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世界樹の階段もすんなり通してはくれない


 

「ぜえ……ぜえ……なぁ、どの位登ったと思う?」


「はぁ……はぁ……結構登ったとは思うんですが」


 漆黒の騎士団長ジェド・クランバルと甲冑騎士シャドウはエレベーターゲートの故障により世界樹の途中の匠国から非常階段で頂上へと向かっていた。


 騎士といえば訓練をしているお強い存在なのだが、流石に延々と続く階段を登る訓練はしていない。いい加減膝が笑う。


 それに、半日位ずっと登っているのだが一向に頂上に着く気配が無い。大きな枝と葉の間を縫って造られている階段なので外の景色がよく見えないのだが、心なしか景色もあまり変わって無いように思えた。


「……流石におかしくないですか?」


「……やっぱりそう思う?」


 いくら何でも長すぎる。こんなに登ってもまだ先が見えないなんて……


「あーダメだ、一旦休もう!! 腹が減っては戦が出来ぬと異国の人も言っていたしな」


「軍隊は胃袋で動くとも言いますね……でもいいんですかね? 聖国が危ないかもしれないのに」


「お前、いざ着いて空腹だったら100%の力が出せないだろ。よく寝てよく食べるが我々皇室騎士団訓の1つなんだよ」


「そうなんですか……」


 俺達は階段の途中で座り込み、収納魔法から弁当を取り出した。資材を片付けている間にメイド達が用意してくれたものなんだが、蓋を開けるとかわいいクマさんが布団で寝ているモチーフのご飯だった。可愛くて食べられないだろうが……


 シャドウもパチンと兜の留め金を外して顔を出す。相変わらず薄いだけの陛下の顔がそこにあった。髪はちょっと伸びたかなぁ。あと、気持ち色が濃くなったような気もしなくもないが、まだ向こうが透けて見えている。


「……あんまり見ないから忘れそうだが、お前って陛下と同じ顔なんだよな」


「そうなんですよね。私もあまり鏡を見ないようにしているので忘れそうです」


「お前は忘れるなよ。そもそも何で見ないんだ?」


「いやぁ……何というか、陛下って仕事も出来るし強いじゃないですか。その方と同じ顔というのは結構ツライですよ」


「なるほど。気持ちは分からんでもない……」


 俺も同じ顔のヤツがモテモテのイケイケでプレイボーイだったら血の涙をながして嫉妬したかもしれない……だが、俺には俺の良い所があるからな。漆黒だし、騎士団長だし。ポジティブだし。


「まぁ、お前にもお前だけの良さがあるから気に病む事は無いと思うが。元は陛下から生まれたとしても、シャドウはシャドウだからな。陛下だって自分の事は気にしないで欲しいと思っているだろうし、陛下は陛下でシャドウが色々羨ましい時だって沢山あると思うぞ。あれで結構悩みだって多いんだからな」


「そう……ですかね」


 人間だもの。

 隣の芝は青い。誰しも他人が羨ましく見えるのは仕方が無い。どんな立場でもあるものなのだ。

 あと、女性への配慮は多分陛下を上回っているとは思う。陛下、女性と交流あんま無いからなぁ……


「ま、とにかく気にすんなって」


 シャドウの背中を叩いた時に、持っていた弁当からミニトマトがポロンと落ちて階段を転がって行った。


「あ! 騎士団長、トマトが――」


 コロンコロンと飛び跳ねて階段を下るトマト。それを追いかけようとした時、何故かそのトマトが階段の上から飛び跳ねて落ちて来た。


「え……?」


「は……?」



 ―――――――――――――――――――



 俺達は落ちてくるミニトマトを呆然と見送った。するとミニトマトはまた上からコロンコロンと落ちて来た。


「こ……これは……」


「……ループしてますね」


「あーー!!!! 全然景色変わらないから気づかなかったがこんなに歩いても着かない訳だよ!! くそー!! 時間返せ!!!」


 シャドウはミニトマトを受け止めて辺りをキョロキョロと探った。


「ループの魔法なのか魔術具なのか分かりませんが、いくら何でも半日ずっと魔法をかけ続けるなんて魔塔の魔法使いでない限り難しいですよ。途中で怒り出していてもおかしくないですが……何の為にそんな事を? そもそも、人の気配が辺りから感じられません」


 確かに……言われてみれば。移動魔法と同じでループも魔力をかなり消費する魔法だ。半日だぞ?

 魔術具の罠だとしても、こんなにずっと踏み続けていれば魔力だって切れるはず……


『やっと気付いたのね。こちとら一生ループさせるつもりはないのに、このまま気付かなかったらどうしようかと思っていた所よ』


 どこからか声が聞こえてきた。が、人影は無い……


『探したって無駄よ。貴方達は私の上にいるんだから』


「上……世界樹の意思とかじゃ無いよな」


「世界樹ならばまだ「中」じゃないですか? 頂上じゃないですし……上って事は、もしかして階段さんですか?」


『物分かりの早い人が居て助かるわ』


 階段の意思……いや全く分からん。

 数々の意思をもつ無機物を見てきて慣れてきたはずなのに、階段の意思て……何言ってんの??


