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匠国のメイドはすんなり通さない(後編)


 

 目を覚ますと、そこは地下牢だった。


 いい加減牢屋慣れしてこんな状況なのに良く眠れてしまった。おかしい、枕が変わると寝られない男だったはずなのだが……色々ありすぎて疲れているのだろうか。


「騎士団長、目が覚めたのですね!」


 シャドウは向かいの牢屋の壁に鎖で繋がれている。

 抵抗したのか鎧のあちこちがボロボロだった。シャドウだってそんなに弱くないはずなのにメイド達やりおるな。


「くっ……騎士団長……そんな姿になる前に必死で止めたのですが。戦いながらで守りきれず……本当にすみません」


 そう言いながらシャドウは目を背けた。えーと……そんな姿ってどんな姿……?


 俺は恐る恐る違和感のある自分の服を確認すると――あのなんちゃってメイド達と同じ服を着ていた。ご丁寧にストッキングまで履かされている。


「って、何だこれは!!!」


「メイド達が無理やり着せてました……私も守ろうとしたのですが多勢に無勢で……騎士団長も全然起きないし……」


 お前がボロボロなのは俺の何かを守ろうとしたからなのか……すまんな。無抵抗で何かを失ってしまったよ……というかそんなんされていて寝てるんじゃないよ、途中で起きろよ俺。

 そして、例によって剣が無い。また無力な士になってしまいましたわ。いや、無力なメイドか……?


「あら、お目覚めかしら」


「?!」


 牢屋の向こうに見える扉を開けて入って来たのはメイド姿の女ドワーフだった。チラリと見える太ももには闇の刻印がある。そいつはメイド喫茶に入る前に見た女だった。その刻印は他の奴らよりも色濃く、あの変な色の牛を思い出す。


「お前がこの店のヤツらを束ねて操っているのか?」


「そうね。どういう訳か貴方達には呪いが全然効かないみたいだけど……ま、いいわ」


 そう言われてふと、手の中にしっかりと御守りを握っているのを思い出した。これのおかげで刻印の呪いから免れたらしい。シャドウは何でだ? 薄い存在だからか……?

 ドワーフメイドについて来たメイド達が他の牢屋の客を連れ出して行く。そいつらはぐったりと項垂れていた。


「そいつらをどうする気だ!」


「ふふ……知りたい? ま、冥土の土産に教えてあげる」


「メイドだけにってか。全然笑えないな」


「今に笑えるようになるわ。私たちはね、このメイド喫茶に来た客を次々と闇の刻印の呪いに落としているの。金持ちの太客は延々と金を搾り取り、普通の客は労働力として厨房で延々とパフェを作ってもらうわ」


 あの大量のパフェは操られたヤツが作っていたのかよ……操られたヤツが作ったパフェを操られた客が食う……何が楽しいんだ?


「そして貴方みたいな顔のいい男はどうすると思う?」


「……奴隷として売るつもりか?」


 ドワーフメイドはニヤニヤと笑った。


「ふふ……惜しいわね。男メイド喫茶の店員として、その手の趣味の人に尽くして貰うわよ」


 ……聞かなきゃ良かった。その手の趣味って何だよ。


「執事じゃダメなのか?」


「それじゃあ競合に勝てないでしょう? 人に言えぬマニアックな趣味の店こそ客は金を落とすってものよ」


「どこまで金の亡者なんだ……というか、そんなに稼いでどうするんだ?」


「そうですよ! 普通に真っ当な営業していればそれなりにお客さんも来るはずです! 現に、刻印で操らなくたって沢山のお客さんが来ていたじゃないですか?!」


「うるさい!!!」


 シャドウの言葉にドワーフメイドは怒りを露わにした。


「お前達に何がわかるの?!! 歴史ある匠の技術と違い、すぐに飽きられて廃れてしまうのがオチよ!! だからこうして少しでも多く長く続けるのに闇の力を借りたっていいでしょう」


「そんなの分からないじゃないですか! 匠の技術だって誰かが始めたから今があるのですよ? 貴方達はお客さんを操っていますが、単純にお金が欲しいだけならメイド喫茶の運営なんてせずともお金だけ取ればいい話。だけど操った男達をメイド喫茶で働かせたり客として来させたりしてメイド喫茶の程を守っているのは、闇落ちしても尚そのメイドを続けたい程愛しているからじゃないんですか?!」


