階段令嬢(?)が言っていた。世界樹の中に溜まりに溜まり過ぎた聖気は葉脈に流れ、葉に伝わると。


「確か聖国には世界樹の葉の茶畑とかあったよな。そこに行けば良いんじゃないか?」


「茶畑の場所なら僕、分かりますよ。そんなに遠くないです」


 ワンダーがオペラの白いスカートの一部にこの牢屋からの地図を描き始めた。お前……後で怒られても知らんぞ。そういう所が嫌われるんじゃないのか?


「とは言え、聖国内にも刻印に操られている人がウジャウジャいるんじゃないですかね。そちらも早くどうにかしないといけないのでは? あと……僕の鞄」


「刻印は俺の持っている御守りが……上着の中だわ」


 いずれにせよ俺のウッカリで奪われた色々を取り戻さないといけなかった。何故だろう……いつも難易度が上がってしまうのは。御守りで簡単に解決するはずなのに……


「私が……お茶畑でオペラ様を見ています。騎士団長は荷物をお願いします」


「その方が良さそうだな。どの道ここにもいずれ兵士が来るだろうし……とりあえずその地図の場所に行こう」


 シャドウがオペラを抱え、俺はペンを片手に辺りを伺いゆっくりと牢屋を抜け出す。

 ワンダーは相変わらずのほほんとした様子でついて来ていた。



 通路で見張りをしていた聖国人をペンで峰打ち……峰打ちというか、もはやペンで急所を突いて気絶させながら俺達は外を目指した。


 その広い茶畑は美しい庭園のようになっていて、白いテラスもあった。摘みたての茶でも飲んでいたのだろうか?

 茶畑の中に葉っぱで隠すようにオペラをそっと寝かせる。


「じゃあシャドウ、後は頼んだぞ。なるべく早く戻るから」


「はい、よろしくお願いします」


 傷だらけのオペラと、ボロボロのシャドウを残し、俺とワンダーは茶畑を後にした。

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