「……すまないが、俺はまだちょっと理解しきれていないので、俺達を閉じ込めた理由も含めて1から説明して貰っても良いか?」


『仕方ないわね……全く、物分かりの悪い男は嫌いよ』


 そりゃどうも。こちとら階段に好かれても全然嬉しくはない。


『私はかなり前にこの世界樹に設置された階段よ。名前はまだ無いわ。その昔は皆がここを通り頂上へと向かったのだけど……いつからかエレベーターゲートなる物が設置され、誰も通らなくなってしまったの。だから久々に来た貴方達を簡単に通すのは勿体無いと思ってね……こうして有り余っている力で引き留めているって訳よ』


「なるほど……ところで階段さんは何故意思を持っているのですか? 誰にも使われなくなった悲しみで自我が芽生えたからとかですか?」


『いえ、そうじゃないのよ。人が居た頃から意思はあったわ。そもそも世界樹の中に溜まりに溜まりすぎた聖気は色んな所に影響を与えているの。多くは世界樹の葉脈に流れ、葉に伝わるのだけど……何百年もの昔に住み着いたドワーフやエルフが、穴を掘ったり階段を作ったお陰で変な気の流れが出来ちゃったのよね。世界樹に螺旋のように這うこの階段は聖気が流れ、更に力のある者達が多く利用する事によりその力が階段へと踏み固められ……結果私が生まれたわ』


 うーむ? ふんわり分かるような分からんような。


「前々から意思や力を持っていたのでしたら、人が通っていた時から話したりとかは出来たんですか?」


『いえ、人が沢山通っていた時はそれなりに力を発散していたからここまで意思をハッキリ表す事は出来なかったのよね。ただ、ここ何十年も誰も通らないおかげで発散する事が出来ないまま勝手に聖気をどんどん吸収しちゃって……結果、力は溢れるわ喋れちゃうわで困っているのよね』


 階段は困っていたらしい。困った様子で喋るから辛うじて分かるが、声以外では全くヒントが無いから分からなかったよ。無機物さん難易度高い……


「では、階段さんの望みは有り余る力を定期的に発散する為に人が通って欲しいという事ですね」


『そういう事よ。そっちの男に比べて貴方は話が早いから助かるわ』


 階段令嬢? にすらこの言われようである。階段が女なのかは分からんが……口調からして女なのだろう。


「ところでその発散とは何なんだ? まさかこうやって延々とループさせるつもりか? それだと人を呼ぶのも難しいと思うが……」


『いや、そんな大それた事じゃ無いのよ。このループは単純に貴方達に話を聞いて貰いたいからやっていただけなので。ほんの些細なイタズラをするだけでかなりの力が発散出来るのよね』


「些細なイタズラ……?」


『例えば、1段ずつ登るには低いのに2段飛ばしにするには幅が微妙に足に合わない階段って経験した事ない? アレは階段の悪戯よ』


 え? アレってそうなの……?

 シャドウの方はピンと来たらしく問いかける。


「……じゃあもしかして、あと1段あるかと思って踏むと実は段が終わっていてオットットとなるのも、登りよりも下りの方が膝が痛いのも――」


『そう言う事よ。アレらは全て階段がそうさせているのよ。より力のあるヤバイ階段になってくると13段目にオバケを置いたり、死の世界に誘ったりするような悪霊みたいな階段もあるらしいわね。私はそんな悪役階段にはならないけどね』


 ループさせて閉じ込める階段はすでに悪役階段だけどな? あと、そんな悪戯する階段なんて誰が通りたいんだよ……


「うーん……弱りましたね。階段を登る魅力が無い……」


『そうなのよね。何かいい方法無いかしら?』


「いい方法ねぇ……ま、そもそもこんな長い階段喜んで登りたいなんて俺達みたいに身体を鍛えたいヤツくらいしか居ないだろうしなぁ。後で帰り際に匠国のヤツらに相談してみるよ」


「それは良いアイディアかもしれないですね。筋トレ用のコースとして設定されているのでしたら悪戯もトレーニングメニューに出来ますし」


『なるほど……それは良いわね』


 階段令嬢も納得したのか薄暗かった階段が一気に明るくなった。そんな事も出来るのか……


『期待して待ってるからよろしくね。頂上までの道は任せて頂戴』


 ……こうして、目的とは関係無くまた頼まれ事を増やしてしまうのだ。せめて厄介事は目的を達成しあ後にしてほしい。

 階段が『任せて』と言った途端、足元が自動的に上へと流れ始めた。


『これで頂上までは自動的に行けるわ』


「……いや、そんな便利な事出来るなら最初から言えよ」



 後にこの世界樹階段はここを訪れた異世界人が『これ、エスカレーターじゃね?』と言った所からエスカレーターと名付けられた。

 通常はエレベーターに代わる移動手段として、閑散期は筋トレマニア達の試練の場所として無事繁盛したとか……



 勝手に動く階段に暫く揺られていると、時期に枝が少なくなり空が見えてきた。

 世界樹の頂上、聖国への入り口である。

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