「ぐ……」


 シャドウの説得にドワーフメイドは頭を押さえて苦しみだした。すごい、流石女心が分かる甲冑。


「その強い想いがあればちゃんと伝わります、だから闇の呪いになんて染まってはいけません」


「黙れ! 黙れ!!!!」


 ドワーフメイドが黒いオーラを放ちながらシャドウを攻撃しようとした。だが、シャドウが鎖の付いた腕で受けると鎖が壊れ片腕が自由になる。


「騎士団長!!」


 シャドウは自由になった手で懐から何かを取り出してこちらに投げてきた。

 咄嗟に受け取った俺の手にはバターナイフがあった。


「それで何とかなりませんか?!」


「いやお前、バターナイフで何とかて……行けるかなぁ……」


 俺はバターナイフを手に納め真一文字に振り、バターナイフの一閃を檻に向かって放った。バターナイフメイド男剣士ってどんな絵面よ。

 目の前の檻は向かいの檻ごとバターのように切れた。凄い、デッキブラシでもバターナイフでも棒状の物なら何でも行けちゃうんだな……流石俺。


「なっ?!」


 驚き焦るドワーフメイドに向かって御守りを持った手でバターナイフを一緒に握り、峰打ちを食らわせた。バターナイフの峰どこや。


「ギャアアアアア!!!!」


 メイドに当たった瞬間に御守りが光り出し、ドワーフメイドが崩れ落ちる。ふっと音を立てて彼女の太ももの刻印が空気に溶けて消えて行く。

 俺はそのままバターナイフでシャドウの鎖を全部切った。


「早いところ他の奴らもこの御守りで何とかしよう! ……ついでに俺の服と武器も探そう……」


「……確かにその格好、見てるこっちも辛いですからね。さっき一閃を放った時にスカートがふわりとして中身が見えましたが、心が死ぬかと思いました」


 シャドウ、お前その言い草は流石に酷いと思わない? 女心だけじゃなく男心にも配慮してくれないかな?



 ★★★



 俺達が捕まっていた地下牢はメイド喫茶の厨房の下だったらしい。地下を出た俺達は、厨房で働かされていた客やひたすらパフェを食べる太客、働くメイド達を御守りで叩いて回った。


 正気を取り戻した首謀者っぽいドワーフメイドに話を聞くと、とりあえず匠国ではこのメイド喫茶だけしか刻印の被害に遭ってないようだ。……もう少し遅ければ他の店舗にも魔の手を広げる所だったみたいだ。良かった。



「実は……聖国に美味しいお茶があるって聞いていて、仕入れに行ってから記憶が曖昧だったんです。とにかく悪いイメージや妄想が頭を支配していて……本当にすみません……他のご主人様達にも何とお詫びしたら良いか……」


 反省し項垂れるドワーフメイドに、顔色の戻ってきた客が優しく言葉をかけた。


「俺達の事は気にしないでくれ!」


「そうだよ、どうせここに落とす金だったんだし。闇に堕ちてもメイドを続けたいなんてメイドの鑑じゃないか、これからも応援するよ!」


「ご主人様……」


 客達も大して気にしてない様子で良かった。イエオンの息子はちゃんと家に帰れよ。


「貴方の気持ち、ちゃんとお客さん方に伝わっているじゃないですか。頑張ってくださいね」


 シャドウの言葉にドワーフメイドは頬を赤らめこくりと頷いた。くそぅ、イケメンめ。

 まぁ、頑張ってアテナキバの他の店の奴らにも受け入れられるといいな。長く続ければそれなりに認めてくれるとは思うが……


「……さて、話を聞けば聞くほど聖国がヤバそうだし、急いで向かおう」


「そうですね」


 メイド喫茶の扉を開けて外へ出ると、アテナキバで最初に話したドワーフの店が改装工事をしていた。

 店の前にいたドワーフの店主がこちらに気付いて声をかける。


「ん? おお! 君達!」


「あの、お店改装するんですか?」


「ああ。お前達の意見にヒントを得て運営する事にしたんだ。その名も『機械人形喫茶』だ! 大小様々な機械人形が給仕したり歌ったり踊ったりするぞ」


「へぇ……」


 それは見てみたいような……気もしなくもない……か?


「嬢ちゃん達には負けんぞ! はっはっは! あ、でも大きいステージも作るつもりだから、良かったらメイド達もたまには歌ったり踊ったりせんかね?」


「いいんですか?!」


「ああ! 最近魔塔と共同して舞台装置の開発とかも進んでいるからな。丁度新製品を試す場所が欲しかったんだよ」


 ドワーフやエルフ達は何だか盛り上がっていた。この調子ならばアテナキバのメイド達も上手くやっていけるだろう。さて、階段を探して早いところ聖国に向かわねば……


「ええと、すまない。盛り上がっている所悪いのだが、最上階へ向かう階段は何処か教えてくれないか?」


「え? 階段……ああ、そこに……」


 ドワーフが指差す階段の入り口らしき所は改装の資材で塞がれていた。


「あ、すまん。皆エレベーターを使うから階段使う人なんて居ないと思って物置いちまったわ」


 おいコラ。


 俺達は階段の入り口に積まれた建築資材を退かし、世界樹の頂上へ続く階段を登った。いつになったら辿り着けるんだ……

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